ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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提督が鎮守府に着任しました

静まり返る執務室。

そこには六人の女性が集まっており、それぞれが顔に恐怖と絶望を浮かべている。

嘘であってほしい。質の悪い冗談であってほしい。

そんな小さな思いから、一人の女性が声を出す。

「スミマセン…大淀、もう一度、もう一度、だけ、言って…くださいませんカ…?」

「…新しい提督が、明日、この鎮守府に…着任…するそうです。」

消え入りそうな声で大淀と呼ばれた女性は呟いた。

「ソウ…デスカ…」

僅な希望すら打ち砕かれた彼女は、それだけ言うと目を伏せる。

「明日から、忙しくなりますよ」

拳は固く握りしめられており、顔こそ必死に繕っているものの、震える声と足がその心境を切に語っていた。

窓の外には暗雲が立ち込め、今にも雨が降りだしそうである。

 

「…手の込んだ嫌がらせだぜ…はぁ…」

車に揺られること数時間。

足場が悪く、曲がりくねった山道を越え、今にも崩れそうなトンネルをくぐり、耐えきれずに俺、葛原 司は愚痴を吐く。

車にはまるで引っ越しでもするかのように大量の荷物が…否、まるで、というか、実質引っ越しなのだが。

今日から俺は、"提督"として鎮守府を運営していくこととなった。

尤も、その鎮守府は地図でも確認できないような場所にあり、いってみれば地方の湿気た場所に軟禁されるというのが実情なのだが。

「はぁぁ…」

噂によればその鎮守府は元ブラック鎮守府、施設は目を背けたくなるほどボロボロで、目の前にあったとしても鎮守府と言われるまでわからないほどの場所らしい。

そもそも何故そんな所に提督が着任するんだ?

…答えは簡単、上の厄介払い兼嫌がらせである。

ある事件をきっかけにお偉いさんに目をつけられた俺は、海軍学校を卒業するなり提督に抜擢された。

…そこだけ聞けば名誉なことだが、残念ながら良い意味で目をつけられた訳ではない。

断ってやろうかとも考えたのだが、どうやら俺に拒否権はないらしく、上に用意されたシナリオ通りに話が進んだ。

…まぁ、それが気にくわなかったので派手な置き土産は残してきたのだが。

糞ほど長いトンネルを抜けると一気に視界が晴れる。

昨日の雨はまるで嘘のように空は澄み、絵にかいたような青色の空が。

山道の右手側は崖となっており、そこから海が一望できた。

下方に目を向けると街も見える。

今日からここで生活していくのか、と思うと、小さい街ながら愛着が沸いた。

「よさげな街だな。」

あぁ、その良さげな街の端に一際大きい廃墟があるのは気のせいだろうか。

まさかあれが鎮守府とは言わないよな、と思いながらアクセルを踏んだ。

 

「…だよなぁ…」

街の人々に話を聞きながら着いた先は先程目にした廃墟であった。

いや、まぁ、知ってたよ。

街に鎮守府より大きい廃墟があるとかあり得ない。

だがな、期待したって良いだろ…

門の前には眼鏡をかけた一人の女性が立っており、顔を見るなり深々と頭を下げながら本人確認を取られた。

…何その信じられない様なものを見たような顔。

「…事前に決めてた時間通りだよな…?」

「はい!!お手を煩わせてしまい申し訳ございません!!本当に申し訳ございません!!!!」

「お、おぅ…」

怯えたようになんども申し訳ございませんと頭を下げる女性に、思わず数歩下がってしまった。

いや、まぁ、事前に取り決めていた時間通りで一応軍服は着ているものの、パンパンに膨らんだリュックサックにスーツケース、いくつもの鞄を持ってたら怪しさ全開だ。

そもそも万が一にでも一般人が鎮守府に入り込むなどあってはならない訳で。というよりはどちらかといえば常識的な行動だった訳で。

別にそこまで恐縮して謝る必要はないだろうに…

「んー…一先ずさ、中、入っていいか?」

先ずはこの大量の荷物をどうにかしたい。

「…あ、申し訳ございません。お荷物お持ちいたします。」

「やめろやめろ、触るな。大丈夫だ。」

再び申し訳ございませんと頭を下げる女性を尻目に、俺は頬を掻いた。

 

「汚っ…」

中に入って第一声がこれは少し酷いだろうか、だが、あまりの惨状にそう呟かざるを得なかった。

「申し訳ございません…」

「お前はそれしか言えないのか…」

眉間を押さえ、ため息を吐く。

廊下は歩くだけでミシミシと音が鳴り、クモの巣や煤、血の跡の様なものが沢山あった。

「…まぁ良い、俺の自室は…」

「あっはい。申し訳ございません。此方です」

スタスタと歩く女性を追いかけながら、どこか血生臭い廊下を歩く。

ひとまず部屋にこの大量の荷物を置きたい。

…話はそれからだ。

 

