僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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十二話目となります。

お疲れ様です。
日常回をもう一つ、『ヒーロー』と『彼女』の再会を投稿させて頂きます。


12.夢のヒーロー

12.夢のヒーロー

 

昨夜マリアに言われ、実家を訪れる予定となっていた出久は寝不足の目を擦りながら一階のロビーに降りていた。

時刻は八時を回ったあたりで休日の朝にわざわざ早起きするクラスメイトは珍しい。自他共に規則正しい生活を心がけている飯田位だろう。そんな彼もここにはいなかった。恐らくは日課の走り込みにでも行っているのかもしれない。

人気のないロビーに降り立った彼はキッチンで備え付けの電気ケトルに水を入れる。もういっそ眠れないのならば起きてしまおうと熱いお茶でも飲むつもりだった。少ない量ならあっという間に沸かしてくれるそれに仕事を任せながら出久は戸棚から湯呑みを取り出す。

 

「お早う」

 

背中側から声をかけられる。聞き知った声に出久が振り向くと思った通りの人がいた。彼女に返しの挨拶を送る。

 

「おはようございます。翼さん」

 

S.O.N.G.の制服を着こなした防人はいつも通り凛々しい顔でこちらを見ている。その頼もしい笑みと一緒にあの世界で何度も戦った。

 

「翼さんもお茶、飲みますか?」

「頂こう」

 

出久はケトルに水を足すと再び土台にセットする。そしてもう一つ、棚から湯呑みを出した。

それぞれに緑茶のティーパックを一つずつ入れる頃には既にお湯は沸いていた。本当ならば急須で淹れた方がいいのだろうが、ここにはない。それを律儀に行なっているのは意外に和風な気のある轟くらいだった。彼曰く「やっぱりこっちじゃないと落ち着かない」らしい。

 

「お待たせしました」

「ありがとう」

 

湯気の立つ湯呑みを彼女の前に置くと、対面に腰を下ろす。

眩い朝日が入ってくる寮のロビーで風鳴 翼と緑茶を啜る事になるとは、あの世界に飛ばされた頃の自分が聞いたらきっと信じないだろう。だって今でさえ夢のようなのだから。

静かに茶を飲む彼女の姿は背筋をピンと伸ばし、凛という言葉が相応しい。和服を着たらさぞ似合うのだろうな、と長い髪を見ながら考えていると視線に気がついた翼が首を傾げる。

 

「どうした?」

 

出久は変に誤魔化さずに思ったことを述べた。その言葉に目を白黒した彼女はまた一口と湯呑みに口をつけた。

 

「実家が実家だからな・・・。和服にはよく袖を通すぞ」

 

聞いた話ではあの世界で『風鳴』といえば、国を護る為に歴史の影から支えてきた有名な一族らしい。

だが出久はほんの少し表情を暗くした翼に気がついていた。

踏み込んではいけない。

そんな予感がした。それ以上の事は聞いてはいけないのかもしれない。そう考えて話題を変える。

 

「そ、そういえば!」

 

こんなわかりやすく態度を変えれば聡い翼に気がつかれているだろう。でも出久はそれに気がつかないかの如く、笑顔を作った。

心の嫌な所を突かれて嬉しい人間などいないのだ。

 

「こんな朝早くからどうしたんですか?」

「・・・あぁ」

 

翼は湯呑みを置くと改めて出久に向き直る。その瞳はとても真剣で、冗談は無く、確かな願いを湛えていた。思わず出久も手の中の物を置くと背を伸ばす。それを見た翼がゆっくりと口を開いた。

 

「頼みがある。お前の師、オールマイト氏と渡りをつけて欲しい。私は・・・かの御仁にお会いしなくてはならないんだ」

 

翼の願い。

それは『オールマイトと話がしたい』というものだった。まさかの事に驚いた出久ではあったが二つ返事で了承すると連絡用SNSを使い、メッセージを送る。幸いな事に予定のなかった彼からはすぐに返事をもらえた。

 

『午前中なら空いてるけど・・・一体どうしたんだい?』

 

不思議そうな師からの返信。返事が来るまでの短い間に翼からの話を聞いた出久はスマートフォンの画面を叩く。

 

『いきなりでごめんなさい。お時間を頂きたいです』

 

そう書き出した文章に彼女と、もう一人の願いを込めて。

 

 

