ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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二人の戦い方

部屋でぼうっとしていると、潮と朧が慌てたように帰って来た。

「遅かったわね…というか、外、なんか騒がしくなかった?」

ベッドに寝転がりながら尋ねる曙。

…だが、返事がない。

怪訝に思い、顔をやると、二人はドサリと音を立て、その場に座り込んでいた。

「どしたの?!」

「ちょっ…?!」

曙と二人、慌てて駆け寄る。

二人はガクガクと震え、息を吐く様に潮が呟いた

「こっ…こわかったぁぁぁぁぁ…」

…提督だ。

直感で理解すると、曙も此方に目をやり、頷く。

「何があったか、説明できる?何もされてない?」

潮の肩に手を置き、心配そうに尋ねる曙と、

朧の肩に手を回し、そっと立ち上がらせる私。

朧が、腰抜けちゃって…と、恥ずかしそうに笑うと、真剣な顔で事の顛末を話し始めた。

「…長波が島風と掴み合いの大喧嘩になって…提督が止めに入ったんだけど…その…長波が島風を貶した瞬間に、提督の空気が変わって…」

思い出すのも恐ろしい、といった様子で肩を震わせる潮と朧。

「提督さんが、すっごく怒ったの…長波ちゃんは当然、周りにいた私達も…ううん、島風ちゃん本人すら気圧されるくらい…」

「今までの提督が可愛く見えるレベルだよ…

例を上げるなら深海棲艦。それもヤバイ奴。」

…今までの提督が可愛く見える、

という台詞に眉を潜める私達。

とてもではないが、あの人にそれほどの物があるようには思えない。

「ってか!そんなのどうでもよくて…!!」

「「長波(ちゃん)と島風(ちゃん)が演習するの」」

二人の声が重なった。

 

「…アンタはどう見るの?」

気疲れしたのだろう。ベッドに入り早々に二度寝を始めた二人を背に、曙が小声で訊ねてくる。

「…長波ちゃんに1票かにゃー…賭ける?」

…尤も、賭けるものなんて初めからないのだが

「賭けになんないわよ。当然長波の圧勝でしょ」

「というか…あの提督様には練度という概念が無いのかなぁ~…」

そう、私達艦娘には"練度"というものがある。

提督の目に見える特殊な数値で、簡単に言えば今までの全ての経験が値化されたものらしい。

「戦場は経験が物を言う。こんなの常識よ。あの地獄を生きていた長波と最近建造さればかりで戦いも知らない島風じゃ、話にもならないわよね。」

曙の言うことは厳しいが真理だ。

戦いなど所詮殺し合い、新米がどれだけ綿密な作戦を組もうと、どれだけ机上で論議をしようと、歴戦の猛者の経験の前では小手先でしかない。

…とはいえ、彼がそれを理解していないとは思えないのだが。

「負けた方が言うことを聞くんでしょ?馬鹿よね。これであの提督ともおさらばと思うと清々するわ」

そう、朧曰く、演習を提案したのは妖精で、負けた方が言うことを聞く、という条件らしい。

長波が何を願うかは私には分からない。

曙は長波が提督をこの鎮守府から追い出すと思っているらしく、少しだけ機嫌良さげに笑った。

だが、私は、あの提督は今までの提督と比べると幾分かましに思える。幾分か、だが。

状況がもっと酷くなるリスクを長波が選ぶとは思えない。恐らく、彼女は別の願い事をする筈。

…例えば、彼女が妙に入れ込んでいる島風と、

提督である彼の接触を禁じる、など。

「ま、演習が楽しみね。」

「…そうだね。楽しみ。」

…本当に、楽しみだ。

 

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バン!とドアが激しく開けられ、

顔を赤くした加賀が歩み寄ってきた。

「…やはり此所にいたのね。」

ここは演習場。

先から水の上では、島風が真剣な瞳で水の上を滑っており、後ろをきゅうきゅうと鳴きながら連装砲、と呼ばれる艤装がついて回っていた。

「おー、加賀か。」

視線を動かさず声を上げると、胸ぐらを掴まれる

…こいつ俺の胸ぐら掴むの好きだな…。

「どういうつもりかしら。」

怒りからだろうか、その身体は少し震えており、

敵意が籠った瞳が俺の目を射ぬく。

「はて?何のことだ?」

「聞いたわ。長波と演習…?ふざけているの?

