僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三話目となります。

お久しぶりでございます。一ヶ月ぶりの投稿と相成りました。
遅くなり、申し訳ありません。
ようやく二つの世界を繋ぐ回となります。

私事ではありますが、この一月の間に虫歯の治療過程で歯を二本抜く羽目になり、熱にうなされ、顔を腫らし、一週間仕事を休みました。
皆さん、歯磨きはちゃんとしましょう。いや本当に。


3.七花繚乱

あれから一週間。エルフナインは積み上がる業務を片付けながら作業を続けた。真剣な表情でキーボードを叩き、祈る気持ちで打ち終わる。

 

「せ・・・成功です!」

 

目の下にクマを作ったエルフナインはフラつく脚で地面を叩きながら立ち上がる。座っていた椅子は後ろに流れ、勢いを壁により失った。

モニターには彼の持っていったS.O.N.G.端末の位置情報が表示される。それは三次元空間には無く、四次元的な仮想空間にだが確かに点滅を繰り返す。

自身の持つ錬金術の知識と世界における科学の理を総動員した緑谷 出久捜索計画は進展を迎えていた。

 

 

「ここにデク君がいるデスか?」

 

司令室には切歌をはじめとした装者の姿。そして寝不足ながらも、目を輝かせたエルフナインが意気揚々と成果を発表し始める。

表示された光点はしっかりと明滅を繰り返していた。

 

「まだ正確に他世界を捕捉出来ているわけではありません。しかし観測点は緑谷さんが今いる地点である事は確かです」

「ということは・・・」

 

フラつきながらも熱弁を語る彼女を心配しつつもマリアは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「はい。あとはこちらの世界とあちらの世界に関係性を見出せれば、ギャラルホルンで二つを結びつける事が出来ます・・・いえ、繋いでみせます!」

「関係性、か」

 

弦十郎は眉に皺を寄せてモニターを一瞥すると、この中で一番に関係性を持つであろう少女に視線を移した。自然と皆の視線も集まりだす。期待から笑顔でモニターを見つめていた切歌は集中した視線に漸く気がついた。

 

「わ、わたしデスか?」

 

あたふたとする彼女に周囲の目が微笑む。

 

「出久君は切歌ちゃんの彼氏さんだしね!」

「そりゃあ・・・そうだろ」

「お前以外に誰が居るというのだ」

 

それぞれが納得と頷く。響の言葉に頬を赤らめる出久の彼女は恥ずかしそうに目線を下にした。

 

「切歌さんは彼とっての鍵と言えるでしょう。この世界で貴女程、緑谷さんと絆が繋がれている人はいません」

「お、およよ〜・・・」

 

エルフナインの言に遂には蹲る切歌は両の手で顔を隠してしまった。改めて言葉にされるとこんなに照れ臭いとは思ってもいなかった。その微笑ましい光景にジト目の若干一名を除き、彼女の愛の深さを感じる一同。

そんな中エルフナインだけが話の流れから彼女に問うた。

 

「切歌さん。緑谷さんからの手紙に書いてあった『贈り物』がありますよね。それを見せては頂けませんか?」

「うぅ・・・はいデス」

 

彼女はポケットから小さな三センチ四方のケースを取り出す。濃い緑色をしたそれが開かれると、そこにあったのは二つの指輪だった。シンプルなデザインのシルバーリングが曇りなく輝いている。

 

「これって、ペアリングだよな」

「出久ったら・・・」

 

息を漏らすクリスとマリアの言葉に切歌の目は細くなる。

自分の為に用意してくれた彼の顔がまざまざと思い浮かんだ。きっと買ったはいいもののどう渡そうかと四苦八苦したのだろう。だから机に眠らせていた。そしてそれは今、手紙と共に自分の手の中にある。

 

「・・・あれ?」

 

声を上げたのは切歌の事が大好きな少女だった。調は不思議そうにそれを見つめると切歌に断り、小さい方の指輪を手に取った。手にした指輪をまじまじと観察した彼女は首を傾げた。

 

「これ、切ちゃんの薬指より大きくない?」

「え・・・?」

 

これまで何度も眺めてはいたが箱から取り出す事すら出来ずにいた切歌は調の言葉に驚いた。言われた通りに指に通してみると、確かに大きい。普通恋人同士のペアリングといえば右手の薬指につけるものだ。だが明らかにサイズがおかしかった。

