ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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死んだ艦娘(前編)

【side.提督】

 

「クハッ…いつぞやの洞窟か。」

彼の目の前に広がる、先の見えない暗闇。

かつて大淀を厳しく詰問したこの場所を、

その奥底を眺めながら、

俺は静かに嗤った。

「それで?一体何の用だ…?"大井"」

「黙って奥に進みなさい。」

その背後から、冷たく、

一切の好感を込めない声がかけられ、

肩を竦めて歩を進める。

岩でできたトンネルには人の手も入っておらず、

俗に言う"おあつらえ向き"を体現したかのようだ

「死体の遺棄にはピッタリだな?」

「…貴方を殺すかは私が決めることじゃないわ」

完全に信じているわけではないが、

嘘を言っている様子もないので一先ず息をつく

どうやら殺されるわけではないらしい。

尤も、今後の身の振り方で決まるらしいが。

「"北上"との話、ねぇ。」

鼻で笑いながら続けた。

「朝潮達を見て、多少は考えたんだ。

今も沈んでいる艦の名前だけは覚えておこうと

…地雷である可能性が高いし、

せめてもの餞というか…なんというかな。」

「それで命乞いのつもり?

俺は前任とは違う、とでも言いたー」

「"北上"は死んでいる。」

無言。

俺の言葉に返答がないので、

再び俺は強く繰り返した。

「もう一度言う。北上は死んでいるんだ。」

「…それを知っていて、

何故貴方は此処に来たのかしら?」

「呼ばれたら行くのが提督ってもんだろ」

それが誰であろうと。

…例え北上で無いと知っていたとしても。

自分の艦の可能性が一%でもあるならば、

向かうのが道理であり、義務だ。

「…私"は"貴方と話したくはないんですがね」

何度目か分からないその言葉に、目を細めた。

大井、彼女の話を信じるならば、

この奥に、北上の名を騙る誰かが居る。

 

お互い、無言のまま歩を進めた。

地面はゴツゴツとした岩でできており、

濡れている上、一寸先も見えないほど暗いため、

下手をすれば足を滑らせてそのまま御陀仏だ。

だからこそ、下を向きながら慎重に歩く。

短い洞窟が、それなりに長く感じた。

「へェ、連れてきてくれたんだ?」

やがて暗闇から声が聞こえ、俺は顔を上げる。

「…はい、"北上さん"」

「それで?妖精もどきにハ…」

「見られてません。」

「そっかー、ありがとね。

…さてさて、自己紹介から始めよっか?

アタシは北上、まァよろしく~。」

 

暗闇に目が馴れ、少しずつ景色も見えてくる

青く目を輝かせながら、

大井と同じ制服を着た、

黒髪を編んだ少女が岩に座っていた。

 

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【side. 】

 

「…時雨?」

「なんでそうなるかなァ…?」

キョトンとしたような俺の呟きと、

えぇーと言ったような、呆れたような少女の呟き

二つは洞窟のなかで静かに反響し、

やがては暗闇に溶けていった。

「いやまぁ、冗談だがな?

…いやでも…ううむ…頑張れば…?」

「駆逐艦と一緒にしてほしくないねェ」

ピクリと男のこめかみが動いたが、それだけだ

「…それで?お前は北上…なんだな?」

続く質問を聞き、少女はニヤリと笑みを浮かべる

「…さァ?どう思う?」

からかっているようなその声に、

男は不愉快げに目を細めると、言った。

「…容姿は北上のそれだな。だがお前はー」

「ウンウン。入り口で話してたとおりだよ~

つまり今、沈んだはずの艦娘が…幽霊が、

提督である貴方の前に現れたワケだけど。

…さて、じゃァ、どうする?」

男の雰囲気が変わった。

「幽霊か…」

「…?」

「お前が幽霊だったら嬉しいんだがな…」

ぼやいた提督を見て、

変な男だ。と笑う北上。

「怖くないんだ?」

「怖くはないが、分からないな。お前は一体…」

「…長くなるけど、良いかナ?」

青紫の瞳を細め、少女は自嘲気味に笑った。

 

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「何があったか説明する前に…

幾つか聞きたいことがあるんだよねェ」

首をかしげる提督。

「貴方は、"応急修理要員"について

…何処まで知ってるのカナ?」

「…俺が知っているのは、

轟沈した艦娘を復活させる…ってことだが」

心底不思議そうに呟いた男をしばらく眺め、

寂しげな瞳で北上は続けた。

「ソウ、正解。

アレは艦娘を一度だけ蘇らせてくれる。

例え四肢がバラバラになってようと、

首が吹き飛んでいようと、

どんな状態からデモ…その場で復活させる」

何故か後ろの大井が、歯を噛み締めた。

「"その場で"復活させてくれるの。

例えそこに何があろうとネ。」

「何が言いたい?」

真意を掴みかね、男は不愉快げに訊ねた。

質問には答えず、

ただニヤニヤと笑みを浮かべたまま、

言葉を続ける北上。

「…ところでサ、提督、

私ノ話し方に違和感を感じなかっタ?」

「…北上さんは、昔、確かに轟沈しました」

耐えきれなくなったのか、

ポツリポツリと言葉を紡ぐ大井。

「この紫の瞳ハ、"私の物ジャナイ"」

「そして、北上さんが沈んだ場所には、

不幸にも、レ級…深海棲艦が居たんです」

「モウ一度言ウヨ。

…応急修理要員ハ、

"ソコニ何ガアロウトソノ場デ復活サセル"」

「私が見つけた時には既に、北上さんは、

北上さんじゃありませんでした。」

 

「改メテ自己紹介シヨッカ。

北上サマダヨ。半分ハネ。」

キシシ、と、奇妙な笑みを溢す。

男には、まるでそれが警戒音のように聞こえた

肩を竦め、男の目を見つめる北上。

洞窟の中を吹く風がゴウゴウと唸る。


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