ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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話し方

「失礼致します。」

ノックの音が響き、扉を開けるとそこには、大淀の姿があった。

「…おーお前か。はよー…。」

欠伸をしながら、グッと身体を伸ばす。

「全員、食堂へ召集が完了致しました。」

「…ん。じゃあ俺も向かうかね…島風はー…」

「待合室の机の下に潜り込み、提督が来るまでは絶対に動かないと…。」

「…何やってんだアイツは…」

頭をボリボリと掻き、部屋から出る。

「では私も食堂へ向かわせていただきます。失礼致しました。」

「おー。」

食堂へ向かう大淀。

俺はスッと目を細め、再び大きく欠伸をした。

 

島風の所へ向かい、話をした後、食堂へ向かう。

相変わらず、ドアを開けた瞬間に一切の音が無くなった。

「…あー。呼び出して悪いな。今日はここに来た新しい仲間を紹介する。島風。」

「ぉぅっ…」

「見ての通り、オットセイが擬人化したものだ」

「違うよ!!!違うもん!!!!」

「ならばちゃんと挨拶をしろ。」

「うぅぅぅぅ…」

俺の服を掴んで隠れるようにして、

中々前に出ていかない。

絶対お前コミュ障だろ…。

救いを求めるように俺はチラッと例の四人衆に視線を送ってみたが、茶髪…朧は気付かず、鈴付き…曙は無視。

黒髪…潮は肩を震わせ、ピンク頭…漣に至ってはフイ、と顔を背けられた。

嘘だろお前ら。コイツは昨日お前らの部屋を掃除してくれたんだぞ!?

「…島風です。」

いや、聞こえねーよ…

涙目でふるふる震える島風に対して内心ツッコミを入れた。

「…マイク、貸してやる。」

「提督…ありがと…えっと…島風です…あの…お願いします…」

お前キャラ変わりすぎだろ。どうした。

「まぁ、あれだ。コイツはコミュ障でな…良かったらどんどん話しかけてやってくれ。」

「ぅぅぅぅぅ…」

まぁ、怖いのは凄く分かる。

一切表情を変えず、微動だにせず、沼のような暗い瞳で此方を見ているのだから。

「…そして、この鎮守府の活動方針を決めた!」

全員が命令か、と姿勢を堅くする。

だから、ニヤリと笑いながら言った。

「…今日から一週間、鎮守府の掃除だ」

 

「…一つ宜しいでしょうか」

ざわめく艦娘達。一人がスッと手をあげた。

髪を一つに束ねた、

非常に冷淡そうな印象を抱かせる女性だ。

「…あー…お前はー…」

「加賀、と申します。以後お見知りおきを。」

それだけ言うと、静かに一礼する。

たったそれだけの動作だが、非常に精練された、美しい動きだった。

「先程、掃除、と仰りましたが、その間の哨戒や執務についてはどうなさるおつもりでしょうか」

「それについては問題ない。元帥が取り計らってくれるので哨戒の必要性はなくなった。猶予は…せいぜい一週間だがな。」

「…聞きたいことが増えましたが…それに執務の答えはいただいておりません。秘書官はどうなさるのですか?」

「…それについても問題ないとだけ言っておこう」

「そのような説明で納得ができると…」

他の艦娘が声をあげたが、それを制し、加賀は無表情のまま頭を下げた。

「……そうですか」

「なっ…」

「ですが…もしも執務が滞るならば…」

「分かっている。」

鋭い視線に苦笑で返す。

「掃除場所の分担は、戦艦は工廠、空母は食堂、重巡は倉庫、軽巡は入渠ドック、駆逐艦は艦娘寮、その他は廊下の窓拭きだ。只し、昼頃にまた召集をかけるので、その時には何処まで進んでいようと集まるように。」

全員が同時に、無言で敬礼をした。

 

「…さて、やるか。」

「おーっ!!」

俺が気合いをいれるために呟いた独り言に、

拳を振り上げ明るく返事をする島風を睨み付ける

「俺は駆逐艦は艦娘寮と言ったが…」

「提督を手伝うもん!!」

「…言っておくが、一番しんどいぞ?」

「……………提督を手伝うもん!」

今ちょっと考えやがったなコイツ。

デコピンを食らわせ、大きく息を吸った。

「いや、お前が来るなら話が早い。予定にはなかったが先に…面倒事を片付けるか。」

 

