ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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それぞれの正義

ー時は少し巻き戻るー

左腕を押さえ、身体を引きずるようにして、

医務室に入る男が一人。

中に一人の少女がいたが、彼と目が合うと、

ヒッ、と、悲鳴を漏らして、

すぐに執務室から出ていった。

『あっちょっ…!』

バタン、と閉められた扉を見てため息をつく男

…もとい、提督。

『包帯はどこかくらい…教えてくれよ…』

響に刺された左腕からはまだ少し血が滲んでいる

男はソファーに倒れ込むと、上を見上げ、

少しだけ疲れたようにぼやいた。

 

妖精が通りかかった時、

彼はちょうど棚から包帯を引っ張りだし、

腕に巻き付けている所だった。

口で片側を押さえ、乱暴に巻き付けるものだから

必要以上に圧迫され包帯が

どんどんと赤色に染まって行く。

慌てて妖精は駆け寄った。

『な、なにをして…これは?!』

『…タマか、大したことねぇよ』

『なにをいってるんですか!!』

そっと包帯に触れる妖精。

男は痛みから少しだけ顔をしかめた。

『あっ、ご、ごめんなさ…』

慌てて手を引く妖精の頭を撫で、

男は澄んだ瞳で笑う。

『心配してくれて、ありがとな、タマ。』

『…』

彼女は笑い返さない。返せるはずがない。

ただ、その包帯と、血の痕を眺め。

憎々しげに顔を歪ませ、ポツリと。溢した。

『だれに、されたの、ですか』

『転んだだけだ。気にするな。』

『…うそですよね?』

『………気に病むな。大して気にもならん。』

…嘘だ。あまりにも分かりやすすぎる嘘だ。

だって、貴方は、今。

とても、辛そうな顔をしているから。

まるで世界全員が敵になって、

独りぼっちになってしまったような。

そんな目をしているから。

お願いだから、そんな顔で、笑わないで。

『ていとくさんッ!!!!』

涙に濡れたその瞳をみて、男は目を見開く。

『だれにッ!!されたのですかッ!!!

こんなッ!!!こんなことって…!!』

『タマ…』

『ゆるせない…ゆるさない…ッ!!』

『タマ!!』

咎めるように。諭すように。

大きな声で私の声は遮られた。

…何故恨み言すら吐かせてくれないんだろう。

…何故貴方はいつも一人で抱え込むんだろう。

『ありがとな。でも、俺は、大丈夫だ。』

そっと抱き寄せられる妖精。

『…はなしてください』

『…お、おう。』

彼の知る妖精らしからぬ冷たい声に、

男は思わずそっと手を離した。

『もうわかりました。あなたは、そこまでしてあのかんむすたちをたいせつにするのですね』

『…あぁ。それが俺の生き方だ。』

『…じゃあ、いったいだれがあなたをたいせつにしてくれるんですかね。』

その言葉で、反射的に固まる男。

妖精はフイ、と顔を反らし、

すぐに部屋から飛び去っていった。

『…俺は、大丈夫なんだよ…タマ。』

男の虚しい呟きは、一人きりの部屋に溶ける。

 

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「 は ぁ ぁ ぁ ? ! 」

空気がビリビリと震え、

彼女ら三人は身体を硬直させた。

その小さな体躯から出るのは凄まじい殺気。

怒り、悪意、悲しみ、憎悪、憎しみ、

あらゆる負の感情を混ぜ合わせたような圧に、

思わず彼女たちはたじろいだ。

「まもる?だれを?だれから?おまえたちが…?

…ふざけるなッ!!!!!」

大きな怒声が響き渡り、

かつて無いほどの眼光で艦娘を睨み付ける妖精

「きずつけていたのはおまえらだ!!!

くるしめているのはおまえらだ!!!

もういい!もういい!!これいじょうおまえたちのかおをみたくない。こえもききたくない。

いますぐに、このわたしがじきじきにおまえたちをしずめてやる!!!」

身体を震わせるような轟音と共に、

連装砲から砲撃が出される。

島風の近くに落ちたそれは、

その圧倒的な威力で水をえぐり、

近くの島風を軽く吹き飛ばした。

「きゃっ…!?」

「島風っ!!!!」

「この威力…まるで…戦艦じゃないか…!?」

「ははははははは!!!!!」

連装砲の小ささで、島風ほどの速度で。

戦艦ほどの圧倒的なまでの攻撃を放つ。

「そんなの無茶苦茶だよ…っ!」

思わず、島風の口から、弱音が溢れた。

「さぁ、つづきをはじめましょう。

あなたたちはさいごに、

なんといってしずむのでしょうね。」

迫るのは絶望。

荒れ狂う波の中、三人の小さな艦娘達は、

疲れた身体にムチを打ち、再び海原を駆ける。

 

