僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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七話目となります。

お疲れ様です。そして久方ぶりです。
大変お待たせ致しました。
シンフォギアチームvsA組の戦いの様子をお届け致します。


7.三対三の激闘

シンフォギアを纏った切歌と調にA組の興奮は最高潮に達した。目の前の少女達は詠を歌うとその身に鎧を纏い、自分達の前に得物を構えて立っていたのだから。

 

「こんな事って・・・」

 

想定していた以上の個性に騒然となる彼ら。そんな中、比較的出久に近かった障子が側に立っていたクラスメイトが見せる変化に思いもつかない反応を見せた。

 

「緑谷⁉︎」

 

物静かな彼に珍しく飛びずさり、大きな声をあげる。その声は伝播し、残るA組の面々が振り向くと・・・そこにいたのはワン・フォー・オールギアを身に纏った緑谷 出久がいた。

 

「ど、どうしたんだ⁉︎」

「お前・・・それぇ⁉︎」

 

そんな上鳴の驚く声に我を取り戻す出久はその視線を自分の身体に落とす。そこにはあの世界で自分を何度も助けてくれた深緑色のシンフォギアがあった。響のシンフォギアを模したデザインのそれは、失ったはずのそれは、今確かに自分の身を包んでいる。

思わず手を握り、開く。しっかりと身に迸る力を確認した彼は先に声を上げた装者に続いて咆哮した。

 

「これが、僕の・・・シンフォギアだッッ!!」

「「「なんでだッ⁉︎」」」

 

級友のツッコミに動じず、出久は再び手にした絆の力に鼻息を荒くする。その目尻に僅かに涙が光っていたのは彼だけが知る事実だった。

 

 

「では暁さんと月読さん、そして緑谷でワンチームとして・・・誰がいくのかな?」

 

シンフォギアチームに新たに出久が組み込まれると彼らに対しての相手が再募集される。出久が入った事で遠慮がなくなったのだろう。今度はA組全員が手を挙げた。

 

「私たち、大人気だね」

「なんだか照れるのデス」

 

矢面に立たされている二人は少しだけ緊張していた。知らぬ世界、そして初めて出会った人たちに囲まれたこの状況。幾度か並行世界には渡ったが、これ程までに注目を集めた事は無い。

 

「うん。これは決めきれないね」

 

両手をあげたセメントスは文字通り匙を投げる。しかし言った手前止めるわけにもいかず、彼は出久に向き直った。

 

「緑谷、君が選びなさい」

「僕ですか⁉︎」

 

唐突に選択を投げられた少年は驚くが、命じた教師に向き直るとその意図を読み取る。誰しもが手を高々と挙げている中、此方を射殺さんばかりの爆豪に苦笑しつつも出久はクラスメイトを三人チョイスする。

 

「じゃあ・・・一人は切島君」

「よっしゃあ!」

 

選ばれた切島は手を打ち鳴らすと、一歩前に出てきた。そのまま出久に拳を突きつける。対した出久もそこに自身のそれを合わせた。

 

「一度お前と殴り合ってみたかったんだ」

 

八重歯を見せる獰猛な笑みを浮かべた切島は切歌・調の両名にも笑いかける。

 

「負けねぇぞ!」

「うん! それと・・・あとは飯田君と八百万さん、かな?」

「わかった!」

「かしこまりました」

 

委員長コンビも名前を呼ばれて進み出た。選ばれなかった級友達は少し残念そうにその手を下ろす。

だがそんな中、爆豪だけは普段通りの反応を示していた。

 

「待てコラァ!」

 

人をかき分け一番前に進み出るA組の問題児はメンチを効かせ、出久に迫る。だが・・・。

 

「爆豪、私が緑谷に選択を委ねたんだ。これ以上はいけないよ」

 

セメントスは二人の間に入るとやんわりと彼を制した。目の前にて隔たれる手に爆豪 勝己は悪態をつき、その身を引いた。彼とて引き際は弁えている。

 

「では、十分後に模擬戦を開始する。制限時間は三十分。ハンドカフスを相手にかけた数で勝敗を決めよう」

 

 

各チームがスタート位置へ、その他の生徒たちはエリア外へと移動を始める。

 

