〜あのミットめがけて〜聖ジャスミン高校野球部奮闘記 作:なだかぜ
~俊太side~
猪狩と別れた次の休日、俺は次の春から同じ学校に通うことになる親友のもとを訪れることにした。
......といっても徒歩三分なんだけど。
その親友の名前は「友沢 亮(ともざわ りょう)」。帝王シニアで野球をやっていた、俺と同じ中学三年生。MAX136km/hの速球とキレがありプロ顔負けのスライダー、緩いカーブとシンカーを投げて来て、完投能力もある本格派の好投手。そして打っても猪狩超えの打率と飛距離、足を持っているというもしかしたら猪狩よりも上の選手。
一回ショートの守備についているのを見たことがあるのだが、慣れないためか守備範囲はそこまで広くないものの強肩を活かした守備はきれいで、野手としてもやっていけるのではないかと俺は思う。
自慢じゃないんだけれど俺は帝王を近畿地方大会の決勝戦で破った。
……ホントに自慢じゃないからな!?
ただ、俺は亮から三打数一安打で、試合も1対0だから、猪狩に本当に助けられた。その
あいつも俺と同じ境遇なのだろうか。そしてそんなことを考えている俺はもう一度あそこに立てるのだろうか……
ただ、それどころか家の都合で亮は帝王実業高校ではなく聖ジャスミン高校に進学することになったらしい。そういった家庭の事情にはあまり踏み込めないが、少し心配になる。
猪狩にしても友沢にしても、こんな才能のあるやつらに囲まれているのに諦めずに努力をした自分を褒めたくなる。そのくらい俺とアイツらの才能には天と地ほどの差がある。アイツらだって努力をするのだから、その差は埋まらないようなものなのかもしれない。でも、猪狩から離れてしまうような根性だった以上、これは言い訳にしか過ぎないんだろうな。
そうこう考えているうちに、俺はあいつの家の前まで来ていた。
『ピンポーン♪』
俺がインターホンをならすと亮は兄弟の面倒を見ていたのかエプロン姿で登場した。
俺は本当に亮を尊敬する。中学生ながらに家事をほぼ一人でやりこなしているのだから。自分には絶対できないと自信をもって言えるようなことを、彼は平然と一人でやりこなしているのだ。
だから俺は亮にこう声を掛けることしかできない。
「よう、亮。今日は翔大たちに会いに来たぞ~」
……まあ翔大たちがかわいいから会いに来た、って言うのもあるんだけど。
~俊太sideout~
~亮side~
「おお、俊太か、狭苦しいところだが入ってくれ」
こういうところで「世話をしに来た」というようなことを言わない俊太の優しさがうれしい。
そういう鼻につかない優しく、頼れて、責任感のあるキャプテンに向く性格で、このままあかつきに行くのかと俺は勝手に思っていた。
俺と一緒に聖ジャスミンに行くと言うのは一体どう言うことなのだろう。
まさかあいつ……俺と同じように肘を?
肘でなくても何処かを痛めたのか?
まぁまだ聞くのは早いだろう。遅くとも春には教えてくれるはずだ。
気を取り直すと俺は俊太に「お茶を注ごうか?」と声をかけようとしたが、それは弟たちー翔太(しょうた)と朋恵(もえ)ーの「俊兄ちゃーん」という声でさえぎられる。
まぁ無理もない。もう一人の兄としたっている俊太が久しぶりに訪ねてきたのだ。そりゃ、はしゃぎたくもなるだろう。
ここは少し俊太に甘えさせてもらうか。
そう思った俺は俊太の「おお、久しぶり」というおじいちゃんのような発言を聞きながらお茶を注ぎに台所へと向かった。
〜亮Sideout〜
〜俊太Side〜
やっぱりいいよな、兄弟って。そんなことを突然言い出すのにはもちろん訳がある。
俺にも姉がいるのだが、いろいろな事情があって今は会えない。
そんな俺にとって、翔太くんたちはホントに実の兄弟のような関係だ。翔太くんや朋恵ちゃんが本当に小さい頃から一緒に遊んできたもんね。
「ねえ、俊兄ちゃん、キャッチボールいこうよ」
「あっ、わたしも」
こんな感じで亮の家に遊びに行くと大体野球をすることになる。二人とも兄ゆずりのセンスで会うたびに上手くなっているし、何よりも野球を楽しんでいるから一緒に遊んでいて楽しい。
だから俺は、
「分かったから着替えてきて。終わったら行こう。」
と声を掛ける。すると、翔太くんと朋恵ちゃんは先を争うように自分たちの部屋へと駆けていった。
そうだ、亮にも声掛けないとな。そう思った俺は亮にもらったお茶を飲み干すと、台所に向かった。
〜俊太Sideout〜
☆
〜亮Side〜
「俊太〜行くぞ〜」
ここは近所の河川敷。俊太に付き合ってもらって、翔太と朋恵の四人でキャッチボールをしている。
「あ、翔太。ステップが一歩多いよ、でも良い球来てる」
「分かった〜」
「あと、朋恵は肘がちょっと下がってるから上げてみて」
「はーい」
こんな感じで俊太は細かいところまでしっかり見てくれるし、良いところは素直に褒めているから上達が速い。将来いいコーチに慣れるんじゃないか。
それにしても俊太の様子におかしいところは見つけられない。
バッティング面なのだろうか。それとも投手?
