ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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取り残された者

【side.提督】

 

「司令官!失礼致します!!

朝潮です!看病に参りました!!」

扉を開け、敬礼をする朝潮。

「ぉー…。…ん?朝潮?」

「はっ!」

「なんか…多くないか?」

朝潮、荒潮は知っている。

その後ろから姿を現した二人の少女を見て

俺は首をかしげながら訊ねた。

「はっ!僭越ながら、看病は

今も生存している朝潮型、

全員で行うことになりました!」

大きな声ではきはきと返事をする朝潮。

敬礼の姿勢は動かない。

まるで時が止まっていようだ。

「いや、そんなに堅くならなくても…」

「司令官のお怪我は私達のせいです!

それを償うためならば、私はどんなことでもー」

「朝潮?朝潮ー?!」

俺の呼び掛けを無視して熱く語る朝潮。

どうしちまったんだコイツは。

「あの~…朝潮姉さん?先に二人の

紹介をした方が良いんじゃないかしらぁ~」

荒潮の助け船で、ハッと正気に返り、

朝潮はハキハキとした声で報告を始める。

「此方は、私の姉妹艦で、朝潮型駆逐艦の、

霰と満潮です!!以後お見知りおきを!!」

「朝潮型九番艦、霰、です。

えと…あの…よろしくお願いします」

「…朝潮型三番艦、満潮です。」

同じく敬礼をする二名。

流石は朝潮型というか、

動きの一つ一つにキレがあり、

…此方が緊張するほどにガチガチだ。

「あー、まぁ、…そうか。そうだな。

そんなに…固くならないように…な?」

軽くそう言うが、敬礼を辞めようとはしない。

「…」

「…」

「…」

「…」

執務を始めても、微動だにせず、

ただじっとこちらを見つめてくる三者。

…何だこの地獄は。

「…朝潮?何してるんだ?」

「ハッ!提督の護衛でございます!」

「別にそんなに見る必要はないと思うんだが」

「いえ!!何かあってからでは遅いのです!

目を離した隙に何かあるやもしれませんから!」

「うーん、そうか。そうかぁ…。」

キリッとした、至って真面目な顔でそう言われると

此方としても強くはいえない訳で。

苦笑いを浮かべながら執務を再開しようとすると

荒潮が再び助け船を出してくれた。

「…ねぇ?朝潮姉さん?

固まってても仕方ないんじゃないかしら~…?

ほら、そんなに見てたら提督も

仕事をしにくいでしょうしねぇ~…?」

…お前ほんといい奴だよ。ほんと。最高。

「司令官!これは御迷惑でしょうか!!」

「そんなわけないだろ朝潮ォ!!!」

…畜生!!!畜生!!!!

反射的に叫んだ俺を恨みながら、

クスクスと口に手を当てて笑う荒潮を睨みつつ

俺は今日もペンを走らせた。

 

「…だぁぁぁぁぁ!!!!」

昼になり、俺は立ち上がりペンを放り投げる。

「司令官?!」

駆け寄る朝潮を抱き上げ、大きな声で叫んだ

「もういい!!わかった!!今日は遊ぶぞ!」

「で、ですが司令官!執務は…」

こんな状況で集中出来るかッ!!!!

なんて言えるはずもなく、

笑顔で大丈夫だ。と伝えると、首を鳴らす。

「たまには休まないとな…おう。」

ぐぐっと背筋を伸ばしながら言う男を見て、

朝潮はとても嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「…ど、どう、ぞ。」

震える手で珈琲を持ってきたのは、

満潮と呼ばれる少女だった。

「お、気が利くな。ありがとう。」

受け取り、それを飲み干す。

「…ゲホッ!!」

甘っ…?!なにこれ甘…?!?!

