ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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予期せぬ援軍

轟音が響く。

放たれた砲弾は、彼女の手前で爆発していた

「ぇ…」

驚愕の声を上げる島風の前に立つのは、菫色の髪をポニーテールにした、扇子を持った少女。

「見てられんのぅ…そこまでじゃ。駄犬が。」

彼女はパチリと扇子を閉じると、目を細め、

目の前の少女を睨み付けた。

 

「…あら、私が出る幕もないわね」

加賀が笑う。

「何笑ってんだお前?!」

掴みかかろうとすると、彼女はスッと指を指した

「どうやら貴方、彼女に気に入られたみたい」

つられるようにして男は海を見る。

島風の前に立つ少女を見ると、

暁、雷、電は驚愕から目を見開いた。

下唇を噛みながら、憎々しげに呟く夕立。

「…初春…ッ!!」

「世話のやける犬っころじゃのぉ…。

そんなに遊んでほしいのならば、

妾が遊び相手になってろうかえ?」

「な、なんで邪魔するの!」

「"困る"のじゃよ。駆逐艦が御主の様な輩ばかりだと思われてはな。」

「…ッ!!!!」

初春の無線機から、困惑しきった男の声がする。

「お前は…」

こここ、と、その少女は笑うと、扇を口元に持って行き、妖艶な笑みを浮かべた。

「ふむ、直接話すのは初めましてじゃのぉ。

妾が初春じゃ。宜しく頼みますぞ。提督。」

 

「だが…あの夕立に勝てるのか…?」

そんな俺の心配を、加賀は笑い飛ばす。

「彼女の名前は初春。

確かに彼女は、砲撃も雷撃も夕立に劣っているわ

…でも、"ある理由"で、彼女は絶対に負けない。」

「初春さんは、この鎮守府のどんな駆逐艦にだって…戦艦にだって負けないのです!」

「…は?」

海上に目を向ける。

あんな小さな少女が、それも、駆逐艦が、戦艦にすら勝つとはとても思えない。

思えないが、夕立の焦り具合は、どう考えても異常だった。

 

「なんでその男の肩を持つっぽい。」

完全に戦闘体勢に入りながらも、夕立は訊ねる

彼女は理解できなかった。

何故目の前の少女が自分の前に立ちはだかるのか

「肩を持つ…というよりは、お主に反対しとるだけじゃがな。」

何でもないことのように言う初春に、夕立は更に苛立ちを募らせた。

「…はぁ?!」

「手品…と、申したな。どうやら妾と御主では価値観が全く合わんらしい。妾は…中々に、面白い"策"じゃと思ったがのぅ?」

「あんなの策にもなってないっぽい!!」

海面を荒々しく踏み鳴らす夕立。

「私は、私達はッ!!!今までたくさんの痛みと、死と、悲しみと、苦しみと!!…兎に角!沢山の物の中で成長してきたんだッ!!沈んでいった皆だって!!解体された皆だって!!!全部全部私たちが成長する"糧"になった!!!その私が、私達が!!あんな…っ!あんな、戦い始めたばかりの艦に!!あんなふざけた戦い方に負けるなんて沈んでいった皆への!!今までの私たちの努力への冒涜なの!!!!」

「…夕立や」

「沈む方が悪いっぽい。私達は兵器で、ここは戦場!弱ければ沈むだけ、戦えなければ淘汰されるだけ!あんな下らない手品に負ける長波も!!!あんな戦い方しか出来ない島風も!!!全部全部私が沈めてあげる!!!」

「…御主は古いんじゃよ。」

何でコイツは憐れむような瞳を向ける。

古いとは一体どういう意味だ。

私は間違っていない。私は間違っていないんだ。

「確かにそうじゃな、ここは戦場。弱き者が淘汰され、戦えぬ者など直ぐに解体されるか沈められた。それこそ、あんな"小手先"など考えもせずに、単純な実力だけが全て"じゃった"。」

されどーと、初春は言葉を紡ぐ。

「のぉ、果たして今も、そうなのかのぉ?弱い艦は沈むしかないのか?では、弱かった筈の島風が、強かった筈の長波に勝ったのは、どうしてかのぅ」

「そんなの!!長波が弱かったからに…」

叫ぶ夕立を遮るように、初春は強く言う。

「あの地獄を経験しても、建造されたての艦娘と全く変わらないのであれば、あの地獄、もたかが知れるということじゃろう?…それこそ、沈んでいった皆への冒涜じゃぞ?」

その鋭い眼光に、夕立は少しだけ怯んだ。

「…ッ!!!!」

「妾ら駆逐艦は使い捨てじゃ。だから、何度も何度も沈んでは新しい艦となった。一部を残す駆逐艦の殆どが、地獄を経験した年数が浅い艦ばかりじゃ。…分かるか?変わっていくのなら、駆逐艦からであるべきなのじゃよ」

「何を…!」

初春を纏う空気が変わる。

恐らく、"お話"はこれまでだ、という事だろう

「この鎮守府の駆逐艦代表として、これ以上の暴挙は、この鎮守府に吹いた"新しい風"を止めようなどとは、とても妾には見過ごせん。これ以上過去に固執し、自らの眼で今を確認することもせず、自分がこうであったから、等とあの地獄を他者に押し付けようとするのであれば…ここで沈め!」

「私は兵器だ!ソロモンの悪夢だ!!これ以上邪魔をするなら…私達の過去を侮辱した奴を匿うのなら…まずはお前から沈めてやる!!!」

 

