ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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疲労と不信

【side.提督】

 

『此方長門。これでー…あぁ、少し待て、

ふんーうむ。これで最後だな。

…全く。手間を取らせてくれる…。』

長門から殲滅報告を受け、

男は笑って周りを見渡す。

「終わったようだ。

俺たちもそろそろ帰還するぞー。

頼むからいい加減泣き止んでくれ…」

心の底からそう呟くと、

俺は辺りを見渡して言った。

「いや待て、漣達はどうした…?」

 

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【side.夕立】

 

「全員御苦労。

お陰で鎮守府の危機も去った。

負傷している艦を優先し、各自入渠してくれ」

陸に足をつけると同時に、

そう命令する提督に全員は敬礼を返す。

だが、彼の表情は明るくない。

「妖精達も、お疲れさま、だな。

後で砂糖でもなんでもくれてやるから、

今はゆっくり休んでくれ。」

「はーい!!!」

「やったぜ!!!!!」

「ようせいさんのちからをおもいしったか!」

フヨフヨと飛び去る妖精達を眺め、

男は足早に執務室へと向かった。

私は反射的に彼の腕を掴みー

「提督も休むっぽい。

顔に疲労が浮かんでるっぽい。

そもそも漣達はー」

「…夕立」

頭に手を置かれる。

「自分の意思で逃げたのだとしても、

逃げざるを得なかったのだとしても、

どちらにせよ俺のせいだ。

戻る気があるなら全力で守って

…いや、そうでなかったとしても

安全に別の…本人の望む場所に送り届けるのが

俺の義務で、責任だ。」

「ーッ!!!!!

じゃあ…じゃあもう知らない!!!

それで過労で倒れたとしても、

夕立は何も知らないんだから!!」

ヒラヒラと手を振り歩き去る提督。

「どうして…君は…そこまで…」

時雨の呟きに反応したのか、

ピタリと足を止め、男は振り返ると笑った。

「理由なんてねーよ。

強いて言うなら…それが"提督"ってモンだ」

 

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「…何故だ。」

男は椅子に座りながらぶっきらぼうに呟く。

「…何故だ。」

「うるさいっぽい。」

理由は一つ。

先から膝の上に座ったかと思えば、

一向に動かなくなる夕立だ。

「お前さっきもう知らないって…」

「うるさいっぽい!!」

「えぇ…」

高い体温が足に伝わり温い。

否、正直なところ暑い。

あとモジモジと身体を動かさないでほしい。

「後で構ってやるから…」

ぼやくとグイッと顔を向けられー

「漣達を迎えに行くなら

私の助けは必要でしょ!」

「却下。駆逐艦は疲労が貯まりすぎだ」

「あからんぷですねぇ」

ヒョコっと彼の肩からタマが顔を覗かせた。

「…じゃあどうするつもりっぽい?

まさか皆の疲労が回復するまで待つつもり?」

「戦艦空母にはまだ余裕のある艦がー」

「それは良い案とは言えないわねぇ~。」

部屋の入り口に顔を向けると、

時雨、響、朝潮、荒潮、龍田、天龍の六人が居た

 

「夕立、降りるんだ。」

「し、時雨…」

「アイツらが駆逐艦の為に動くはずがねぇ

頼むだけ時間の無駄って奴だぜ。」

「時雨…じゃないよ?夕立。」

「…うっ…」

「朝潮も降りるべきだと思います!」

「…ついでに言うと、あの戦艦空母が

敵前逃亡をした艦を、

そのままにするとは思えないね。」

「そうねぇ~。

最悪、見つけた瞬間"処分"かしら~?」

「で、でも…!」

「でも、じゃないんだよ。

言い方を変えようか、夕立。降りろ。」

「退かないと言うのならばこの朝潮!

実力行使も厭わない覚悟です!!!」

いや、厭えよ。

この部屋を吹き飛ばす気か貴様。

何だか話がこんがらがってくるが、

確実に言えるのはー

「それでも、だ。

お前らを出すのはあまりにも危険すぎる」

「私達なら大丈夫っぽい。

それより早くしないと…

本当に手遅れになるっぽい。

それとも…見殺しにしても良いって言うの?」

「提督、君は選ぶべきだ。

夕立を降ろすか、降ろさー…ゴホン。

僕たちに出撃させるか、させないか」

「………」

「時間が惜しい。さぁ、提督。」

 

「君なら、どうする?」

 

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【side.漣】

 

『あーあー、聞こえるかー、

聞こえてるなら応答してくれ。

此方は提督。姿を消してて悪かった。』

唐突に無線から聞こえる男の声。

三人の少女はビクリと肩を震わせる。

代表して曙が口に手を当てた。

"静かにしていろ"という合図だ。

『…繋がってないのか?

一先ず…あー、此方の状況を言うぞ。』

淡々と、されど嬉しいニュースが流れてくる

何とか深海棲艦の侵攻は凌いだこと、

被害こそあれど、轟沈した艦はなかったこと

かつての仲間達の無事を知り、

ほっと胸を撫で下ろす四人。

『んで…もしもーし…?

聞こえてるなら応答してほしいんだが…』

する筈がない。

情報は得たのだから、

後は無視して死んだと思ってもらう方が良い

ここで応答するなど馬鹿の-

「そうなんですー?」

瞬間、無線を奪い取ると

なに食わぬ声で漣が返事を返した。

「ちょっ…漣?!アンタ何やって…!」

曙が慌てて漣の方を向く。

『お、漣。やっぱり無事だったか。』

「いやいやそうでもありませんよ?