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「ようやくボスのお出ましか?」

提督が笑うと、男も小さく鼻で笑い返した。

「お互い、敵が多い身らしいな。」

「…あん?」

「左腕はどうした?」

不意に男の左腕を掴み、自分の方に寄せる男。

捲られた袖から、

じわじわと赤く濡れていく包帯が見えた。

「…チッ!!」

提督が振った腕をひらりとかわし、

クックックと心底おかしそうに男は嗤う。

「提督様ともあろうものがこんな怪我をするとは思えない。…艦娘にでも刺されたか?」

「…」

「図星か。憐れだな。そこまでして何故守る?」

「お前にゃ関係ねーよ!」

繰り出された拳を避けながら、

男は提督の腹に膝を食い込ませた。

「ガッ…」

「下らない正義だのなんだのにとりつかれるお前じゃないだろう。先ほどエゴだのなんだのと言っていたのだからな。だから、そんなお前に一つだけ教えておきたいことがある。…俺達は正しいことをしている。俺たちの行動は正義だ。」

「面白い冗談だな。年端もいねぇ餓鬼を

糞に引き渡すことが正義だってのか?」

「お前は何も知らないだけだ。

…艦娘ってのは、富豪には高く売れる。」

「それがどうしたッ!」

叫ぶ提督の蹴りを受け止め、蹴り返す。

「グッ…!!」

「この街にはな、孤児院があるんだよ。

親に捨てられたり、虐待されたり…そういった子供を無償で引き取り、育てているのがあの施設だ。」

丘の上の、小さな建物を指差す男。

「ところがこのご時世だ。

慈善活動なんざ誰もしてくれない。

途端に経営難になった孤児院は、

潰れるしかなくなってしまった。」

「だから艦娘を売らせろってか?」

「…アイツらにはストックがあるんだろう?

そもそも、路頭に迷えばあの餓鬼共に待っているのは"死"だけだ。

…だが、売られたところで、死ぬ訳じゃない。

むしろ、戦線から撤退できる上に、

気に入られれば最高の暮らしが保証される。

替えの効く一人の化物の暮らしと、

替えの効かない大勢の人間の命、

どちらを優先すべきかは分かる筈だろう?

というか第一、お前たちが何年も何年もこの戦争を長引かせ、中々終わらせないせいでこの様なことが起こるんじゃないのか?」

最早足元が覚束なくなっている提督の胸ぐらを掴み、殴り飛ばす男。

「国から高い金を貰い、ぬくぬくと暮らす提督様には分からない話かもな。」

「………」

「俺はあの場所に恩がある。

俺はアイツらに兄と呼ばれている。

あの場所と、あの餓鬼達を守るためなら

どんな方法だって取るさ。

ここに揃っている連中は、そういう奴らだ。

恥ずかしい話、中には邪な考えで参加している人間がいることは…否定できないがな。」

壁に叩きつけられ、ずるずると座り込む提督の側に歩み寄り、男は手を伸ばす。

「なぁ、あんな奴等、守る必要なんてあるか?

お前は、刺されたんだろう?

減った分は作り直せば良い。

というか、そもそも、売られた先にあるのが不幸と決まった訳じゃない。

…なぁ、俺らに協力をしてはくれないか?」

 

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「あなたにはしんそこげんめつしました。」

島風が、身体を硬直させる。

「あなたはそうやって、

ずっとゆるしつづけるのでしょう。

あのひとがゆるしたから。

あのひとがきにしてないから。

そうやって、あのひとがすりきれて、すりきれて

いつのひか、かんぜんにきえてしまっても、

あなたはかれにちゅうじつにしたがうのでしょう

なくなったあのひとは、

こんなことをしてもよろこばない。と。」

憎々しげに、島風を睨み付け、妖精は吼える。

「すべてをゆるすことが、

かならずしもただしいとおもうな!!

ゆるすのがあなたのおもうせいぎなら、

ゆるさないことこそが、わたしのせいぎだ!!」

 

「散々殴ったことは謝る。

俺たちがこんなことをいってお金を騙しとろうとしてると思うのなら、お前が代わりに金をあそこの孤児院に届けてくれたって良い。」

優しい声色で、そっと手を差しのべる男。

「手を取れ。提督。

俺たちには、俺たちの正義があるんだ。

きっと、お前と俺達は、上手くやっていける」

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