クライマックスに向かう三箇所三組の戦闘に鳴り響くブザーとアナウンス。
『はい、そこまで!』
聞き知った校長の声に生徒達の動きが鈍る。殆どの生徒が手を止めた。だがそれが聞こえていなかった一部の生徒がいた。彼らは目の前のヴィランに向かい続ける。停止放送の鳴り続ける中、聞こえなかった様に戦おうとする幾数名だったが、途端に錬金術師達の目の色が変わる。
抵抗戦から制圧戦に切り替えた彼女らはすぐさま反抗分子を叩き伏せた。
それはまさに瞬きの間の事であった。
「さてA組の諸君。期末テスト、お疲れ様!」
小さな手を振りながらいつもの笑顔で迎えるは校長、根津。集められたA組は目の前に並ぶ教師陣と装者達、加えてさっきまで敵対していた錬金術師の前に並んでいた。
「これにて今学期のテストは終了とするよ。 お疲れ様! 今回の考査結果は後日発表するからね。まぁ、とあるチームは時間がかかるかもだけどねぇ・・・」
校長が長々と話す中、A組に言葉はなかった。
『お疲れ様』ではない。
自分達はクラスメイトを救けるために戦っていたはずだ。だがそれが茶番だったと、あまつさえテストだったと言う。聞いた誰もが口を開かずにいる。
重苦しいその中で緑谷 出久は所在なく彼らの前に立っていた。結果は如何あれ、仲間達を騙す形となってしまった彼は申し訳なさでいっぱいだ。彼は目前で必死の戦いを挑むクラスメイトを見ていたのだ。
あの眼を。
あの戦いを。
あの熱さを。
しかと、観てしまったからだ。
ギュッと目を瞑り何にも言われようとも、この後迫りくる叱責を受け入れようとしていた。
その中で真っ直ぐに手を挙げる者が一人いた。彼は一歩進み出ると声を発した。
「つまりですが。緑谷君はもう何処かに連れて行かれるわけではなく、無事という事ですか? 」
委員長の少年は代表して叫んだ。
伏していた顔が上げられると睨む様な視線。強い目を受けた根津は受け止めると頷いた。
「あぁ。彼には協力してもらっただけだよ。勿論、全ては今回の期末テストの為だ」
「そうですか・・・」
答える声に出久が顔を伏せた。隣で暗い顔をする恋人に切歌が手を握る。震える事をやめない手を握り返した。加担した身として切歌も彼を側に立とうと思い立った時。
その声は溢れた。
「「「「・・・よかったぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
それは安堵の声。
顔をあげると、そこにあったのは少年少女達の笑顔だった。彼らは近づいてくると口々にクラスメイトに声をかけてくる。
「心配したんだぞ!」
「肝が冷えた・・・」
「もうあんな思いしたくなかったから・・・」
「やりやがったな、こんにゃろぉ!」
「本当、よかった」
ある者は笑顔で、またある者は涙を流しながら。何にも言わない者もいた。
でも彼らの顔で共通しているのは一つ。
『無事で良かった』
その想いを正直に受けた出久は泣いた。
泣きまくった。その顔を見せられた出久は堪えられない。
その瞳を潤ませると耐えずに叫んだ。
「ご、こ゛へ゛ん゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
滝の様な涙を流す彼はクラスメイトに揉みくちゃにされながら謝罪の言葉を唱え続ける。それを受け止めた彼らも同じ様に泣きじゃくっていた。
これは今期の試験だったらしい。
しかしそうだとしても、あの時救けられなかった仲間を、今度は救けられた。それが彼らには最も特別で、素晴らしい出来事だった。
それくらいに緑谷 出久は彼らのクラスメイトである。
少年少女達が同じ教室に通う様になった日々は短い。
でも。その時間は『学生』という、かけがえの無い時間だからだ。若い彼らにしかわからない大切な絆があるのだろう。
だから。
緑谷 出久はそれを嬉しく思えた。
揉みくちゃにされながら、彼は心から叫んだ。
ありがとう、と。
「さて緑谷」
同級達と涙の謝罪合戦が落ち着いた頃、緑谷 出久に声がかけられた。いつも通り死んだ目をした担任は、さも当然といった声音で彼に当たり前の事実を告げる。
