「…おい」
医務室のベッドに寝転がったまま…
否、くくりつけられたまま俺は声を上げた。
「なんですかー?」
俺の周りを取り巻くのは様々な妖精。
執務室に戻るなり、とらえろー!という叫び声と共に全員が飛びかかってきて、あっという間に俺は拉致、そのままくくりつけられてしまった。
「…お前らの分のドーナツを夕立にやったのは謝る…だが、俺は執務をしなきゃならんから…」
「ちがいます!!!」
声を揃えて叫ぶ妖精たち。
「…だったら…」
だったらなんだというんだこの暴挙は。
妖精は凄く気分屋と言われているが…あれか。今日は提督を縛りたいデーだったのか
「ていとくさんははたらきすぎです!!」
「そーだそーだ!!」
「てやんでい!!」
「やんややんや!!!」
タマの言葉に全員が賛同のヤジを飛ばす
というかヤジの飛ばし方間違ってないか
「われわれようせいどうめいはていとくをむりやりにでもやすませることにしました!!」
「うごけるとおもうなよー!!!」
「どやぁーっ!!!!」
「そうは言うがなお前ら?!俺が執務しないとこの鎮守府は回らなくなってだな」
「あなたがやっているのはいままでぜんにんたちがためにためたしごと!!やらなくてももんだいはないです!!!」
「…」
意外と物知りだなコイツら。
ただの食い意地張ったポンコツだと思ってたぞ…
そう、実はあの溜まりに溜まっている書類は前任の糞共が残した書類で、俺が代わりにやってやる義理はない。
…だが
「アイツらの残した仕事なんざこんな所に置いときたくねーよ…。」
俺は最終的に、前任が居た"証"を一つ残らず消し去りたいと思っている。
そもそも終えてない仕事があるなど、将来的に…上に攻撃される格好の的だ。
嫌な思い出と、弱味は消してしまうに限る。
…だが、
「だめでーす」
コイツらが納得してくれるはずもなかった。
「このお団子共ォ…!!!」
「きゃー!!」
「くどくのはまだはやいですよぉ…」
「うぇへへへ~」
なんでコイツら喜んでるんだ。
「みんなくいしんぼうです。おだんごはおいしい、すてきなもの。つまり、ほめことばです」
何故か少しふくれっつらで此方を見るタマ
成程。お前はさっさと胸から降りろ。
「…お前だろ。このお団子共を煽動したの」
「ごめいとう!!!」
キュピーンとポーズを取るタマとの会話は諦め、
他の妖精に声をかけた。
「…なぁ、お前ら、お腹すいてないか?」
全員がザッと此方を振り向く。
そう、妖精の気分は変わりやすい。
「あーあ。やろうと思った"とっておき"があるんだがなぁーこの手じゃなぁー…」
わざと聞こえるように大きく呟く。
「はずせはずせはずせー!!!」
「こんなひどいことみとめられません!!」
「わたしたちはやさしいからー」
…この野郎。
一瞬で俺を縛っていたロープをほどくと、早く早くとせがむ妖精たち。
俺は早速スーツケースから乾パンを取り出した。
「ほら、とっておきだ。」
え、なにその顔。
なにその滅茶苦茶悲しそうな顔。
「…どうした?カンパンだぞ?」
「だめだこのひと」
「きたいしてそんです」
「いみがわからんですー」
各自ふよふよと解散していく。
え、なんでだよ。美味しいだろカンパン。
カンパンだぞ。何でだよ。最高だろ。
「っておいコラソコォ!!!それは響がくれたクッキーでお前らにはやらん!!!!」
いそいそとクッキーの入った袋をぶら下げ飛んでいく妖精が、ギクリ、と振り向き、逃げる。
「…ばれたーっ!!!」
慌てて追いかけようとしたが、
とんでもない速度で飛び去っていった。
あの妖精…顔は覚えたからな…!!
