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「それでは!緑谷君のS.O.N.G.加入を祝って、乾杯だ!」
「「「かんぱーい(デース)!!」」」
話し合いの後、連れてこられた会議室にてグラス片手に出久は困惑していた。
『熱烈歓迎!緑谷出久君!』と書かれた横断幕が壁にはかけられ、パーティーの用意が既にしてあったからだ。
「さぁ、緑谷君。遠慮せずに楽しんでくれ」
音頭をとった弦十郎は出久の肩を叩く。
「あの〜、これって・・・」
「ん? 君の世界ではこういうことはしないのか?」
「いや、そうじゃなくって・・・準備良すぎませんか?」
「君がどっちを選ぶにしても歓迎会をするつもりだっただけだ」
「なるほど・・・」
そう言い、渡されたグラスを傾けると久しぶりに味わう炭酸の刺激が喉を通っていく。
「緑谷くーん!」
そこに両手に皿を持った少女が駆けてくる。
あの時戦っていた一人だ。
「はいこれ! 取ってきたよ!」
片手の皿を渡される。フライドポテトや唐揚げ、おにぎりなど多種多様な料理が山の様に積まれていた。
「あ、ありがとう」
「男の子って沢山食べるって聞いたから、山ほど持ってきてみました!」
「こんなに!?」
「美味しいよ?」
そう言いながらパクパクと自身の皿を平らげる少女。あれ程乗っていた料理は早くも半分無くなっていた。
唖然と見ているとじっと見られていることに気がついた少女は頬を赤らめた。
「うぅ・・・。そんなにジロジロ見られると少し恥ずかしいかも・・・」
「ご、ごめん」
「いや〜歳の近い男の子の友達っていないから、なんか照れちゃうな〜」
頭を掻きながら笑う少女。
元気いっぱいという言葉を体現した様な子だなぁ、と出久は思った。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。 私は立花響、17歳! 好きなものはごはん&ごはん! ガングニールの装者です。よろしくね」
『まさかの年上!?』
正直、年下だと思っていた出久は目を見開きあからさまに驚いてしまった。
その様子から察したらしく響はむぅ、と頬を膨らませる。
慌てた出久は、
「よ、よろしくお願いします、響さん」
心持ち『さん』の所にアクセントをつけて返事を返す出久。
「うむうむ」
と満足げに頷く響。
するとそこにやりとりを見ていた少女がやってきた。
「おい、緑谷」
確かもう一人の戦っていた紅い少女だ。
確か『クリスちゃん』と呼ばれていたはずである。
「イチイバルの装者、雪音クリスだ。あん時はありがとな」
出久のグラスに自分のグラスをカチン、と当ててニヤリと笑う。
目の前に立つ背の低い少女を見て今度こそ確信した。
『ちゃん付けで呼ばれてたし、この子は年下だ』と。
すると更に口角を吊り上げたクリスは面白がったように言う。
「ちなみに高三だぜ、後輩君?」
「えぇっ!?」
流石に今回は声を我慢できなかった。
「後輩君、先輩にその態度はまずいんじゃねぇか?」
「すみません、雪音先輩!」
「わかればいい」
完全にからかわれている。
腕を組み、満足そうに笑うクリス。
そんな中。
緑谷出久も健全な男子高校生だ。
組んだ腕に持ち上げられる豊かな胸につい目を向けてしまった。
そして女性とは男の視線に敏感に気がつくものなのだ。
「緑谷、お前どこ見てんだ」
冷ややかな言葉に硬直する出久。ほんの一瞬見ただけなのに気が付かれている。
ダラダラと油汗が流れ出す。
「あたし様の胸をガン見たぁ、いい度胸してんじゃねぇか」
「ガン見なんてしてません!」
「その割には声が引きつってんぞ」
「引きつってません!」
「今度は裏返ってんじゃねぇかよ」
あまりにも過剰に反応するのが可笑しかったのかクリスはクックッと笑い出す。
「雪音、あまりからかうものではない」
「あいたっ」
コツン、とクリスの頭に拳が当てられた。
髪の長い女性が二人、そばに来ている。
「私は風鳴 翼。天羽々斬の装者をしている。これから宜しく頼む、緑谷」
「マリア・カデンツァヴナ・イヴよ。アガートラームを使ってるわ。よろしく」
それぞれと握手を交わしたあと、マリアはジッと出久を見つめてくる。
その視線にたじろいでいるとその目は心配している様なものに変わった。
「身体は大丈夫?」
「ありがとうございます。風鳴さん、ダメージが残らない様にしてくれたみたいで」
「それならよかった」
返答を聞き、ニッコリと笑うマリア。
大人の女性の色香に真っ赤になる出久。
再度になるが緑谷出久は健全な男子高校生なのである。
加えてやってくる女性が皆、綺麗もしくは可愛ければ慣れてない彼はどんどんと声が小さくなっていく。
要するに照れてるのだ。
その様子を見たマリアがポツリと呟く。
「・・・なんだか可愛いわね」
「マリア?」
「う、狼狽えるなッ!」
「狼狽えてるのはお前だろう!?」
どうやら母性本能をくすぐられたようである。
目の前の軽快なやり取りに緊張していた出久が吹き出した。つられて他の面々も笑いだす。
顔を真っ赤にしたマリアは逃げるように「飲み物をとってくるわ!」と中身の入ったグラスを手にテーブルに向かう。
