ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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死にに行く者

【side. 】

 

「司令官司令官司令官司令官…」

ぶつぶつと呟く朝潮。

彼女は朝からずっとこんな感じだ。

「朝潮姉さんはもう少し落ち着きましょう?」

苦笑いを浮かべ、窘める荒潮。

「…逃げた?」

霰の呟きに反応し、朝潮はぐいっと顔を向けた

「そんな訳無いでしょっ?!」

「知ってる…冗談。本気にしないで。」

彼の"自分の物"に対する、

"艦娘"に対する異様なまでの執着心を知る者は

どうしても彼が逃げたとは到底思えないのだ

 

「…何か…あったのでしょうね」

そう分かっているからこそ、朝潮は歯痒く思う

彼が辛いなら傍で支えたい。

彼がピンチなら隣で守りたい。

かつて彼がそうしてくれたように。

かつて彼が守ってくれたように。

自分にもう少し力があれば。

自分がもう少ししっかりしていれば。

だが、後悔してももう遅い。

だからこそ祈る。

「司令官、この朝潮は、

どうなろうと貴方の側に居ます。

ですから、どうか、御武運を。」

 

「無事だと良いのだけれど…」

荒潮は水平線を覆い尽くす深海棲艦を眺め、

目を細めながらため息をついた。

今でも彼に抱き締められた夜を覚えている。

あの温もりを、あの安心を。

彼を守るためなら、文字通りなんでも出来る

最近彼を見ると頬が赤くなるのは、

彼女だけのささやかな秘密だったりもした。

「何にせよ、早く戻ってきてよねぇ~?」

自分達が沈む前に、という意味ではない。

早く元気な姿で鎮守府に戻ってきてほしいと

そんな意味を込めて荒潮は呟く。

 

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【side.龍田】

 

「…皆、集まってきたわねぇ~…」

これから死にに行くというのに、

誰一人として浮かべる表情は暗くない。

当然だ。彼女らにとってそれが"常識"なのだから

これから死ぬことに疑問を感じている艦など、

誰一人としていなかった。

ーだからこそ。

『龍田さん、お世話になりました』

生き残る為に、

逃げていった四人の艦娘を思い出す。

「…無事だと良いけれど」

漣、彼女はいつから"生"に

固執できるようになったのだろうか。

命令があれば異を唱えることもなく、

それが当然として自分の命すら投げ出す私達と

僅かな可能性にかけ、命令に背き、

全てを捨てて逃げ出した彼女達と。

「一体どちらが人間らしいのかしらね~」

自虐的な笑みを浮かべ、呟いた。

「…龍田。そろそろ。」

隣で声をかけて来る自慢の姉妹。

「天龍ちゃんは残っても良いのよ~?」

「バーカ。死ぬときゃ一緒だろ。」

彼女は刀に手を当て、

屈託のない笑顔で笑った。

 

「…全員揃ったのか?」

「だからそう言ったじゃない~?」

目の前の戦艦を睨み付ける。

彼女は駆逐艦達を一瞥し、鼻で笑うと続けた

「そうか。本当にこれで全員なら良い。」

そうして戦艦は命令を下す。

「総員!!敵軍に突撃!

相討ちとなってでも敵の指揮官を討ち取れ!」

 

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【side.漣】

 

「…っ!」

深く息を吸う。

自分の眼前で、巨大な水柱が立った。

「漣…っ!!」

曙の声が聞こえるが、返事をする余裕はない。

魚雷を打ち出すと、

反撃とばかりにその数倍の魚雷が向かってきた

「朧!」

此方が叫ぶより先に彼女は砲撃を開始している

だが、それで対処しきれる筈がない。

「やっぱりやんない方が良かったわよっ!」

曙が後悔するように吐き捨てた。

 

何故こんな敵に囲まれているのかの答えは一つ

只逃げたわけでなく、

砲撃し、魚雷を打ち込みながら

少しずつ撤退しているからだ。

気付かれないように逃げるだけなら可能だった

…だが。

「これが私達にできる最後の事だから」

相手が固まっている場合、

戦線を突破して、

本陣に突撃することすら難しいだろう。

敵の指揮官を討ち取れるとは思えないが、

それでも、薄くなった戦線を突破する方が、

生き残る確率は高くなる。

絶望よりは、最悪な状態の方がマシだ。

…だからこそ、漣達は

存分に敵の気を引きつけ、逃げる。

これにより相手の戦力は多少分散されるだろう

追っ手に向ける戦力の分、

鎮守府にいる彼女達、かつての仲間達が

包囲網を突破できる確率は上がるのだ。

「もう少し気を引いてから逃げる!

