ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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予期せぬ乱入者

「…ぁ」

気がつけば、島風に庇われるようにして私は立っていた。

至近距離で爆発が起こる。

恐らくだが、お得意の水柱を作りその影に身を隠したのだろう。

隠れながらも冷静に砲撃をしてきた"敵"のいる方角を睨み付ける島風に、掠れる声で御礼を言った。

「あ…ありが…」

「…勘違いしないで。」

そんな声と同時に私の無線が音を出す。

「長波!!!!平気か?!」

「て、提督…?」

「無事か、良かった…」

本当に安心したかのような声が漏れてくる。

思わず、訊ねていた。

「な、なんで…アタシなんか…」

なんで、心配した様な声を出すんだろう。

なんで、安堵した様な声を出すんだろう。

だって、私は貴方にー

「あん?勘違いするな、お前も俺の艦だろーが」

そんな、優しげな声で、足に力が入らなくなる。

「て…ていと…」

「安心しろよ。俺は損失は絶対に許さない。死んでも沈めると思うな?帰ったら島風を馬鹿にしたツケ、ちゃんと払ってもらうんだからな」

笑い声と共にそんな声が聞こえる。

やがて…"敵"は意外にも簡単に姿を見せた。

「あれー?沈んでなかったっぽい?

確実に当てたと思ったんだけど~…

というか、当たってたよね?なんで~??」

無邪気な声で、首を傾げながら静かに揺れる波の上に立つのは。

「ゆ…夕立…」

「ずっと見てたけど、もう我慢の限界っぽい!

だから、さっさと沈んでほしいな~?」

 

亜麻色の髪を持つ、赤目の少女は、

その緋色の瞳をスッと細めて笑った。

 

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「ゆ…夕立…」

そんな長波の声が無線機から洩れると、

雷が思いっきり叫んだ。

「夕立?!?!?!?!」

「ど、どうした雷…知り合いか?」

「ま、不味いわ…それがもし本当なら…」

「た、大変なのです!!!!」

三人の焦り具合を見て、非常に不味い状況だということを把握する。

「おい、なぁ、夕立って…ん?タマ?」

気がつけば、タマが俺の手のひらの上に居た。

寝転がってピクピクと痙攣しているが…

というか、前もこんな姿になってたなお前。

「タマ、お前なんで此所に…」

確か、コイツは沖で審判として笛吹いてた筈だ。

「あばばばば…全身筋肉痛でばばば…」

「いやまたかよ!!!知らねーよ!!!」

なんでまた全身筋肉痛になってんのお前?!

ていうかどうやって戻ってきたんだよ。

戻ってくるならアイツら連れてこいよ。

そうこうしているあいだにも雷達はあわあわと鍋を頭に被ったり肩を揺さぶったり…パニックになりすぎだろ、どうしたんだコイツら。

「一先ず落ち着け。夕立ってなんなんだ。

そんな名前の深海棲艦聞いたことも…」

「夕立は艦娘よ。」

加賀の声が俺の頭に響き、頭が真っ白になる。

「…それも、比較的新しく来た長波とは比べ物にならないほど…昔からこの地獄に居た古参の一人、この鎮守府の駆逐艦の中でもほぼ上位の実力を誇っている…それが駆逐艦夕立よ。」

 

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「提督さんとお話がしたいっぽい!良いよね?」

島風は無言で頷くと、私の無線機を投げる。

彼女は無邪気な笑顔のまま片手でキャッチすると無線機で提督に呼び掛けた。

「あーあー、聞こえまーすかー!」

「…夕立とか言ったな。」

「はい!白露型駆逐艦四番艦、夕立よ!」

「今なんで長波を撃った?」

無線越しでも分かるピリピリとした殺気。

私は何故かその殺気で喜びと安心を感じた。

夕立はその殺気すらものともせず返事をする

「存在されてると…結構"困る"からっぽい!」

「困るだ?」

「迷惑って言い換えても良いっぽい!」

明るい声とは裏腹に、機械のような、真っ暗な瞳で、無表情のまま此方を見る夕立。

「つまりあれか、お前はそんな理由で俺の艦を沈めようとしたと…」

「さっきの戦いを見ていて、提督さんにも言っておきたいことがあるっぽい。」

提督の言葉を遮り、夕立は低い声を出した。

「あんなふざけた"手品"で勝てるんだ、なんて思われたら困るの。」

「なっ…」

島風が声を上げる。

だが、夕立は無視してそのまま続けた。

「横から見てたけど、茶番にもほどがあると思わない?くるくる回ってつまらない方法で撹乱、隙を見つけては今だ!ドーン!…まるでお遊戯みたいね!」

クスクスと、心底可笑しそうに笑い、暗い瞳で私を見つめる。

「ほんと、なんでこんな茶番で、しかも負けちゃうかなぁ…貴女のような人が一人いるだけで、駆逐艦全体のレベルが下がるっぽい。ここの駆逐艦全員がこんな雑魚だと思われたら困るっぽい」