 

「間違えたのか?」

 

怪訝そうな翼の言葉。だがそれに答えたのはエルフナイン。彼女はその分析眼で答えを見抜いていた。

 

「左手の親指につけてみて下さい。多分ぴったりなはずです」

 

切歌は恐る恐る指輪を移す。するとリングは最初からそこにあったかのように違和感無く収まった。

 

「これって・・・」

 

驚く切歌が顔を向けるとエルフナインが微笑んだ。

 

「緑谷さんは理知的な人です。ボクはその指輪には彼なりの意味が込められているのだと思いました。・・・左の親指につけるペアリングには『試練に立ち向かう。夢・目標を貫く』という意味があるんです」

 

彼女は続ける。

 

「二つの世界に生きる自分達。世界が違うという障害をも乗り越えてみせる、そして各々の目指すものを達成出来る様にとの願いを込めて用意したのでしょう。それは緑谷さんなりの、切歌さんへの愛の形なんです」

 

聞いた切歌の目が潤んでいく。まるで親指を包む指輪から彼の心が伝わってくるようだった。見下ろすそこから彼の声が聞こえてきた。

 

『一緒にいるよ』

 

彼はここにいない。でも確かに彼の想いが聞こえてくる。そんな左手がエルフナインの小さな手でそっと包まれた。

 

「ここからは切歌さんの想いの力と指輪の持つ言葉の力を使います。大丈夫です! 必ず成功しますよ」

 

頼もしい言葉に頷く切歌は涙を拭う。そこにはもう悲壮感はない。あるのは再会を決意した少女の笑顔であった。

 

 

完全聖遺物ギャラルホルンに繋がれた機器から伸びるコードがギアを装着した切歌の腕に装着されていた。切歌の側には同じくギアを纏った仲間達の姿。まるで最終戦に臨むかのような彼女達の面持ちは否応にもその場の緊張感を高める。

エルフナインの声が厳かに響いた。

 

「ではこれより、オペレーションを始めます」

 

その声にゆっくりと切歌は腕の震えを抑えながらと左腕を突き出す。繋がれた幾つものコードが触れ合い、音を立てた。

 

「切歌さんにお願いするのは緑谷さんのイメージです」

 

耳から伝わるのはエルフナインからの願い。

 

「ただひたすらに緑谷さんの事を考えて下さい。それこそがこの世界と彼の世界を繋ぐ事の出来る、ただ一つの道標。貴女の想いは世界を越えられる筈です。ですから・・・」

「繋いで、みせるデス」

 

震えは止まる。

切歌の前にはギャラルホルン。

これまで数多くの世界を紡いできたそれに笑いかけながら彼女は嘯く。

 

「こんな事くらい、わたしにはお茶の子さいさいのさいさいさいデスから!」

「・・・ですよね!」

 

切歌の決意に微笑みながらエルフナインはキーボードを操作、同時に声を張り上げる。構築したプログラムを走らせた。

 

「いきます!」

 

宣言と同時に光を放ちながらギャラルホルンが起動する。それと同じくして切歌には負荷がかかる。完全聖遺物の共鳴は彼女をはじめとした装者達を包んだ。

 

「んっ!」

「これは・・・なかなか凶悪ね!」

 

空間を震わせるギャラルホルンは音を基点とする装者達に襲い掛かる。響とマリアは肩から押し付けられる重みに耐えながらも前に立つ切歌から目を離さない。背中しか見えない彼女はその身体を揺らさずに、あの彼の様な大きな背中を見せつけていた。

 

「別世界へのルート構築を開始。22%・・・54%・・・68%を突破!」

 

現状を観測する友里の声が進捗を報告した。誰もがその進み具合に成功を確信する。このままいけば緑谷 出久の世界へのアクセスは成功するだろう。

 

「いけるか!」

 

弦十郎が装者とモニターを観測しながら呟いたその時、藤尭の叫びが辺りを包む。

 

「別世界観測に異常発生! 存在定義率に不確定の揺らぎが発生しています!」

 

報告と同時に赤色灯が点滅する司令室にアラートが鳴り響く。慌しく各々の対応に追われるオペレーター達は忙しなくコンソールを叩く。矢継ぎ早な報告が空間を支配した。

 

「緑谷君の世界への接続、不安定」

「ギャラルホルン、起動状態安定しません」

「接続率低下が止まりません!」

「どうなってるんだ、これは⁉︎」

 