「緑谷。これからは共に戦う仲間だ、緊張しなくてもいい」
優しい微笑みをした翼が出久に告げる。
「ありがとうございます!」
掲げられたグラスに自身のそれを当て、出久は久しぶりに心からの笑顔をみせた。
そのあとは大変だった。
S.O.N.G.所属の大人、主に男性陣に囲まれたと思ったら風鳴さんと戦ったことについて絶賛された。
『いや、マジで君凄いぞ!』
『あの司令相手に生身であそこまでやれるとか・・・かっけぇ!』
『司令は人間やめてるからな』
『あの人憲法に触れるレベルだからね』
女性陣からは色々と質問責めにされた。
『緑谷君、好きな人とかいないの?』
『ヒーローがいる世界って言ってたけど、カッコいいヒーローってどんな人?』
『クラスメイトもヒーロー候補なんでしょ?』
『君の個性って詳しくはどういうものなの?』
答えられるものと答えられないものが沢山あった。
なんとかその輪から抜け出し、隅っこでグラスを傾けているとあの日医務室に来た二人がやってきた。
「デクくーん」
手を振りながらやって来るのは切歌。その後ろに調もいる。
「切歌ちゃん、調ちゃん!」
「お話ししようとしたら他の人に囲まれてたからタイミングが難しくて・・・」
「今は大丈夫デスか?」
「うん!」
あの日。風鳴さんの行動の誤解を解いてくれた二人はその後しばらく話し相手になってくれた。自分たちの自己紹介や他愛無い世間話など彼女達なりに心配してくれていたようで面会時間ギリギリまで色々な事を話してくれた。
天真爛漫な切歌ちゃんと物静かだが芯を持った調ちゃん。
二人との会話は疲れきり混乱の中にあった自分にとっての癒しとなった。
切歌ちゃんは話の中から僕の事を『デク君』と呼んでくれるようになっていた。
調ちゃんはそうは呼んでくれなかったけど『出久君』と優しげに呼んでくれた。
同学年の二人は多々いる人の中で気兼ねなく喋れる存在となっていた。
「なんかごめんね。気を使ってもらったみたいで」
「何言ってるデスか!」
「出久君が皆と仲良くなるのも大事だよ」
二人は自分のことのように微笑みながら答えた。
「そういえば、ご飯はちゃんと食べた?」
「うん。響さんが色々持ってきてくれたんだ。唐揚げが特に美味しかったな」
「ホントに!?」
出久の言葉に嬉しそうな顔をする調。何を隠そう唐揚げは彼女の自信作なのだ。
もともとF.I.S.時代からおさんどん担当だった彼女はS.O.N.G.に入ってからも料理の研鑽を積んでいた。それを褒められて悪い気はしない。
「もしかして、あれは調ちゃんが?」
「うん・・・。喜んでもらえてよかった」
「ランチラッシュの料理に負けないくらい美味しかった!」
「確か学校の食堂ヒーローさんデスよね? 調、やったデスね!」
「ぶい」
両手でピースをする調。跳び上がらんばかりに喜ぶ切歌。この二人は正反対だからこそこんなに仲が良いんだな、と出久も笑う。
一頻り笑ったあと出久は気になっていた事を聞いてみた。
「そういえば二人もシンフォギア装者なんだよね?」
「そうデース! あたしがイガリマで」
「わたしがシュルシャガナ」
「・・・確かメソポタミア神話のザババ神が持ってた二つのシミターだよね?」
「知ってるデスか!?」
「出久君、意外と博学・・・」
「昔個性を調べる時に神話とか伝説と関係あるのかもって色々調べたことあってさ」
「むむむ! もしかしてデク君、お勉強出来る子デス?」
「え? そこそこには・・・」
「デデデデース! あたしの仲間が増えたかもと思ってましたのに」
「切ちゃん、失礼だよ・・・」
わかりやすく項垂れる切歌にツッコミを入れる調。いつの間にかアホの子仲間にされそうになっていた出久。三者三様の反応がそこにはあった。
ちなみに出久はクラス上位に入るほどに頭が良い。一学期中間試験は20人中4番目を位置していた。
その様子を見た出久は調にこっそりと聞いた。
「調ちゃん、もしかして切歌ちゃんって・・・」
「・・・うん、クラスでも下の方にいるの」
「あっ・・・(察し)」
「クリス先輩に『バカ二号』呼ばわりされるのはもう嫌デス・・・」
ちなみに一号は響である。
「もし良かったら僕が教えようか? 人に教えるのって自分の勉強になるし」
さめざめと泣く切歌に出久は助け舟を出す。
もともと面倒見の良い彼からしたら当たり前の行動であった。
その言葉にパッと顔を上げ、喰いつくように近づいてくる切歌。
「いいのデスか!?」
「もちろんだよ!」
「調! 神様はここにいたデス!」
「・・・わたしも教えられるのに。切ちゃんなんてもう知らない」
むー、と頬を膨らませて横を向く調。いつも勉強を教えているのにわたしじゃ不満なんだと言わんばかりの態度であった。
「切ちゃん、明日からご飯抜きね」
「なんデスと!?」
「もう知らないもん」
「調ぇ! ごめんなさいデス!」
「つーん」
出久の目の前で追いかけっこを始める二人。
その様子を笑いながら眺める出久。
違う世界に来てしまった彼にはまるでクラスメイト達との日常を思い出させる光景。それは寂しさを思い出させるものではあったが、同時に変わらない日常を確かめさせてくれるものでもあった。
S.O.N.G.名物、歓迎会。