「グハッ…?!」
金属バットが地に落ちるカランという音。
男の声と、吹き飛ぶ音を聞き、
提督は腫れ上がった顔を上げる。
「そこまでにしてくれるかしらぁ~?」
「死んだら何にもならねぇぞバカ野郎…ッ!
だが…お前の覚悟は伝わったぜ」
「龍田…天龍…?」
心底不思議そうに呟く提督を庇うようにして立つ
2対の、人の形を模した"竜"が居た。
「立たなくて良い。寝てろよ。
ったく…一人で格好付けやがって…」
ため息をつく天龍。
「天龍ちゃん、涙声よ~?」
「うるせぇよッ!!!」
茶化されて顔を真っ赤にするが、
提督はそんなこと気にする余裕はない。
「なんで、お前ら、此所に…」
「なんだ?!お前ら?!」
提督の呟きを遮り、一人の男が大声を出した
「天龍型一番艦、天龍」
「天龍型二番艦、龍田」
「これ以上"俺の"提督を傷付けるなら、
先ずはこの俺様が相手だ!!」
「"私の"提督が随分とお世話になったのね~?
…これは御返ししないといけないわぁ~」
刀と、薙刀が、
まるで提督を守るかのように交差された。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「まったく…ゆだんもすきもありませんね」
パタパタと埃を払うような仕草をする妖精。
だが、彼女が言葉を失った理由は他にある。
「………」
此方に主砲を向ける、"二匹目"の連装砲。
「はそんもしていますし、のりかえました」
「…アッハ。何でもありだね。ホント。」
「わたしはあなたたちとはすこしだけ、
ちがいますから。たしょうの"むちゃ"が
きくんですよ。」
今まで蓄積されたダメージが零になった。
それだけじゃない。
最早、強者特有の"余裕"は消え失せた。
唾を飲む島風。
「…島風。」
「アタシらのこと、忘れてないかい?」
肩に置かれる手。
慌てて振り向くと、
二人は呆れたような笑みを浮かべていた。
「一人で戦っている訳じゃない。
私達にも、もう少し頼ってほしいね」
「一人で突っ込むのも良いけどさ
戦場では協調も必要なんだけどなー?」
「でも…」
どれだけダメージを与えても、
乗り換えられるなら意味がない。
足元の連装砲を見る。
もし乗り換えられるのが連装砲だけでなければ?
もし魚雷に乗り換えられたら?
もし彼女等の艤装に乗り換えられたら?
「…さぁて、ここいらで
先輩としての威厳を見せないとなー」
「…君の弱点は見破った。
反撃の時間だ。妖精…いや、タマさん。」
響の言葉に、島風は目を見開く。
同時に、妖精も眉を動かした。
「…じゃくてん?」
「島風!彼女から目を離すな!!」
その声で、妖精に視線を戻す島風。
対する妖精は、苦々しそうに歯を噛み締めた。
「君が"力"を行使する前兆は必ずあったんだ
砲撃によって立てられた水柱。
その直後に、君の姿が消え、
大量の深海棲艦が現れた。
手を叩き、私達の注意が反れた瞬間、
あれだけいた深海棲艦が跡形もなく消滅し、
戦艦顔負けの破壊力をもつ連装砲が現れた。
私達がノイズの音で、辺りを見渡した後に、
その不思議な"腕"が現れた。」
後ずさるように、下がる連装砲。
「不思議だね?
私達が君から目を離したり、
君に注意を向けていなかった後には、
必ず"不思議な事"が起こったんだ。」
距離を詰めるように、淡々と言葉を紡ぐ響。
「ここから導き出される答えはただ一つ。」
「君は、誰かに目撃されている状態では、
その"力"を行使することができない。」
『企業秘密だから"目を反らしてください"』
ー部屋を掃除した際の、
妖精の言葉が思い返されるー
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ひ、卑怯だぞ!!」
吼える男と、笑う龍田。
「ふぅん?自分は沢山のお友だちと虐めるのに
二人増援が来るだけで卑怯になるの~?」
「お、お前らは化け物だろうが!!」
「人間一人にも数人で襲いかかってたわよね~」
言葉に詰まる男。
天龍がニヤリと笑いながら言う。
「安心しろよ。俺達は艤装なんか展開しねぇ。
これなら一般人より少し力が強い程度だ。」
そうだ。彼女らは、艤装を展開しなければ、
ただの一般人とは何ら変わりない。
…だが。その筈なのに。
「お前らなんか艤装を展開する価値もねぇよ。
さっさと終わらせるぞ!龍田ぁ!!!」
「ふふふふふ~死にたい人から順番に
前に出てきてくださ~い?」
その威圧感は、歴戦の猛者のそれだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ずに、のるなァッ!!!!」
手が一直線に響へと伸びる。
それらを撃ち落とした響と、
入れ替わるように長波が連装砲へ肉弾した。
「近距離戦なら、島風より私の方が強いぜ!」
「君は接近戦が弱いわけではないが、
遠距離と比べれば近距離の方が勝機がある。」
「ッ!!!!」
伸びる手を掻い潜り、
ニヤリと笑う長波の主砲が火を吹く。
「島風!回り込め!絶対に視線を反らすな!」
