ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

25 / 59
毒の使い方

男は、唾を飲み込み、

正面から彼女を見据えてニヤリと笑った。

「…お前の質問に答えてやるよ。

無駄死にか、否か。」

ハッとしたように振り向く龍田。

男は、覚悟を決めたような顔で言い放った。

「無駄死にも無駄死にだろ。アホか。」

ビュン、と音がして、

彼の頬に薙刀が突き付けられる。

「…理由を聞かせてもらえるかしら?」

「どんな死に方とか関係ねーよ。その犠牲で海域が攻略できたのなら未しも、撤退途中で轟沈だろ?盾としてしか役にも立たず…死んだ意味ねーじゃん。」

震える彼女の薙刀。

それは、恐れというより、怒りだ。

「…駆逐艦達はね、どんな艦よりも、"本質を読み取る"のが得意なの。だから貴方は多少マシだと思っていたけれど…気のせいのようねぇ~…」

「そりゃな。俺はお前らが期待するような善人でも、正義の味方でもねぇ。」

彼は薙刀を突きつけられても眉すら動かさず、

両手を上にあげ、呆れたように頭を振った。

「もういい。下らねぇ不幸自慢には飽き飽きだ。

そんな体験、どんな艦だってしてるんだよ。

…した上で、乗り越えようとしてるんだ。

過去をいつまでも引きずるならそうすれば良い。

お前の好きな駆逐艦が先に進むなか、

一人、過去に囚われ取り残されれば良い。」

歯を噛み締める龍田の背後に立つ、

軽巡洋艦達に語りかける。

「お前らも同類だよ。

理由に納得は行かねぇが、そんなにやりたくないのならもう良い。俺が入渠ドッグを掃除する」

彼女達は彼を睨み付けたままだ。

だが、そこには確かに安堵の色が見えた。

「何ホッとした面してんだ?阿呆だな。

俺が入渠ドッグを掃除して…例えば、そこに俺がカメラを、録画状態のまま"忘れて"しまってもお前らは文句を言えねぇぞ?

…そして当然、今後は軽巡戦艦関係なく、被害を受けた艦は問答無用で入渠してもらう。どれだけ嫌がろうと、抵抗しようと、絶対に、無理矢理にでもぶち込むからな?」

さぁっと、彼女らの顔が青ざめた。

「さてと、じゃあ俺は掃除でもするかな」

「ちょっー」

「もう良い!!俺が殺す!」

天龍が、彼の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

「離せよ。俺は"お前らが投げ出した掃除"を

しに行かねぇといけねぇんだよ。」

「そんな事してみろ。絶対に許さねぇ。

片っ端から全てのカメラをぶっ壊してやる」

「ハハハ!!勇ましいが…そうだな、仮に俺が忘れなかったとしても、もしお前らが俺の忘れ物を見つけたとしても、お前らはずっと怯え続けるんだろうな、本当にこれで全部なのか?何処かに隠されているんじゃないか?ってな。」

言葉に詰まった天龍と、

下衆びた笑みを浮かべる男。

「一生そうやって怯えてれば良い。

一生そうやって恨んでいれば良い。

前に進むことを諦めたやつに用なんてねぇよ」

「ッ!!!!」

拳を振りかぶる天龍を諌めたのは、龍田だった

「…天龍ちゃん、入渠施設の掃除、任せて良いかしら~?後ですぐに追い付くわ~?」

「龍田…」

「ほーん、他の軽巡は?文句ねーの?掃除だぞ」

誰も首を横に振らない。

ただ、恨みがましい目で男を睨み付けたまま、

ぞろぞろと部屋を後にしていく。

「龍田はどうすんだよ。」

「私はこの提督と~…少し、"オハナシ"があるからぁ~…。」

「…チッ。分かったよ。…程々にな。

こんなんでも、電達が気に入ってる。」

「分かってるわよ~。…特に島風。あの子は…もう絶対に沈めさせない。決めてるから~」

バタン、と音を立て、扉が閉められる。

薄く目を開ける龍田を見て、

提督は相変わらず下衆な笑いを浮かべた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…?司令官は…居ないようだね…。」

