僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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お久しぶりでございます。
世間は外出自粛が続く中、皆様お元気に過ごされていますでしょうか?

なかなか本編の続きが書けず、気分転換に書いた方の話が書き上がりましたので宜しければお読み下さいませ。

ついつい長くなってしまいました。


3.男の飲み会

日々ワン・フォー・オールを使いこなす為の鍛錬に余念のない彼は頑張り過ぎる傾向にある。あと少し、あと少しだけとトレーニングに精を出していた出久が気がつくと、既に時計の両針は天辺で重なる頃だった。

 

「ふぅ・・・」

 

今日はここまでにしよう。そう思い、備え付けのシャワー室で汗を流す。

髪をガシガシと拭きながら自室に向かう途中、ふと話し声が聞こえてくる。どうやら近くの娯楽室からだ。

こんな時間に誰かいるのだろうかと中を覗き込むと、そこにはよく見知った三人がいた。

 

「ほう。19を閉じてきたか」

「これ以上点数離されたら負けますからね・・・っと!」

「お見事!」

 

弦十郎、藤尭、緒川の三人がダーツに興じている。司令室ではよく見るがこんな所で集まっている事を不思議に思い出久は扉を開ける。

 

「こんばんは」

「おや緑谷君、こんな夜更けにどうした?」

 

突然の来訪者にも動じない弦十郎は手の中の氷と琥珀色の液体が入ったグラスを掲げながら挨拶を返してきた。少し顔が赤い様にも見える。

 

「なんだか話し声が聞こえたもので・・・」

「む。少し騒ぎすぎたか」

「司令の声が大きいんですよ。でかいのは身体だけにして下さい」

 

藤尭はジョッキの中身を飲みながら、からかう。こちらは随分と酔いが回っているようだ。

三人は高めのテーブルの周りを囲みながらそれぞれの飲み物を手にしている。

弦十郎はグラスに入ったウイスキーを。

藤尭はジョッキに注がれたビールを。

緒川は升に入れられた日本酒を。

三者三様とはこの事だ。

 

「緑谷君も折角だし、遊んでいきませんか?

もちろん、お酒はダメですけどね」

 

冗談っぽく笑いながら、いつの間にか緒川は出久にオレンジジュースの入ったタンブラーを差し出している。目を離していないのに全く見えなかった。

 

「おいおい。子供がこんな時間に・・・」

 

最年長の弦十郎は流石に大人として嗜める。だがそんな彼に茶々をいれる藤尭。

 

「え〜? この間朝まで一緒に映画観てた司令が言います?」

「・・・まぁ、たまにはいいか」

 

痛い所を突かれた弦十郎はグラスの酒を一口楽しみながら、苦笑いする。

 

「そうっすよ。女子会ってのがあるんだから、男子会があってもいいじゃないすか!」

 

藤尭はジョッキを置きながら力説する。右手でツマミのスルメを取るのも忘れない。

 

「緑谷君はいいが、男子というには俺達は歳を重ね過ぎていないか?」

「・・・それ、友里さんの前で言っちゃダメですからね」

 

真顔で上司に忠告する。確かに弦十郎は人として規格外だが、それ以上にどこかズレている所がある。こんな事を友里の前で言われたら割りを食うのは藤尭だ。絶対に余計な仕事を回される。

 

「緑谷君はダーツをした事はありますか?」

「見た事ありますが・・・やったことないです」

 

寮生活初日の『部屋王選手権』で上鳴の部屋を覗いた時に壁に掛かっているダーツ盤を見た事があるくらいで遊んだ事のない出久は素直に答える。

 

「では手解きしますね」

 

にっこり笑う緒川はテーブルからダーツの矢を持ってくると簡単なルールの説明を開始する。

・自分のターンに投げられるのは三本。

・刺さったところの点数を加算していく。

・点数は場所によると二倍や三倍にもなる。

・所定の回数を投げて一番数字の多い人が勝ち。

 

「これが一番簡単な『カウントアップ』です。では、やってみましょうか」

 

初めて遊ぶダーツは『大人の遊び』という感じがして、ドキドキした。最初の何回かは緊張から的を外す事もあったが最後の方にはしっかりと的に刺さる様になり、点を重ねる事が出来た。