切歌は耳に届く報告群を聴きながらもギュッと目を閉じて、その姿勢を崩さなかった。左掌を突き出して、ただ祈り願う。

 

『デク君。わたしは・・・わたしはただ、もう一度逢いたいのデス!』

 

再会を願う少女の想い。

だが彼女でさえ知らない心奥の不安をギャラルホルンは掬い上げていた。小さなそれは少しずつ世界を繋ぐシステムに被害をもたらす。

 

「心を強く持って下さい!」

 

いち早く状況を察したエルフナインは中心にいる少女に声を送る。

ギャラルホルンは既に暴走寸前であり、自壊しそうな程の雷を放っていた。それでも錬金術師の少女は自分の持ち場を離れ、危地に走る。密閉壁を緊急コードにて強制開錠したエルフナインは背後から聞こえる声さえ無視して、その中に飛び込んだ。

 

「切歌さん!」

 

雷光渦巻く空間を転びそうになりながらもひたすらに走る彼女にあるのは再会を願う一人の少女を救う事。今それが出来るのは自分だけだ。

だが、あと少しといったところで激しくなる力の奔流が彼女に襲いかかる。

 

「何してるのよ!」

 

間一髪。マリアはエルフナインを抱きしめて飛ぶ。翼の剣が雷を切り裂くと二人を守る様に立ちはだかった。

 

「ギアを纏った私達でさえギリギリなのよ!」

「すみません・・・でもボク、居ても立っても居られなくて!」

 

腕の中の少女はこんな状況でも切歌から視線を外さない。どこか必死なその視線に気がついたマリアは彼女の意志を感じ取った。今にも自分を振り切ろうとする、強迫観念に近い何かを。

 

「お願いです。ボクを切歌さんの所まで連れて行って下さい!」

「ダメよ」

「マリアさん⁉︎」

 

拒絶の言葉にエルフナインが懇願する声を返すがマリアは厳しい視線で断固として拒否した。

 

「これ以上危険に晒せないわ」

「でも! 世界を繋ぐにはボクが行かないと・・・」

「だからといって貴女をこれ以上進ませる事は出来ないッ!」

「そんな!」

 

押し問答を繰り広げる彼女ら。それに業を煮やしたように叫ぶ者がいた。

 

「エルフナインを連れていけ!」

 

迫り来る雷に天羽々斬を振るいながら、奮い立つ翼は叫ぶ。

 

「私が道を創る! お前は死んでも守れ!」

「翼⁉︎」

「いいから・・・共に走れ!」

 

言うが早いが先陣を斬る防人はその刀で道を斬り開いていく。怒号のようなその言葉に響とクリス、二人の装者達も意図を察して動き出した。

 

「お前とて緑谷に再び会いたいだろう! ならば、すべき事は単純明快。今はただ進むのだ!」

「翼・・・」

 

目の前で、完全聖遺物が暴走しかけるエネルギーの奔流にその身を傷付けながらもねじ伏せようとする天羽々斬の装者の姿。そして旧二課組の二人もそこに参戦して、エルフナインが切歌へ辿り着くための道を拓こうとしていた。

 

「あたしもいる事を忘れんなよ!」

「雷を、握り潰すようにぃぃぃぃ!」

 

クリスの銃弾が切歌へ向かう雷の流れを逸らす。そして響はその言葉通りに拳を振るうとその全てを叩き潰していく。

 

「皆さん・・・」

「あぁ、もう! しっかり掴まっていなさいッ!」

 

マリアはエルフナインを抱き抱えると、仲間の拓いた道を進み出した。周りはギャラルホルンの放つ嵐が暴れ回る。その中をただ、ただ駆けた。腕の中の錬金術師がその身を寄せるのを感じ、力を込めて抱きしめ返す。

そうして二人は最前線に立つ切歌と調の所へ辿り着く。想い人の世界へと想いを馳せる少女を守っていた調の巨大な丸鋸は傷つき、罅割れ、少しずつ回転を弱めている。

 

「調! 切歌!」

 

言いながらマリアはエルフナインを降ろし、蛇腹剣を辺りに這わした。即座に節を解除、その全てを短剣に変換すると避雷針とする。それと同時に砕け散るシュルシャガナ。調は切歌の足元に膝をつき、荒く呼吸を繰り返した。

 