「なのです」

「残念ねぇ…何処に行ったのかしら?」

「あ、暁は寂しくなんてないんだから…」

第六駆逐隊の四人は、執務室の前で各々声を出す

一番分かりやすく肩を落とした響を見て、

雷は首を傾げた。

「そういえば響、司令官に送ってもらってたわね…というか、そんなに仲が良かったかしら…?」

「ふふ、色々あるんだよ」

「な、な、なんで頬を赤らめるの響?!」

「その意味深な言葉はなんなのです?!」

「ちょっと!大人みたいな台詞使わないでっ!」

執務室は、彼が居なくても賑やかだ。

その折に、執務室の隅で、もくもくとお菓子を頬張る小さな妖精が居た。

「あ、妖精さんなのです」

「なにー?」

電の声に反応して、可愛らしく小首を傾げる妖精

「司令官さんの居場所、知りませんか?」

「んー…あのこ…たまがしってるとおもうー」

「ありがとうなのです!」

ふりふりと手を振る妖精を背に、

電は他の三人の元へ駆ける。

「タマさんを探すのです!!!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

トスッ、と音を立ててソファーに座る龍田。

男は、苦笑いを浮かべながら訊ねた。

「どうした?"オハナシ"…するんだろ?」

「そんなに怖がらなくても良いわ~?

本当に、私がしたいのはただのお話だもの~」

口に手を当て、クスクスと笑う女性。

男は少しだけ眉を動かした。

「貴方、生粋の"詐欺師"なのねぇ~」

「…あ?」

顔を歪め、不愉快そうな声を出す男。

だが、龍田は全く動じない。

「あの場でああ言うことで、自分にヘイトを向けて、少しでも戦艦空母への憎悪を減らす。

それと同時に、そのヘイトを稼いだ自分が掃除をしようと言い始め、不安感を煽ることで、命令により無理矢理やらせるわけでも、他の艦がやるわけでもなく、他でもない私たち全員が自分と、駆逐艦のために自分から掃除をする…いえ、せざるを得ない、といった方が正しいかしら。」

淡々と解説していく龍田と、顔をしかめた提督

「なかなかどうして、ずいぶん頭が回るな」

「ふふふ~。頭の艤装も回るのよ~?」

「…?」

「…」

首を傾げた俺。

龍田は小さく頬を膨らませ、赤い顔でうつむく

…え?何?これは俺が悪いのか?

「…そ、そもそも~そんなに見え透いた煽りだと、かえって冷静になってしまうわねぇ~?」

「…あー…頭の艤装が?何て…?」

ギン、と音がして、頬に薙刀が突き付けられた

「俺が悪かったって…」

「…気に入らないわぁ~…」

ククク、と笑う男と、不満そうな顔をする龍田。

「…なんだよ、案外、普通だな。」

「……島風ちゃんは、泣かせないでね~?」

先から、彼女はやけに島風に拘る。

同時に、"もう"絶対に沈ませない。と言った。

…それが意味するのは、恐らく。

「…その沈んだ駆逐艦ってのは…」

「ふふ、貴方の想像通りよ~。…もしも、再びあの子に何かがあったのなら…私は全てを犠牲にしてでも、報復をするわよ~?」

その瞳は揺るがない。

男は呆れたようにため息をつき、言った。

「俺は少し用事がある…話はそれだけか?」

「そうねぇ~、強いて言うなら、嘘とは言え無駄死に発言は控えて欲しい、と言った所です~」

「…別に嘘なつもりはねぇよ。」

「悪ぶらなくて良いと思うわ~?

貴方は昔の天龍ちゃんに良く似ている。

わざと嫌われて、遠ざけて、

それでいて全てを自分一人で背負おうとする。

同時に、昔の私にも似ているわ。

本当に騙したいのなら、無駄死にって言った時に

あんな顔を浮かべるべきじゃないわね~。」

相も変わらず柔らかく笑う女性の側を通り過ぎるときに、男はボソッと言った。

「このままじゃ、本当に"無駄死に"になるぞ」

「…」

ドアを開け、少しだけ足を止めて、続ける。

「包丁ってのは、人を殺すことも、

死ぬほどうまい料理を作ることもできる。

今のお前を蝕んでいるのは只の"毒"だ。

過去の呪縛だ。それに殺されるか、

昇華させるかは、お前次第なんだぜ。」

「随分知ったような口をきくじゃない~」

「今のお前を胸張ってソイツに見せられるか?

ソイツは今のお前を見て、喜べるのか?

…自分の死が足枷になってるなんて、

俺なら…死んでも死にきれねぇよ。」

バタン、と扉を閉めると、

男は天井を見上げ、一人呟く。

「…人に言うのは、簡単なんだがなぁ…」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「響ちゃん、だよね?」

声をかけられ、振り向くと、島風が居た。

「島風か。司令官は一緒じゃないのかい?」

「んー…場所を教えてあげても良いけど…

その前に…ちょっと付き合ってくれる…?」

チラリ、と、他の三人を見て、笑顔で頷かれ、

快く承諾の返事をする響。

「やったー!はやくはやくー!おっそーい!!」

島風は彼女の手を取り、ズンズンと先に進む。

その顔に、無機質な、その声とは全く対照的な

表情が浮かんでいることを、誰も知らない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。