「ヘイ、緑谷少年」

 

装者二人と歩き始めていた出久に声をかけたのはオールマイト。師に呼ばれた彼はすぐさま駆け寄る。

出久の新たな出で立ちに目を細めて一言だけ激励を送った。

 

「みせてくれ」

「・・・はいッ!」

 

短く、そして力強く答えた弟子は新しい仲間の元へ戻っていく。

初めて出会った時、彼は夢見る小さな少年だった。

だが今はどうだろう。

 

「お師匠。私は幸せ者です」

 

彼に渡したのは困難な茨の道。

だけれど、夢を叶える為に努力という対価をどこまでも支払い、頼もしい顔をするようになった。

仲間を得て、共に肩を並べて笑い、戦う『ヒーロー』になろうとしてくれている。

 

「本当に君で、よかった」

 

力を渡した元ヒーローは小さくなっていく大きな背中に呟いた。

 

 

雄英高校は広い。

その敷地内に幾つもの訓練エリアが存在する。今回選ばれたのは市街地マップ、グラウンド・β。かつて爆豪と出久が深夜に全力の喧嘩をしたそこだ。

出久達三人はA組チームとは反対のゲートの前に集まっていた。開始時刻まで後数分。作戦会議の真っ最中だ。

 

「・・・というわけで飯田君達の個性はこんなところかな」

 

クラスメイトの個性を把握している出久は二人に対戦相手の情報を共有する。その上で相手の構成からA組チームの攻め手を考察していた。

 

「きっと前衛が切島君。遊撃に飯田君を置いて、八百万さんがリーダーとして後ろから二人に指示を出す役割で来ると思う」

「じゃあこっちは出久君がリーダーだね」

 

調の提案に出久は目を開く。

 

「ぼ、僕?」

「相手のことがよくわかってるデク君なら安心デス!」

 

切歌の後押しにむず痒い感覚もありながら頬をかく。頼られて悪い気はしない。寧ろ、やる気が更に出てきた。

出久は深呼吸を一つするとチームメイトと手を重ねる。

 

「わかった。二人とも、よろしくね!」

「了解!」

「了解デース!」

 

かくして。

午前十一時、戦いの火蓋は開かれる。

 

 

出久と切歌はその脚で、調は禁月輪にて市街地を走る。

戦闘開始から十五分が経過していた。

三人は街の中央を超えた所まで来ていたが、切島達の姿は未だにない。

 

「いないね」

 

立ち止まると辺りを見回しながら言う調。その言葉に頷きながら出久は考えていた。

どうもおかしい。出久の想定なら、高速移動出来る飯田を索敵に出してくるはずだ。彼の移動速度で撹乱して、本命の切島をぶつけてくるのではないかと考えていたのだがここまで相手の姿が全く見えない。

 

「どこかに隠れてるんデスかね?」

 

何処から来てもいいようにイガリマを構えた切歌も出久から伝えられていた予想と違う現状から周囲に警戒の目を向ける。

そんな彼女の目に路地裏からこちらを見る少女の姿が映った。

八百万百がこちらを伺っている。

 

「八百万さん、見つけたデスよ!」

 

向けられた声に「しまった!」という顔をする八百万は慌てた様子で奥に逃げ出していく。すぐさま切歌も後を追った。

別の方向を向いていた出久と調は反応が遅れてしまう。振り向いた頃には切歌の姿は路地に入っていた。その背中を目で追いながら、出久は違和感を覚える。

実戦が予想と違う事は多々ある事だ。だがセオリーというものはなかなか覆らない。

本来なら後衛の彼女がわざわざ姿を表すというのは・・・。

 

「駄目だ!」

 

出久が大地を蹴る。調の側をすり抜けて切歌を救けにいくが、もう遅かった。

強い光と音が路地から漏れ出す。咄嗟に目を覆うが僅かに間に合わない。少し、光を見てしまった。

 

「切ちゃん⁉︎」

 

後ろから調の声が聞こえてくる。その声がどこか小さく聞こえた。耳もやられているようだ。

 

「今ですわ!」

 

