ひねくれ提督の鎮守府建て直し計画   作:鹿倉 零

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第六駆逐隊、出撃ス!!

「あー。あー。テステス。」

そんな提督の声が聞こえ、反射的に全員は体を震わせ、顔を上げた。

うたた寝していようと、話していようと、食べていようと、すぐにその行動を辞め、話を聞く姿勢になる。

「…聞こえてんのかなぁ…まぁ良いか。お前ら、飯はちゃんと食ってるかー?」

当然だ。鍋に残された拉麺は残り少なくなっており、ほぼ全員が既に腹を満たしている。

提督は未だだるそうな声で放送した。

「意地でも食わんような奴は…もう口に無理矢理突っ込んでやれ。腹が減っては戦はできぬ。これからみっちり働いてもらうんだからな。そんなんじゃこの先やっていけねーぞ。」

みっちり働いてもらう、という言葉に、数人が体を震わせる。

「…兎に角だ、食べ終わったら各自自由行動!

鎮守府の外に出すことはできんし、危ないところには入ってはいけないが他の部屋を彷徨くのも自分の部屋で寝るのも構わん。好きにしてくれ。」

それだけ言うとブツリと放送が切れ、食堂を静寂が支配した。

「…え?」

「え?え?だって…掃除は…?」

ちらほらとそんな声をあげる人も居たが、文句などある筈もなく、唐突に与えられた空白の時間をどう過ごすか各々考えているようだった。

 

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「…あのぉ…」

「何かしら。」

振り向くと、そこに立っていたのは島風だった。

提督は彼女の事を大分心配していたようだが、彼女はなんだかんだ駆逐艦に受け入れられており、言うほど心配をする必要性がないように思う。

「ラーメンって…まだ残ってますか…?」

「あるけれど。…食べたいのなら食べなさい。

何も遠慮する必要はないわ。」

すると彼女はふるふると首を横に振り、続けた

「あのね…提督…多分、何も食べてないの」

眉を顰める。

「…一日目はずっと一緒にいたけど食べてないし、今日もスープの味見以外は一度も口にしてないの」

「…何を考えているのかしら…あの人は…」

「だから持っていこうと思って…」

「良いんじゃないかしら。…私も同行するわ」

最悪口に無理矢理突っ込んでやろうと心に決め、椀を片手に執務室へ向かう島風に着いていった。

 

「ていとくー?あけていーい?!」

言うと同時に開けると意味がないんじゃないかと思うが、とても明るい声でドアを開く島風。

文字通り大量の書類に埋もれていた男は、慌てるようにして、その山の陰に一つの小瓶を隠した。

「おっそーい!!!」

「今何をしていたのかしら」

「…。おう、島風に加賀か。ちょっとは仲良くなったか?」

「今指を舐めていたように見えたけれど」

「島風…他の奴と仲良くなれたんだろうなぁ?」

「できたもん!」

「あの」

「そうかそうか。」

男は島風の頭をわしゃわしゃと撫で、島風は満足そうな笑みを浮かべる。

「…頭に来ました」

身を乗り出すと提督は慌てたように弁解した。

「…こうすると書類が捲りやすいんだよ。」

「汚くない?!」

「それな。昔プリント配るときに唾めっちゃつける先生がいてスゲェ嫌われてたわ…。」

そんな話を聞きながら、隠した瓶を取り上げた

「あっ…おいコラ!!!」

慌てて大声をあげたがもう遅い。

…塩。そこにはそう書かれていた。

 