執務室に、ノックの音が響く。

「御呼びでしょうか、提督。」

深々と頭を下げながら、大淀が入ってきた。

「来たか、大淀。すまん…少し面倒事を片付けるのを手伝ってくれないか」

「面倒事…ですか?」

「詳しくは街へ行く道すがら話す。」

外出用の服に着替え、外に出る。

鎮守府が見えなくなるほど、砂浜をひたすら街へ向かって進んだ。

車で向かうならすぐだが、歩きながら、それも、砂浜から向かうとなるとかなりの距離だ。

島風は無言でザクザクと砂を踏み鳴らしながら進み、大淀は波の音を聴きながら静かに歩く。

ちょうど、崖付近にある、自然に出来た洞窟の前に差し掛かった辺りで、中々話を始めない俺に痺れを切らせたのか。

「それで、お話、とは」

大淀が恐る恐る尋ねてきた。

「…お前、ムカつくな。」

だからこそ、全面に不快感を漂わせ言う。

「…え?」

「もう一度言ってやろうか?お前ムカつくわ」

「…そ、それはどういう…」

突然そんなことを言われ、戸惑っているのだろう。

大淀は助けを求めるように視線を泳がせた。

「島風」

「…はーい。」

大淀の隣を歩く島風が、大淀に砲を向ける。

そこでようやく命の危機を悟ったのだろう。

大淀は此方を睨み付けながら言った。

「どう言うことでしょうか」

「お前誰だ?」

「…はい?」

不思議そうに眉をしかめるその態度に腹が立つ

イライラを隠すこともせず、頭をかきむしりながら怒鳴った。

「分かってるんだよ。お前は大淀じゃない」

「いえ?!私は大淀で…」

「確かに、確かにお前は大淀だ。だが、"俺の"大淀じゃないだろ?」

「何を…っ!」

"偽物"の叫び声が響く。

 

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男は物を大切にする。

周りの人間が呆れるほどに。

男は物を何よりも尊ぶ。

近くの人間などどうでも良くなるほどに。

男は物を心から愛する。

…物を傷付けた"敵"を絶対に許さないほどに。

 

「なぁ?自分が何をしてるかわかってるか?」

憎悪では言い表せないほどの敵意。

その矛先が向けられていない筈の島風が、装備をガチガチと鳴らした。

…彼を慕う筈の彼女が、他でもない彼から発されるその圧に、震えているのだ。

だが、それすら意に介さず男は続ける。

「大淀はこの鎮守府に在籍している。つまり俺の艦だ。わかるか?なぁ?わかるよなぁ?それを傷付ける、俺の物の名を騙る、これがどう言うことかわかってるのか?」

「…ぁ…」

男から発される殺意は最早人間のソレではなく、近しいものを挙げるとするならば…彼女たちが知っている限りでは、深海棲艦のそれに近い。

それだけの害意が一人の人間から発され、丸腰である自分に向けられている。

女性が声を出せないのは仕方がないことだ。

「確かに傷付けてる確証はない。だが、お前が大淀でないのは事実だ。じゃ、本 物 は 何 処 へ 行 っ た ?

俺は朝からそればかり考えていた。資材の量が不自然に増えていないかを確認し、何処かへ出掛けた痕跡はないか調べて。

なぁ、今ならまだ間に合うかもだろ?だからとっとと吐いて欲しいんだわ。下らねー茶番に付き合う暇はねぇからよ。」

「提督…私は…っ!本当にっ!!」

「お前に一つ、アドバイスしてやるよ。俺もお前が本物か偽物か、確証はなかったんだ。だからさっき…一か八か、賭けに出た。…それで疑問は確信に変わったんだがな。精々俺の大事な艦を傷付けて"申し訳ございません"でした。ってよ、土下座でもしてみればどうだ?少しは俺の気分も良くなるかもな。」