全八ターンが終わり、獲得点数は218点。良いのか悪いのかわからない出久が緒川を伺うと、彼は変わらぬ笑顔だった。

 

「初めてで200点を越えるのであれば充分ですよ。慣れてくればもっと上手くなれます」

「あ、ありがとうございます!」

 

そんな彼を見ていた大人二人はダーツ初体験を終えた彼を微笑ましく見ながら、それぞれの飲み物を空ける。

 

「司令。オレ達ももう一戦どうです?」

「いいぞ。また『クリケット』か」

「今度は『01』で。701でどうです?」

「よし来い」

 

出久に入れ替わり、ラインに立つ二人。その目は真剣だ。やはり男なのだろう。勝負事となると血が騒ぐ。

そんな中聞きなれない言葉を聞いた出久は緒川に質問をぶつけた。

 

「緒川さん。お二人が話してたのもダーツのルールなんですか?」

 

弦十郎のグラスに氷と酒を注ぎ足しながらも彼は答える。

 

「はい。ダーツには幾つかのゲームがあります」

 

『クリケット』

・ダーツ盤の15〜20。そしてブル(中心)だけを使う。

・矢を三本分(ダブルなら二本分、トリプルなら三本分と換算)入れるとそこは『オープン』となり、四本目からは同数の点が加算される。

・しかし対戦相手が同じ数字をオープンすると、双方『クローズ』となり点が入らなくなる。

・規定ターン終了、若しくは全ての場所が『クローズ』となるとゲーム終了。獲得点の高い方が勝利となる。

 

「つまり相手より早く開けて、点を稼いでいくゲーム・・・?」

「そして相手の得点源をいかに塞いでいくかの戦略ゲームでもあります。平たくいってしまえば陣取り合戦ですかね」

「なるほど」

 

『01』

・指定された数字を減らしていくゲーム。

・301、501、701と下二桁が01なので『01』と呼ばれている。

・規定ターン以内に数字を0にした方、若しくは終了時に0に近い方が勝利。

 

「このゲームが難しいのは『数字は0にしなくてはいけない』所ですね」

「過ぎてはダメなんですか?」

「例えば。残りの数字が10だとします。この時11に矢を入れてしまうと『バースト』と言って、その場で相手にターンが渡ってしまいます。きっちり『0』にしなくていけないんです」

「ちゃんと狙わないといけないんですね・・・」

「更に言えば、『ダブルアウト』というルールもあったりします。最後の一投は『ダブルに入れて終わりにしなくてはいけない』というルールです」

「ダブルって、外周の細い所ですか⁉︎」

「はい。残りの数字が4なら2のダブルに入れなくては終わりになりません」

「む、難しい・・・」

「まぁこれは公式ルールですので、仲間内で楽しむ時は除外しても大丈夫です」

 

ゲームに興じる二人のためにツマミの塩キャベツを作りながら緒川は説明を終える。

弦十郎と藤尭のゲームはそろそろ決着がつきそうだ。

 

「藤尭。悪いが勝たせてもらうぞ」

「外れてくれ!」

 

先攻の弦十郎。残りは26。13のダブルで終了出来るという絶好の機会である。

だが彼のダーツは狙いを僅かに逸れ、4のダブルに。これで数字は18となる。

 

「やはり飲んでいるからか狙いがズレるな・・・」

 

祈る藤尭が見守る二投目。9のダブルを狙う弦十郎だったが、少し下の12のダブルに入れてしまい『バースト』となった。

 

「南無三・・・」

「よっしゃ!」

 

無事手番が回ってきた藤尭の数字は38。19のダブルで決着の一手となる。

ここがラストターン。少しでも数字を減らさなくては自動的に負けとなってしまう。

 

「たまには勝たせて貰いますよ、司令」

 

そんな彼の一投目はアウト。だが狙いは悪くない。19のダブルの僅かに下だ。

 

「頑張って下さい!」

「あぁ。見とけよ、緑谷君」

 

出久の応援に赤い顔で応える藤尭は決めてみせる、とその矢を放つ。

二本目のダーツは見事に的を射止め、液晶の数字は0となった。

 