…只で逃げたりなんてしないからっ!!!」

残った者達のために、一匹でも、

少しでも多くの深海棲艦を引き付けるのだ。

 

やがて、ある程度逃げたところで

追っ手が引き返していくことに気がつく。

恐らくは攻撃が開始され、

呼び戻されているのだろう。

全員の無事を祈りつつ、

自分達の損傷を確認する曙ら四人。

「…はぁ。じゃ、行きましょう。」

「さてさて…何処に向かったものですかねぇ」

「えっと…あの…決めてなかったの…?!」

「宛のない旅も悪くないよね~」

 

誰も知らない彼女らの活躍により、

夕立ら鎮守府組は誰一人欠けること無く

敵の本陣、中心部に到達することができた。

慌てて呼び戻す深海棲艦だが、

既に彼女らは内部に侵食し、

敵の指揮官を討つべく行動を開始し始めている

もう手遅れだ。

ー尤も、それは同時に、

彼女らの退路が断たれたということなのだがー

 

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【side.響】

 

「…司令官。」

小さな呟きは誰の物だろうか。

前方の三人の姉を眺めながら、

すばやく敵の群れを見渡す。

これだけの数の中から指揮官、

flagship級だけを見つけ出すなど到底不可能だ

とはいえやらなければ死ぬだけでありー

「お先は真っ暗だね。全く。」

あまりの状況に苦笑する。

ここから無事に生還するなど、

どんな手を使っても無理だ。

「響ー!」

手を振る長波。

軽く手を振り返すと、駆け寄ってくる。

「何か策とかさ、無いのかい?」

「逆に聞きたいよ、あると思っているのかな?」

「だーよなー…」

彼女は諦めたように笑い、上を見上げた。

つられるようにして上を見上げる響。

青い、青い空が広がっている。

「結局、謝れてないんだよな。私達。」

「…そうだね。」

誰に、なんて問う必要もなかった。

「今何処で、何をしてんのかね…」

「…そうだね。」

分かっていたら、今すぐにでも飛んでいくのに。

「………。」

「………。」

なんとも言えない空気が流れる。

「…呆けてる暇なんてあるのかな?」

時雨のそんな声で正気に返る二人組。

そうだ。ここは戦場。周りには深海棲艦。

余計なことなど考えていると、沈むだけだ。

「今は兎に角生き残ることだけ考えるんだ

じゃないと、生き残れるものも生き残れないよ」

時雨の声で弾かれる様にして動き出す長波と響

 

「…なんて言うだけなら簡単だけど、

この状況になった時点で詰みなんだよね」

時雨が誰にも聞かれないように自嘲気味に笑う。

 

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【side.初春】

 

「さてさて、どうしたものかのぅ。」

隣の戦艦に語りかける初春。

「残念だが、

貴様に参加して貰うわけにはいかない。

その"力"が何なのか解明できるまでは、

万一にでも沈んでもらったら困るからな。」

長門、と呼ばれる戦艦は腕を組み、

彼女を一瞥もせずに言う。

「ほう、他の駆逐艦は沈んでも良いと?」

長門の険しい表情は一切動かず、

無言だが、それを是とする空気があった。

「分からぬのぅ。」

「…だろうな。私達は分かり合えない。」

「そうじゃないぞ?