きっとこの言葉の意味は彼にしか分からない。

怪訝そうな顔をした大淀を睨み付け、冷たい顔で彼は命令を下した。

「もういい、島風、撃ー」

「…そこまでです」

男から大淀を庇うように、必死な面持ちで立ちはだかる妖精。

「…お前か」

その妖精がずっと影で話を聞いていたなど知るよしもない男は、唐突な妖精の乱入に困惑した。

「…なにをしているのですか」

「こいつは大淀じゃない。」

「いえ、おおよどでー」

「俺の艦じゃねぇ!!!」

空気がビリビリと震える。

「良いか?大事なのはこいつが大淀って名前を持っていることじゃなく、俺の艦に何かをして、成り済ましたということなんだよ。」

「ようせいのかんがつげています。

まちがいなく、これはあなたのおおよどです」

「俺の勘が叫んでるんだ。

こいつは絶対に俺の艦じゃねぇ。」

両者譲らないにらみ合いが続く。

長い時間が経った後、先に目を反らしたのは、他でもない 男の方だった。

「…おい、大淀、お前は本当に…今までの大淀なんだな?」

「…はい……。」

「…妖精…お前の勘は、信じていいんだな」

「とうぜんです。ようせいさんにおまかせ!」

「…そうか。…そうか…大淀、本当に…、本当に…すまなかった。」

「…。」

「謝って許されることではないだろう。だが、俺の目にはどうしてもお前が大淀に見えなかったんだ」

深く頭を下げ謝罪する男。

先程の憎悪は霧散しており、そこにいたのは只の一般人だった。

「ひとさわがせなていとくー。なんでおおよどじゃないっておもったのー?」

「話し方…口癖がそう簡単に変わるかとの疑問もあったが…一番は、もっと根本的な…目、というか…上手く伝えられないな。勘だ。」

「…ふーん。」

妖精は男に気付かれないようスッと目を細める。

「…大淀、立てるか?」

「…こ、腰が抜けて…」

「…悪い、運ぶぞ。」

「へぁっ!?」

彼はひょいと大淀を抱えあげると、真っ赤になった彼女と、肩に乗った妖精、ホッと一息ついた島風を連れて鎮守府へ歩き出し始めた。

 

誰もいなくなった洞窟で、奥から女の声がする

「フーン。面白イネェ?…アレハ?」

「…そういえば、言っていませんでしたね…"うち"に新しく着任した提督です。」

「…中々ドウシテ、惜シカッタネェ~。マ、最後ハ上手ク丸メコマレチャッタ訳ダケド。」

「…というと?」

「アレハ大淀ジャナイネェ~。外側ハ大淀ダケド、中身ハ大淀ジャナイ。私ジャ漠然ト何カガ欠ケテイル…イヤ、何カヲ抜キトラレタ、ッテコトシカ分カンナイケドネ。」

「…どうしますか?」

「ドウモシナクテ良インジャナイ?出ル杭ハ打タレルダケダヨ~。怖イヒトニ目ヲ付ケラレタクナイシ~。コウイウノニ深入リハ禁物ダヨ~」

「分かりました…私もそろそろ帰らないと…」

「ア、待ッテ?私アイツト"オ話"シテミタイナ」

「…あんな汚らわしい男と話す必要はありません」

「エ~…オ願イダヨ~…ネェ~」

「…くっ、分かりました…分かりましたよ…」

「エヘヘ~。アリガト~…。アノ妖精…イヤ…

"妖精モドキ"ニ見ツカラナイヨウニネ。」

「…へぇ…気を付けます。」

「後、提督ヲ連レテクルトキ殺シチャダメダヨ?」

「………善処します」

「ダメダヨ??」

「…くっ…」

「…マ、半殺シナラ構ワナイケドネ~。」

ケラケラと笑う声の主。

もう一人は洞窟から出ていき、彼等より先に鎮守府に着くために、足早に近道へ向かう。

そんな会話は、二人の他に誰も知る由がない。

光の差さぬ洞窟で行われた秘密の会話は、今日も真っ暗な洞窟の闇に吸い込まれていった。




私は!!漣ちゃんとか!!!島風ちゃんとの!!イチャイチャが!!!!書きたかった!!!!←
はい…。取り乱しましたごめんなさい。おはようございますこんにちはこんばんわ。今回もご覧いただきありがとうございます…っ!
書けよってね!書けよって思いますよね!!
書きたかったんですよぉ…っ!
しかし提督をガチギレさせてしまいました。
あの提督は物を異常なほど大切に思うがあまり、その物を傷付ける輩は絶対に許せないのです。
皆さんは何をされたら一番腹が立ちますか?
私はクリスマスに遊ぶ予定をしていた友達が彼氏とデートとか言ってドタキャンしやがったときに、寒空の下震えながらあいつだけは絶対許さないと誓いました。
さて、今回冷や汗をかき続けた妖精さん、そして洞窟に潜む第三勢力(?)の登場。
果たして提督はどうなってしまうのでしょうか!
彼等の今後をどうか見守って頂けると幸いです…!

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