ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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新しい風

俺は部屋で電話を済ませると、真っ先に倉庫へと向かった。

「…ふむ、これと…これもか?」

近くにあった机を軽く水拭きし、近くにあった空の段ボールにホイホイといろんな道具を入れていく。

最低限必要そうなものを集めただけで、段ボールはパンパンになった。

「申し訳ございません。入渠の指示が終わったので一応ご報告にきました。」

深々と頭を下げる大淀を軽くスルーして、俺は大淀に質問をした。

「…なぁ、この中で一番幼いのはやはり駆逐艦か?」

 

やってしまった。

やってしまった。

これは…質問のしかたがあまりにも悪い。

だから大淀、"この人そういう趣味だったかぁ…"

みたいな顔を今すぐにやめろ。顔に出てるぞ。

「…勘違いするなよ…?お前達に興味はない」

「あっはい。申し訳ございません。えっと…駆逐艦もそうですが、海防艦かと。」

「そうか、つまりこいつは海防艦ってことで良いのか…?」

勘違いされないように、急いで俺の服の裾を掴みブラブラと揺れ、キャッキャと笑う小人を指差す。

「…よっ…妖精さんッ!?!?」

大淀の悲鳴が木霊した。

 

「だよなぁ…」

「え、何故…?え…?」

妖精さんと呼ばれた少女は「なにー?」などと呑気に小首を傾げている。

少しかわいいと思ってしまった自分がいて、スッと顔を背けた。

"妖精"…彼女達を一言で表すなら、良く分からないものである。

唯一わかっていることと言えば、彼女達は鎮守府…それも"ある程度設備が整った"鎮守府にいつの間にやら現れ、建造や改修、あらゆる分野でお世話になる、手のひらサイズの少女であり…正体も好きなものも、何故手伝ってくれるのかすらも不明な、謎だらけの生命体である。

「こんな汚い所に?!」

「おうお前自分の鎮守府に対してずいぶん言うじゃねぇかお前。」

申し訳ありませんと最早土下座でも始める勢いで謝り始めた大淀を無視し、いつの間に手の甲に乗っている妖精の頬を挟む。

「ふにゅ…」

おぉ。プニプニだ。

団子のような触感を楽しみつつ、思考を巡らせる

そう。おかしいのだ。

大淀の言っていることはムカつくが正論で、

こんな汚い施設に妖精が来るとは到底思えない。

「こんな汚いところに良く来たなぁお前…」

「きれいなところあるー」

そういって少女が指差したのは、俺が倉庫に入ったときに軽く整理した机の上。

「そこにも湧くのか…」

俺は苦笑しながら呟いた。

 

「けんぞうをしましょう!」

「あん?」

廊下を歩いていると、

手元の段ボールの中から声をかけられる。

「ひまです」

「…」

「なので、けんぞうをしましょう」

「日本語を話せ」

「けんぞうしたいー!!」

「俺にはやることがあるんだ」

「やだやだやだー!!!!」

ジタバタと駄々をこねる妖精を無視し続けると、

諦めたのか静かになった。

そっと段ボールを盗み見ると、

ポロポロと涙をこぼし座り込んでいる。

「そこまでか?!」

「ていとくさんはきちくです」

「勘弁してくれ…」

新しい艦娘が増えるのはあまり望ましくない。

この鎮守府に来て馴染めるかが不安すぎるし、

それなら来た瞬間に転属届けでも出してやった方がまだ良心的だろう。

「やりたいです」

「新しく来た奴の事も考えてやれよ…」

「ようせいさんのこともかんがえてやれよー」

「ああ言えばこう言うなお前…」

ぼやいていると手足をバタバタさせながら叫ぶ

「おねがいー!!」

「断る」

「いまならおまけもつけるからー!!!」

「…ほう?」

どうやら泣き落としでは通用しないと買収にかかったらしい。

だが、それは俺にとっても好都合だ。

要求次第では乗ってやっても良い。

なので、少しだけ話を聞く姿勢を見せた。

「れあなかんむすけんぞうするからー!!」

「帰れ」

速攻で却下する。

だからその艦娘が要らないと言っているだろ…

「きちく…おに…」

「聞こえてるぞ」

「なら…ならー…ちんじゅふ…きれいにする」

「乗った!!!!」

手の平で妖精…否、妖精様を掬い上げ天に掲げる

あぁ、こいつが神か。

「ようせいさんにおまかせあれー!!」

誇らしげに仁王立ちで胸を張る妖精様。

俺達は鉄の契りを交わした。

 