私達はそんなに安くみられていたのかしら。」

無言で続きを促す。

「長波はあれでも何度も出撃しているわ。

わかる?戦闘経験に丸っきり差があるのよ。

一日や数日練習した程度で、

私達を越えられると思っているの?」

加賀の言うことは尤もであり、否定する気もさらさらない。苦笑し手を振り肯定した。

「…ならっ!このふざけた演習を今すぐ中止ー」

俺の笑みを見て、加賀は言葉を止める。

だから、俺は加賀にそっと語りかけた。

「…長波と島風には違いがある。何だか分かるか」

「…だから、戦闘経験…」

「それもそうだ、だが、もっと決定的な違いがある。"指揮官"の有無だ。」

今度は加賀が無言で続きを促した。

「なぁ、野良の艦娘と深海棲艦に、戦闘能力の違いが殆ど見られないのを知っているか?」

「は…?」

「"指揮官"、提督の存在が無くなるだけで、お前たち艦娘は、深海棲艦とほぼ同じレベルまで運動能力が落ちる。お前らは知らないんだろうがな」

苦笑すると、加賀は面食らったような顔をした

「艦娘には"練度"という概念がある。簡単に言えば、今までの経験の積み重ね、そいつがどれだけ努力してきたかの集大成だ。だが、皮肉なことにな、それは提督の指示がないときちんと機能しない。お前らは指揮官の下でないと"万全"を発揮することはできないんだ。」

だから各鎮守府には提督が置かれるのだ。

だからこんな前線にまで、何の自衛手段も持たない俺達提督が派遣されるのだ。

艦娘だけで深海棲艦に勝てるのなら、俺達人間は内地に引きこもり、無線でもなんでも指示だけ出して、鎮守府の運営は全て艦娘に任せればいい。

それが出来ないのは、皮肉にも、人間は艦娘の、艦娘は人間の力を借りなければ、アイツ等に太刀打ちできないからなのだ。

「…つまり…」

「無論、長波自体は弱くねぇ。知識は力だ。活かしきれないとはいえ、これまでの経験から来る動きは島風より何枚も上手だろう。…だが、アイツには俺がいて、俺にはアイツがいる。」

全く勝ち目がない訳じゃないんだよ。

と、笑いながら言うと、加賀は手を離した。

「…だとしても…」

「あぁ。分は悪い賭けになる。…だが、俺も島風も、自分の相棒貶されて黙ってられねぇんだわ」

水の上では相変わらず島風が、一生懸命に水の上を走っている。

 

日は高く登り、波は静かに揺らめく。

演習の話は思ったよりも広まっていたらしく、さまざまな艦娘が集まっていた。

…とはいえ、集まったのはせいぜい全体の三割、といったところだろうが。

向かいで姉妹艦らしき少女達と軽く会話する長波を観察していると、いつもの三人…雷、電、暁の三人が俺の元に集まってくる。

「司令官…大丈夫なの?」

「な、なのです…?」

「だ、大丈夫よっ!…大丈夫…なのかしら…」

心底心配そうにこちらを見上げる三人を撫でると、島風に向き合った。

「…行ってこいや。島風。」

「うんっ!」

お互いにニヤッと笑い、拳を付き合わす。

水上を滑り、開始位置に向かう島風の背を見て、俺は誰にも聞こえないように呟いた。

「さて、どこまで足掻くかね…」

 

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両者が定位置で向き合ったことを確認すると、

妖精は一際大きな声でルールを叫んだ。

「るーるのさいしゅうかくにんです!

どちらかがたいはしたじてんでえんしゅうはしゅうりょう、はいしゃはしょうしゃのいうことをなんでもひとつききます!」

長波は笑いながら言った。

「今のうちに諦めてくれたら、私としても必要以上に痛め付けなくて済むんだケド…その顔じゃ、ヤル気満々って感じだねぇ~」

「…提督を馬鹿にして御免なさいって、絶対謝らせてあげる。長波。」

「…仕方ないから、この長波様が目を覚まさせてあげるよ。島風。」

双方の艤装は既に展開されている。

妖精が笛を吹き、運命の演習が始まった。

 