一時間半後。二人は雄英高校におけるオールマイトの私室の前に立っていた。出久は手ぶらだが、翼の脇には一台のタブレットが携えられている。横に並ぶ彼女の顔を見ると彼女にしては緊張した面持ちであった。それを横目に扉をノックすると、中の人物から入室を促す言葉が返される。

受けた出久は扉を開いた。

 

「失礼します! おはようございます!」

「おはよう。今日は休日だが、どうしたのか・・・おや?」

 

弟子の姿を見たオールマイトはもう一人の人物に目を止めて言葉を切った。知らぬ人では無い。昨夜の会合で同席していたS.O.N.G.のシンフォギア装者だったはずだ。

口を固く一文字に結んだ彼女は出久に続いて扉を潜った。そうして彼より一歩前に出てた風鳴 翼は丁寧に頭を下げる。

 

「初めまして。風鳴 翼と申します。本日はお忙しい中を時間を割いて頂き、ありがとうございます」

「あぁ・・・うん?」

 

出久から話に聞いていた人物の一人ということもあり、驚きながらも返事をするオールマイト。だが目の前の彼女はそのまま姿勢を崩さない。下げられた頭の天辺を眺める元No.1ヒーローが弟子に目を向けると、彼は微笑んだままである。謎の笑みに疑問を持ちながらもとりあえず首を垂れる彼女を席に促した。

勧められた席に座る翼と、あくまでもゲストは彼女であるというのか弟子は席にはつかない。ただそのすぐ後ろに立っていた。

 

「それで、風鳴さん?」

「はい」

 

遠慮がちに声をかけるオールマイトにしっかりとした返答をする翼。これではどちらがホストかわかったものではない。オールマイトは息ひとつ吐くと目の前の装者を見つめ返す。彼女の瞳には何かしらの感情が込められていた。

 

「私は君とは昨夜顔を合わせたばかりの筈だけど、一体全体どんな用事なのかな?」

 

至極当然の質問。ほぼ初対面の彼女がわざわざ自分と話をしたいという。不可思議な事もあったものだ。言葉通りの表情をするオールマイトに剣の装者は口を開いた。

 

「貴方は・・・怪物と戦った事がありませんか?」

「・・・うん?」

「恐らく数年前位の事です。犇く謎の怪物達と対峙し、それを屠った記憶はありませんか?」

「・・・んん?」

 

翼の言葉は意味が広すぎた。この世界では異形系の個性を使う者も少なくはない。だからこそオールマイトは過去の戦闘からそれらしきものをピックアップするが、どれもピンと来ない。大体のヴィランは一匹狼。チームアップしてくるヴィラン自体が少ないのだ。

首を傾げ、腕を組むオールマイトに翼は望みをかけるかのように続ける。

 

「『彼女』の話が間違いではなければ、貴方にはその記憶があるはずです。私達の世界で『彼女』を、私達を救けてくれたはずなのですから・・・!」

「ま、待ってくれ!」

 

掌を突き出しながら必死に何かを思い出そうとする元・平和の象徴。何か・・・何かが頭の引き出しから飛び出そうとしている。言われる言葉に感じるものがあった。しかし決定的に思い出す事が出来ない。

元ヒーローが額に手を当てて悩む中、防人はもう一つの言葉を告げた。

 

「では・・・『天羽 奏』という名に覚えはないでしょうか」

「あもう・・・かなで・・・」

 

ゆっくりと顔を上げながら確かめるようにその名前を口に出すオールマイトは漸く思い出す。

 

傷だらけになりながらも護り立つ赤い髪をした彼女の姿を。

確かな決意をその紅い瞳に滾らせた雄々しい彼女の姿を。

そしてかつて自分が救った、一人の少女の姿を。

そんな彼女から伝えられた、感謝の言葉を。

 

『救けてくれて、ありがとう!』

 

涙を流しながら叫ぶ彼女を思い出す。

 

「も、もしかして・・・」

「やはり、そうなのですね」

 

ヒーローの反応から確信した翼はその目に涙を浮かべながら、再度頭を下げる。雫が彼女の足元を濡らしていく。震える身体と震える声。それでも翼は声を張り上げる。

 

「私の相方を救けてくれて、ありがとうございます!」

 

その言葉に最大限の感謝を込めて装者は、防人は、風鳴 翼はヒーローの手を握った。

 

 

タブレットが起動すると僅かなラグを経て回線は開かれる。

 

