ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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飯にしようぜ!!

「…あの糞提督。艦娘寮が幾つあると…」

「居ない場所では強気だけどいざ本人を目の前にするとビビっちゃうボーノhshs」

「死ねっ!!!」

「…ま、駆逐艦なんてそんなもんだよねー」

「仕方ないよ…うん…。」

曙、漣、朧、潮の四人は話しながら寮の扉を開ける。

そこには、外からは想像もつかないほど、まるで新築のような、綺麗で清潔な光景が広がっていた。

「ついに私達は幻覚が見えるようになったみたい」

「…私…初めて駆逐艦でよかったって思った」

「…何よ。あの糞提督。やることないじゃない」

「やっぱり駆逐艦は最高だぜ!!!」

「あ、いたー。」

妖精がふよふよと彼女らに近づき、告げる

「そとにさいていげんだけど、かぐがあるからー。くちくかんみんなで、べっどとたんす、らんぷくらいはぜんぶのへやにおいといてねー」

「ついに私たちは幻聴がするようになったみたい」

「…私…来世は戦艦が良いなぁ…」

「あの糞提督!それ駆逐艦にやらせること?!」

「(´・ω・`)」

「いそがしいひとたちですねぇ~」

妖精は口に手を当てクスクスと笑う。

「ではわたしはほかのくちくかんたちにもつたえてきますのでー!」

ふよふよと飛びながら外へ向かう妖精を見て、朧はポツリと呟いた。

「妖精さんって結構謎だよね…」

 

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「…」

窓を拭いていると、後ろから唐突に声をかけられた

「…なぁ」

「きっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

「うっええええええええええええ?!?!」

「なっえっしっ司令官…!?」

「生きてた…生きてた俺の鼓膜…」

呟き胸を撫で下ろすのはやはり司令官。

先日この鎮守府に着任したばかりの、

…個人的にちょっと、いや、物凄く怖い人だ。

「のっなっあっえっうっ」

「落ち着けー、落ち着けー?深呼吸だ。深呼吸

もう一度アレを食らえば間違いなく俺の鼓膜は」

両手を広げながらじりじりと距離を離していく司令官。

そして、その後ろから突然少女が現れた。

「ていとくーっ!おっそーい!!!」

「きっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「くっ…!!!!ぐわぁッ!!!!」

「ぉぅっ!?」

身体をくの字に曲げる二人。

やってしまったと思いながら頭を下げた。

「もっっ…申し訳ございません…っ!」

「構わん、構わんぞぉ…俺の鼓膜ってこんなにも頑丈だっだってことが知れたんだからな…」

それはそれでどうなんだろうか。

「ねーねーていとくー。はやくいこうよー」

「待ってろ…確証は無いんだ。」

何の話だろうか。首を傾げていると、司令官は手元のバケツに目を向けた。

「…冷たい水だな」

「…え?」

「夏場とはいえずっとこれに手を浸していると冷たいだろ。手は大丈夫なのか?」

「あっ…えっ…?」

そりゃあ、バケツの中に満たされているのは氷水のような冷たさの水で、夏場ではあるがずっと手をつけていると指先の感覚は無くなってくる。

…だが、分からない。

何故この人は私のことを心配するような目を向け、

私のことを心配するような事を言うんだろう

「…せめてもう少し温い水にしようぜ」

頭に手を置かれ、苦笑される。

「…そんな事していい筈が…」

「…?この俺が許してるのに誰が許さないんだ」

「てーいーとーくーっ!」

「あぁ待てコラ。おい服を引っ張るなコラ。」

少女に手を引かれ、

司令官の手が私の頭から離れた。

「あっ…」

「?」

「っ…なんでもないです。」

そうか、と言うと服を引っ張り早く早くとせがむ少女の相手をする司令官。

というかあの子は何でこんな態度をとれるの…

その人、ここの一番の権力者なんだけど…。

「あー…糞、参ったな。時間がねぇ…」

「…?」

「悪いな、一刻も早く白黒つけないといけない問題があるんだわ。とりあえず…スプレーは他の奴等に渡しちまったし…」

「借りてくる!」

「ん?」

「え?」

バヒュン!と少女はみるみるうちに何処かへ消え、司令官はボリボリと頭を掻いた。

「…まぁ良いか。」

「…」

「兎に角、もうちょっと自分を大事にしようぜ」

「そんな事、出来る筈が」

「俺が許す。文句言う奴はぶっ飛ばしてやる」

ニヤッと笑う司令官。

「………」

「自分が大切にできなくて、誰かを大切に出来るかよ…お前はー…えーっと」

「伊168です。」

「そうか。伊168、お前の服装だってそうだ。」

…唐突に話が見えなくなった。

服装…服装…??