「ぃよしッ!」

「おめでとうございます!」

 

ガッツポーズを決める藤尭は出久に手を掲げてきた。意図を察して自らの手をその手に合わせる。良い音が鳴った。

 

「腕をあげたな」

 

弦十郎が悔しそうにウイスキーで唇を湿らせながら称賛の声をかけてくる。丸く削られた氷がカランと音を立てた。

 

「これくらいしか司令に勝てませんからね」

「細かいコントロールはなぁ・・・」

 

新たに置かれたツマミを摘みながら藤尭が応える。

どうやら人類最強の男にも弱点があるらしい。

 

 

四人は暫し、アテと飲み物を手に語り合う。その内容は主に話は出久の事となった。彼のいた世界の事や、近況などを話しているとだいぶ酔いの回り始めた藤尭がテーブルに肘を突き、言った。

 

「そういえばさ。緑谷君はそろそろ切歌ちゃんとキスしたの?」

 

あまりの質問に飲んでいたジュースを噴き出しかける。口元を汚しながら慌てて彼の方を向くと藤尭はニヤニヤと笑っていた。

 

「つーか、どこまで行ったのさ」

「どこまでって・・・」

「A? B? もしかしてCまで?」

「お前、聞き方が古いな・・・」

「ですね」

 

追求に顔を赤くして俯く。今でさえ手を繋ぐ位で精一杯なのだ。

 

「その、あの〜・・・まだです」

「やっぱり。だと思った」

「うぅ・・・」

 

出久とて『そういう事』を想像したことがないわけではない。でも初めてのお付き合いというのもあり、なかなか一歩を踏み出せないのが現状だった。それを察した藤尭は年長者らしくしたり顔でアドバイスを送る。

 

「切歌ちゃんも待ってるんじゃない?」

「そうなんですか⁉︎」

「そりゃ君が切歌ちゃんを想ってるのと同じくらいあの子だって君の事が好きなんだろうから、そうでしょ」

 

空になったジョッキを振りながら答える藤尭はナッツを一つ口に放り込む。

 

「女の子だからって特別なわけじゃないんだぜ。好きな人が、恋人がいたら意識するよ」

「意識・・・」

「こら、その位にしておけ」

 

その辺りで最年長の弦十郎が嗜めに入った。

 

「彼らには彼らのスピードがあるだろう。それを俺たちがどうこう言うのはルール違反だ」

「そうですよ。それにもしこれで何かあったらどうするんですか?」

 

珍しく緒川も少しだけ怒ったように見える。いつもニコニコしている彼だったので出久も吃驚した。

 

「何かあったら藤尭さんがけしかけたって皆さんに伝えますよ」

「・・・それはやめて下さい」

 

顔を青くして藤尭は後退りする。そんな彼を見て、緒川は出久に向き直った。

 

「緑谷君」

「はい」

「先程司令も仰いましたが、焦らなくてもいいのです」

 

一口升酒を飲みながら緒川は続けた。

 

「君たちには君たちの仲の深め方があるのですから」

「ガツガツとしただけの格好悪い漢になるなよ。好きな女を包み込んでやる器のデカさを切歌君に魅せてやれ」

 

スルメを咥えながら笑う司令も次いで語りかける。いつの間にか弦十郎の酒も升酒に切り替わっていた。豪快に升を傾けた弦十郎は手酌でもう一杯注いだ。

自分は素敵な大人達に囲まれている。

この世界に一人でやってきて、出会えたのがこの人達で本当に良かったとしみじみ思いながら、夜は更けていく。

男の飲み会はまだまだ続くようだ。

 

 

 

 

おまけ

 

「そういえば緒川さんはダーツしないんですか?」

「僕がやると・・・」

 

緒川は手にした三本のダーツを一息に投げる。その全てが20のトリプルに綺麗に刺さった。

 

「こうなってしまいますから」

 

いつもの笑顔で事もなげに言う彼を見て『NINJAって凄い』と思う出久だった。




ダーツのルールは私が友人から教わったまま書いております。
間違いなどありましたらご報告頂ければ幸いです。

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