僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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二話目となります。

お疲れ様です。
短いですが、続きを投稿致します。

先日。
Twitterで知り合えた適合者の方とカラオケに行ったのですが、まさかあれ程までに星天ギャラクシィクロスを息を合わせて歌えるとは思ってもおらず、絶句致しました。
適合者って凄い。


2.世界を繋ぐのは

「緑谷君の世界に行くための方法、だと?」

「はい。仮説が正しければ、可能なはずです」

 

弦十郎は渡された資料を斜め読みする。そこには彼がこの世界に来たであろう理由や切歌の見た現象から推測された説明と今の状況を加味した『二つの世界を繋げる理論』が書き連ねてあった。

 

「以前ご報告した通り、緑谷さんがこの世界に来たのは個性を使うイレギュラーに対応する為の抑止力、という説を基にこの理論を組み上げました」

 

S.O.N.G.総司令の前にエルフナインは分析顧問としての顔で立つ。コピーされた書類を一ページ捲る。

 

「緑谷さんは最後の戦いの後、そのまま姿を消しました。想定通りなら恐らくはこちらの端末を持ったまま元の世界に戻られたのだと思われます」

 

彼女がポケットから取り出したのは残された出久のスマートフォン。

これこそが切り札だ。

 

「そこで、ここにある緑谷さんのスマートフォンを彼の世界にあるであろうS.O.N.G.端末とギャラルホルン経由でリンクする事で並行世界を繋ぐゲートとして利用しようと考えました」

 

この中継地点をギャラルホルンとする理論はエルフナインが切歌の話を聞いて思いついたものだ。

通信端末とは中継地点を利用して互いを『繋ぐ』ものである。彼女はこの特性を利用しようと考えた。端末間の距離が短ければそれ自体で繋がる事は出来るだろう。だが距離の遠い、違う世界自体を繋ぐ為にはS.O.N.G.に保管されるギャラルホルンの力を使うほかない。

そしてその力が、平行世界同士を繋ぐ力がギャラルホルンにはある。

 

「持つ『意味』を大きく解釈すれば二つの世界を繋げる事が出来るはずです。端末のバッテリーは理論上二週間は持ちます。猶予はそれだけしかありません。早急に取りかかれば間に合います。間に合わせてみせます!」

 

彼女の説明を黙ったまま聞く弦十郎は腕を組むと深く椅子に腰掛け直した。

 

「お願いします。どうかボクに時間を頂けないでしょうか」

 

頭を下げるエルフナインに司令は天井を見上げて息を吐く。小さな錬金術師は短い時間で要望書を纏めてここに来たのだろう。泣き腫らした目で必死に語った彼女は頭を下げ続けた。

 

だがこんな案件を通せるはずがない。

 

「駄目だ」

 

無慈悲な言葉に絶望の顔を上げる彼女に弦十郎は追い討ちをかけた。

 

「先の戦闘で処理しなくてはいけない事が山積みの現状で許可は出せん」

「ですが! 今を置いて機はありません!」

 

縋る彼女に国連直属機関『S.O.N.G.』の総司令としての顔で返す。

 

「エルフナイン君。我々は何だ? ・・・答えは世界で唯一ノイズと対抗できる力を持つ特務機関だ。ノイズの脅威が遠のいたとはいえ、一人の少年の為だけにそのリソースを割くわけにはいかない」

「そんな・・・」

「我々は世界を守る為に存在する。確かに彼には世話になった・・・だが彼は別世界の人間だ」

 

冷たく言い放つ弦十郎にエルフナインはかつてない失望を覚えた。その別世界の彼に救けられたの誰だ。無論、ボク達だ。目の前の男はその恩義を踏み躙ろうというのか。

 

「別世界である以上、こちらから無闇な干渉をするべきではない。こちらはこちら。あちらはあちら、という事だ」

 

渡された書類を読みながら続けた総司令にエルフナインにしては珍しく、怒気を含めた声を上げる。

 

「貴方には・・・義理という言葉は無いのですか! 残された切歌さんのお気持ちを考えた事は⁉︎ 別れの言葉すら交わせずにこの世界を去った緑谷さんの想いを想像できないんですか‼︎」

 

涙を浮かべて叫ぶ彼女の言葉如きで動じる彼ではない。その瞳はただ静かに、怒りを露わにするエルフナインを見返す。最早肩で息をする彼女は涙を隠す事なく、次々と流していた。

しかし総司令は揺るがない。

 

「俺は駄目だと言った。これはS.O.N.G.の総司令としての判断だ」

 

巌の様な彼からその身を体現するかの重い一言。多くの責任を背負うが為に幾つもの事を切り捨て判断した言葉を覆す事が出来るはずもない。説得に失敗したエルフナインは顔を伏せて泣き続ける。もしかしたら、と彼女に希望を与えてしまった。そして・・・可能性は絶たれたのだ。

 

「・・・わかり、ました」

「あぁ」

「失礼します」

 

エルフナインは背を向けて部屋を出ようとした。その背に弦十郎の声。暗い気持ちだったが、彼女とてそれを聞く立場としての責任がある。

 

「・・・なんでしょうか」

「事後処理で忙しい所申し訳ないが、追加で仕事を頼みたい」

 

手元の端末が震える。何らかのデータを受信したらしい。

 

「詳細は送っておいた。すまないが、くれぐれも頼んだぞ」

 

言葉を返す事は無く、エルフナインは部屋を後にした。彼女が部屋を出たのを確認すると弦十郎は通信を開く。

 

「・・・翼、マリア君。すぐに来てくれ。頼みたい事がある」

 

それから幾つからの言葉を交わした弦十郎は初めて固い表情を解いた。そこにあるのは一人の男として、一人の大人としての優しい顔。

S.O.N.G.は大きくなりすぎた。特異災害対策機動部二課であった頃なら効いた無茶も今は出来ない。それだけの責任を背負い込むことになってしまった。だから組織として一人の少年と少女の為に動けない。

だがそれは理由にはならなかった。風鳴 弦十郎にとって、理由にはなり得なかった。

手元の端末にはエルフナインに送った指令書が表示されていた。

タイトルは『緊急案件:並行世界において確認された他世界への逃亡者とその対処。及び他世界の保護について』

無論そんな事実は無い。ならばこの世界を救ったヒーローとその彼女の為に作ってしまえばいい。幸にして並行世界のパヴァリア光明結社には若干の借りがある。今こそその借りを使わせてもらおう。

 

「ルールの内でやらせてもらう。今回はどんな手を使っても、な」

 

一人残された部屋で風鳴 弦十郎は笑う。

一人の男として、再び彼に会う為に。

そして二人を再会させる為に。

 

 

後に、その指令書を見たエルフナインが意図を察して飛び跳ねたのは言うまでもない。

今度こそ流したのは嬉しさからの涙だった。




御感想欄でも頂きましたが、未だ説明不足の本作であります。
今後ともお気になりました事がありましたら、御気軽に御質問下さいませ。

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