案内された廊下を突き進み、部屋に入ると、思わず乾いた笑いが出た。

廊下からは想像がつかないほど小綺麗で、パッと見た感じは悪くない…どころか、どこかの高級ホテルの一室のようだ。

…パッと見た感じは。

壁には、上手く上から塗り潰したつもりだろうが"死ね"という殴り書きのような文字の痕がうっすらと残っていたり、ごめんなさいという文字が床一面に書かれていて、(絨毯で上手く隠されていたが)捲って後悔した。

「呪われそう…」

そんな虚しい呟きは独りだけの部屋に吸い込まれていき、俺は再び深くため息を吐く。

 

ノックの音が響き、ドアを開けると、先程の女性がビクビクとした様子で此方を見ていた。

「申し訳ございません。お部屋は…お気に召しましたでしょうか…?」

召す訳ねーだろ、俺はオカルト好きでもなんでもないぞ。という言葉が喉の先まで出かかったがなんとか飲み込み、言葉を濁す。

「…俺からは何も言わねーよ…」

「そうですか…申し訳ございません」

何故こいつは何をするにしても申し訳ございませんと言うのだろうか。

そのような呪いにでもかかっているのだろうか

「…そういえば、名前は?」

「…あっ、はい。私は、大淀、と申します。申し訳ございません。」

「そうか。とりあえず…この鎮守府にいる全員を集めてくれ。挨拶だけ済ます。」

「畏まりました。申し訳ございません」

もう申し訳ございません症候群には極力触れないことにして、命令だけする。

「そうだな…今から一時間後、食堂にでも集合させてくれ。」

全員集めれば多少は話せる奴も居るだろう。

…居るよな?

 

時間通り食堂に向かう。

俺はさっそく心の底から後悔した。

扉の向こうから聞こえるのはすすり泣く音、落ち着いて、深呼吸よ、という声、嫌だ嫌だとなんども繰り返し呟いている声。

…扉越しに、彼女達が感じている恐怖と絶望を感じ取った。

だが、集めたからには行くしかない。

意を決し、深呼吸をして扉を一気に開けると、そのまま壇上に上がり、回りを見渡した。

…うん。怖い。何だコイツら。

ドアを開けたときに真っ先に思ったのは、さっきまでしていた"音"が一切消えたということ。

もしかしてさっきまでの声や音は幻聴かと錯覚するほどに、まるでドアを開けるとミュートモードにでもなったかのように、一瞬で静かになっていた。

全員が光を一切感じさせない目で此方を見ている。

ピクリとも動かずに、だ。

…俺が思っていたより闇が深いな。

「…大本営は何をしているんだ…」

聞こえないようにぼやいてから、マイクの電源をいれる。

…さて、俺は俺のやり方でやらせて貰おう。

 

「…どーも初めまして。今日からここに着任することになった葛原司だ。そのままで良いから聞いてくれ。」

尤もそのままで、というか、さっきから死んだような目で此方を見上げながら微動だにしない。まるで人形かなにかのように。

「あー…何だろうな、堅っ苦しい挨拶は苦手だ。聞くのもするのもな。だから簡潔に要点だけ言わせて貰う。まず一つ、お前たちがこれまでどういう扱いを受けていたかは一応それとなく知っているつもりだ。んでまぁ、そういうことは二度と起こさない。少なくとも俺は何もしない、と、今ここで宣言させてもらおう」