「島風!!」

笛が鳴るのと同時に、男が声を出す。

彼女は声を聞くとほぼ同時に砲撃を開始した。

轟音が響き、水飛沫と共に巨大な水柱が立つ。

…だが、

「ハズレー。」

やはり、まだ艤装に慣れてないのだろう。

勢いよく撃った弾は彼女の手前で落ち、巨大な水柱を立てるだけに終わった。

自らの勝利を確信し、笑う。

だが、次の瞬間、自分の読みが甘いと理解した

「くっ…」

彼女を貫いたのは水柱の下から現れた三本の魚雷

恐らく砲撃は外したのではなく、わざと自分の手前に落としたのだ。

油断を誘い、水柱で視界を遮るために。

「なかなかやるじゃん…!」

水柱が収まると同時に、右方向から三連の砲撃音が

目をやると、少し離れた位置に三本の水柱が立っていた。

「…ってぇーい!」

島風の姿が見えないことから、その水柱に姿を隠しているであろうことは容易に推測がついた。

狙うは真ん中の一際大きな水柱。

長波の弾は一直線に、吸い込まれるように水柱へと飛んだ。

「ハズレーっ!」

そんな声が響き、右側の水柱から砲撃が飛ぶ。

慌てて回避を行い、再び体勢を立て直すと、今度の水柱は一本だった。

すると不思議なことに、その水柱から分裂するように二つの水柱が、まるで海を割るかのようにして、次々と立っていく。

一つだけなら、島風が砲撃を自分の足元に撃ち、身を隠しながら走っているのだろうと分かるが…奇妙なことに、二つ水柱はそれぞれ全く逆方向に向かい、連続で立っていた。

「…?!」

自分を囲むように、左右から水柱が弧を描くようにして連続で立つ。

一先ず右手側の水柱の先頭付近に砲撃を行うと、背を向けていた左の水柱からの砲撃で姿勢を崩してしまった。

「…どうやって!?」

顔を上げ、振り向くと同時に島風が非常に至近距離まで接近していることに気付く。

「くっ…!!」

苦し紛れに出した砲撃をかわすと、お返しとばかりに数本の魚雷が飛んできた。

なんとかかわした先に砲撃が飛んできて…流石にこれはかわせない。数発被弾する。

「いったいなー…!!」

顔を上げた頃には島風はかなり距離をとっていた

「…。」

「…あんまり調子に乗ってんなよ!」

威嚇するように数発砲撃し、つかの間の休息の後、此方へ向かってくる数本の魚雷を発見し慌てて回避する。

今度は余裕で間に合ったが…

「油断も隙も無い…ほんと…不味いね…」

自分の認識の甘さを痛感した。

 

「し、司令官さん…」

驚愕の表情を浮かべる電に、男は笑いかけた。

「…作戦通りってな。焦ってる焦ってる。」

「ど、どういうこと…?島風は分身できるの?」

首を傾げる暁に、さぁ、どうだろうな?

と返すと提督は側に居た加賀に語りかける。

「…ここからが勝負所だ。このカラクリを見破られる前にカタがつくかどうか…。ま、なんにせよ、アイツを"俺達"の土俵に引きずり出すことは出来た。後は与えられた沢山の情報に混乱しているうちに…さっさと決めるに限るな」

「…貴方は…」

「長波は良くも悪くも格上だ。俺は、相手と正面切って戦うなんて怖くてとてもできやしねぇ。アイツには悪いが…これが俺の戦い方ってやつだ。」

ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる男。

目線の先では、島風が再び自分の足元に水柱を立てるところだった。

 

