ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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馬鹿な艦娘と狂った人間(前編)

島風と戦いながら、響の脳裏には、

"あの時"の光景が浮かんでいた。

 

「駆逐艦雷!大破です!!」

『駆逐艦の被害報告は要らん。進め。』

「はっ!」

旗艦が報告をする中、私は雷に駆け寄った。

「雷…!!」

「だ、大丈夫よ。心配しないで?」

血に濡れながら、片目を瞑って見せ、

心配かけないようにと明るく振る舞う雷。

だが、その意識は恐らくもう朦朧としており、

立っているのがやっと、という状態だ。

「っ…!撤退しないと…」

「無理よ。私は大丈夫だから!」

それは、戦場で出すにはあまりにも明るい笑顔

その笑顔に背中を押され、

私は、彼女と次の海域に向かった。

 

「くっ…!」

駆逐艦二人では、流石に全てを庇いきれない

私の背後で、攻撃を受け、

少しだけ声を漏らした戦艦が居た。

「……」

思えば、それが間違いだったのだ。

私が、あの時に、違う行動をとれば、きっと。

結果は、違っていたかもしれないのに

「(もしかして)」

やめて、お願い。

「(もしかして)」

それ以上は、取り返しがー

「(もしかして)」

過去の私に、必死に声をかける。

その考えが浮かぶ前に。

過ちを犯すその前に。

だが、当然のように、声は届かない。

当然だ。あのとき、それをしたから、

今の私が、居るのだ。

 

「(この戦艦が大破すれば、撤退できる…?)」

 

ー過去は変わらない。罪は消えない。

         現実は、どこまでも残酷だー

 

そこからの行動は簡単だった。

戦艦に、主砲を向ける深海棲艦。

わざと、反応が遅れたフリをして、狙わせる。

攻撃を食らう戦艦。そのまま撤退。

…そうなる筈だった。

そうなる筈だったんだ。

「…響?皆…?どこ…?あれ?」

「なん…で…? 」

小さく呟き、震える手を伸ばす。

「…あぁ。そう。仕方無いわね。」

何かを理解した雷は、寂しげな笑みを浮かべると

静かに、海の底へ沈んでいく。

「…待って!!!雷!!!!」

「ごめんね。もう声が聞こえないわ…。

…でも、そう、ね。泣かないで。響。

貴女のせいじゃ、無いわ?だから、貴女はー」

必死に、海を走り、駆け寄る。

なんで、庇ったんだ。

なんで、戦艦を。

もう、大破だったじゃないか。

そのまま狙わせれば、帰れたじゃないか。

私の伸ばした手は空を切り、雷は沈んだ。

 

戻ってきた私の顔を見た二人は、

帰ってこない雷を疑問に思うこともなく。

静かに、私を、抱き締めた。

「ごめんなさい…響…」

ごめんなさい。ごめんなさい。

「響ちゃんは、悪くないのです」

違う。私が悪いんだよ。

  「「大丈夫(です)よ…響(ちゃん)」」

二人の声が重なり、私はその場に崩れ落ちた。

 

その数日後、結局電と暁も沈み、

私の元には新しい姉妹が現れる。

「ひ、響ちゃんなのです!」

「ね、ねぇ!司令官…凄く怖くない…?

ま、まぁ?暁は別に怖くないんだけど…」

「響!!よかった、先に居たのね!」

…だが。

「………」

「響ちゃん…?」

「…五月蝿い。」

肩に手をおいた電の手を、乱暴に払った。

私の姉妹は、彼女達だけだ。

同じ声で。同じ顔で。

お前達が私に話し掛けるだけで、寒気がする。

 

結局姉妹艦の中でも浮いてしまった私。

だが、不思議と清々しい気持ちもあった。

ひそひそと、何を話しているのかは知らないが

きっと私か司令官の悪口だろう。

「……」

もう、私には、君達と話す権利もないから。

憎んでほしい。恨んでほしい。

もう二度と、私なんて庇おうと思わないほどに。

 

そう思っていたのに。

 

「…撤退ッ!!!」

旗艦が声を出す。

あまりにも遅い撤退命令だ。

眼前には数えるのも億劫な程の深海棲艦。

この量から、逃げ切れるなんて夢のまた夢だ。

それこそ、誰かが囮にならないと。

「…さて、今日は何人生き残るかな。」

小さくそう呟いた、その時だった。

『駆逐艦は残って戦え。』

無線機から、命令が飛ぶ。

成程。どうやら同じ考えなようだ。

まぁ良いさ。ここで沈むなら、それも一興。

呆れたようにため息をつき、

主砲を構えた、次の瞬間だった。

「「「嫌(なのです)よ!」」」

三人の声が重なる。

まぁ、そうだろうな。

こんなところで沈みたがる艦じゃない。

君達はもっと生きるべきだから。

仕方がない。私一人で時間を稼ごうか。

男に進言をしようと、無線のスイッチを入れる

…そして、次の瞬間、私は耳を疑った。

「響には撤退してもらうわ!」

「残って戦ってあげても良いわよ?