だが、瞳に光は灯らない。

そりゃあそうだ。今までなんどもそういった期待を裏切られてきた彼女たちは、恐らくもう期待することに疲れたのだろう。

だが、これでこの話が終わりだと思ってもらっては困る。

「次に、俺はお前たちに"興味がない"。だからお互い必要以上に馴れ合わない、関わらないでおこう。というのが二つ目だ。」

続けた言葉に、何人かの少女が改めて此方を見る。

そして同時に、とても、とても安心したような、納得したような表情を浮かべた。

そう、今更何を言われても、期待できる筈がないんだ。

何もしない。なんて言葉を、信用できる筈がないんだ。

だからこそ、興味がない、という言葉は、きっとその辺に転がっているありきたりな優しい言葉より、ずっと信用できるものだったのだろう。

興味がないから、余計なことはされない。

理由があるなら、信用ができる。

地獄を見てきた少女達にとって、一番困惑するのは、困るのは、善意から来る無償の優しさだ。

いつか裏切られるのではないか、何故この人は優しくするのか、そんなことばかり考えて、相手の無い裏を読もうとし、空振ってはまた気を張りつめる。

そうして、精神を擦り減らしながら向かう先には、緩やかなる破滅だけ。

きっと、落ち着くまで関わらないのが最善なのだ。

少なくともどいつがどんなトラウマを抱え、何をされたのかすら理解しないうちに、無遠慮に、無神経に足を踏み入れる。

これこそが一番やってはいけない事なのだ。

だからこその俺の提案。

どうやらそれは俺が考えていたより有効だったようで、彼女たちの、不安という名の鉄仮面が少しずつ剥がれていっているのを感じながらも、俺は話を続けた。

「最後…の前に。そこのお前、名前は」

ピンクの髪を持つまだ幼い少女が、ビクッと肩を震わせた。

「はっ…あの…えっと…あの…」

「…知っても意味もないし言わなくて良い

…その腕は何だ?」

目についたのはその少女の細い腕だ。

片腕に何かの破片のようなものが刺さっており、血も滴っている。明らかに重症だ。

「…さ、先程の…戦闘で…」

少女の顔がみるみる青ざめていく。

「何故ここに来たんだ?」

「しゅっ…召集が…かかったので…」

「…怪我の具合は。」

少し苛立つ自分を出してしまい焦る。

案の定、少女は青いを通り越し白い顔で、ガクガクと震え始めた。

…すると、驚いたことに、その少女の近くにいた少女が声をあげる。

「この子はまだ戦えます。大丈夫です。」

茶色のショートボブ、頬に絆創膏が貼られた少女が、頭を下げてそれだけ呟いた。

「…何なら私を解体してこの子を入渠させてあげてください」

紫色の髪に鈴をつけた少女が、一歩前に出る。

「あっ…曙ちゃんっ!?あの、それは駄目ですけど…その…私からも。お願いします…お願いします…っ!」

そして、先程からずっと誰かに隠れるようにしていた少女が震える声で懇願し始めた。

「…ほう」

感心から思わず声が漏れる。

…というかコイツら、何か勘違いをしていないか?

解体とか妙な単語が聞こえたが。

…だが、それにしても、仲間を守ろうとするその気概は素晴らしい。

コイツらにとって、恐らく何よりも怖いのであろう提督に対して、仲間の為に、必死に立ち向かうその勇気に少しだけ感動した。

…その瞬間、だ。

「…黙れッ!!」

静かな室内に大きな叫び声が反響する。

その叫び声の主が目の前のピンク髪の少女だということを理解するのに、そう時間はかからなかった。

「…漣っ…」

「…何よ。いきなり大声だして。」

「…漣ちゃん…?」

俺の推測が正しければこの少女たちは彼女を守ったはずだ。

…何故ここで三人に噛みつく?

眉を顰めながら事のなり行きを見つめる。

「提督の決定に口を出すなッ!!揃いも揃って…余計なことをするな…ッ!!」

鬼気迫る形相で睨み付けながらそう叫ぶピンク髪の少女。

思わずため息を吐きながら突っ込んだ。

「俺の決定?何時誰が何を決めた。」

「「「「ぇ…?」」」」

小さく呟きまじまじと此方を見つめる四人。

「怪我の具合を聞いただけだ。入渠しなくて大丈夫なのか、と聞いているんだ。」

「駆逐艦如きが入渠できる筈がありません」

不思議そうに呟くピンク髪の少女を尻目に、回りを見渡すと、なるほど確かに、怪我をしていたり血に濡れている奴がちらほら居るが、それらは全て幼い少女だ。

「そうか。なら1つ目の命令だ。少しでも怪我をしている者は全員今すぐに入渠しろ。これは駆逐艦、戦艦問わずだ。」

「何を…ッ!?」

「提督の決定に口を出すな…だったか?」

「ッ…」

驚きの声を上げるピンク頭を遮り、睨み付けると怯えたように数歩下がる。

対照に俺は数歩前に出て、目の前で相変わらず呆けているピンク頭を乱暴に撫でた。

「わっ…わ、わ…!?へ…?」

「見てられねーんだよ。」

聞こえないように小さく呟き、きつい目で見下ろす。

「勘違いするなよ。"駆逐艦如き"を修復する資材すら無いと思われたらたまったものじゃないからな。」

ざわめき始めた全員を見渡しながら一際大きな声で命じる。

「最後の話だ。良いか、お前らは今日から俺の艦となった。俺は貧乏性だ、自分の物が無くなるのは大嫌いだ。よって損害は許すが損失は許さん。話は以上。損傷が激しいやつから入渠して来い!」

…さぁ、忙しくなるぞ。

1つ目の命令を下し、俺は早々に部屋を出た。




初めましてっ!!
艦これSS大好き人間が、自分も書いてみようぜ!と、完全にノリで書いてしまった駄作でありますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
何かを書く、というのは初めての体験でありまして、拙い文章で、分かりにくいところ、誤字脱字などあるかも知れません。
そこはどうか生暖かい目で見てやって下さい…。
やってみて初めて日頃ニヤニヤしながら読ませていただいている小説を書いている人の凄さを理解することができました…
本当小説書いている人は凄いですよね…!!
(何をどうやったら面白い小説なんて書けるようになるんでしょう…)
もし宜しければ評価やアドバイスなど下さるととてもとてもありがたいです…っ!
不安定なスタートを切った彼らでは御座いますが!最後まで優しく見守っていただけるととても嬉しいです!

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