路地から姿を現した八百万は遮光シートを脱ぎ捨てると手にした物を投げる。それは出久達の間に転がり落ちると盛大に煙を撒き散らした。

 

「緑谷ァァァァ!!」

 

【烈怒頑斗裂屠(レッドガントレット)】

 

渾身のボディーブローが腹に突き刺さり、防御の遅れた出久は煙を突き破り飛ばされてしまう。

 

「出久君ッ!」

「君の相手は俺だ!」

 

【レシプロ エクステンド】

 

飯田の蹴撃を揺れる煙幕から察した調は禁月輪を急発進させる。その方向は出久とは反対方向。

 

「逃がすか!」

 

飯田はエンジンを吹かすと後を追いかける。

出久と調はA組チームの作戦により、分断されてしまった。

 

煙が晴れる。

八百万は耳栓を取ると、後ろで目を回して倒れる切歌の手にカフスを嵌めた。

 

「これで一人確保、ですわ!」

「およよ〜」

「本当なら緑谷さんを一番に捕まえたかったのですが・・・やはり上手くはいきませんわね」

 

倒れる切歌の側にしゃがみ込んだ八百万はため息をつく。

近辺の路地裏という路地裏に罠を仕掛けた彼女。辺りは彼女の罠だらけであるが、その殆どはもう使われないだろう。

だが彼女の作戦は功を奏し、こちらに有利な状況を作り出した。人数有利かつ制限時間はあと十数分。充分に押し切れる展開である。

 

「さて、私もいきませんと」

「およ〜」

 

未だ目を回す切歌を壁に寄りかからせた八百万は走り出した。

 

 

地面を二転三転した出久は何とか体勢を直す。

未だ目と耳はスタングレネードの影響を受けて、十全とは言えない。調とも分断されてしまっている。そして恐らく・・・切歌は捕まってしまった筈だ。

これも全て自分の想定が足りなかったのが原因である。

 

『切歌ちゃん・・・調ちゃん・・・』

 

一瞬の油断でチームが瓦解した事実に出久は歯噛みする。もしこれが実戦だったとしたらと思うと恐ろしかった。

しかしそんな恐怖の感情に浸っている時間が出久にはない。

目前に迫るのは剛健ヒーロー、烈怒頼雄斗(レッドライオット)

その身体を硬化させた切島が間髪入れずに殴りかかって来ていた。

 

「よっしゃあ! いくぜ、緑谷!」

「ッ!」

 

烈怒頼雄斗は固めた四肢でひたすらに殴る。目も耳も効かない中、感覚だけで切島の攻撃を捌く出久。ガツン、ガツンと防いだアーマーが音を鳴らした。

重い。一撃一撃がハンマーのそれだ。揺さぶられる身体を維持して、烈怒頼雄斗に反撃の蹴りを喰らわせる。その反動を使い距離をとった。

 

「来いやぁ!」

 

どこまでも熱い漢、切島の気合いの咆哮を浴びた出久は内なる漢を滾らせると再び跳んだ。

やられてばっかりじゃいられない。

だって、オールマイトが見てくれている。

自分の成長を信じてくれた師が!

 

「だから・・・負けられるかッ!」

 

纏うワン・フォー・オールを引き上げると、出久はシンプルに蹴りを決める。

振りかぶるわけでもない。

振り絞るわけでもない。

ただ一直線の飛び蹴りだ。

 

【MICHIGAN SMASH !!】

 

「そういう真っ直ぐなの、大好物だぜ!」

 

【安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)】

 

全身を限界まで硬化し、火花さえ散らせる程の防御力を纏う切島は両手を前にして出久の脚を受け止める。

彼にとってこの状態が維持できるのは僅かに数十秒。渾身の一撃を受け止め切れるかで勝敗が決する重大な時間だ。

 

「「負けられねぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

出久は腰部バーニアを吹かす。

切島は全身に込める力を増す。

だが出久はそれだけでは済まない。全身の開ける場所全てから推進力を生み出す。

シンフォギアなら、シンフォギアだから、それが出来るのだ。

強引なブーストは出久の速度を倍以上にすると、無理矢理に安無嶺過武瑠をぶち破った。耐えきれずに砕ける烈怒頼雄斗の最大硬度防御。破られるとは思っておらず驚く切島に出久の追撃が襲い掛かる。