響が島風と対になるように動きながら叫んだ。
その速度を活かし、直ぐに回り込む島風。
「…っ!」
そちらに"腕"を伸ばす余裕はない。
油断している今なら引きずり込むのは
容易だろうが、目の前の艦娘が邪魔だ。
何度も舌打ちをしながら、
目の前の艦娘を憎々しげに睨み付ける妖精。
姉妹艦を二度も失った響は、
ひたすらにある技能を磨いていた。
砲撃でもなく、雷撃でもない。
改装も補給もされない使い捨ての艦が
そんなものを磨いた所で何もできない。
ならば、何を磨くか。
何をすれば、姉を守ることができるのか。
彼女が辿り着いた結論は、
"指揮"と"観察"だった。
「どれだけ私が足掻こうと、私の自慢の姉はきっと私を庇ってしまう。なら、いっそのこと、後方で的確な指示を出した方が生存率は上がる。」
今回も彼女はそうだった。
島風に庇われ、長波に護られながら
ひたすらに相手を観察し、分析していたのだ
「これが、あの地獄で、私が辿り着いた答えだ」
「どれだけあがこうが、
おまえたちのさきにあるのはぜつぼうだ!」
「アンタさぁ、アタシらのこと舐めすぎ。」
言葉に詰まる妖精。
「まぁそうだよな。攻略法が分かったとは言え
状況は最悪、お世辞にも好転したとは言えない」
だが、長波はこれ以上無いほど嬉しそうに笑う
「でもな、あの地獄を体験した私達にとっちゃ
"これ以上状況が悪くならない"ってのはさ、
これ以上無く安心できるんだよ。」
毎日貶され、罵られ、怯えながら暮らしていた
殴られたことだって何度もあった。
自分達に明日はあるのか、
明日はもっと悪くなっているんじゃないか。
何度だって、明日が来なければ良いと願った。
だから、今の状況は。
二人の仲間と共に、
海に立っていると言うこの状況は。
「生ぬるい絶望だねぇ…。
そんなもんでこの長波サマが
折れるとでも思ってんのかい?」
呆れるように、誇らしげに、笑みを浮かべた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「悪かった。もっと早く助けりゃ良かったんだ」
天龍が、下唇を噛むようにして言う。
「それどころか
殺そうとしていたわけだしねぇ~」
龍田のそんな言葉で、提督はふっと笑った。
「…成程な。つけられていたのは俺も、か。」
「悪かったよ…馬鹿な考えだった。
こんなこと考えたのは俺だ。罰なら俺が…」
「そんな事は良い。
それに、お前らが強く望むなら俺はー」
男の言葉は、口に当てられた指で遮られた。
「今の発言はナンセンスねぇ~…。
好感度があるならだだ下がりよ~?」
「龍田…」
「バーカ。お前が死んだら泣く奴が居るんだろ
…そんな簡単に自分を殺すんじゃねぇ。」
「天龍…」
走ってくる男の腕を捻り上げ、
間接部分に攻撃を加える龍田。
「ぐぁぁぁっ…!!」
「泣かないの~。骨が折れただけでしょう?」
男達は悲鳴を漏らしながら下がった。
「俺達の剣はお前なんかのためにあるんじゃねぇ
お前ら全員半殺しだッ!!!!」
天龍の咆哮により、糸が切れたように、
男達は半狂乱になりながら襲いかかってくる。
「貴方はそこで寝転がっててねぇ~。
すぐに終わらせるわぁ~。」
「ふふ、怖いか?だがな、
朝潮はもっと怖かったろうなッ!!」
艤装を展開していないとはいえ、
普段から戦いの中に居る艦娘と
平和ボケした一般人ではその差は歴然だ。
あっという間に制圧され、
彼等は地面に寝転がされていた。
それらを冷たい目で見つめる龍田。
やがて騒ぎを聞き付けたのか、
町の人間達が走り寄ってきた。
「な…何てことを…」
呟く男。その背後では、
沢山の人々が驚愕の瞳で此方を見つめている。
「…弁解はしねーが、先に手を出したのは…」
だが、何故か頭をかく提督の脇をすり抜け、
今も気絶している男を蹴り飛ばす男。
「何てことをしてくれたんだよ…お前…ッ!」
その光景を見て、提督はスッと目を細める。
「そ、その怪我…すぐに手当てを!」
駆け寄ってくる他の人間を嫌そうに眺め、
男はため息を吐き怒鳴った。
「黙れよ。不愉快だ。」
「そ…それは…」
「俺は"そういう奴"が一番嫌いだ。
自分じゃ動かねぇ。動けねぇ癖に、
敗者が決まると大きな声でそいつを糾弾する。
お前らが何をしたんだ?
施設にいる子供の何人かは、
お前らが捨てた餓鬼なんじゃねぇのか?
こんな寂れた街に外部から餓鬼を預けに来る奴が居る訳ねーだろ。
助けもせず、ただ傍観して、…そんなだからコイツらがこんな行動を取らざるを得なかったんじゃねーのか?
俺はな、お前らみたいなタイプの人間よりは
間違ってたとしても、曲がってたとしても
誰かのために、自分の信念のために向かってくる奴の方が好きだよ。」
転がっている男を見ながら言い切ると、黙り込む町の人々に背を向けた。
「今回の件は不問とする。
だからな、コイツらに手を出したら許さん」
歩き出す男の背を追いかける龍田達。
「…何でこんなスムーズに
誤解が解けたのかしらねぇ…?」
龍田の呟きは、風にのって消えた。