「なんだその顔は。島風にしかりお前にしかり。どうしちゃったんだよ海軍は。」

「…???」

「あれか。特殊な性癖じゃないと上に行けないのか?此所は?…確かに元帥とか性癖の塊みたいな雰囲気あるもんな…」

何処か遠い目をしながらぼやく司令官。

すると、ドタドタと音を立てながら廊下を走ってくる少女の姿があった。

「借りてきたー!」

スプレーを片手に司令官に抱きつく島風。

頭を撫でられ、御機嫌そうに笑いながら私をちらっと盗み見た。

「…ねーねー、なんで水着着てるのー?」

「格好がアレなお前が言う?」

「アレっ!?」

「これが正装なので…」

「…海軍は特殊性癖者の集まりか…?!」

呆れたような呟きが廊下に響いた。

 

その後、スプレーを吹き掛けた雑巾を手渡され、なんでもどんな汚れだろうと落ちる、と言う説明を聞き、人数分渡される。

「皆に配ってやってくれ。」

皆に配るのは無駄だとは思いつつも、命令に背くわけにもいかないので、配り歩いた。

「何っしゅかこれ…?」

「司令官が、手が冷たいだろうって。」

「ほわー!提督さんって優しいんっしゅかね?」

何人かは簡単に受け取ってくれる。

…何人かは。

「いらないでち」

「…でも」

「仮に今が冬場でも、ゴーヤの選択は変わらないでち。あんな奴の施しなんて受けないでち。」

なら自分だけ受け取らなければ良いのに。

わざわざ周りに睨みを聞かせながら、大きい声で言うのだから、そこから誰も受け取ろうとはしない。

私はため息をつきながら、スプレーを吹き掛けられた雑巾で窓を拭き始めた。

 

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「…ていとくー。何するのー?」

大淀との一件を終わらせ、俺は食堂へ向かう。

「…うーむ…」

「ていとくー?」

「む…」

「ねーぇー…てーいーとーくー」

「…引っ掛かるんだよなぁ…」

「…えい」

島風が体当たりをして来た。

「…お?どうした?」

「ていとくー、考えすぎ。」

「…俺が俺の物に関する勘を外すとは…」

「とりゃぁ」

「だからさっきから体当たりをして来るな…」

「何にもなかったんだから良いじゃん!」

妖精は俺なんかよりずっと艦娘の事を知っている

そんな妖精が保証したのだ。

俺がなにか勘繰る必要はない。…ない、筈だ

「…そうだな。そうだよな。」

俺は考えることを放棄した。

「それで、何の話だったか?」

「今から何するのー?」

「まずは…食堂だ。」

笑いながら扉を開けると、

中にいた艦娘が一斉にこちらを向いた。

「…何の用かしら。見張らなくてもサボるつもりは無いのだけれど。」

代表して加賀がこちらへ歩いてくる。

「そりゃそうだ。俺は俺でやることが…いや、お前らにも手伝ってもらうか…?」

「?」

丁度その瞬間、バン、と扉が開き、

大淀が息を切らせながら現れた。

「持って…きましたけど…っ!こっ…これ…なんなんですか…!」

彼女が運んできたのは大量の鉄で出来た部品。

加賀が眉を潜めた。

「…なにかしら。これは。」

「聞いて驚け、組立式の巨大鍋だ。」

「意味がわからないのだけれど」

「机を一度別の部屋に持ち出してくれるか」

はぁ、とため息をつくと、彼女は全員に命令した

「…聞いた通り、今から机を移動させます。

全員手伝い、すぐに終わらせなさい。」

 

椅子は部屋の端に避け、広々とした中央で巨大な鍋を組み立てる。

「何処でこんなの買ってきたんですか…」

大淀が呆れたようにぼやいた。

「なにこれー!!」

「島風、中に入るなよ。」

「ドラム缶より大きいー!」

鍋の回りをくるくる回りながら、キラキラした瞳で鍋を眺める島風。

大淀から、追加で持ってきて貰ったホースを受けとると、水道に繋いで、その鍋に水を入れた。

「…一応聞きたいのだけれど、何をしようとしているのかしら。」

睨みながら詰め寄る加賀に、俺は笑って答える

「…ラーメンって知ってるか?」

 

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呼び出しがかかり、食堂へ向かうと全員が食堂前でたむろしていた。

「…何で皆入らないんだろ?」

「さぁ…?」

「…呼び出しといて何よ。あの糞提督」

「ボーノ…滅茶苦茶小さい声で言うくらいなら言わない方がいいんじゃない?」

軽口を叩きながら人混みのなかを進むと、壁にもたれ掛かるようにして加賀さんが立っていた。

「加賀さん…?」

「あれ?空母って食堂の掃除担当じゃ…」

朧と潮は顔を見合わせ、曙はスッと加賀さんに近寄っていく。

「…どうしたんですか?」

彼女は曙の疑問には答えず、

少しだけ顔を上げると再び下を向く。

「…提督ですか?」

私が思わず聞いてみると、加賀さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「マジで何考えてんだよアイツ…」

「加賀さん?!?!」

今この人とんでもない口調してなかった?!