…でも、響が撤退するなら、ね。」

「此方の要求を飲まないのならば、

私達は逃げます。付き合いきれないのです!」

『「 は…? 」』

男と、私の声が重なる。

『お前ら、何言ってんだ?』

「此方の台詞なのです。色々と遅すぎなのです」

「今更逃げ切れるわけないじゃない。

ここで沈めってことよね?」

「私の大事な妹を、沈めさせる訳ないわよ!」

口々に文句を垂れる姉妹達。

「何を…」

声が震える。

彼女達は何を言っているんだ。

「さぁ、選ぶのです!」

「ここで皆仲良く沈むか、響も生かすか。」

「早く決めてよね!時間がないんだから!!」

「待って!!!なんで…っ!皆」

『…チッ。駆逐艦響を連れ撤退。

残る三者は沈むまで時間を稼げ。』

空母に抱えられ、皆がどんどん遠くなっていく

「なんで…?!」

その、心の底からの声に、三人は振り向き、とても眩しい…"姉"の笑みで笑った。

「貴女の身に何があったかなんて、

すぐに想像がついたわ?」

「立派なレディなのよ。

これくらいわかるんだから!」

「例え、貴女にとってのお姉ちゃんは一人で、

私たちをお姉ちゃんと思えなくても」

 

「「「貴女は私の妹よ(なのです!)」」」

 

視界がぼやける。

嗚呼、どれだけ心で否定しようとも。

やっぱりこの人達は、私のお姉ちゃんだったのに

「酷い態度を取ってごめんなさい」

「気にしてないわ!」

「沢山無視してごめんなさい」

「大丈夫よ!レディだもの!」

「私も、一緒に…!」

「それは許さないのです。」

必死で暴れるが、空母の力に勝てる筈がない。

何度も叫びながら、腕や足を振り回す。

なんで、貴女達は、いつも私をー

「私に任せて…最期くらい、頼って良いのよ!」

「…お姉ちゃんにだって、出来るんだから!!」

「響ちゃん、次に生まれてくる時は、幸せにー」

何でいつも、私を置いていくんだ。

 

…やがて、再び新しく来た姉達に、

私は笑みを浮かべながら言った。

「…ようこそ。この地獄に…響だよ。

     もう、絶対に沈ませないから。」

次は私が守るんだ。

 

「おっそーい!!!」

そんな声で、正気に返る。

眼前に迫っていた砲弾をかわし、

慌てて体勢を立て直す。

…危なかった。死ぬ直前に見るとかいう

走馬灯…とかいうものだろうか?

最初の魚雷から一撃も貰っていないとはいえ、

流石に息も切れてくる。視界もぼやけてきた。

「…っ!!」

「戦いの最中に呆けるって、どうなのー?」

高い声が耳に触る。

「…ごめんね。」

「…?」

私は、死ぬわけにはいかないらしい。

「…君がその気なら、私は迎え撃つよ。島風」

 

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「荒潮っ!!!」

私が怒鳴り声を上げると、

彼女は困ったように眉を下げ、謝った。

「ごめんなさぁ~い?」

ボロボロの身体を見て、ため息をつく。

「いつも無茶をし過ぎなの…貴女は…」

眉間を押さえながら呟くと、

荒潮は笑顔で言う。

「でも、また皆を守れたわぁ~」

「貴女が怪我をしては意味がないでしょう」

コツン、と頭を小突き、

二人で顔を見合わせて笑った。

 

こんな鎮守府だ。

助け合わずにやってはいけない。

そんな信念の元、私達駆逐艦のある程度の古株は

新しい駆逐艦を守る事にしていた。

だからだろうか、私達の後ろをついてくる駆逐艦は、一人増え、二人増え、色んな駆逐艦と繋がりを持つことができる。

戦艦や空母が"個"としての強さを求めたなら。

私達は結束の、"繋がり"の強さを求めたのだ。

「ご、ごめんなさい…」

目の前で、頭を下げる五月雨。

確か、一昨日入ってきた子だったか。

「気にしなくて良いわよぉ~?無事でよかった」

「貴女は少し気にするべきですよ、荒潮」

「もう…朝潮姉さんは手厳しいわぁ…」

まだ申し訳なさそうにもじもじとする少女の頭に、コツンと自分の額を合わせ、荒潮は笑う。

「…誰も沈まないで済むなら、

きっと、そっちの方がいいじゃない?」

「…」

「そんな顔しないの。ね?」

「ありがとう…ございます…」

あぁもう。姉馬鹿と言われるかもしれないが。

…本当に。自慢の妹だ。

 