ばつが悪そうな顔をする提督に、瓶を突きつける

「これは何かしら」

「…塩だ」

「…なんで執務室に塩があるのかしら」

「最新の兵器なんだ。触るな。返せ。」

奪い取ろうとする男を抑え、ため息をついた。

「何故塩を舐めていたの?」

「…」

「答えるまでは返せません」

「…腹減ってたんだよ。」

「ここは無人島か何かなのっ?!」

島風の突っ込みが響く。

「貴方はそれで満足なのかしら?」

「人は塩と水だけでも2ヶ月は生活できる」

「あら、質問の答えになってないわね。」

うっぐ、と苦虫を噛み潰したような顔をする男

「…一先ずこれは没収です」

「それは困る。水だけじゃキツい。塩分は…」

「普通のご飯を食べなさい。」

「食堂行くわけにはいかないだろ…」

拗ねるように下を向いてぶつぶつと呟く男に、若干呆れつつ溜め息を吐いた。

「何故私達が拉麺を食べている中貴方は塩を舐めるのよ。普通逆でしょう。」

今までとは全くの逆だ。

否、こちらは舐める塩すら無かったが。

「違うな。お前らは前線で戦うんだからしっかり食って働いてもらわにゃ困る」

「提督も食べようよっ!?」

「貴方が倒れる方が困るのだけれど」

私達に代わりは幾らでも居るのだから。

と、続けようとしたがその前に、島風が机の上に持ってきたラーメンをドンと置く。

「ほら!提督っ!!食べて!」

「武士は食わねど高楊枝と言ってな…」

「提督は武士じゃないよっ?!」

何故この男はこんなに渋るのだろうか…

「ほら、ここの艦娘は今まで食ったことがなかったんだろ?俺が食う分を他のやつに回してやれ」

「皆、そこそこお腹は膨れたようで各自自由行動に移っているわ。」

「…満足はしてくれたか。そうか…」

少なくともまだ一人、取り憑かれたようにラーメンを啜っている赤い人は居るだろうけれど。

「ええ、だから寧ろ食べてもらわないと処理に困るわね。」

「…ぐっ。……チッ…ありがとな。二人とも」

とてもお礼を言う顔ではないが、そう言うと、男はようやく目の前の食材に口をつけた。

「…旨いな。これ…。」

「それで…この書類は何かしら」

指を指すと彼はズゾゾゾ、と音を響かせながらスープを飲み干し、何でもないことのように言う。

「そりゃ仕事に決まってるだろ。引き継ぎに報告にエトセトラ、やってもやっても減らねぇわ」

「…秘書艦は」

「要らん。お前らの仕事は海で戦うことだ。んで、俺の仕事はお前らの指揮とコレ。」

ポン、と書類の上に手を置く。

「胃を痛めるのは俺だけで良い。何、海に出る方が過酷なんだから俺だってこれくらいはしねぇとな」

「勘違いしているようだけれど私達はそれが役目なのであって…」

「お前らの役目がそれだと言うなら俺の役目は

お前らが海で全力で戦えるようサポートする事。

少なくとも今のお前らに提督と密室で執務をする余裕はねぇし、させようとも思わねぇよ。」

これでも俺はこういうのが得意なんだぜ、と笑う彼を見ながら、身を削りながら働くとはこの事を言うのだろうとくだらないことを考えた。

 

…身を削ったところで、全て削り取られ棄てられるのがオチだと言うのに。

 

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「…作戦を確認するわ!」

静かな部屋にまだ幼く、明るい声が響いた。

「電と暁が司令官の気を引いているうちに、私が島風ちゃんを救出する!もし私が見つかっても庇っちゃダメよ?共犯になってしまうわ!私は私で何とかするから!約束よ?」

「レ、レディは別に怖くなんてないけど、ひっ…響も連れていった方が良いと思うわ…」

震える声で暁と呼ばれた少女が呟く。

「私は降りるよ。彼女は自分の意思で彼の周りに居るように思う。」

対して、響と呼ばれた白髪の少女は手をヒラヒラと振り、我関せず、といった態度を取った。

「そんな訳無いじゃない!私達が助けないと島風ちゃんはずっと提督に捕らえられたままだわ」

「それに、もし本心なら尚更私達は島風ちゃんの誤解を解いてあげないといけないのです」

二人は非常に意気込んでおり、響きの言葉を強く否定したが、暁と呼ばれた少女は涙目で項垂れる

「う、ううぅぅ…」

「暁、無理はしない方がいいわよ?」

「暁ちゃん…私達だけでも大丈夫なのです。」

心配そうに二人は声をかけるが、寧ろそういう声をかけるせいで余計に暁が降りることができなくなっているのを彼女達は知らないのだ。

「レ、レディは怖くなんてないんだからぁ…」

えいえいおー、と手を合わせる三人組。

小さな子供達の島風救出作戦が始動した

 

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広い執務室。二人しか居ない静かなこの部屋で

執務をしていると、扉が二度ノックされ、まだ幼い少女が顔を出す。

「…?」

「…あ…あのっ、あのっ!」

「…」

「司令官さん…っ!!」

「え、俺か?…入って良いぞ」

そう声をかけるが全く中に入ろうとせず、

何故だか入り口付近でずっとうろうろしている。

「…?」

一先ず廊下に出ることにした。

 

廊下に出てわかったのは、少女が二人居ること

片一方は先程顔を出してきた茶色い髪を後頭部で束ねた幼い少女。そして、もう片一方は彼女を盾にするかのように縮まっている帽子を被った紫色の髪を持つ…これもまた幼い少女だった。

「あのっ!あの…」

茶髪はニ三度口をパクパクさせると、叫ぶような大きな声で言う。

「い、良い天気なのです!!」

「…そうだな、良い天気だな。」

だからどうしたと思わないこともない。

というのも今俺の後ろの部屋では、大量の書類達が今か今かと俺のことを待ち構えており、正直なところ、そういう会話をしている余裕はあまり無い。

が、そういうことをこんな幼い少女に、それも、折角コミュニケーションを取ろうと努力している彼女に言うほど大人げなくは無かった。

「…あ、あのっ!」

お?まだ何かあるのか?

急かさず、笑みを浮かべながら次の言葉を待つ

「あのあのあのあの…」

おい、だんだん頭から湯気が出てきてないか?

みるみるうちに顔は赤くなってきており、心なしかその瞳が渦を巻いているようにも思う。

「あのあのあのあのあのあの…」

「大丈夫だ。ほら、深呼吸な。深呼吸。」

肩を優しく掴んで、膝をつき、視線を合わせる

「吸ってー。吐いてー。…落ち着いたか?