後ろの三人を振り返ると、三人とも唖然とした表情をしている。

「…ごめんなさい。取り乱したわ。」

そういう次元じゃ無かった気がするけど!

…なんて突っ込めるわけがなく、黙っていると、加賀さんは腕を組んだまま続けた。

「…腕が痛い」

「…え?」

「腕が痛いのよ。というか、疲れた。そっとしておいてくれないかしら?」

イライラを隠すことなく言う加賀さんを見て、私たちはただ引き下がることしか出来なかった

「あんなイライラしてる加賀さん初めて見たんだけど…」

「ど、どうしたんだろ…?」

「…あの糞、加賀さんに何かしたんじゃ…!」

怒りからだろうか、フルフルと震える曙を見て、私は内心首をかしげた。

あの人は、確かによく分からないけど、少なくとも、私達が傷つくことはしない筈だ。

じゃあ、何故あの人はあんなに怒って…

「…」

目を閉じて、耳を済ます。

私は、人よりも少しだけ耳が良い。

意識を集中すると、

食堂の中の声が少しだけ聞こえてきた。

「フハハハハ!!!島風!!もっとだ!!もっと走れ!!!!!」

「おっそーい!!!!!」

「まだだ!!!足りん足りん足りん!!」

「アハハハハハ!!!!!!」

…本当に何をしているんだ?!?!

 

数分後、食堂の扉を開け、顔だけだした提督が全員中に入るよう促す。

中に入って真っ先に思ったことは"暑い"だった

机は全て撤去されており、中央には馬鹿みたいに大きい鍋がある。

その鍋を囲むようにして乱雑に椅子が並べられていて、鍋からはもくもくと湯気が出ていた。

「何これ」

朧が全員の気持ちを代弁して呟く。

空母の人たちがお椀とお箸を手渡してきた

「え…あ…え?」

「あ、ありがとうございます…?」

「…??」

「…えと…?」

全員にお椀が行き渡ったのを確認してから、提督がスッと前に出た。

「…俺は、今朝、疑問に思ったんだよな。お前ら…飯食ってねぇだろ。」

そりゃあそうだ。

私達は補給さえあれば最低限生きて行ける。

「何人かは当然だ…って顔をしてるが、俺はそうは思わねぇ。だから、俺の着任祝いって訳でもないが…こういう形で一度全員で飯を食うってのも悪くねぇなと思って、これを用意させて貰った。」

全員が鍋に目を向ける。

私も目が釘付けになった。

「ラーメンって言うんだが…あー、駄目だ。長々話すと申し訳ねーな。簡潔に、ルールを説明する。」

「ひとつ!危ないから走ったり押し合うな。

焦る気持ちはわかるが、飯は逃げねぇし人数分より多目に用意してるからな。無くなる心配はねぇ。

ひとつ!鍋には触らないように気を付けろ。

火傷するかもしれないからな。もしも触ってしまったり何かあれば、近くの空母にすぐに伝えること。

ひとつ!飯は分け合って食うこと。

折角集まったんだ。変な遠慮は要らないから食えるだけ…でも多少は配慮しながら食え!」

話を遮るように、島風が手をあげた。

「はーい!!

私は"駆逐艦だけど"食べて良いんですかー?」

その質問を受け、男はニヤッと笑う。

「当然だ。お前らは俺の艦だ。これ以上でもそれ以下でもねぇ。俺の艦である以上、お前らは全員同等であり、同胞だ。」

喉が鳴る。

駆逐艦も食べて良いのか?

「これを食う権利は全員にある。だから、全員、好きな場所で、好きに話しながら食え。」

それだけ言うと彼はスッと鍋から離れる。

「おたまが沢山鍋の縁に掛かっているから、先頭に居るやつから自分の椀に好きなだけ入れて、次のやつに回せ。全員が一杯ずつ食べてからはおかわりも各自自由だ。」

もう、話など聞く余裕は無かった。

椅子からスッと立ち上がる。

回りを見れば、全員が同じような状況だった。

「全員好きに食え。話は以上!飯にしようぜ!!」




今回もご覧いただきありがとうございます…っ!
皆で大きい鍋から分け合いながら取っていく、ってなんだか面白そうですよね…!
今回は比較的仲良し!って感じのお話にできて個人的には良かったです…ほんと…
ずっとこのまま平和だったら良いのになぁ…
少しずつ鎮守府の風向きが変わっています!
彼等は果たして鎮守府の風向きを変えることが出来るのでしょうか!拙い文章ではございますが、これからもどうかどうかよろしくお願いします…!

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