「よくやったわ!」

「調さん、しっかりしてください!」

 

荒ぶる雷を制御し始めるマリアはその重さに顔を歪めた。これを彼女は一人で押さえていたというのか。青い顔で介抱される少女に視線を送ったマリアはキッ、と表情を引き締めた。

 

「マリア!」

「切歌ァ!」

「調ちゃんッッ!」

 

そこに遅れて旧二課組が合流してきた。それぞれが剣で、銃弾で、拳でその場に陣地を構築する。三人がやってきたことによってマリアへと掛かっていた負荷が軽減した。図らずとも微かな安全地帯となった最前線にて装者六人と錬金術師一人は邂逅する。

 

「ぐぅぅッ!!」

「ふんばれぇぇ!」

「言われなくてもぉぉぉぉぉ!!」

 

切歌の真前に立ちながら雷を打ち消す響と、その後ろで僅かに打ち漏らしたそれを撃ち消すクリス。互いに叱咤した彼女達は抜群のコンビネーションで前線を維持する。

 

「行ける⁉︎」

「・・・勿論!」

 

依然厳しい目をしたマリアと僅かながらだが回復した調は得物を振り絞り、防御壁を創り出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

殿を務めるのは翼だ。その身を刃として全方向からの暴風を防ぐ。一番負担が大きいのは彼女かもしれない。その証拠に放った短刀が砕かれる度に彼女の身には少しずつダメージが蓄積されている。

状況は依然として悪い。ギャラルホルンは暴走寸前であり、シンフォギア装者五人でも防ぎ切れないエネルギーは個々を蝕む。そんな中、エルフナインはその中心点の少女のもとへ向かう。

 

「切歌さん!」

 

言葉に返答はない。ただ左手を突き出した格好で固まる彼女の側まで来たエルフナインはその背中に声を届けた。

 

「迷わないでください! 貴女のその想いは、間違いではありません」

 

周りこみ、見れば切歌の目に光は無い。これは膨大なエネルギーに晒された弊害であろう。だがその身が傷付こうとも愚直に腕を伸ばす姿がある。そうした錬金術師は言葉を紡いだ。その手に触れた自分の腕から血を流そうとも。

 

「貴女が緑谷さんに逢いたいと想う。それと同じ位に彼も貴女に逢いたいと願っているんです・・・だから!」

 

切歌の左手を自分の手で覆うと渾身の想いを込めて世界を理解と解析しようとした錬金術師、エルフナインは叫ぶ。

 

「信じてください!」

 

五人の装者が二人を守る中、エルフナインはギャラルホルンの解析を進める。世界と世界を人為的に繋ごうとする禁忌に反発するかの様な完全聖遺物。それさえも御する為に自分の持つ知識を最大限に活用して制御を試みる。だがそこは完全な姿を維持するギャラルホルン。シンフォギア装者でさえ扱いきれぬ存在は簡単には許してはくれなかった。装者達からも苦悶の声が広がり始める。少しずつ安全地帯が狭められていく。

 

『やはり・・・ボクではダメなのでしょうか』

 

ジリジリと追い込まれていく様を感じながら自らにもっと力があればと悔やむ。しかし悔やんでも悔やんでも状況が変わるわけではなかった。

ならば。たとえこの身が砕けようとも奇跡を信じて、奇跡を起こしてやるまでだ。『彼女』に貰ったこの身体を信じて。

 

『みんな・・・ボクに、ボクに力を貸してください! 皆さんを守り、切歌さんの願いを叶える力を! 奇跡を起こせる力を!』

 

そう心の内で叫んだのはエルフナイン一人のはずだった。だがしかし、その想いはその身に眠る『彼女』を呼び起こす。世界を分解して崩壊させようとした、その身の原典である彼女が目を覚ます。

 

『奇跡だと?』

 

瞬時に状況を理解した『彼女』は一嗤いすると高らかに歌いだす。

 

『オレの歌は・・・高くつくぞッ!』

 

内から湧き出た言葉とエルフナインから広がる魔法陣が有った。四大元素を理解、掌握した稀代の錬金術師からのブーストを得たエルフナインは身から焦がさんばかりのエネルギーに驚きながらも、その手を伸ばすのをやめなかった。

エルフナインがその声の主を間違えようが無い。再会を願っていたのは切歌だけでは無いのだ。自分もまた『彼女』と再び出会う為に研鑽を重ねてきた。それが今、僅かに実を結んだ。