「…っ」

その少女は心底憎々しげに駆逐艦の面汚し、と、呟いて、再び明るい声に戻した。

「だからね!夕立考えたっぽい!今から始めるのはにかいせーん!!勝利条件はどちらかが沈むまで!どう?とっっっても素敵だと思わない?」

「ふざけないでよ!!私はもう戦って弾薬も…」

「はぁ??深海棲艦に弾薬使いきりましたーって言い訳が通用すると思うっぽい?」

首を傾げる夕立と、唇を噛む島風。

すると、無線機からは意外な答えが返ってきた

「…受けてやるよ」

「提督…?」

「ハァ?!アンタ何言って…!!」

「…長波、まだ動けるか」

「あ、あぁ…そりゃ…」

「できるだけ早急に帰ってこい。島風、時間…稼げるな?」

「…うん!まっかせてー!!」

…そうか、私のせいで受けざるを得ないんだ。

きっと断れば、その瞬間狙われるのは私だから。

「…ごめんっ」

唇を噛みしめる。

「…長波。最後の追い上げ、凄かったぜ。」

「…へ?」

「下手打ちゃあのまま島風の負けだ。…中々に危なかった。焦ったぞ。」

何が言いたいのだろう。

「…だからまぁ、何て言うかな、お前は決して弱くなかった。そうだろ?島風。」

無線からの声と反して、つーんと顔を背ける島風

「…何か言うのは提督に謝ってからだもん」

「お前結構根に持つんだなぁ…っ!?」

「長波、動くのおっそーい!私は大丈夫だから、早く入渠してきて謝ってよね」

「長波、早く帰ってこい。お前だって俺の艦だ。それを馬鹿にされたら、俺は許せねぇわ。」

ギラつくような笑みと共に、二人の声が重なる。

 

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体を引きずるようにして撤退していくのを見てもなにも言わないのは、恐らく、それだけの時間があれば島風を容易に沈められるという自負の表れだろう。

「島風、弾薬は…」

「ほぼ無い。…使いすぎちゃったね」

だろうな、この戦法の弱いところは、種を見破られたら終わりという点だけではなく、弾薬や魚雷の消費量が著しい点だ。

正直、長波があと少し持ちこたえていたならば、島風の弾薬が尽き、勝負は早々についただろう。

連戦や長期戦には滅法不利なのだ。

「…島風」

「そんな不安そうな声出さないでよっ!提督!

だって島風は速いんだよ?」

「相手はこの鎮守府でも上位の実力を誇る夕立だ

…油断するな、極力被害を減らせ。長波が撤退し次第、一目散に逃げろ。」

「…逃がしてくれるかな」

島風の苦笑。

「まーだぁー?」

「…そうだな、だが、お前なら逃げきれるだろ?」

二人の声が重なり、望まぬ演習が始まる。

「さぁ!素敵なパーティーしましょ?」

「島風!思う存分駆け回ってこい!!」

 

笑い声がする。

「あんな下らない戦いで、あんなつまらない小手先で、私の、私達の、今まで積み上げてきたものに勝てると思わないで欲しいっぽい!」

「…」

「沈めてあげる!」

夕立が巨大化する。

否、巨大化したわけではない。

海を蹴り、凄まじい速度で島風に接近したのだ。

そのあまりの速度に、島風の瞳からはまるで夕立がどんどん巨大化しているように見える。

…だが、

「真っ直ぐ来るなら好機!魚雷一本距離を取れ!」

その声で、直線上に魚雷を一つだけ置き、そのまま後ろに飛び下がる。

案の定勢い余った夕立は魚雷にそのままぶつかり、巨大な水柱の中に吸い込まれた。

「…右に跳べ!!」

少しだけ反応が遅れる。

水柱を裂くようにして、中から夕立が現れ…あろうことか、噛み付いてきた。

「っ!?」

幸いにも噛み付いたのは彼女の長い髪だ。

それらがブチ、と音を立て、切られた髪が数本、ヒラヒラと海に落ちた。

「どんな顎の力してっ?!」

「狂犬が…」

「外したっぽいぃ…」

ゆらり、と此方に向き直る夕立。

「…不味いかな」

島風は足元の連装砲にも聞こえないように呟いた

 

第三次ソロモン海戦という戦いがある。

度重なるスコールに、激しく荒れる海、陣形が崩壊した日本軍を発見したのは米艦隊だった。

まさに絶体絶命の状況の中、夕立と春雨はあろうことか、七隻もの米艦隊に突撃したそうだ。

元々指揮が上手く通達されてなかった米軍艦隊はこれにより更に混乱、駆逐艦二隻の突進を避けるため、大きく陣形を崩すこととなる。

やがて混沌となった夜が支配する戦場で、比叡が指し示す光を頼りに魚雷を片っ端から発射し、主砲を震わた夕立は、軽巡・駆逐艦各1隻を撃沈させ、駆逐艦2隻を大破、重巡・軽巡を撃破するという駆逐艦の名に似合わないずば抜けた戦果を上げたそうだ。

「アッハハハ!!」

艦歴の通り、その動きはまさに疾風迅雷、幾数もの魚雷を発射しながら、狂ったように笑う夕立を前に、島風はただただ圧されていた。

「っ!」

魚雷が当たらなくとも、その主砲により外した魚雷を撃ち抜き、爆風で攻撃、その隙をついて肉弾してくる。

「島風、まだやれそうか…?」

「…」

無論、彼女も被害を受けていないわけではない。

だが、連装砲の砲撃も、島風の出す魚雷も、彼女の猛攻を止めるには至らない。

「これが夕立かよ…」

男の苦しい呟きが、やけに大きく響いた。

「…んー、もう、終わりっぽい?」

「は?」

「…」

疑問の声をあげる俺と、黙ったままの島風。

「…おい、島風?」

「…ごめん、提督」

「燃料切れ、御愁傷様っぽい~」

夕立はゆっくりと島風に標準を合わせると

何の躊躇いもなく砲撃を行った。

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