そのまま廊下を歩くこと数分。

二人の艦娘とすれ違う。

「おっ…おはようございますッ!!」

「おはようございますッ!!」

道の端に避け、一糸乱れぬ動きで

敬礼をするその姿はまさに軍人そのものだ。

俺は鬱陶しげに手を上げて答えると、

無駄だと思いつつも声をかける。

「…挨拶でも言ったがな…堅苦しいのは苦手だ。するのもさせるのも、だ。そこまでしなくても良い」

返ってきたのは予想通りの言葉。

「いえ、そういう訳には。」

「はい、そういう訳には。」

「はぁぁぁぁ…此処は真面目の巣窟か…?!」

大淀にしろコイツらにしろ、ずっと上官として、恐縮され、こんなに息苦しい扱いを受けるのならいっそ憎まれて無視された方が数倍はやり易いし気が楽だ。

そんな思いから聞こえないように呟くと、

まだ幼い二人の少女を改めて見た。

…というか、良く見れば片方のピンク頭は先程食堂で声をかけた艦娘じゃないか。

「…って…あぁ、あの時のピンク頭か。」

また何か言われると思ったのだろうか。

少しだけ表情を曇らせ、返事をする少女。

…となればもう一人は…やはり。

一番最初にこのピンク頭を庇った奴だ。

先の光景がフラッシュバックする。

勘違いとはいえ、自分を守るために、

身を呈して前に出た三人に怒鳴るピンク頭。

あのとき、何故あんな行動をとったのか、

問いただしておく必要がある。

…返答によっては"見切り"も必要だろうな。

「ピンク頭。お前に聞いときたいことがある。"本心"で答えろ」

「本心…ですか?」

唐突な質問。怪訝そうな顔で呟く少女。

茶髪に席を外すよう頼むと、心配なのだろう、

一瞬だけ迷うよな素振りを見せたものの、

ビシッと敬礼をすると、廊下を曲がっていった。

「お前は、あのとき、何故あの三人に噛みついた?」

「…へ?」

訳がわからない、といった様子で声をあげる少女。

「アイツらは…お前の事を庇ったように見えた。

何故お前はその三人に対してあんな目を向けた」

「提督の決定に口を出したと判断したからです」

間髪入れず、さも当然のように口にする少女を眺め、俺は心底目の前の機械の事を蔑んだ。

つまり、コレは自分を守るために身を呈してまで出てきた仲間すら、命令に背けば許さないのだろう。

或いは仲間を売り従順な姿勢を見せることで媚でもうろうとしているのか?

…否、どちらでも良いな。

「…それがお前の"本心"なんだな。」

…期待外れだ。他を当たろう。

あの三人は浮かばれないな。

等と考えながらぶっきらぼうに告げる。

「…話は以上だ。引き留めて悪かったな。」

無駄な時間を使ってしまったことを若干後悔しつつも、先に進もうとした矢先だった。

「…待ってください」

「…」

足を止める。まだ何かあるのか。

面倒くさいが一応話だけは聞く姿勢を見せると、少女は数回、大きく息を吸い込んでから言った。

「私が、叫んだ理由は、私の大切な仲間に、生きてほしかったから…です」

「ほう?」

再び振り向き、改めて目の前のピンク頭を見る。

足や声は震え、額からは汗が滲み、皺になるほどスカートを握りしめていたが、その強い瞳に少しだけ引き込まれそうになった。

「…」

少女は頭を下げ、震えながら言う。

庇ったのは仲間のためだと。

解体され行く自分を庇って解体されるより

一分一秒でも長く生きてほしかったからだと

…それを俺に言うのに、相当な覚悟と勇気を振り絞ったのだろう。

「フハッ…そうか…。そうか…。」

たまらず笑いが込み上げる。

あぁ、三人がコイツを庇うと同時に、コイツもコイツなりに三人を庇っていたのか。

あの叫び声は、提督の判断に逆らった者への叱咤ではなく、共に死のうとした仲間への、文字通り死に物狂いの懇願だったのか。

「ハッハッハ…成程な。そうか。"そっち"か。ふむ。そうかぁ…フッフッ…」

少なくとも、少なくともコイツは提督の命令だからと何も考えず、盲信する訳でも、仲間を売ってでも従順を演じて提督にすり寄ろうとしていたわけでもない。

それどころか、自分の大切な仲間に、庇われ庇う、とても良い関係を築けていたのだ。

「あ、あの…?」

「…良い仲間だ。」

本心からそう告げると、背を向けて歩き始める。

曲がり角で、恐らく心配でずっと聞き耳を立てていたのだろう。茶髪が隠れていることに気付き、余計に可笑しくなって、笑いを溢しながら廊下を歩いた。

 