そんなことを考えているうちにキャッチボールは終わってノックに。
「じゃあ次はノック打つよ。最初は亮が受けて」
「ほいっ」
「それっ!」
カキーン!
パシッ!
......おっと危ない。球際にしっかりと回転をかけたボールを打ってくるから難しいんだよな。
スイングもきれいだ。じゃあやっぱり投球面?
それはまあ良い。今は貴重なノックを受けられる時間だ。
ショートはあんまり慣れないし、時間も限られているから少しでも練習しないと。
そう思った俺は、
「よし、もう一丁!」
と声を上げて構えた。後ろで弟たちがなにか言っているが無視しよう。
「とぉっ!」
カキーン!
際どいあたりだが取れる!
そう思った俺はグラブを伸ばした......
〜亮Sideout〜
〜俊太Side〜
おお、亮はやっぱり凄いな。あの打球を体勢を崩さずに取るだなんて。
翔太くんたちもそこまでは行かないけど小学校低学年とは思えないグラブさばきだ。練習をしっかりすれば、将来俺を軽く超えるような選手になるだろう。
じゃあ肩慣らしはここまでにしてひと勝負しますか。
亮と俺の1打席勝負。前は両方投げて2回やっていたのだが、亮は投げられないと言っていたので今回からは俺しか投げない文字通りの一回勝負だ。
「じゃあ亮、やるぞ」
おう、という声がかえってきて亮がバットを構える。
まだ翔太くんたちに俺のボールは取れないので投げる相手は壁だ。これが投げづらい。目標が定まりにくいもんね。
1球目。俺が選んだのは内角高めのストレート。
おおきく振りかぶって指先に力を込める。
そうだ、この感覚、忘れかけていたこの感覚がふっと蘇る。
これは外れて1ボール。
これで速球を意識させられたかな?
2球目。俺が選んだのは外角低めに逃げるスライダー。
打者の手元でククッと動きを変えるボールに亮のバットは空を切った。これで1ボール1ストライク。
「良いボールだな」
あれだけ自分のスライダーに誇りを持っていた亮に言われるのは嬉しい。
おっと、気持ちを引き締めないと。
3球目。俺が選んだのは内角低めにボールになるサークルチェンジ。
俺はチェンジアップだって言っているのに、みんなはサークルチェンジだって言うんだよな、この球。
亮はしっかりタイミングを合わせたものの、ボールが思ったより変化したからかゴロになりギリギリ三塁線を切れてファール。
危ない、危ない。少しでも浮いていたら間違いなくヒットだった。
でもこれで追い込んで有利に立てた。
カウントは1ボール2ストライク。
4球目。俺が選んだのは外角高めに外れるストレート。
俺は1球1球に力を込めて見えないミットに向かって投げ込む。
亮はしっかり見て2ボール2ストライク。
5球目。俺が選んだのは内角低めに落ちるカーブ。
大きく弧を描いて来る球に対して、亮はなんとかタイミングを崩されまいとするものの、不遇にも亮のバットはまた空を切った。
今回の勝負は三振で俺の勝ち。ただ今回運があっただけで、とても危なかった。一歩間違えば長打の当たりがあったしね。
そんなこんなで夕方になってしまったので、俺は亮とクールダウンをして帰ることにした。
「じゃあな、亮、翔太、朋恵」
そう俺は声を掛けると家へと一歩を踏み出した。
あかつきに行けなかったからといって、俺の野球人生が終わったわけじゃない。むしろ、ここから始まるんだ。
そう思うと同じ陽のはずなのに、猪狩と話したあの日のものとは全く違うものに見えた。
そういえば俺も高校から一人暮らしだ。料理は人並みよりはできるけど......
家事の効率の良いやり方を亮に聞かないとな。
〜俊太Sideout〜
これは選手生命を絶たれかけた二人の少年を中心とした物語。それは聖ジャスミン高校で今、始まろうとしていた。
日が暮れるのは一日の終わり。ただ、それは明日の始まりでもある気がします。
次回から本編です。どんどん感想をもらえると嬉しいです。
翔太くんの話し方がわからなかったので間違ってたらすみません。