ご注文は記憶ですか?   作:榎田 健也

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第三羽「ご注文は新人バイトですか?」

「…………はい、よろしくお願いします」

 

 何故か「即堕ち2コマ」という単語が頭に浮かび、すぐに去って行った。何だったんだ、いったい……?

 

「おっ、お前が新人か!」

 

「リゼちゃん! 紹介するね、今日から一緒に働く梅斗くんだよっ!」

 

 どうやら、「リゼ」という名前の先輩バイトらしい。アメジストのような艶やかな紫色の髪をサイドで縛ったツインテールの美少女が現れた。二人は見る限り仲は良く、年齢も近そうだ。

 

「今日からよろしくお願いします。ココア先輩、リゼ先輩」

 

 自分の年齢が二十代前後としか分からないし、二人の年齢も同じくらいだと思うが一応先輩のため敬語にすることにした。

 

「梅斗くん……」「ウメト……」

 

 …………アレェ?(二回目)パイセンの方が良かったか? 何故かえっちな感じがするんだが(パイ専的な)。

 

「もう一回呼んで!」「は、はぁ……ココア先輩」「わ、私も! 私も呼んでくれ!」「リゼ先輩」「もう一回!」「ココア先輩」「こっちもだ!」「リゼ先輩」「もう一回!」「ココア先輩」「こっちも」「リゼ先輩」

 

 

 

 ※ この後滅茶苦茶リピートした。

 

 

 

「わっ……悪い。新鮮だったからつい……」「ごめんね、梅斗くん」

 

「いや、大丈夫です……開店準備大丈夫ですか?」

 

「リゼちゃん、どうしよっか?」

 

 開店準備というと……掃除とか在庫整理とかぐらいか。場合によっては急いでスーパー等に買いに行ったりするのだろうか、ようわからん。

 

「う~ん、在庫は今のところ大丈夫だから、掃除くらいだな」

 

 リゼ先輩はそう言うと、どこかに行ってしまった。

 

「あっ、ありがとうリゼちゃん」

 

 どうやら清掃道具を取りに行ったようだ。……明日からは下っ端として自分で取りに行こう。後でどこにあるか訊く必要があるな。

 

「よしっ! 持ってきたぞ! ……私達は床を掃くから、ウメトは机を布巾で拭いてくれ」

 

 ココア先輩はホウキ、俺は布巾を二枚受け取った。濡れ拭きと乾拭きをしろ、という事だろう。……まあ、掃除ぐらい誰でも出来るからな。せいぜい頑張りますかね。

 

「そうだ、ウメトは記憶喪失なんだよな?」

 

 片方の布巾を濡らして濡れ拭きをしていると、ふいにリゼ先輩が話しかけてきた。何かこの和やかな感じ、いいな。

 

「はい、自身に関する記憶が一切無いんです。気づいたらこの街のベンチに倒れていて……」

 

 ココア先輩にも話したが、俺は自分が誰なのか全くわかっていないし、手がかりも無い。

 

「ベンチ……周りにウサギさん、たっくさん居た?」

 

 ウサギ……確かに居た気がする……たっくさん。

 

「あっ……ウサギわかるか? 耳が長くて、ふわふわで……」

 

「はい、一応……あれ? ウサギ、ウサギ……?」

 

 ウサギという単語は思い出せるし、何がウサギなのかもおぼろげだがわかる。なのに……今聞いた特徴だったか思い出せない。耳は長かっただろうか、ふわふわだっただろうか。

 

「思い出せないって事は、記憶が無くなっちゃうまではウサギさんと仲良かったのかな?」

 

「確かにな。ウサギという単語は覚えているようだが……何が分からないんだ?」

 

 俺は「何が分からない」のか、か……そうだな。

 

「あれはウサギとはわかるんですが……特徴が分からないんです。特に外見が」

 

 目覚めたばかりだったからかもしれないが、その時の光景を思い出すと地面のタイルに「もや」がかかっていて、「ウサギ」が見えない。何故だろう……。

 

「外見……か。自身に関する記憶ってことは、それ以外は?」

 

「一応、それ以外の記憶は何故かあります。名前は覚えていないので、タカヒロさんに付けてもらいました」

 

「そうか、大変だな……何か困ったことがあればすぐに言ってくれ。力になれるかもしれない」「私にもすぐに相談してね!」

 

 二人とも、とても親切にしてくれる…………疑わないのだろうか。

 

「あの、なんで信じてくれるんですか? 怪しすぎますよ、俺」

 

 タカヒロさんもそうだが、俺の記憶喪失を普通に受け入れている。もし俺が昨日のタカヒロさんの立場だったら即通報している。

 

「なのに、なんで――」「嘘ついているようには見えないからな。だからタカヒロさんもお前を信じているんだろうさ」「優しそうな顔、してるしねっ!」

 

 

「っ……」

 

 おい、何だよ俺。泣き虫だったのかよお前。目が熱いぞ、おい。

 

「……そうですかね」

 

否定しようとしたが、そう生意気そうに返すのが限界だった。乾拭きしたはずの机に雫が付いていた。

 

 

「そうさ。……そっちは終わったか?」

 

 俺は机についた雫を布巾、目をシャツの袖で拭きとってから先輩二人の方を向いて宣言した。

 

「もう大丈夫です、拭けました」

 

 …………何がとは言わないが。

 

「よ~し、じゃあ……開店しよう!」

 

 ココア先輩がささっと「close」から「open」に看板を裏返した。いよいよだ、ちゃんとできるだろうか…………接客。

 

「土曜日だから沢山お客さん来てくれたらいいな!」

 

 喫茶店だからなのか、開けてすぐ客が入る訳でも無いようだ。開店しても二人は談笑していた。

 

「そ……それはそれで接客が大変そうだが……チノもいないし」

 

 ゔっ! それは百パーセント俺が悪い。そうか、あの子そんなに頼りになる子なのか……

 

「すいません、俺のせいで」

 

「いや、気にするな。お前の手腕に期待しているぞ!」

 

 ズブの素人に何を期待しているんですかね、( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

 

 

『カランコロンカラン』

 

 さっそく来たッ! 心の準備すらさせてくれないのかよ!

 

「いらっヂャ――」

 

 

 …………終わった。

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