御主の口から言われないと分からぬ、

と言っておるのじゃて。」

意地の悪い笑みを浮かべる初春。

「…狐が」

吐き捨てるように呟かれた言葉。

傍観者はそれをこここと笑い流す

「妾は中立者じゃ。傍観者じゃ。

されど、それでは満足せぬ輩もおるらしいの」

「…どういう意味だ?」

「どういうつもりですか。」

二人の後ろから、一匹の妖精が姿を見せた。

 

「…どういうつもりですか?」

妖精が再び問う。

長門は無言で続きを促した。

「くちくかんとすうめいのけいじゅんで、

あれがとめられるわけがないでしょう。」

「…そうだな。」

「では、なぜあんな

むぼうなしじをだしたんですか?」

戦艦を睨む妖精。

ピリピリとした空気が流れた。

「…ふむ。」

だが、長門はそれを容易く受け流す。

「では逆に問わせてくれ。

他に手段はあったのか?」

「…は?」

「あぁそうだな。駆逐艦じゃ止められない。

だが殆どの主力艦が最早大破状態だ。

そんな状態で戦い続けたらどうなるか、

そんなことすらわからないのか?」

妖精は答えない。

確かにそうだ。

彼処で駆逐艦がうって出ずとも、

戦艦空母が沈めば、

その後待っているのは緩やかな破滅。

「だからこそ駆逐艦に一度本陣まで突撃させ

此方から意識をそらす必要があった。

そうでもして時間を稼いでもらえないと

我々の入渠する時間もない。」

「せめてくちくかんのなかにもせんかんやじゅうじゅんをまぜるなど…!」

駆逐艦だけなら勝算は皆無。

であるならせめて数名でも強い艦を同行させないと本当にただの無駄死にになってしまうだろう。

だが、長門は肩を竦め続けた。

「混ぜてどうするんだ。

戦艦と駆逐艦では速度が違う。

駆逐艦や軽巡などの

速度の早い艦が突撃するから奇襲になるんだぞ?

それならば駆逐艦だけに行かせ、

我々は全快した状態で混乱している敵軍を叩き潰す方が効率的ではないか?」

「………。」

妖精に言い返すことはできない。

包囲網を掻い潜り、

敵の陣形の中から掻き回すのは

駆逐艦にしかできない。

そしてその後、

崩れた陣形から回復させた主力を投入、

多祥なり消耗し、混乱しているであろう敵を叩くのは戦術としては有効だ。

…駆逐艦の被害に目を瞑れば。

ーそして、それ以上に。

混ぜたところで死ぬ確率の方が高い。

彼女は暗に告げているのだ。

自殺の付き添いに回せるほど戦力に余裕はないと

「批判するのは勝手だ。

だが、それに伴う代案を用意しろ。

憎くて沈めている訳じゃない。

まして沈んで欲しいと言うわけでもな。

他の案…ある程度現実的な案さえ

用意してくれるなら、我々は喜んで乗るぞ?」

「…でも!…あれはあまりにもむぼうじゃ…」

「そうだな。駆逐艦が突撃したところで問題の先送りにしかならん。…だがー」

「重巡、入渠完了致しました!」

駆け寄り大声を張り上げる一人の女性。

「次は空母だ!重巡は直ぐに持ち場に戻れ!

一分一秒の無駄でアイツらの犠牲が無駄となることを理解しろ!バケツは惜しむな!使い切ってしまえ!」

逃げ出した男の変わりに、指揮官は指示を出す

「これしか無いんだよ。もう一度言うぞ。

他に手段があるなら教えてくれ。

だが、無いのなら従って貰おう。

そもそも貴様らが崇拝する男は逃げたのだぞ?

今は私が指揮官だ。」

「ーっ!!」

妖精は部屋から出ていく。

「…余計なことをしなければ良いが…」

「大丈夫じゃろうて。」

「…何か知っているのか?」

彼女は扇子を広げ、笑いながら言う。

「何か?そうじゃな…あれには何もできない

ということなら知っておる。」

「…そうか。」

腕を組んだまま目を瞑る長門。

「恨むなら恨め。初春。」

「ここ、そんなことすれば、

御主が楽になってしまうではないか。」

「…ふん。性格が悪いのは相変わらずか。」

「せめてもの仕返しじゃよ…御主も辛いの」

初春の声を背中に受け、

彼女は入渠施設へと向かう。




※誤字修正いたしましたっ!
教えてくださった方本当にありがとうございました…!
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