恐らくミルクと砂糖を沢山入れたのだろう。

砂糖水のような甘さに、思わず噎せた。

「悪い…ちょっと甘いわこれ…」

苦笑しながらカップを返そうとすると、

満潮は何故かガクガクと震え始める。

「ご…」

「んぁ?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

震えながら何度も何度も呟く少女。

「お、おい、満潮?」

恐る恐る近づくと、肩を跳ねさせ、

小さく悲鳴を漏らすと部屋から逃げようとした

…だが、

「大丈夫よ。満潮。落ち着きなさい。」

朝潮が肩をつかんで優しく語りかける。

過呼吸じみていた彼女の呼吸が、

少しずつ落ち着いてくる。

「…何が…」

呟いた俺の耳元で、荒潮が小さく囁いた。

「満潮ちゃんは…その…提督にトラウマがあるの

…その、満潮ちゃんはちょっと口が悪くて…

前任には特に厳しく"教育"されたの…それで」

「あぁ…もう良い。」

目頭を抑えてそこで止めさせる。

「朝潮。少し良いか。」

「はっ!」

俺は朝潮の手を引き、執務室を後にした。

 

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「…なんで満潮を連れてきた。」

精一杯の低い声で言った。

が、朝潮は首をかしげながら答える。

「はっ!彼女にはこの機会に、

提督への恐怖心を払拭してもらうと!」

「それは!!!!」

大きな声で遮り、思わず壁を叩いてしまう。

「それはお前が決めることじゃないだろ…ッ!」

「…司令官?」

「良いか朝潮、それは本人が決めることであって、お前が決めて良いことじゃない。あんな状態なのに連れてくるべきじゃないだろ。」

肩を掴んで強く言う。

確かに恐怖感を払拭する必要はあるかもしれない

だが、それをするべきかどうか、

また、いつするのかは、

他でもない満潮本人が決めることじゃないのか。

未だにピンと来ていないような顔を浮かべる朝潮に若干の苛立ちが募る。

…だが、突然、横からその手を捕まれ、

俺の意識はいつの間にか隣にいた少女に向いた。

「…でも、それは、

貴方が決めることでも…ない。」

「…?!」

隣を見ると、霰と呼ばれた少女の姿が。

「確かにそう…朝潮姉さんは焦りすぎ。

でも、そこは貴方が判断することじゃない。

本当にダメなら、満潮姉さんは断っている。

それをしなかったのは、

それなりに思うところがあるから。

貴方に、期待…しているから。」

黙る俺に、霰は言葉を付け足した。

「朝潮姉さんを助けてくれて、

ありがとう…ございました。

…そして…今の貴方を見て、

貴方がどんな人か…大体は、掴めた…から」

気がつけば、グイッと顔を抱き寄せられていた

「…良い子、良い子。」

そのまま頭を撫でられる。

「…!?」

引き剥がそうとする前に、ヒラリとかわす少女

「…んちゃ。」

彼女はそういい、相変わらず無表情のまま、

ヒラヒラと手を振って部屋を後にした。

 

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「あらあら~。帰ってきたのね~。」

「何だったんだ…」

僅かに赤い頬を掻きながら、執務室に戻る。

隣で俺の手を握ったまま、

何故か頬を膨らませる朝潮を見て、

荒潮は何かを察したように笑った。

「…ん、霰は居ないのか」

「そうねぇ~。何故か帰っちゃった。

提督、何か知っているのかしら~?」

「…さてな。朝潮は知っているか?」

「…知りません。」

さっきから何をむくれているんだお前は。

頭をボリボリと掻いて、椅子に座り直す。

「…朝潮型ねぇ…」

誰にも聞かれないように、俺は小さく呟いた。

 

九隻中生き残りは四隻。

第六駆逐隊の響がそうであったように、

彼女らも沢山の"別れ"を経験してきたのだろう

それを思うと、胸が痛くなった。

「…あの、」

そんな声で顔をあげる。

「先程はすみませんでした…これ…」

頭を下げ、珈琲を差し出したのは満潮。

「…お前…。」

「ご、ごめんなさい…」

「いや…」

受け取り、珈琲を啜る。

やべぇわ。此方も甘いじゃん。

さっきよりはましだけど甘いじゃん。

だか、我慢できる。

「…美味しいよ。ありがとな。」

笑顔を浮かべ、そっと頭を撫でた。

 

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【side. 】

 

「提督~?」

夜も更け、月が高く昇る。

虫やカモメの鳴く音がする中、

そんな声を出しながら執務室を覗きに来たのは

荒潮と呼ばれる少女だった。

「…荒潮か、どうした?何か用事か?」

彼女は問いかけには答えず、

ただ無言で男の膝の上に座ると、手を握る。

「どうしたどうした…」

ため息と共にそう訊ねられ、

少女は小さく、か細い声で一言呟いた。

「どうして…」

「んぁ?」

「どうして助けてくれたの…?」

「…」

提督は答えない。

質問の真意を測りかねているかのように、

ただ眉を動かした。

「貴方も知っているでしょう?

