僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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十一話目となります。

戦闘パート前の日常回をお送りいたします。


11.お家に帰ろう

土曜日の昼過ぎ。

週休二日の雄英高校もこの日は休日となる。

生徒達がそれぞれ休息の日をとる中、出久と切歌の二人は電車に揺られていた。

彼らは今、出久の実家に向かっている。その中で切歌は僅かに後ろめたい気持ちでいた。席に座る彼女は隣の彼の手を握りながら呟く。

 

「・・・私も一緒でよかったんデスかね?」

「勿論だよ」

 

その言葉に間髪入れずに答える出久は少女の手を握り返した。

 

「でもデク君のママさんにご挨拶するなんて・・・きんちょーするデス」

 

どこか余所余所しい彼女の在り方。無理も無い。この話は昨夜唐突に訪れたものなのだから。

 

 

「顔でも出してきたらどう?」

 

そんな一言は作戦会議を終えたマリアから発せられた。呆けた顔の出久に彼女は続ける。

 

「この計画は週明けに行われるわ。猶予もあるのだし、久しぶりにご家族に会ってきたら? ついでに切歌の事も紹介してきなさいな」

 

腰に手を当て語るマリアの言葉。

その意味を反芻した出久は僅かに慌てる。

実家に一度帰る。それ自体は何ら問題はない。寧ろいつかはちゃんと話をしなくてはと彼自身も考えていた。

だが・・・。

 

「わたしもデスか⁉︎」

「当たり前でしょ?」

 

横で困惑する自分の彼女を母に紹介する。それはまた意味が変わってくるのだ。困った切歌が僅かな抵抗をする。

 

「でもでも!」

「でももしかしもないの! お付き合いしてるのだからご挨拶は必要でしょ。二人で行ってきなさい」

 

そう言い放つ彼女の剣幕に呑まれた出久と切歌は二人揃って頷くしかなかった。

斯くして、緑谷家訪問ミッションが急遽執り行われる事となった。

 

 

よく見ると彼女の目にはクマが出来ている。昨日はハイツアライランスに泊まった筈だが、よく眠れなかったようだ。そしてそれは自分も同じ。彼女から見た自分も同じ顔をしているのだろう。

二人は同じタイミングで目を擦る。

 

「デク君も眠れなかったデスか?」

「うん・・・僕もすこし緊張してたから」

 

定期的なリズムで揺れる電車。それに揺られながら二人は肩を寄せ合い一つ、また一つと駅を通り過ぎていく。目的地まではまだ少しかかる。

やがて切歌の頭がこくり、こくりと船を漕ぎはじめた。そんな様子を見た出久は彼女に呟く。

 

「着いたら起こすから、寝ちゃっても大丈夫だよ」

「え?」

「僕なら大丈夫」

「うん・・・」

 

彼の言葉に安心して目を閉じた切歌。出久の肩にかかる重さが増すと、やがて小さな寝息を立て始める。隣に座る彼女を感じながら、もう決して離さないように手を握り返す。

その重みが今とても嬉しい。

気がつくと彼の眠気は吹き飛んでいた。

電車は彼の実家へと車輪を進め続ける。

 

 

最寄駅に着いた二人は改札を抜けると歩を進める。

自分の生まれ育った街。そこを彼女と歩く。初めての経験に出久の心はどこか浮立っていた。

出久と切歌の世界は違えど、そこに人が生きているという点で違いはない。

人が暮らし、人が営み、人が生活する。

ごく当たり前の事が二人の目の前で展開されている。その中を二人は進んでいく。

そうして出久と切歌は緑谷家の玄関に辿り着いた。緊張した彼女の顔を見ながらも彼は呼び鈴を押す。先立って母に連絡をしておいた。その音の後、開かれる扉。

 

「おかえり、出久」

「ただいま」

 

これまで幾度となく交わされた挨拶。久しぶりの母の顔に出久も笑顔となる。だが母、引子は息子の隣に立つ少女に目を移すと僅かだが驚いた顔をした。

 

「初めましてデス!」

 

その視線に切歌が反応をする。カチコチに身体を強張らせた彼女は出久の手をしっかりと握りながら自己紹介を続けた。

 

「暁 切歌といいます! よろしくお願いしますデス!」

 

自身と彼の関係を伝える余裕は無く、ただ彼女は名前と挨拶だけを伝える。そんな切歌に驚きながらも引子は微笑みを返した。

 

 

通されたのはリビング。座る二人は目の前に出された茶を見つめ続ける。出久の母は二人を見つめ返した。隣通りに座る二人の手は今もなお繋がれている。

僅かな間の後、出久が口を開く。

 

「久しぶりだね」

「うん」

 

短い会話。全寮制になってから帰省する彼は当たり前の言葉しか出てこない。それでも母と子。十数年の付き合いは瞬く間にその差を埋める。

そんな親子の会話を隣で聞く切歌はおずおずと緑茶に手をつけた。温かいそれを啜りながら横目で彼を見ると嬉しそうに語らう姿。

切歌には両親がいない。正確にはその記憶がない。かつての自分もこんな顔で親と話していたのだろうか。

・・・わからない。

でもなんだか胸がくすぐったくなった彼女はいつの間にやら机の下で出久の手を握っていた。

その柔らかな感触に尻を浮かせた彼は隣の少女に振り向いた。そんな息子の反応に気がついた母は話を切歌に向ける。

 

