ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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破滅への行進

「………」

ダン、と、誰もいない部屋で、

私、漣はベッドを憎々しげに叩いた。

艤装を展開していない状態では、

流石に壊れるはずがない。

手に鈍い痛みが走るが、

そんな事などまるで気にならなかった。

「……………」

何度も何度もベッドを殴り付ける。

木で作られた、何処か不格好なソレは、

びくともしない。

「なんで…ッ!!」

情けないことに、目から涙が零れた。

脳裏に浮かぶのは、一人の男。

何人もの駆逐艦に囲まれ、

あまつさえ鼻の下を伸ばす糞野郎だ。

駆逐艦寮の廊下のど真ん中で、馬鹿みたいに、

皆で手を繋ぐぞ、なんて気持ち悪い命令をする

糞野郎だ。

"信じていたのに"と言えば嘘になる。

でも、"やはり"、と言うには、

私は彼に期待しすぎていた。

「………ッ!」

触られた頭がただただ気持ち悪く、掻きむしる

「なんで…なんで期待させるの…貴方達は…」

床にへたり込み、虚空を見上げる。

「馬鹿だなぁ…私は…」

あぁ、何時だって、私は只の道化だ。

 

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「朝潮…姉さん…?どうか、したの…?」

部屋の隅で縮こまる霰が、

部屋から出ようとする朝潮を見て首を傾げた。

「何でもないわ。少し…。」

「少し…?」

「…気にしなくて良いわ。少し戻ってくるまでに時間がかかると思うけど…。」

「ん、なら、待ってる。」

そういい、再び目を閉じた霰を愛しそうに眺め、

そっと頭を撫でると、朝潮は部屋を後にした。

その手には、一通の手紙が握り締められている。

…彼女は、その手紙をくしゃりと握り潰し

憎々しげに顔をしかめると、足を早めた。

"約束の時間"に間に合うように。

「私が…守るから。どうなっても…」

少女は街へ向かう。

提督にも、姉妹艦にも、誰にも告げずに。

その背は、何よりも小さく、

その足は、小さく震えている。

それでも彼女は、足を進めた。

 

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「島風、何処に行くんだい…?」

手を引っ張られたまま、響は訊ねる。

島風は後ろを振り向きもせず、

倉庫ー!とだけ言った。

「倉庫…?」

何かを持って来るよう頼まれたのだろうか。

或いは、倉庫自体に用事があるのか。

理由はわからないが、何処か焦っているような

島風の様子を見て、響は不審に思う。

そもそも、来たばかりの島風が、

迷いもせず倉庫までの道をズンズン進むのが

…何か、可笑しいのだ。

ほんの少しでも迷うそぶりや、

道を思い出すような素振りを見せるなら兎も角

まるで"一度来たことがあるように"

ズンズンと先に進んでいく。

「…島風?」

「んー?」

「良く道を知っているね…ここは少し入り組んでいるから、迷うかと思ったよ。」

「うんー。道を覚えるのに苦労したよっ」

「?」

そんな会話をしているうちに、倉庫につく。

「じゃあ、中に入ろっか?」

振り向いて笑う島風。

響は、自身の疑念を振り払うかのように

大きく息を吐くと、行こうか。と、

足を踏み出した。

 

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「…おっせーよ、龍田!」

「ふふふ~。ごめんなさい?」

入渠施設に姿を現した女性を見て、

安心したように駆け寄る天龍。

「あの糞野郎はどうだった?」

「そうねぇ~…。…なんとも言えないわ~」

「……。なぁ、龍田。」

「何かしら~?」

「俺が、今からあいつを殺すって言えば…

…お前は、止めるか?」

ピタリと、龍田の動きが止まった。

「…俺はもう我慢できねぇ。

刺し違えてでもアイツだけは殺してやる。

皆の死を"無駄死に"扱いしやがって…!

電達も、そのうち目を覚ますだろ。

裏切られて傷つけられる前に、俺が…!!」

「天龍ちゃん~?」

彼女は天龍の言葉を遮り、笑う。

「一人でやる"なら"止めるわ~?」

「…いつも悪いな。」

天龍は笑い、提督を探し、駆け出した。

 

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「…おっ、時間どーりじゃん」

ケラケラと笑う金髪の男。

彼を睨み付け、朝潮は無愛想に言った。

「荒潮は…無事なんですね?」

「あー、そんな名前なん?ま、どうでも良いわ」

そう言い彼が手をぶらぶらさせると、

男達が集まってきた。

「…で?約束の女は?」

「………。」

彼女の元に届いた一通の手紙。

内容は、至極単純で。

それでいて、虫酸が走るものだった。

大破状態の艦娘を保護している。

返して欲しければ、女を一人寄越せ。

簡潔に言えば、そういう内容だ。

「いやいや、睨んでないで、な?」

「…腐ってもこの朝潮、

仲間を売るような真似はしません。」

彼等を鋭い眼で睨み付けながら言い切る朝潮

対する男達は、一切怯えてなどいなかった。

「じゃぁどーすんの?無理矢理奪い返すん?」

「………」

「出来ねーよなぁー?!正義の艦娘様だもんな!