「感動してるところ悪いが、そろそろ頼まれていたお前の試験の時間だ」
相澤の一言に硬直する出久は、まさかと首を回すと担任に顔を向ける。
「あの・・・試験内容は?」
「こちらの三人との実戦だ。勝て、とは言わん。だがベストを尽くせ」
彼の差す先は先程クラスメイト達が死闘を繰り広げたパヴァリア三人娘。まさかまさかという予感に出久は震える。
「さ、流石に一対一ですよね?」
「いや、三人同時に戦ってもらう」
「待ってください! みんながそれぞれチームアップして戦った相手ですよ⁉︎」
「お前は個性に加えて、シンフォギアという力が使えるからな。それを加味して三対一の対複数戦だ。ちなみに残っている補習も兼ねているからしっかりやれ」
あまりな戦力差。
無情極まるその言葉に顔色を失ったヒーローが錬金術師達に顔を向ける。
せめて手心をと願う彼に、錬金術師達は苦笑いを返した。
「全力で来るといい」
「ま、これも勉強なワケダ」
「胸は貸してあげるわよ?」
三名は先程の激闘の中でほぼ傷一つないその姿で立ちはだかった。絶望的すぎる戦力差に泣きそうな彼はファイティングポーズをとり、この後の自分の行き先を憂う。
「あ・・・ははははは・・・」
あまりに無茶な内容に力無く笑うしかない出久。南無三、と視線を送るクラスメイト達。何人かは十字を切った。
せめてもと聖詠を唄い、ワン・フォー・オールギアを纏った出久は決意悲壮な顔で叫ぶ。
「ぼ・・・僕が、来たぁぁぁぁぁ!!!」
今までで一番もの悲しい名乗りが響いた。
でも流石の流石に三人同時というわけではなかった。しかし、【手加減】という免罪符を知らない三人娘は生真面目なリーダーから銃把を握り締めた。
「私から行こう」
クリスより際どい射撃が出久を襲う。その全てが出久の身に突き刺さる。
堪えきれず吹き飛ぶ出久。
「で。次はこっちなワケダ」
調の禁月輪を凌駕する勢いで轢き飛ばされた。見事に中心を捉えた攻撃は彼にダメージを残す。
見事に吹き飛ぶ出久。
「最後は! あーしぃぃぃぃぃ!!!」
響のラッシュを越える連撃。捌いたと思いきや、それこそフェイクで本命の拳に蹂躙される。
上空に吹き飛ばされる出久。
そうして。
彼は地面に倒れ込む。
残酷なまでのオーバーキルにギャラリーの誰しもが「うわぁ・・・」という声を出すのをイヤホン越しに聞いた緑谷 出久はそのまま眠りにつく。
消えかける意識の中、「単位、落としたかもしれない」と悲しい現実に苛まれながら、彼は静かに泣いた。
おまけ
出久とクラスメイト達が泣きあう中、その輪に加わらなかった男が一人。
「お前は行かないのかよ?」
「うるせぇ」
誰よりも傷だらけの爆豪 勝己が側に来たクリスの言葉に返していた。仏頂面を崩さず、だが忌々しげに顔を歪めた彼は吐き捨てる。
「・・・妙だと思ってた。いやにタイミングが良すぎるって」
「そうか。お前、聡いな」
あれだけの状況で唯一違和感に気がついた彼の頭を労いからポンポンと叩いてやる。だが三回目の手が届く前に彼女の手は振り払われた。その強く睨みつける目を嬉しそうに受けたクリスはほんの少しだけ顔を寄せると、笑う。
「だよなぁ」
「⁉︎」
煽りとも取れる言葉に敵意散々と喚く少年に彼女は笑いかける。余裕をもったクリスは手で作った銃で彼の額を撃ち据えた。
「なら、今度はあたしとサシでやるか? かかって来いよ爆豪。あたし様がお前の限界を開いてやるからよ」
その指先は彼を射抜いた。告げ、細められた目の奥に熱を感じ取る。それを感じた彼は少しだけ、ほんの少しの時間だけ真顔になったが、次の時には嗤っていた。
「物足りなかったところだ。相手してくれや、『センパイ』よぉ!!」
「来な、問題児」
そうしてエクストラバトルは始まる。
結末から言えば、以前『彼』との戦闘経験のあるクリスの勝利であった。
「なかなかやるじゃねぇか」
「・・・ッ、クソがよぉ!!」
その煽りに怒りのままに突っ込んでくる青年。
だが爆豪は所々で彼女の予想を越えた。
それを、雪音クリスは本当に楽しそうに、嬉しそうに、両の手の銃を構え直した。
「お前の全力は、こんなもんじゃねぇよな!」
「来いよぉ、爆豪 勝己ィィィ!!」