 

「まさか・・・キャロルッ⁉︎」

『煩い。集中しろ。でなければ全員消し炭になるぞ』

 

静かに告げる声にエルフナインは意識を正面に戻す。ニヤリと笑うキャロル・マールス・ディーンハイムはエルフナインでさえ忘れていた一つの可能性を示唆する。

 

『ギャラルホルンとはラグナロクを告げる角笛の事だ。その言葉の解釈には様々あるが、こいつらにとってぴったりの意味があるだろう』

「・・・あぁっ! そうか!」

『全く・・・世話の焼ける奴だ』

 

嘆息しながらも力を貸し続けるキャロルは一時的に身体の制御を乗っ取ると叫んだ。

 

「歌え、貴様ら!」

 

豹変したエルフナインに装者達は驚くも、あまりの剣幕と自分達を守り覆う四元素の魔法陣が言葉を繋がせなかった。いつものおっとりとした少女では無い、鋭い目つきの少女は切歌の手に自分のそれを重ねながら、もう片方の手を上空に向ける。

そこに現れるは殲琴。ケルトの神ダグザが用いたという感情を奏でる竪琴、ダウルダブラ。そこからファウストローブを纏ったキャロル・マールス・ディーンハイムは竪琴を掻き鳴らす。

 

「歌はお前達の十八番だろう! ならば何故それを使わない⁉︎ 完全聖遺物など容易く調律してみせろ!!」

 

「さぁ・・・歌えぇぇぇぇ!!」

 

その言葉と音色に装者達のギアから一つの音楽が流れ始める。一人、また一人と切歌の手に重ねられるそれぞれの手。一つ重ねられる度に歌声は増えていく。

 

それは六花繚乱。

否、七花繚乱。

 

切歌の目に光が戻る。気がつけば彼女も歌っていた。そこにはもう涙はない。重なり合う手から伝わるオモイノチカラ。

一人は皆の為に、皆は一人の為に。

互いが互いを支え合う友情の歌を歌い続けた。

 

「存在観測、安定していきます」

「ルート構築再開。進捗現在88%を突破しました」

 

歌は続く。その一小節が紡がれる度に収まっていくギャラルホルンの暴風。

 

ー明日に歌う歌があり、世界には歌がある。

ー信じるべき歌があり、この地には歌がある。

ーそれは無限を超えた輝くヒトの可能性だ。

 

その勢いを無くした風が装者達を撫ぜる。もはや春風にも等しいほど優しく流れる風を浴びながら彼女達は歌い続けた。

 

ー死んだって倒れてやらない。

ー未来の花を咲かす為に・・・。

 

「「「「「「「生き尽くせ!!!」」」」」」」

 

そうして最後の歌詞を歌い切ると同時に開かれる別世界への扉。ギャラルホルンの前に鎮座する深緑色の扉は彼、緑谷 出久の世界へと繋がった唯一のゲートだった。

 

 

「流石に肝を冷やしたぞ・・・」

 

珍しく額に汗をかいた弦十郎は額を拭いながら息を深く吐く。無理もない。危うく基地ごと吹き飛ぶ可能性さえあったのだ。どころか完全聖遺物の暴走となればその影響はそれだけでは済まなかったであろう。

彼が見守る先では装者が歓声をあげている。いや、既に立役者はいなくなった様で彼女を宿していたエルフナインは泣き崩れていた。繋がった通信からはキャロルの名を呼ぶエルフナインの泣き声が響く。感謝の言葉と大切な彼女の名を泣き叫び続ける小さな錬金術師は装者達から抱きしめられていた。

彼女達は口々に言う。

『今度は私達が助ける番だ』と。

 

出久が纏っていた個性『ワン・フォー・オール』に対して、敵対していた『オール・フォー・ワン』という存在。

 

「ワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンか。まるで俺達はその言葉に踊らされている様だな」

 

こうして繋がった二つの世界。

そうして再会する二人の少年と少女。

二人の再会は、近い。




今話はシンフォギアXV一話で流れる『六花繚乱』と八話で流れる『スフォルツァンドの残響』をメインに書かせていただきました。
キャロル登場シーンから『スフォルツァンド』を、手を重ねるシーンから『六花』を聴いていただくと雰囲気が出るかと思われます。

よろしければお試しくださいませ。

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