ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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回り出す歯車

「すやぁ…」

目が覚めると、隣にはまだ幼い少女が寝ていた

おかしいなと思い、目を擦る。

「…にゅぅ…」

帽子を被ったその少女は、

"暁"と呼ばれる駆逐艦だった。

 

「可笑しいな…初春が…」

「おや、お目覚めか。寝坊助じゃのぅ。」

ドアを開け、現れた初春の手元には、

まだ湯気が出ているお粥があった。

「…コイツはどうしたんだ」

「仕方なかろう。昨晩夜遅くに来たかと思えば一緒に寝たいだのなんだのとぴーぴーぴーぴー…」

コト、と机にトレイを置き、

此方に粥を持ってくる初春。

「ほれ、食えるか?」

「要らん。塩だ。塩を持ってこい。

そもそもお粥って何だよ風邪じゃねぇぞ…」

「ほーう…要らんじゃとー。"電"。」

「…は?」

中に入って来たのは、

目を潤ませながら此方を見てくる電。

「おい、初春、まさか、お前、」

「可哀想にのぅ。」

「ご…ごめんなさいなのです…」

「いや!!食いたい!!食いたいなぁ!!!

お粥をありがとうな!!!ピッタリだわ!」

消え入りそうな声で謝るものだから、

此方としてもお粥を掻き込むしかない。

「ぐっ…」

「水じゃ。」

渡された水を喉に流し込む。

「死ぬ…かと…思っ……」

「そんなに急ぐな。粥は逃げんぞ。」

こっこっこと笑う少女を恨めしげに眺め、

入ってきた響達を見て首を傾げた。

「…いつもの四人組じゃねぇか。どうした?」

「どうしたって…看病に来たのよ!」

「司令官。失礼するよ。」

スッと俺の額に自分の額を当てる響。

「…ふむ、熱はないようだ」

「熱じゃねぇよ!!」

「やってみたかったのさ」

何故かは分からないが頬を染めながら言う響。

そこでようやく初春が状況を説明した。

「こやつらが言うにはな、一日交代で看病とは言ったが、その手伝いをしてはいけない、部屋に来てはいけない等というルールはなかったと」

「司令官!頼っていいのよ!」

「な、なのです!」

「暁は布団から出ようね。」

「ぐっ…?!ぐー…ぐー…」

何故か怖さがある笑顔を浮かべる響と、

わざとらしい寝息を立て始める暁。

お前起きてたのかよ。じゃあ退けよ…。

「暁。降りろ。十秒数えるから降りないと撃つ」

「響は何があったのよっ!!」

「日に日に司令官好きが

悪化している気がするのです…」

「司令官?司令官?!頼っていいのよ?!」

ガバッと起き上がる暁と、溜め息をつく電

雷はいい子だから人の服を引っ張るな…

賑やかになった救護室で俺は溜め息をついた。

 

「それじゃあ、妾は帰ろうかの?」

「はっ?!コイツらを置いていくと?!」

「なんじゃ御主、

そんなに妾に看病されたかったのか?」

テシ、と扇子で頬を叩かれる。

「そうじゃないが…」

「気になることがあってのぅ…

妾の分は終わりじゃ。後は頼んだぞ。」

そういい部屋をあとにする初春。

「「「「司令官(さん)!」」」」

四人の声が重なる。

 

「…司令官、そんなんじゃだめよ!」

「うるへぇ…もう食えるか…」

腰に手を当てて頬を膨らませる雷。

だがお前な、もう俺は米を三合くらい食ったわ。

俺は少食なんだぞ。そろそろ戻すからな。

胃が返品しようか本気で迷い始めてるんだからな

「司令官、肩でも揉もうか」

「いや大丈夫だ」

「…硬くて…ん…良いね。悪くない。」

「話聞いてる?」

だからなんで頬を染めるんだ頬を。

本当に響はどうしたんだろうか。

何故か俺の知らないところで

好感度が上がってる気がするのは気のせいか?

「あの…あのあのあのあの…」

「焦らなくて良い。」

電はまだ"提督"という存在がトラウマなのか、

あとのの二文字を交互に繰り返すだけの

壊れたラジオのようになってしまっている。

「あ、暁に出来ることはないのかしら…?!」

ただうろうろと俺の回りを彷徨いては

涙目で辺りを見渡し、何か出来ることを探す暁

お前が一番助かるよ。

だから頼むからそのまま何もしないでくれ。

「だぁぁぁぁ…誰か助けてくれ…」

俺の小さな呟きは、

賑やかな執務室には響かなかった。

 