夜、窓から外を見る荒潮に声をかけた。

「何か気になるものでもあった?」

「あらあら~…ふふ、今夜は月が綺麗よ~?」

つられて上を見上げる。

手を伸ばせば届きそうなほど大きな月が、

少し眩しく感じるほどの光を放っていた。

「…一人月を見て黄昏てたの?」

くすり、と笑うと。

彼女にしては真剣な瞳で、私の方を見た。

「ねぇ、朝潮姉さん?」

「何かしら」

「…私が沈んでも、泣かないでねぇ~」

それだけ言うと、月を見上げる。

きっと、彼女自身理解しているのだ。

もう身体はボロボロで、次の出撃で、

例え次じゃなくても、その次か。

少なくとも、近々自分が沈むことを。

「…お互い様に、ね?」

だが、それは彼女に限った話ではない。

私も月を見上げ、そう言った。

 

朝潮は、月に見惚れ、隣の少女が、

悲しげな表情で此方を見ていることに気付かない

 

「…そう。」

荒潮が沈んだ、という話を聞いたのは翌日だった

…何か虫の知らせでもあったのだろうか。

撤退時の殿となり、勇猛果敢に戦ったらしい

「…貴方は、興味もないのでしょうね」

取って付けたような、ありふれた最期の言葉。

勇猛果敢、など、

見てもない男が言える台詞ではない。

というより、どんな艦娘の最期にも、

自分で囮を命じた癖に、

勇猛果敢に戦ったと伝えているのだから。

きっと、彼女がどうなったか想像もできないのだ

彼女の艤装はもうボロボロで。

最期まで戦うことなんて、出来る筈がない。

それでも、それでも、殿を務められたのは。

きっとその身で、その身体で。

"餌"となって、皆を守りきったのだろう。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

涙を流しながら土下座をする駆逐艦を立たせた

「頭を上げなさい。気にしてないわ。」

「でっ…でも!」

「…大丈夫よ。そんな事より、次を考えなさい」

そう言った次の瞬間、頬に痛みが走った。

「そんな事って…っ!!何なんですか!!」

「…」

「もっと恨んでくださいよ!!なんで…っ!

私のせいで…!私のせいで沈んだのに…!!

なんで笑えるんですか?!許せるんですか?!」

ー貴女はそれでも姉なんですかー

そんな言葉か、私の身体を貫いた。

 

「ふぅ…。」

部屋に戻り、頬をそっと撫でる。

「あらあら~酷い顔ねぇ…」

そんな声が聞こえた気がして、後ろを向いた

無論、誰もいない。

当然だ。彼女は沈んだのだから。

その声も、その温もりも、失われたのだから

でも、それでも尚。

諦めきれず、泣かないように、唇を噛み締め。

彼女の唯一残した、紙を拾い上げる。

私が沈んだときに読んでね、と。

渡されたその手紙には、沢山の。

本当に沢山の事が、書かれていたが。

 

私は貴女が。駆逐艦朝潮が姉さんで、良かった

自分の事でも精一杯なのに。

他の子を守って、気にして、励まして。

弱い人にも迷わず手を差し出せる貴女の強さが

優しさが、正しさが、とても眩しくて。

私も、そうありたいと、強く思えたの。

そんな貴女が、私の誇りであり、動力源であり、

…そんな、私のお姉ちゃんが、大好きよ。

 

「ばかぁ…っ!」

約束をさせておいて、

自分から破らせようとする馬鹿がいるか。

部屋の隅で、一人。泣きながら。

私は、手紙を強く握りしめた。

 

「私じゃ…駄目ですか」

だから、私は。

彼女を守るためなら、自分がどうなろうと。

必ず、助け出してみせる。




はい!!私に次回予告は無理でした本当に本当にごめんなさいっ!!
過去話は意地でも手を抜きたくなかったので…出来るだけ一生懸命かいてたらもう一話分の文字数じゃん!!!と…
ごめんなさいぃ次回こそ次回予告通りになるんで…
ほんとすいませんでしたぁっ!!!
格好良かったんです上手に次回予告書いてる人がぁぁ…
出来心だったんですやってみたかったんです皆様ほんとどうやって書いてるのぉ…!!
何はともあれ、次回も彼等の事を見守っていただけるとありがたいですっ!!

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