「ごきげんー?」

「クックッ…いや、まともな奴が居たからな」

勘違いされていたとはいえ、あの四人の絆を見れたのは嬉しい誤算だ。

この腐りきった場所でもちゃんとした奴は居るのだと、ほんの少しだけ希望を持てた。

すると、唐突に妖精が尋ねてくる。

「…まじめなひとはにがてなのー?」

「…ん?あぁ、あのときの小言か?聞こえてたのか…そうだな、真面目は…というより、命令を黙々と遂行するような奴は嫌いだ」

与えられた仕事を只こなすだけの奴は要らない。

何故なら与えられたもの以上の働きを期待できないからだ。

此方の出したものを吟味し、新しい案を提出する。

仮にそれが使えたとしても使えなかったとしても、提出することに意味があるのだ。

現場が一番現場の事を知っている。

俺には考え付かないような作戦が出てくるかもしれないし、採用できない作戦だったとしてもその失敗は成長の糧となる。なによりその姿勢自体が大事なのだ。

うんうんと一人頷いていると妖精さんはずっとぶつくさ呟いていた。

「なるほど…なるほど…」

「真面目が嫌いと言うかな、宿題を出されたらやるのは当たり前だ。変に真面目な奴は出された宿題しかやらねぇ。重要なのは、そこで自分から予習でも復習でも良いから、何か動いてみる奴だ。」

「わかんなーい」

「俺も無茶なお願いをしているって理解してるんだ…だからこれは最終的な理想だな。兎に角ただ命令を受けとるだけの機械なら要らん。」

「…?」

妖精さんには難しかったか。

「わかんないけどまじめなのはいやなの?」

「まぁ、それで良いか…」

妖精さんは何やらにこにこしている。

何だか熱く語って恥ずかしくなった俺は、建造ドックへと足を進めた。

 

「わたしがきた!!」

誰もいない部屋に妖精の叫び声が響く。

こっちが恥ずかしくて思わず睨み付けた。

「なにつくるー?なにつくるー??」

「駆逐艦で頼む。資材に余裕はない。」

一応宛はあるが、大量の資材は期待できない。

だからこそ、開発も運用も少量で済む駆逐艦を注文した。

「まかせろーっ!!」

250/30/200/30 と、文字が表示される。

資材が機械のなかに入れられて行き、中から音がし始めた。

「いまならなんと!!こうそくで!!」

妖精さんは目を輝かせながら何処からか取り出したバーナーで上から内部を炙る。

おいおいおい。何してんだこいつ。

そりゃ部外者が口を出すのはあれだがあんなんで良いのか。

「もやせもやせもやせー!!!」

…駄目な気がする。

そんな俺の心配通りに、チーン…というレンジのような音が鳴った。

「御臨終…か…。」

手を合わせる。

ごめんな、こんなほっぺた団子に任せて。

対する妖精さんはご機嫌そうに言った。

「しんぱいなさらずとも!おいのりなさらずとも!!いまだけ!!ていとくさんに!!ていとくさんのすきな!!しかもれあなかんむす!ぷれぜんとー!!」

こいつは何を言っているんだ?

首を傾げると、ガコンと音がして、扉が開く。

煙と共に出てきたのは中々にクレイジーな格好をした幼い少女だった。

「駆逐艦島風です!スピードなら誰にも負けません!速きこと、島風の如し、です!」

『…まじめなひとはにがてなのー?』

そんな妖精野郎の言葉が脳裏に思い浮かぶ。

これ以上ないくらいのどや顔を浮かべる妖精。

「なんかやべぇやつが来たんだが!?」

俺の叫び声が、新たな客人が来た部屋に響いた。




妖精さんって凄く可愛くないですか?
めっちゃ可愛いと思うんです!!
ドーナツとか食べ物あげて撫で撫でしたいなって…
ともあれ三話目でございます!
こんな駄文でも楽しんでいただけたら良いのですが…
これからも、彼らの生活をどうか優しい目で見守ってやっていただけると幸いです!!

追記
同じような台詞ばかりが続くので、少し台詞を変えてみました…が…提督目線になっただけで全く同じ展開なんですよね…本当実力不足で申し訳ないです…。
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