「じゃあ言わせてもらおうか…」
男は、大きく息を吸うと、
蔑むような笑みを浮かべた。
「餓鬼かよ」
その言葉で、誰もが彼を睨み付ける。
「この際、遠慮なく言うが駆逐艦以下だぞ?
お前らの言うことが本当だとして、同じ境遇の駆逐艦は文句も言わず戦艦の部屋を掃除してる。
一方のお前らは何なんだ?」
「餓鬼…ねぇ…」
「あぁ餓鬼だ。ようはあれだろ?私達はアイツらに見下され、無視され、姉妹艦はあんなやつらのために殺された。だからアイツらのためになるようなことをやりたくない。と。過去にあったことをズルズル引きずっていつまでも戦艦空母を恨んでいる。…違うか?」
「テメェが知ったような口聞いてんじゃねぇ!」
怒鳴る天龍に呼応するかのように、
男の声も大きくなっていく。
「あぁそうだ!その通りだよ!お前らの苦悩なんて俺には分かりっこない!!お前らの苦悩は"お前らの物"だからな!!だがな!!!それを言うなら戦艦空母の苦悩を知ったようにお前らが語ってんじゃねぇよ!!!!!」
女性達は、その怒声で肩を震わせる。
「アイツらは私達を見下していたぁ?誰が聞いたんだ誰が確認したんだ!!良いか?お前らにお前らの苦悩があるように、残された奴には、庇われた奴には、置いていかれた奴にはそいつなりの苦悩があんだよ!!!それを知ったかのように語って勝手に恨んでんじゃねぇ!!」
脳裏を掠めるのは、白い髪の、
今度は自分が守る番だと、
今度は私が庇う番だと。
包丁を手に立ち向かってきた少女。
「ふふふふふ…」
…だが、相対する龍田は下を向いて笑った。
「昔、私が可愛がっていた駆逐艦が居たわ。」
話の意図が理解できず、無言になる男。
「彼女はある日、ある戦艦を庇って沈んだの。
ボロボロになりながら進軍させられて、玉砕覚悟で敵に突っ込んで、最後には、撤退する際に狙われた戦艦を庇って轟沈したわ。駆逐艦ながら、それはそれは勇敢な最後だったそうよ。」
「…それがどうしたんだよ」
「ある日、私はその戦艦に駆逐艦の名前を出して
あの子は、最後に役に立てたのかどうか訊ねたの
責めるつもりなんて無い。
彼女は駆逐艦としての役割を全うしたもの。
それで戦艦をとやかく責めるなんて、
彼女の覚悟への冒涜だから」
ポタポタと、机に水滴が垂れる。
それはきっと、彼女が流したもので。
その身体は、凍えているかのように震えていた
「たった一言。たった一言だけ。
彼女は役に立ったと。
その死は無駄にならなかったと。
その一言が聞けたら…それだけで、
それだけでよかった。それだけでよかったのよ」
彼女は自虐気味に笑い、目の前の男を睨み付けた
「その戦艦は、暫く吟味するように彼女の名前を口の中で転がしたあと、思い出したかのように手を叩いてこう言ったわ。
『あぁ、昨日の駆逐艦の事か?』って。
言葉を失った私に、彼女はこうもつけ加えた。
『駆逐艦に名前なんて要らないだろうに…。
軽巡洋艦、そもそも質問の意図がわからないな
"ソレ"がお前らの役割で、存在意義だろう?』
…と、首を傾げながら言われたわ。」
男は言葉を失う。
「ねぇ、彼女は役に立ったと思う?
貴方にも、答えて欲しいわね~?
身を呈して守っても、どれだけ尽くしても、
一緒になって戦っても、只の"駆逐艦"…
いいえ?"盾"としてしか見られずに。
なんの感謝もされずに沈んでいった彼女の死に
意味はあると思う?」
答えない、否、答えられない男の頬をゆっくりと撫で、龍田は背を向けた。
「…同じような経験をした子達ばかりよ。
ここに揃っているのは。貴方が集めたのは。
ねぇ?貴方の考えはとっても素敵だと思うわ?
でも、過去は過去と綺麗さっぱり割り切れる程
私たちと戦艦の溝は浅くないの~。」
貴方だって、自分の名前すら言えない人達と仲良くする気は沸かないんじゃないかしら?と笑う。
「確かに私達は前に進まないといけない。
確かに過去は過去と割りきらなければいけない。
でもね、理性が許しても感情は許さないの。
あんなやつらに協力するなら、
それこそ沈んだ方が、解体された方がマシよ」
「…じゃあなんで…出ていかないんだ…?」
絞り出したかのような問いに、
龍田は容易く答えた。
「出ていくのは私達じゃない、と言っているのよ
貴方は家にゴキブリがいるから引っ越すの~?
…違うわよねぇ~?
鬱陶しいのなら、そのゴキブリを殺しきるだけ。
この話には続きがあるの~。その戦艦は、ある日
"不慮の事故"で沈んだそうよ~?」
天罰でも下ったのかしら、と、可笑しそうに笑う
「本当、沈むその時まで、全く名前を言えないんだもの。面白いわよねぇ~?」
その瞳は、彼を見ているようで、見ていない。
思い出すかの様に、何処か遠くの情景を見ていた
「…お前、まさか」
顔をあげる男。
彼の目の前にいる女性は、優雅に、それでいて何処か冷たい様子で、お辞儀をする。
「改めまして自己紹介~。
軽巡洋艦代表、現最強格の龍田よ~?
半端な戦艦程度なら容易に沈めてあげるから~」
龍の名を冠する、何よりも、誰よりも駆逐艦を愛していた女性は、そう言って寂しげに笑った。
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「…私が手伝うなら、条件を呑んで」
島風の言葉に、妖精は首を傾げた。
「わかってないんですかぁ~…?
わたしはあなたをてつだうたちばであって、じょうけんなんてあなたがだせるわけが…」
「今、提督を一番憎んでる艦娘を教えて。」
「…」
黙る妖精。
島風は、じっと自分の手を見つめたまま呟く。
「もうあの人を傷付けさせない。
もう辛い思いなんてさせない。
ソイツが提督を傷付ける前に…私が殺すんだ」
ニヤリ、と、妖精は笑みを浮かべた。
「はぁ…しかたがありませんねぇ。
…とくべつに、ひとりだけおしえてあげます。
わたしとしても、かれのてきがへるのはこうつごうですから。」
思ったより、ずっとこの島風は馬鹿で扱いやすい
妖精は、密かにほくそ笑むと、わざとらしく咳払いをして、その艦娘の名前を告げる。
「…そのかんむすのなまえは━━━」
今回もご覧いただき本当に本当にありがとうございます…っ!!
さてさて、なんだかハードな内容になって参りました
暗躍する妖精と、引きずり込まれる島風。
その裏では、提督が過去の鎮守府での、戦艦と駆逐艦達に作られた溝という現実を突きつけられていました。
憎むべきは前任であり、戦艦の意識を変えてしまったのは前任だ。アイツが全ての諸悪の根元だ。
きっと彼女だって分かっているのでしょう。
それでも、それでも尚。
いつも笑顔で自分を慕い、
健気に一生懸命に生きてきた彼女達が
一人また一人と沈んでいくのは悲しみで、
その彼女達をなんとも思っていないような、
あの発言は彼女にとって
到底許せるものではなかったのでしょう
復讐心で塗り固められたその心は、
きっと対象を殺しきるまで止まらない。
でも、全てを殺しきったその先に、
果たして何があるのでしょうね。
これからもどうかどうか、彼等の事を見守っていただけると幸いです。