全く…一体こんな時に

何処をほっつき歩いてやがったんですかねぇ?」

からかうような漣の声色。

そして、若干責めるような口調に、

小さく潮が悲鳴を漏らす。

これは叱責で済むレベルじゃない。

『返す言葉もねぇよ…本当にすまなかった

…というか他の奴の声も聞こえたが…』

「あぁはい。

曙、潮、朧の三人は私の後ろにいますよー?

…もし他の艦まで行方不明ならー」

「………」

ここまで気安く此方の情報をベラベラと話す漣に

曙は密かに警戒心を募らせる。

一体彼女は何を考えているのだ。

『あと鎮守府に居ない艦はお前らだけだ。

…すぐにでも回収してやりたいんだがー…

自分のいる場所はわかるか?』

「今は小さな無人島に上陸しています。

少し疲労が溜まっているのと、

まぁ、少々追われてまして…

あぁ、場所は分かりませんね

無我夢中で逃げていたので方角すら…」

『ふむ、まぁそこから動かないでくれよ。

此方でも探してみる。』

「ほいさー!!」

無線が切られると同時に、

3人は漣を問い詰める。

「…ちょっと…漣?」

「アンタ一体何考えてるの?!」

「漣ちゃん…冗談だよね…?」

「大丈夫ですよ。あの人はー」

「はぁ?大丈夫って何よ」

逃げた艦を提督がどうするかなど、

想像に難くない。

だからこそ、こんなに気楽に、

提督などに情報を渡した漣に、

それでもなおヘラヘラとする彼女に、

曙はー

『あー、そうだ、忘れてた。』

再びの男の声に肩が跳ねる。

『…お前らは鎮守府に戻る気はあるか?』

 

無い、等と言える筈がない。

『もしも無いなら…あー…

回収した後に、何処か別の…

お前らが望むなら、

望む場所に掛け合ってやるよ。』

「ありがとうございます。

でもその必要はー」

曙は機嫌を損ねないよう、返事をしつつ笑う。

そんな言葉を信じられる筈がない。

確実に逃げないようにする為の嘘だ。

ここは騙されたふりをして、

この場にいると約束して逃げるべきだろう。

…例え現在自分達が、

深海棲艦の群れから何とかして、

この無人島に逃げ込んでいたとしても。

今の消耗具合だと、

次に見つかれば終わりだとしても。

「信じろって言うんですか」

-不意に、突然投じられた

潮の言葉に、少女は思わず固まった。

『…信じてくれ、としか言えないな…

信じるも信じないもお前らの勝手だ。

俺はあくまで口出しするだけで、

最終的な決定権はお前らにある。

結局の所、自分を動かすのは自分なんだよ』

対して、気にも留めてないように返す男。

「ならー」

『だが、お前らだけで今後どうするんだ?

行くあてでもあるのか?

野垂れ死なない自信があるなら…

そちらの方が安全と判断できるなら、

俺は大人しく引き下がるが。』

答えられない潮。

「貴方に保護される方が

危険かもしれませんよ?」

朧が不快感を隠すこともなく呟いた。

『ま、そーだな。

お前らにとって

提督ってのは"そういう物"なんだろう。

そう判断するのも無理はない。

だが一つ言うなら…

男に二言はねぇ。

俺は"約束"は守るよ。

誓ってお前らに危害は加えねぇ。』

黙る三者。

「…私は提督を信じますよ?」

「漣…アンタねぇ…」

「分かりました。」

潮が決意したように前を向く。

「私は、"漣ちゃんを"信じます。」

暗にお前は信じない、と告げられるが、

男は満足そうに笑った。

『そうか。なら…勝手に動くなよ。ほんと』

「それは…自分が直接手を下したいから、

逃げられたくないって事ですか?」

『そう邪推するなよ…。

変な憶測や被害妄想で

勝手に動いて沈まれたくないだけだ。

それで…そちらの状況はどうだ?』

少女達は海を見る。

イ級などの深海棲艦がまだ彷徨いていた。

自分達を探しているのだろう。

だが、それを言う必要はない。

自分達は"逃げられない"のじゃなく、

"逃げない"のだから。

あくまでも、建前上で、だが

彼を信じることにしたのだから。

「…"特に変わりはありません"」

『そうか。分かった。』

四人を匿う小さな無人島に、

少しだけ嫌な風が吹いた。

 

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「…はぁ…」

三角座りでため息をつく朧の隣に、

潮は腰を下ろすと笑いかけた。

「朧ちゃん…大丈夫…?」

「大丈夫…今は、ね。」

横目で漣を盗み見る朧。

彼女が自分達を売るような艦

で無いことは知っている。

だが、それでも不安は拭えない。

「…ねぇ、漣が脅されてたり、

裏切ってる可能性は…」

「無い…と、思う…けど…」

一体誰が断言できるだろうか。

自分たちには想像もつかない方法で、

漣を脅し、操っているのかもしれない。

少なくとも、今までの提督達は例外無く、

"そういうもの"だったのだから。

「もしそうだったらー」

…もしそうだったら。

私たちは一体どうすれば良いのだろうか




誤字修正しました!!
本当にありがとうございます…っ!!

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