夕立の放った弾丸は、初春の横を掠め、少し離れた場所に水柱を立てるだけに終わった。

「~ッ!!!!」

悔しげに歯を噛み締め、何度も何度も砲撃を行う夕立だが、それらは全て初春には当たらない。

初春は涼しそうな顔で、その場から一歩も動かず、扇子で自分を扇いでいるだけにも関わらずだ。

「…わざと外してるのか?」

呟いた提督に、加賀が言葉を足す。

「あれがうちの初春の強さよ。私達の誰もが、彼女に傷を付けることが叶わない。弾が逸れるの。」

「だから、初春さんは私達の鎮守府では最強って呼ばれているし、駆逐艦の代表者なのよ!」

はぁ?と声をあげ、提督は初春を見た。

「…何じゃ、何ぞ…恥ずかしいのぅ。」

無線から声がし、初春は提督に手を振る。

「…舐めるなぁッ!!」

噛みつく夕立。

だが、その口に砲口を突っ込み、彼女を止めると、初春は冷たい瞳で言った。

「御主が沈む前に、考えが変わることを祈っておるぞ。…先ずは一発目じゃ。」

轟音が響く。

 

「…ふむ、しかしまぁ、妾が勝手に戦っておっては意味がないかのぅ…?」

何度も砲撃や雷撃が行われる中、とても戦闘中とは思えないのんびりとした声で初春は呟いた。

「…何なんだお前は…」

無線から聞こえる困惑しきったかのような声。

初春はスッと目を細めて笑った。

「ふーむ、これは御主のように、絡繰りがあり、自分の力で起こす物ではないからのぅ…」

「そうかい…。…何で俺に手を貸した?」

今だ警戒するような声色の無線からの声。

だが、それすらも嬉しそうに、少女は笑った。

「ふむ、御主らの努力…に免じて、じゃな」

「努力…?」

「面白いものを見せてもらった礼じゃよ。」

夕立は初春と距離を詰める。

「…これならッ!!」

ここまで近付けば逸れまい。

放たれた砲弾は、油断していた初春を容易く貫く

驚いた表情を浮かべる彼女に肉弾し、

沈めるのにそう時間はかからなかった。

…などとなることもなく、ガチン、と音が鳴り、

そもそも砲撃を行うことすら叶わない。

「弾詰まり…ッ!!」

「無駄じゃと分かっておろうに…」

ため息をつく初春に掴みかかる夕立だが、そこまでは初春が許さない。

「今度は妾の番じゃろう?ほれ。二発目」

吹き飛ぶ夕立。

ボロボロになりながらも立ち上がり、憎々しげな瞳で初春を睨み付けた。

「…ッ!!」

「…意思は変わらんか。もう良い。沈め。」

彼女はゆっくりと夕立に近付き、

その頭に砲口を当てる。

「…下がれッ!!初春!!!!」

だが、その声で、反射的に初春は跳びずさった。

瞬間、夕立の立っていた場所で爆発が起こる。

 

「っ…!!…覚えて…ろ…」

ビチャリと音を立てて倒れ伏す少女。

初春は少女がまだ息をしていることを確認すると、ほう、とため息をついた。

「…自爆、か。…しかし提督よ、そんなに心配せずとも何人たりとも妾に傷をつけることなどー」

「嘘だな。今の攻撃は当たったんじゃないか?」

その声で、彼女は目を見開いた。

「…ほう?」

「原理は分からんが法則は何となく理解したつもりだ…俺の思い違いなら謝るがな。」

「どうやら御主、妾の想像以上らしいの…」

「…やはり当たってたか。怪我がなくて良かった」

さて、と初春は夕立の頭に砲を向ける。

「…何をする気だ?」

「決まっておろう。この駄犬はここで沈めておかんと後に不味いことになる。」

「…それは俺が許さない、と言ったら?」

「悪いことは言わんから沈めさせてくれんかのぅ

禍根を残せば後に問題となるのは必至じゃ。

その問題でどれ程の被害が出るか分かるか?

…後に悔いるから後悔、なのじゃよ。」

強い口調で言い、その眼は全く揺るがない。

だが、男がそれで引き下がるわけがなかった。

「…もう一度言うぞ。それは俺が許さない。」

「威勢は良いが、御主に何ができる?」

カチャリ、と音がして、初春の後頭部に砲口が向けられた。

「…こんなのはどう?」

ニヤリと笑う島風。

だが、初春は落ち着き払った様子で、

…少し、呆れるように呟いた。

「分からぬのか?妾には当たらん。」

「…」

「じゃが、分かった、分かった。」

降参するように両手を上げると、

初春は夕立に背を向ける。

「…これ以上手は出さん。じゃが、島風はそちらに送り届けるが、夕立は知らんぞ。」

「…」

黙る提督と島風。

その時、遠方から息を切らせながらセミロングの黒髪を持つ、一人の少女が駆けてきた。

「ゆ、夕立…っ!!」

倒れ伏す夕立を見て、驚愕の表情を浮かべ、心配そうに駆け寄った少女を、初春は見下すように笑う。

「…ふっ、手綱をわざと離したのは誰じゃ」

「……何のことかな?」

睨み合いが続いた後、初春は目を反らすと、島風の手を引くようにして鎮守府へと戻って行く。

「…その甘さが不幸を呼ばなければよいがの…」

ポツリと、溢すように少女は呟いた。




今回も御覧頂き本当にありがとうございますっ!!
…いや、余韻というか…あとがき書く流れじゃないよなぁという話が数話続き、漸く書けてませんでしたが…漸く少し落ち着いた感じですかねっ!
さてさて!夕立の前に立ちはだかった初春が、圧倒的な力で夕立を退けますが…もはや立ち位置が雪風のそれですね…一体彼女は何によって護られているのか…
とはいえあの鎮守府の駆逐艦最強と接触できたのは彼にとって良い方向に転ぶでしょう。
これからもどうかどうか…彼等の行く先を見守っていっていただけると幸いです…っ!!
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