ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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敗者の処遇

「タマさん、なんとかなる…よね?」

ベッドで横になる男を見て、

心底心配そうに呟く島風。

だが、妖精は返事をしない。

「…タマさん?」

再び呼び掛けた島風を睨み付けると、

彼女は叫ぶかのように言った。

「にんげんはゆうきぶつです。わかりますか?

ものじゃないんですよ。

…かんむすのようにはいきません。

かれらは、けがをすればなかなかなおりませんし

もろく、すぐにしんでしまうんですよ。」

「そんなっ…!」

立ち上がって叫ぶ朝潮。

だが、それを遮るように妖精が続けた。

「"けがのかんち"にはじかんがかかります。

ですが、いまはすいみんぶそくやえいようしっちょう、そのたもろもろでたおれているだけです」

胸を撫で下ろす一同。

「…でも、きけんなことにかわりはありません

めんかいしゃぜつです。でていってください。」

「で、でも…」

手を握ったまま、荒潮が呟く。

「良いよ。行こうか。」

最初に席を立ったのは、響だった。

「君達とは話があるからね。

…ここじゃあれだ。席を外そうか。」

「…だねぇ。…ついて来るよな?」

「………提督…。」

敵意を隠そうともしないまま、部屋から出ていく

響、長波、島風の三者。

壁にもたれ掛かっていた龍田が溜め息をつき、

追いかける彼女につられるようにして、

ゾロゾロと全員が部屋から出ていく。

バタンと扉を閉めると、妖精は男に向きった。

ちょうど唸り声を上げながら起き上がる提督を泣き笑いのような表情で見つめ、語りかける。

 

「ん…ぁ?何処だ…ここ?」

呂律があまり回っておらず、声も掠れていた。

「おはようございます。」

そんな彼を見て笑みを浮かべる妖精。

だが、男はあまり状況が把握出来ていないようで

「タマ…?」

「はい。」

目をぱちぱちさせる彼を見て溜め息をつく。

人がどれだけ心配したと思っているのだ。

「いっつつ…」

「からだはうごかさないでください。

まったく…なにをしているんですか。」

「あぁ…そうか…俺は…」

手を天井に向けゆっくりと伸ばす男。

「そうか、今度は守れたのか。」

妖精は眉をひそめた。

「…なにを…いっているんですか?」

「俺は、守れた、守りきれたんだ…

ははは!!こりゃあ、良いな。あぁ…そうー」

「なにをいっているんですかッ!!」

珍しく大きな怒声を聞き、提督は動きを止めた

「…タマ…」

「こんなにぼろぼろになって!

なにがまもれたですか!!

あなたはほんとうになにもわかっていない。

わかっていない!!!

あなたは!あなたはわたしのたいせつなー」

「俺の物はな、俺が守るさ。」

その言葉で、動きを止める妖精。

「アイツらはもう十分苦しんだ。

守りたくもない人間の屑すらも

身体を張って守り続けた。

…今度はコチラの番だ。

これ以上は泣かせない。

これ以上は苦しめない。

俺の全てで以て、アイツらは俺が守るんだ」

その、強い瞳を見て、妖精は呟く。

「…それが、あなたのこたえですか。」

「そうだ。アイツらは俺が守る。

例え何があっても、俺がどうなったとしてもな」

「…わかりました。わかりましたよ…。

………はぁ。わたしの、まけですね。」

クスリと、寂しそうに笑う妖精。

「…?」

男が不思議そうに妖精を見つめていると、彼女は男の身体をそっとベッドに横たえた。

「…タマ?」

「いまはゆっくりおやすみなさい。」

不思議と、深い眠りに引き込まれる男は、ゆっくりと瞼を閉じていく。

 

妖精はふう、と溜め息をつくと、意を決したように

ふよふよと部屋から出ていった。

「タマさん。」

後ろからかけられた、島風の声を聞き、彼女はゆっくりと振り返っていく。

「…なにかごよう…

…いえ、ちゃばんはふようですね。」

諦めたような笑いを浮かべ、

三人の艦娘と向き合う妖精。

 

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「ふっざけんな!!!!」

部屋から出ていき、一部始終を聞き終わった

長波は机を乱暴に叩いて立ち上がった。

「それって…つまりあれだろ?!

アンタは、アンタらは提督があんなになるまで"傍観してた"ってことだよな?!」

「長波ちゃん…」

島風が諫めるような声を出す。

だが、それでも彼女は止まらない。

「あんなっ…あんなボロボロになるまで…

提督は一人で頑張ったのかよ…!!

んで…それをただただ眺めてたのかよ!!」

涙目になりながら部屋から出ていく長波。

それを見送ったあと、天龍はまるで自虐するかのように笑い、残った二人に尋ねた。

「お前らは良いのかよ?」

「…貴女達が助けてくれなかったら、提督はきっともっと酷いことになってたから。」

ふるふると首をふった島風だが、

天龍はそれを鼻で笑うと続ける。

「もっと早く助けたら良かったんだ。

もっと早く手を差し伸べれば良かったんだ。

こいつは本当に信用に足りるのか、

これも実は演技なんじゃないか。

疑い始めたらキリがなくなっちまって…

でも、もしあそこであぁなる前に俺達が…!」

「その感情はわからなくもないからね。

…いや、もしかしたら、

直接危害を加えた私の方が酷いかもしれない」

顔を伏せた響と対称的に、

真っ直ぐに前を見つめる島風。

「…私達は"やらないといけないこと"があるの

だから、この話は一旦おしまい。

…長波ちゃんは、私たちに任せて。」

後を追いかける二人。

天龍と龍田は深く息を吐いた。

 

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「さきほどのつづきですか」

世界に再びノイズが走り、

辺りをピリピリとした空気が支配する。

そんな中、島風は妖精に向かって手を差し伸べた

「…どういうつもりですか?」

伸ばされた手を見て、

困惑したように此方をみる妖精。

「…あんなことしておいてあれだけど…

もしかしてタマさん、

本当に大淀に何もしてないの…?」

島風の声に、妖精は言葉を失った。

 

「そもそもが可笑しいんだ。

私が提督を傷付けて彼処まで怒る君が、簡単に艦娘に、彼の物に手を出すとは思えない。」

「さっき大淀と話してきたよ。

…あれは間違いなく大淀だった。

私達…そこそこの古参しか知らないような情報も知ってたからね。」

響と長波の言葉を聞いて、妖精は苦笑する。

「でも、わたしがおおよどになにかしたと

ほのめかすりゆうがないじゃないですか?