拳を握りしめていると、
ツンツンとタマが頬をつついてくる。
「…なんだ。」
「むりはよくないですからね」
「…お互い、な」
心配そうに此方を見るタマに笑いかけると、
驚いたような目をされた。
「な、なにを」
「…昼の演習、考えてみたが…長波は下手したら、
夕立の砲撃で、沈んでたんじゃないか?」
返事はない。無言はきっと、肯定だ。
「大破で、アイツの砲撃を食らって耐えるとは思えねぇ。そうならなかったのは…お前のお陰だろ?だからあのとき、痺れてたんだな」
「…さて、わたしは"めがみさま"でないので。わかりませんねぇ」
「…ありがとな。タマ。」
拳をつき出す。
彼女は暫くキョトンとした目でその拳を見ていたが、やがて、柔らかく笑うと、その小さな拳をつき合わせた。
「…」
「や、やぁ、提督、奇遇だね。」
「奇遇か?これは奇遇なのか?」
執務室に行く際に、何やら俺の部屋からゴソゴソ物音がしたので入ってみると、何故か俺の布団の中に時雨がいた。
「…え、何そんな当然のように布団被ってんの」
「いや、勘違いしないでほしい。僕は無実だよ」
「何を言ってんだお前」
布団を剥ぐと、もう一人。
…スヤスヤと寝息を立てる夕立が出てきた。
「…」
「いや、ね、ほら、夕立がいつもうなされているのは知っているだろう?それでね、君が手を握っていたときは平気だったじゃないか」
やけに饒舌に、早口に捲し立てる時雨。
「で、その、君の部屋で待っていたんだけど中々帰ってこないから、夕立がこの際もう提督の布団に入って待とうなんてとか言い始めてそんなの羨まs…僕としては見過ごせなかったからね。うん。僕が入ることで夕立を押し出そうとしてたのさ。お礼は要らないよ。」
「…」
「…ほんとだよ?ほんとにあの、ほんとだよ」
「…」
「…」
「…」
「…ごめんなさい」
「よし」
シュン、とアホ毛のような何かを垂らしながら謝る時雨の頭を撫でると、布団を剥がれた事に気づいたのだろう、夕立が唸り始める。
仕方なく布団をかけ直すと、ぎゅぅと抱き締めながらえへへーと笑っていた。
「…何でだよ」
「僕も知りたいよ…」
何で俺が安眠の鍵になってるんだろうか。
「ともあれ…起こすのも悪いな…今日だけだぞ」
「!!」
パァァ、と顔を輝かせた時雨は、何故か頬を赤らめ、おずおずと布団を持ち上げる。
「じゃあ…ど、どうぞ…」
「…?」
「まさか床で寝るなんて言わないだろう?ちょっと狭いけど…詰めれば平気さ。」
「あー、悪い、俺はちょっとやることがあってな。今はそっちにいけないから先に寝てろ。」
「…そうなのかい?」
「あぁ。結構時間がかかるからな…」
そそくさと部屋を出る。
流石に仕事を切り上げる頃には寝ているだろう
アイツだって駆逐艦だ。
今日は医務室で寝るかね、と、ため息をついた
「…む」
目を覚ますと、机の上だった。
どうやら、執務中に、ほんと少しだけ寝てしまっていたようだ。
「…やっべ…書類に涎とか垂れてねーよな…」
慌てて書類を確認すると同時に、すぐ近くで白髪の…響が、驚いたような、信じられないものをみたような、恐ろしいものを見るような目で此方を見る。
「…響か」
「やぁ、司令官。」
笑みを浮かべながら挨拶をするその姿は平然そのものだ。
…だが、俺は響に目線を向け、距離を取ると、鋭い目で睨み付けながら言った。
「…なぁ、今、後ろに隠したものはなんだ?」
「…何の事かな」
小首を傾げて見せる少女。
「言葉にした方がいいか。何でお前、"ナイフを持っている"?」
数秒の空白の後、その少女はスッと笑って、
その刃物を正面に持ってくる。
「どうやら私のクッキーは食べてもらえなかったようだね。…残念だよ。」
あまり表情を出さない、無表情な瞳を、悲しげに歪ませ、少女は呟いた。