私達は、私は、朝潮型の生き残り。

…"取り残された者"。

今更、私たちだけ救われる権利なんて無い。

貴方が、あんなボロボロになってまで庇う必要も

価値も、私には…無いのよ。」

「………。」

「どうして?どうして私なんて…」

言葉の続きは紡がれなかった。

男が少女を半ば強引に抱き寄せたからだ。

「…提督?」

「それ以上は言うな。…言わなくて良い。」

「…優しいのね。」

「勘違いするな。たとえ本人でも、

俺の物を悪く言われるのが気に食わないだけだ」

「…そう。」

それだけ言うと、顔を埋める荒潮。

「…お前は俺の物だ。

守る理由なんて、それだけで充分だろ。」

優しげな男の声が、二人だけの執務室に響く。

 

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【side.妖精】

 

「…どういうことですか?」

「…え?」

部屋に居るのは二名。

島風と、タマと呼ばれる妖精である。

「…だから、提督のドアを壊すのは良いけど…

その、直してくれないと、危ないかなって」

島風が繰り返す。

彼女はこう言いたいわけだ。

妖精、つまりタマがわざと扉を破壊し、

夕立と添い寝する機会を作ったと。

彼が安心して休めるように取り計らったと。

「…まずひとつ。それはわたしじゃありません」

妖精は続ける。

そんな馬鹿な真似をするほど愚かではないと。

ドアなど壊せば、男に害を為そうと企む艦娘に

狙われる危険性は格段に増す。

ましてそれがなくとも、

何故わざわざ彼と艦娘などが添い寝をする環境

を提供しなければならないのだ。

「…つまり」

「かれにめいかくなてきいをもっている

かんむすのかくりつがひじょうにたかいです」

聞き終わるや否や部屋を飛び出す島風。

「はなしはまだおわって…」

妖精の声は虚しく廊下に響いた。

…全く、犯人に心当たりでもあるのだろうか。

そういえば、以前、彼に敵意を持つ

艦娘の一人を教えていたが…。

「もんだいなのはそこじゃないんですよ?」

もしも彼女が"ソレ"を頼りに走ったのなら

きっと空振りに終わるだろう。

何故なら、"彼女"にそんな力はないから。

「わたしがにんしきできなかった。

…それが、いちばんのもんだいです。」

警戒していた筈の私の目を掻い潜り、

そんな行動に出たとするのなら、

相手は相応の"実力"の持ち主だと推測される。

ましてソレが彼に敵意を抱いているのなら…

「…まずいですね。」

空には黒い雲がかかり、

薄く照らす月をすっぽりと覆い隠してしまった。

 

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【side. 】

 

「…こんな朝早くから、一体何の用ですか?」

「…話があるの。」

翌朝、空はまだ暗い。

そんな中、堤防で向き合う二名の艦娘がいた。

片方は、連装砲という武器を従え、

目の前の艦娘を睨みながら、

一挙一動も見逃すまいと神経を張り済ます

"島風"と呼ばれる少女が。

そしてその眼前には、

まるで対照的に、

警戒など欠片もしていない様子で、

軽薄な笑みを浮かべる、桃色の髪を持つ少女。

"漣"の姿があった。




はい!!どうもお久しぶりですごめんなさい少し色々とバタバタしておりました遅れてごめんなさい申し訳ないです…
と!!いうことで…!
今回から【】によるside、
所謂誰目線かを書くことにしましたーっ!!
助言をくれた方ありがとうございますっ!
とはいえ目線があってもちょっと分かりにくいのは文章能力なんでしょうね…申し訳ないですなんとか精進していきますぅ…
本当にダメダメな作者ではございますが、どうかどうか、彼らのことを見守り、(本当になんか色々と時おり凄い推理力を発揮しなさる御方がいらっしゃるんですが)予想をたててみたり、筆者の文章能力に若干イライラしながらも生暖かい目で見守っていっていただけるとありがたいですっ!!

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