なにもしていないなら、ひていすればいい」

「これは私の予想だけど…。

響ちゃんと…私達と戦うためにわざとあんな態度を取ったんじゃないの…?」

黙る妖精。

「アタシ達が何か勘違いをしていた様だから

あえてそこに乗った…ってことだろ?

そうすれば、お互い遠慮なく戦うことができる」

「無言は、その態度は、肯定と同じだよ。」

だが、彼女の目は緩まない。

目の前の三人を睨み付けながら、小さく言った。

「…なにがいいたいのですか?」

「貴女が大淀に何もしていないなら、

私たちの戦う理由は一つ減るよね。」

「………」

「タマさん、私達は、君と戦う理由がない」

「こちらにはある…といえば?」

ノイズがだんだんと大きくなっていく。

それでも島風は怯まない。

「そう、貴女が私たちを襲うなら、

戦う理由ができてしまう。

…だから、交渉だよ」

「…こうしょう?」

「今回の響ちゃんの事、許してあげて。

そうすれば、私達も提督に貴女の事を言わない。それに、貴女とも敵対しない。」

その言葉で、独り言のように、妖精は呟いた。

「そうすれば、わたしたちは、

たたかわずにすむと?」

「………。」

「ふざけるな。おまえたちにたたかうりゆうがなくても、わたしにはたたかうりゆうがある。

おまえたちだっておこっていただろう。

おまえたちだってせめていただろう。」

段々と声が大きくなっていく。

ゾワゾワと彼女たちの毛が逆立っていく。

ノイズが割れんばかりに大きくなっていきー

やがて、プツリとそれが途絶え、妖精は笑った

「…と、いうとでもおもいましたか?」

「へ?」

「……こんかいだけです。

こんかいだけは、みのがしてあげましょう。」

島風の手を取り、言って見せる妖精を見て、

島風たちは目を見開いた。

「勘違いでも、傷付けてごめんね。

沈めようともしちゃったし。」

「だいじょうぶです。

それよりも、わたしは"やること"があるので」

背を向ける妖精の背中に、響は言葉を投げ掛けた

「提督が本当に好きなんだね…君は…」

「…ふふ、そうですね。だいすきですよ。」

一瞬だけ止まり、それだけ言うと、

妖精はふよふよと何処かへ飛んでいく。

島風達は、気づかない。

「だいすきです。そうにきまっています。

だって、かれはわたしの、たいせつなー」

"お人形さん"なのですから。

その小さな声に。

ニタニタと、気味の悪い笑みを浮かべていることに

誰一人として、気付かない。

『勘違いでも、傷つけてごめんね。』

「だいじょうぶです。

だいじょうぶなんですよ。」

勘違いなどではないのだから。

何一つとして、間違っていないのだから。

「かのじょはほんとうにゆうどうしやすい…

ばかなのはたまにきずですが…

りようするかちはじゅうぶんにあります。

…しかしあせりました。

かのじょへのひょうかは…すこしあらためるひつようがありますね。」

本当に、危なかったと妖精は嗤う。

あまりの愚かさに一瞬してやられたが、

 

…所詮愚者は愚者に過ぎないのだから。




夜も更けた頃。
「ふぅむ…。これが"けいたいてれび"か…!」
初春はキラキラとした瞳でそれを眺める。
「すごいのぅ、すごいのぅ!」
「お前は俺を看病に来たのか?
それとも俺のオモチャで遊びに来たのか?」
重症の提督を見た時雨と夕立が発狂したり、
電雷暁に包帯で全身をぐるぐる巻きにされたり
紆余曲折、様々な事はあったものの、
一日交代で提督の看病をすることになった。
響、雷、電、暁、島風、朝潮、荒潮、時雨、そして何処からかやってきて面白半分に参加し始めた初春からなる初日の看病じゃんけんに勝利したのは、まさかの初春という結果に終わったのだ。
「見よ提督!妾は知っとるぞ!
これはにゅぅすというんじゃろう?!」
「ニュースな。ニュース。」
「にゅぅす」
「言えてねぇー…全然言えてねぇー…!」
「なんじゃ、うるさいのぅ。
…あまり細かな男は嫌われるぞ!」
「おいやめろ。扇子でペシペシするな。
痛ぇ…なんだおい地味に痛いなやめろ」
笑う彼らは、ニュースの内容に耳を傾けない。

…本日未明、一人の男性がトラックと接触、
意識不明の重体となりました。
サングラスをかけたその男性は、
孤児院に向かう途中、
何やら叫びながら道路へと飛び出し、
そのままトラックに跳ねられた模様です。
警察は麻薬などの疑いもあると見て、
捜査を進めております。

彼がニュースを見ていたなら、
それが昼に会った人間であると分かっただろう
テレビでは、たくさんの子供に囲まれ、
白いベッドに横たわる男の姿が映されていた。












その端に一瞬だけ、
満足そうにニヤニヤと笑う小さな"小人"が映っていたことにも。
誰一人として気付かなかった。

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