「あの・・・もしかして、間違いじゃなければなのだけれど」

 

どこか恐る恐るといった感で言葉を選ぶ引子は出久の隣の少女に問うた。

 

「その・・・暁さんは出久とお付き合いをしているのかしら?」

 

その見事に核心をついた言葉に跳び上がらんばかりに驚いたのは切歌。そして、出久。揃って顔を染めて伏せる反応をする二人を見た母は微笑んだ。年相応な初々しい仕草の彼らは何と言おうかと慌てている。

まさかあの奥手な息子が彼女を連れてくるとは。驚きと共に少し嬉しく思った。

 

「あのね! その、お母さんには話さなきゃいけないことがあって!」

「デク君のママさん! これにはとっても色々と様々な複雑な事情があってデスね!」

 

立ち上がった二人はそれぞれ、口を開く。でも見ればその手は繋がれたままだ。決して離そうとしないそれ自体が二人の絆なのだろう。目の前の息子と未来の娘になるかもしれない少女に引子は笑いかけた。

 

 

出久は話をした。

自分が一ヶ月の間、この世界から消えていた事を。

そして向かった世界で彼女や、彼女の仲間達と出逢った物語を。

平和な日常と激しい戦闘の話を全部、包み隠さず伝えた。流石にオール・フォー・ワンの名が出た所で母も目を見開いたかと思うと意識を失いかけ、二人は大騒ぎとなる。

それでも・・・ちゃんと包み隠さずに話した。

 

「『絶対心配させない』って言ったのに心配かけてごめんなさい」

 

最後にそう言いながら頭を下げる出久に続いて、切歌も右に倣う。

 

「今回の事は僕も、学校の先生達もよくわかってなくて。でも隠してた訳じゃなくって・・・だから!」

 

言いたい事を伝えようと出久は必死だった。彼の様子に切歌も言葉足らずではあったが補足の説明を次々と入れる。

それの全部を出久の母は聞き終えた。

 

「・・・そうだったのね」

 

全てを聞き終えて一言呟いた引子は冷めた緑茶に手をつけた。人肌程の温度のそれを一口飲んだ彼女は、息を吐く。

そうして。還ってきた息子の目を見て言った。

責めもせず。

怒りもせず。

ただその帰還を喜ぶ言葉を息子に伝える母。

言いたい事は沢山ある。それこそ山のようにだ。

でもいの一番に伝えたいのはこの言葉だった。

だから緑谷 引子はその一言をチョイスする。

 

「『おかえり』」

「・・・『ただいま』」

 

それに答える出久は目を逸らさずに見つめ返した。

母は気がついていた。目の前の息子の目は以前とは違う。これは『護るべき者』を見つけた男の目だ。

異なる世界で息子は成長した様だ。

自分自身が目指すヒーローとして大きな歩を進めたのだろう。

それを助けたのはきっとこの暁という少女。

どこかお気楽そうだが、確かな芯を持った彼女は今もなお息子の手を握り続けていた。心優しい少女にヒーローの母は言葉をかける。

 

「暁さん。出久の事、よろしくお願いしますね」

 

言葉を受けて、ぺこりと頭を下げる暁 切歌を見ながら母は微笑んだ。

 

 

「じゃ、じゃあまた・・・」

 

緑谷家の玄関先で別れの挨拶を交わす三人。

 

「またいつでも来てね」

「はいデス、ママさん!」

 

元気よく返事をする少女に母は手でこっちにくるようにと手招きをした。不思議そうな顔で近づいた切歌にだけ聞こえるように小さな声で引子は伝えてあげる。

 

「あの子は奥手だから、いざとなったら貴女から引っ張ってあげて」

「・・・?」

「ふふ・・・。よろしくね」

「・・・??」

 

いまいち言葉の意味を掴みかねている彼女に伝えたい事を伝えた出久の母は二人を見送った。時折振り向いては手を振る小さな二人に何度も手を振りかえしてあげる。

仲睦まじく歩き去る出久と切歌を見つめる引子の目には涙が光った。

いつまでも小さいと思っていた息子にも愛する人が出来た。

息子の成長を実感する母は夕陽の照らされた二人にいつまでも手を振り続ける。

 

 

 

 

「デク君のママさんって、優しい人デスね」

「そう、かな?」

「・・・私には記憶がないデスけど、きっとあんな人達が私のパパとママなんでしょうね!」

「・・・切歌ちゃん」

「そ、それにデク君のママさんが私のママさんになるかもデスし・・・」

「え?」

「も、もう! なに言わせるデスか!」

「えぇ⁉︎」

 

紅い空に負けないくらい赤い顔をした切歌は出久の肩を叩くと急いで駅への道を歩き出す。

その言葉を咀嚼して、意味に気がついた彼も同じ顔で彼女を追うのだった。




はよ、結婚しろ。
いや、マジで。
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