「奏、聞こえている?」

『あぁ、感度良好。ばっちりさ』

 

端末に話しかける翼とそれに答える声。

先程出久が彼女と交わした言葉は少ない。

 

『お前誰だ?』

『あたしは・・・前にオールマイトに命を救けられた事がある』

『え! オールマイトの弟子なのか!』

『そうか・・・。やっぱり違う世界の人だったんだな』

 

短いやり取りだったが、感じ取れる事があった。

それは自分の師に対する尊敬の念。

ベッドの上で語る彼女は嬉しそうに師との出会いを語っていた。

二度目の出会いの彼女とはこれ以上の会話は出来なかったが・・・きっと面と向かい合ったらもっと話が弾むのかもしれない。

それこそ自分の知るオールマイトの伝説を日が暮れるまで語り尽くすくらいには。

 

『体調は大丈夫だ。少し話すくらいならわけない』

「でも・・・」

『大丈夫だって言ってるだろ? 心配しすぎなんだよ、翼は』

「そんな事言って! 私は奏の体調を・・・」

『相変わらず心配性だなぁ』

「もう!」

 

出久の知る彼女とはどこかかけ離れた対応をする翼に面食らいながらそのやりとりを見つめていると、タブレットの中の彼女が翼に促した。

 

『頼むよ。私を『ヒーロー』と再会させてくれ』

「・・・うん」

 

その願いに応えた翼は画面をNo.1ヒーローへと向ける。

瞬間。オールマイトは目を見開く。そこにいたのはかつて自分が救けた少女。あの時とは姿が異なる。でも確かに彼女であった。

 

「あぁ、君は・・・」

 

驚きながらも懐かしい姿にオールマイトは破顔し、笑みをこぼす。

生きていてくれた。

それは彼にとって最上の朗報。

 

「天羽少女・・・久しぶり、だね」

 

だが。

 

『・・・え?』

 

無情にも言い放つのは眠り姫。

 

『誰だ、この貧相なおっさん』

 

そんな非情な言葉の槍がオールマイトを串刺しにした。

まさに槍のシンフォギア、ガングニールだけに。

 

 

トゥルーフォームからマッスルフォームへの変身を見せつけて、やっとオールマイトは奏からの信頼を勝ち取った。

それこそ気がついた奏は慌てたが、オールマイトは慣れたものだと笑い飛ばす。それ程までに彼の変貌は周りに気が付かれていなかったのだ。

 

『ごめんな! まさか今のあんたがあんなヒョロッちい姿だとは思わなくて』

「言いたい事はわかるよ」

 

口元の血を拭い答えるオールマイトはそれでも嬉しそうに画面の中の奏に笑いかけた。あの時の彼女よりいくらか痩せている。着ているものから察するに入院していたのかもしれない。

それでも彼女の顔からは笑みが溢れていた。奏からしたら三年近くの日々はいつの間にか過ぎていて、彼の活躍はつい数日前の事だった。

 

『ええと、その・・・本当にオールマイトなんだよな?』

 

口籠もりながらもどこか嬉しそうに画面の中から語りかける少女にオールマイトはしっかりと頷いた。自分が彼女と交わした会話は少なく時間は短かったが、特異なあの時間は忘れようもない。『ヒーロー』として彼女を救けた事を今でもすぐに思い出せる。

 

「あぁ。君が無事で嬉しいよ」

 

風貌は変わったが、そこには変わらないものがあった。それは正義を為すヒーローの矜持。オールマイトの中にワン・フォー・オールはもう無い。でもその心は今もここにあるのだ。

 

 

 

出久は師と奏の間で会話が進み始めるのを見て、その場を後にする。

彼の動きに翼が反応した。

 

『ありがとう』

 

言葉は無く、目だけで語りかける声にワン・フォー・オールの少年は笑い返して静かに部屋を出た。




二人はこの後、どんな会話をしたのでしょうね。
それは読んでいただいた皆様のご想像に委ねます。

今回のタイトルは私の大好きな特撮作品『電光超人グリッドマン』のOPテーマから取らせて頂きました。近年『SSSS.GRIDMAN』としてアニメで続編が描かれたグリッドマンは私の妄想の原点ともいえる作品です。
奏にとっての夢のヒーロー、オールマイト。
そんな願いを込めたタイトルでありました。

そしていつか『SSSS.GRIDMAN』のOPテーマ『UNION』をタイトルに物語を書いてみたいものです。
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