自分のペースで話してくれ。急がなくて良い」

「あ、あぅ…」

「大丈夫か?ほら、ゆっくりな、ゆっくり」

「な、なのです…」

駄目だな、少女の顔はどんどん赤くなるばかり

これは少し時間がかかるかと、執務室の中に居る島風に声をかけるために、扉を開けて言った。

「島風?俺は少し席を外すからー」

「あっ」

「あっ」

「あっ」

「ぉぅっ?」

中にいた茶色い髪のショートカットの少女が、

しまったと言う顔をしていた。

 

「し、司令官…!」

「司令官さん!違うのですよ!!あのっ!!」

「あ、暁が悪いの!司令官!!」

「暁…?!違うわ司令官!私の独断よ!」

「ていとくー?」

何やらワチャワチャとしていたが、

正直今の俺にはそれに構っている余裕はなかった

ツカツカと歩み寄り、島風の手を引っ張ったまま固まる茶色い髪の少女を見つめる。

「お前、名前は」

「い、雷です…!」

「司令官!違うのよ!!司令官!」

「司令官さん!誤解なのですよっ!あのっ!」

二人がかりで俺の両腕を引っ張ってきたが、気にせず続ける。

「そうか、雷…雷か。成程。第六駆逐隊か!」

「わ、私の独断なんです!

第六駆逐隊は関係ありません!」

「島風…お前…良かったなぁぁぁぁ!!!!」

「お゛ぅ゛っ …」

頭を全力でグリグリとしてやると島風はなんとも形容しがたい声を上げた。

「いや、納得がいった。良かったな島風」

機嫌良く何度も頭をポンポンとしているうちに、違和感を感じ取ったのだろう。

雷は怪訝そうな、電は心配そうな、暁は不安そうな顔をしていた。

「ほら、雷が遊びに来てくれたぞ島風。遊んで来たらどうだそうか遊び道具がないかなら俺の部屋から何か持ってくるか任せろ!」

「提督っ?!これ迄になくご機嫌だね!?」

「雷は遊びに来た訳じゃ…」

ご機嫌にもなる。

俺が一番危惧していたことは島風がこの鎮守府で浮いてしまうこと。

だが、全然そんなことないじゃないか。

コイツらが居たじゃないか。

そしてしかも、その間俺は自由じゃないか。

「さぁ!行ってこい!」

扉を開けて外を指差す。

「やだ」

室内が水を打ったように静かになった。

「…行こうぜ、島風。こんな所までコミュ症発揮してる場合じゃねぇよ…」

「やだもん。」

「やだもんじゃない。ほら、行ってこい。」

「…提督は私が居ない方が嬉しい…?」

コイツ涙目になれば俺が言うこと聞くと…

しばらく沈黙するが、最終的には俺が折れる。

「……はぁ、わかったよ…」

「やったー!!」

島風はぴょんぴょんと跳び跳ね俺に抱きついた

「ちょっ、島風ちゃん?!」

「なのです?!」

「ひ、響の言った通りだわ…」

俺は雷の頭を撫でながら笑った。

「折角声をかけてくれたのにすまんな。今日はそんな気分じゃないらしいが…これに懲りず島風のこと、これからも頼めるか?」

「…あ、あぇっ」

真っ赤な顔でわたわたと手を動かす雷。

「…?」

「えっあのっ…ふぇ?!」

頭から湯気が出始めたので慌てて手を離す。

「あっ…」

駆逐艦はどうしてもつい撫でてしまうが、これがトラウマになっている艦だって居る筈だ。

やはり俺はまだまだ気が緩んでいるな。

なんて自戒していると、最終確認、と言ったようにおずおずと茶色い髪の毛を後ろで束ねた幼い少女が声をかけた。

「あの、島風ちゃんは…ほんとに…それで良いのですか…?」

「そうだぞ島風。他の艦との交遊は大切だ」

「じゃあ島風がコレ預かるなら良いよー」

そういい塩を俺の手から取り上げる島風。

「おい!!」

「晩御飯もこれにするつもりでしょ!」

「…良いだろ別に?!お前らにはちゃんと食わせてるじゃねぇかよ…!!」

そんな言い合いを続けていると、

「そっ…そんなんじゃダメよ!?!?」

 

大きな声が狭い執務室に響いた。




ようやく体調も戻ってきました!
本当に返信投稿遅れてしまって申し訳ございません!
第六駆逐隊の四人は本当に本当に可愛くて大好きで…やっと出てきてくれたぁっ…←
はい!皆のお母さん雷の安心感は凄まじいですよね…
あの可愛さで何人の提督を骨抜きに…というかダメ人間にしてきたのでしょうか
あの提督もダメ人間にされないと良いのですがね…
これからもどうかどうか!彼等のことを暖かい目で見守っていただけると幸いです…!
今回も拙い文章ですが読んでくださってありがとうございました!

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