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「…なんてザマ…」

情けなくて笑いが出る。

島風はほぼ無傷で、対する私はもう大破寸前。

二つの水柱のうち、私が攻撃した反対から必ず砲撃が飛んでくる。

テレポートでもしているのだろうか、それとも島風は二人いるのだろうか。

あるいは…

「とことん神サマとやらに嫌われてるのかもね」

どんな運だ、と苦笑し、砲を構えた。

後ろから心配そうな顔で必死に大声を上げている姉妹艦達がいる。

私が負けたら間違いなく提督に解体されるだろう

だから、皆声を枯らして、負けるなと。頑張れと。一生懸命に応援してくれている。

…でも、まぁ、もうそろそろ良いかな。

「疲れちまったな…」

崩れそうになる膝。

私は何故立っているのだろう。

もうここで降参した方が私のためなのに。

何故私はその一言を叫ぶことができないんだろう

「…もう終わり?」

島風の声がする。

あぁ、終わりだ。

もう私は疲れた。勝手にしてくれ。

彼女が砲を向け、止めの一撃を撃つ。

「島風!!!右に避けろ!!!!!」

男の大声と共に横に避ける島風。

気がつけば、私はあり得ない動きで砲撃を回避し、彼女に打ち返していた。

「…っ!やられるのも遅いのね!」

「…」

何故私は今避けたんだろう。

当たれば、当たればきっと楽になったのに。

後ろから色んな人たちの歓声が聞こえる。

それらは全て、私を案じているものだ。

あぁ、確かに、あんなに応援されて、諦める訳にはいかないだろう。

でも、それ以上に。

「これなら…っ!!」

至近距離で撒き散らされる魚雷。

全てを丁寧に回避し、打ち返した一本の魚雷に初めて島風が被弾した。

「島風!!!」

「…っ!?」

…それ以上に。

「アタシがここで消えちまったら、アンタはきっと、騙されたままだからさぁ!!」

不思議と、全身から力がみなぎる。

だから、私は負けてあげるわけにはいかないんだ

何としても、アンタの目を覚ますために。

「距離を取れ!!島風!!!!」

慌てて距離をとろうとする島風の行く先を砲撃し、水柱で退路を塞ぐ。

「っ!」

彼女は装甲が薄い。だから彼女は、必要以上に水柱を立て、その後ろに身を隠すことによって被弾率を少しでも下げていたのだろう。

二つの水柱のカラクリは分からないが、分からないなら本体が見えている間に叩けば良い。

おそらく、彼女は接近戦には馴れていない。

砲撃の腕も、回避する動きも完璧だが、遠くからチクチク撃つだけで、決め手に欠けていた。

そのくせ、一度も自分から近付くことはしない。

そして今の、魚雷を回避しなかったというよりは、できなかったという動きだ。

恐らく、遠距離から撃たれた物を回避することはできても近くから撃たれた物を回避することはできないのだろう。

だから相手に近づかれることを嫌って、水柱を立てるという戦法を取ったのだ。

…なら、嫌がることをしてやれば良い。

幸いにも私は、痛みも戦闘にも慣れている。

至近距離戦なら、軍配が上がるのは、私だ。

 

一方で、提督は苛立ちを隠しもせず膝を叩いた

「馬鹿!調子に乗りすぎだ…!!」

島風の戦い方はほぼ綱渡りに等しい。

ほんの少しのきっかけで、彼女はすぐに不利に立たされる。

だから、長波の足掻き次第では島風はいつでも逆転負けしたのだ。

だから、男は彼女の足掻きがどの程度かを最後の最後まで危惧していたのだ。

なのに、気を緩めた島風が、早々に終わらせるためにわざわざ近づいて隙をさらす。

それが提督にとって、唯一の誤算だった。

 

長波は直感で感じた。

ーこれは勝てる。

あせる島風は提督からの指示を待っており、その隙をついて更に距離を縮めることが出来た。

どんな速度だろうが、ここまで接近すればもうみすみす逃さない。

…加速して、更に距離を詰める私の背後から、

「きゅいっ!」という鳴き声がした。

ーあぁ、なるほど

先から、離れた二つの箇所で同時に水しぶきが上がったのは、まるで島風が二人いるような錯覚に陥ったのは、コイツのせいか。

「ごめんね…?これが私の戦い方だから」

…前に目をやると、此方に砲を向けている島風。

「…行けると思ったんだけどな」

背後と前の両方から、二人の砲撃が私に直撃した

 

「しまかぜのしょうりー!!!」

妖精が島風の勝利を告げる。

情けないことに、結局私は彼女を救うことができなかった。

「…アタシの負けだ。島風。」

最後に握手くらいはしてくれるだろうか。

笑いながら手を差し出すと、怪訝そうな顔で、だが、確かに手を伸ばす島風。

…次の瞬間、私の視界が真っ赤に染まる。

 

握手を求めた長波に応じる島風を見て、提督は満足そうに目を細める。

一瞬危なかったが、背後に連装砲を待機させておいて正解だった。

何にしても、これから島風と長波は良いライバルになるんじゃないだろうか。

そんなことを考えていた矢先に、長波の立っていた場所に巨大な水柱が立った。




※誤字を訂正させていただきました…っ!
報告本当に本当にありがとうございますっ!!
すっっっごく助かります…!!!

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