一般人を艦娘が殴れば、あの鎮守府がどうなるか

誰にだって想像はできるもんなぁ!!」

ギャハハと、品のない笑い声を上げる男の頭を小突き、サングラスの男が朝潮の肩に手を置いた。

「連れてこなかったのなら仕方ない。

返すことはできないな…。」

「…」

「そんな顔するな。俺達はこのご時世で、少し…少し寂しくてな。可愛いお姉さんと、お茶でもしたいだけなんだ。」

「………」

「まぁでも、あんまり遅いとな…俺達も…艦娘をずっと置いておく訳にもいかないし、殺すしかないからなぁ…」

いかにも残念そうに頭を振る男。

朝潮はきつく手を握りしめた。

「ただお茶をするだけだよ。お前が気に病むことは何もない。…そうだろ?」

「………」

「…俺達だって優しい。三回までは待とう。

つまり、あと二回だ。

…逆に、二度以上失敗したならその時は、な?」

男はトントン、と少女の肩を叩き背を向けた。

「お前ら、今日は解散だ。次に期待しようぜ」

「………すか」

「ん?」

小さな声が聞き取れず、思わず男は振り向く。

「私じゃ…駄目ですか」

スカートの裾を、きつく握りしめ、

その小さな身体を震わせながら、少女は言った。

 

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「…ははは。」

艤装を展開させ、水上を滑りながら響は笑う。

二匹の連装砲が、彼女の後を追った。

「…っ!!」

砲撃音が耳を打つと同時に、

その場から跳びずさる。

「あなたって、遅いのね!」

着地地点の魚雷を回避しきれず、被弾する響。

「っ…一体どういうつもりかな、島風。」

ニヤニヤと笑う島風の手元の連装砲の背後から

タマ、と呼ばれる妖精が顔を出す。

 

倉庫の扉を開け、可笑しいと感じた。

頬を打つのは潮風。

沢山の物があるはずのそこは、

何故か、海に繋がっていた。

「…これは…?」

まるでなにかに引き寄せられるように、

思わず、艤装を展開させ、水上に降り立つ。

間違いない。海だ。

何故か、私達の倉庫が、海に繋がったのだ。

背後の島風は大丈夫かと振り向き…固まる

「………」

「何故、此方に砲口を向けているのかな」

「分からないの?」

先程までの扉はない。

まるでテレポートでもさせられたかのように、

私達は広い大海原に放り出されていた。

そして、恐らくこれは…

「…何のトリックかはわからないけど、

君の仕業かな。島風。」

「…出来れば早く沈んでね?

まぁ、邪魔も来ないから、別に良いんだけど」

彼女の砲が火を吹くのと、

私が回避行動を取るのは同時だった。

 

「ねー、何でこんなことになったか、分かる?」

水上の鬼ごっこを制すのは勿論島風だ。

息を切らせ走る響の後を追いながら、

自分は息一つ切らせずに島風は尋ねた。

「…さて、ねっ!」

砲撃は回避される。

「提督を刺したの、貴女でしょ?」

「………。」

その一言で、理解した。

…あぁ、そうか。これは。

「…報復かな。らしくないね。」

 

ー誰も信じきれず、ただ傷付けた私に

     神様が用意した、天罰なんだろうー




今回は胸糞ですね。はい。
死ぬほど胸糞です。
作者があれこれいうのもあれかな?ってことで!
次から、次回予告とかそういうのにここを使った方が良いのかなぁ、と。

というわけで次回!!

…あぁ、ここまで事が上手く運ぶとは。
島風を見ながら、妖精は笑みを浮かべた。
「…じゃあ、そろそろ終わろっか!」
響は目を閉じ、最後に、姉妹の顔を思い浮かべる

「…自分が何を言ってるか、分かってるな?」
「…はい。」
朝潮は、震えたまま頷く。
「そうか。泣ける仲間愛だな。よし、連れてけ」
男の無慈悲な声が響いた。

次回『馬鹿な艦娘と狂った人間』

これからどうなっていくのか!
是非是非予測してみてください!!
…やりたかったけど次回予告のやり方が全くわからずただ次回のタイトルいっただけなの本当にごめんなさいごめんなさい!!
もしよろしければ、次回も彼等の行く末を暖かく見守っていただけると幸いです…!!

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