割った彼の鎧を砕き切るための一蹴。

かつてのオールマイトを、その脚で現す一撃を。

尊敬する師をリスペクトする一撃を見舞った。

 

【OKLAHOMA SMASH Ver.Shoot Style !!】

 

脚の力は腕の三倍という。

回転するヒーローの身体、腕の力を凌駕する脚の力。流れるエネルギーの奔流に切島は巻き込まれる。

 

「マジかよ⁉︎」

 

緩む拘束に出久の脚が奮起した。

それを、そのタイミングを逃さない。

 

「言ったよ! 『負けられない』んだ!」

「んの、やろぉぉ!!」

 

全身の硬化力を腕に再集中するが既に遅い。その刹那に出久の蹴りが中心を捉える。辛うじてガードはしたが堪えきれなかった烈怒頼雄斗は身体を曲げて、背後のビル壁にその身をめり込ませた。

回転の勢いを殺し、着地する。

だが、そこまでだった。

動きの止まった出久に投げつけられる物がある。目の前の切島に集中し過ぎていた彼は避ける事が出来ない。慌てて打ち払うが、それは触れた瞬間に弾けると液体となり彼の身体を濡らす。

 

「なんだこれ!」

「特製のトリモチ弾です」

 

出久の疑問に答えたのはクラス一の才女、八百万百。粘り気のある液体は空気に触れて凝固すると出久の動きを封じた。

 

「これで、二人目!」

 

カシャンと音を立てて自らの腕に嵌められるハンドカフス。その光景に満足そうにガッツポーズをする烈怒頼雄斗。

 

「ナイスだ、八百万・・・」

「いえ、切島さんこそナイスファイトでしたわ!」

 

そんな傷だらけながらも漢らしく戦った彼に賞賛のガッツポーズを返す彼女は手首の時計を確認する。

間も無く制限時間を迎えるところだ。

 

「この勝負、私達の勝ちです」

 

 

「ごめんなさいデス・・・」

 

二人の前でしょんぼりと項垂れる切歌は申し訳なさそうに言った。対した二人の顔も晴れない。

 

「怖かった。彼、どこまでもどこまでも追ってくるの・・・」

 

調も先程の戦闘を思い出しながら、呟く。あの後、分断された彼女は何度も出久と合流しようとしたのだが、その度に飯田の進路妨害を喰らっていた。丸鋸を飛ばせば華麗に躱されてしまい、ヨーヨーを投げつけても見事に蹴り返される。しかも隙あれば接近戦に持ち込まれてしまいそうになり、結果逃げ回るはめになった。

よもやシンフォギアチームはお通夜状態である。

変わってA組チーム。

 

「大丈夫か⁉︎」

「おう! 飯田もナイスラン!」

 

にこやかにサムズアップする、が結構な怪我をした切島を八百万が気遣う。

 

「無茶しすぎですわ・・・」

「だって緑谷の奴がよ」

 

そこに集まり出すクラスメイト達も口々に彼らに労いの言葉をかける。

無論、それは装者達にもだ。かけられる言葉に少しずつ笑顔を取り戻す切歌と調。

出久も実際に戦った飯田達、見ていた級友達から意見をもらうと事細かにノートに書き連ねていった。

そんな彼らを見つめるのは教師達。

 

「やはり新しい風が入るといいものです」

 

セメントスは笑いながら隣に立つオールマイトに話しかけた。だが話をふられた彼は言葉を返さない。

オールマイトは気がついたのだ。いつもの笑顔でペンを走らせる彼の手が僅かに震えている事を。遅れてセメントスもその視線から気がつく。

 

「あぁ・・・悔しいのですかね」

「多分」

 

それでも腐らず、真面目に、実直に人の話に耳を傾けている出久の姿は彼ら二人の目に眩しく映る。

 

「本当に良い生徒です」

「だろ?」

 

弟子を褒められた元ヒーローは誇らしげに笑い返すのだった。




ご感想などありましたら、お待ちしております。


なお、来月末十二月二七日開催予定の「絶唱ステージ14」には参加予定です。
当作品の二冊目を販売予定となっております。

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