「…失礼するわ。」

ガチャリとドアを開け、加賀が入ってくる。

「加賀か。」

「どうしたのかしら?」

雷を見て溜め息をつくと、加賀は冷たく言い放つ

「邪魔なら邪魔と言うべきね。」

「じゃあお前が言えよ」

「貴女達、提督は疲れているんだから…」

「ふぇ…」

「な、なのです…」

涙目になる暁と電を見つめ、固まる加賀。

「どうした?言わないのか?」

ニタニタと笑みを浮かべてやると、

ベシッと背中を叩かれた。

「おま…っ!怪我人だぞこちとら!!」

「よく考えてみれば、

もう少し介護が必要なようね。

…もっと手伝ってあげて」

「おいお前何を」

「頼って良いのよっ!!」

「電の本気を見るのです!!」

「レディにはそれくらい余裕なんだから!」

「あぁ。任せてくれ。」

顔を覆う。それは反則だろ…。

「で、何の用だ。」

「あら、用がなければ来ては駄目なのかしら」

シレッと言う加賀を見る。

「…冗談よ。そんな顔しないでもらえるかしら」

お前はずっと真顔だからわかんねーんだよ…

不満そうな顔を浮かべた俺と対照的に、

相変わらず澄ました顔で淡々と報告をする加賀

「良い知らせと悪い知らせ。

どちらから聞くのがお好み?」

「良い知らせから頼む。」

「そう。じゃあ良い知らせよ。

朝潮、荒潮のお陰で、駆逐艦で貴方を傷付けるような艦はもう居ないと思うわ。

軽巡洋艦も同様。広くパイプを持っていたり、リーダー格の艦娘から接触を図ったのは正しいと言えるわね」

「別にそんな打算があるわけじゃねぇよ」

「知っているわ。貴方はそんなに器用じゃない。

それにね、ある意味駆逐艦の方が、

人の"下心"…というのかしら、

そういう感情に鋭いの。

…尤も、この鎮守府の全員が全員そう考えているわけでは無いけれど。」

「それで悪い知らせってのは…」

加賀はスッと目を細めて言った。

 

「大本営から入電よ。

そちらから電話を寄越せ。

用件については分かっているな。と」

 

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部屋が凍りつく。

「ま、待って。だって先に手を出したのは…」

震える声で弁護する響。

加賀は溜め息をついて返す。

「まだその話と決まった訳じゃないわ。

尤も、十中八九それについてだろうけれど。

それに、そんな事を私に言われても困るわね。

どんな事情があろうと、軍人が一般人に手を出すのは大問題よ。厳罰は免れないでしょうね。」

「し、司令官は悪くないのです!」

「そうよ!!そんなの可笑しいじゃない!」

「司令官…大丈夫…なの?」

部屋を不穏な空気が満たしたが、

提督は何でもないことのように笑った。

「多分大丈夫だ。」

「…それはどうして?」

「電話があった時刻は11時11分。

女が連絡を寄越してきた…そうだろ?」

目を見開く加賀。

「…そうだけれど。どうして…」

「"アイツ"から連絡がある時は必ずその時間だ

…そんな顔するなよ。俺の…あー…

…まぁ、うん。俺と"同族"の奴からだ。」

「提督、と言うことかしら?」

「そういう意味じゃない。残念ながらな。

…艦娘と違って人間ってのは途方もなく数が多い

そんな人間の中から、数百人に一人くらい

…"イレギュラー"な奴が排出される。

…俺はアイツ以上に

"厄介な存在"を見たことがねぇよ」

「どういう意味かしら。」

「神様は休ませてくれないって事だ。

…だが、好機だな。アイツを上手く利用できれば…"前任"に一撃与えられるか…?」

ぶつぶつと呟く提督を、

ポカンとした瞳で見つめる四人組。

加賀は呆れ顔で、用事も終わったし帰るわ。

と、部屋から出ていく。

「…提督、一つだけ言っておくけれど、彼ら…

"前任"は、貴方が考えているような相手じゃない

…あまり余計なことは考えないことね。

貴方だって、死にたい訳じゃないでしょう?」

パタン、と閉じられた扉を見て、提督は笑った

 

「それでもな、いつか一発この手で

ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇんだわ。」




「ふーむ、此処かのぅ?」
電気もつけず、ゴソゴソと部屋を漁る初春。
暫く部屋を探索した後、
彼女はようやくお目当ての物を見つける。
その手に握られていたのは、まるで辞書を何冊か連ねたかのような、とても分厚い本。
これまで沈んできた艦娘の名前と沈み方が記されてきたその本には、沈んだ際の提督の名前も記載されていた。
初春はその、歴代の前任の名前が書かれた部分だけを、一つ一つ、黒のマーカーで塗り潰しながら、暗い室内で笑う。
「さてさて、困ったのぅ。
…これは非常に困ったことになった。」
機械的に、同じテンポで線を引く音だけが、
暗い室内に響く。

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