ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
これからも頑張りますのでお付き合いいただけると幸いです
少し前
サンイーターこと天喰環とオウタカによる戦いは一瞬のうちにオウタカの圧勝で勝負がついていた。
もとより個性を伸ばすことに全力を注いでいた天喰。応用力こそ高いものの武術に優れているわけではなくオウタカの動きを何一つ追えていなかった。
だが、それでも天喰は掠れゆく意識の中で個性を使いオウタカの足止めに専念していた。
「うーん、友のためにってのは立派だしそんな姿になっても戦えるのは私好みで殺したくないんだけどさ、君に用はないんだよね」
「ミリ……お……」
足止めしていた、と言ってもまだ会敵してから三十秒ほどしか経っていない。
だが、その間にあった出来事は一方的であり濃密だった。
まず彼が体から生やしたものは片っ端から太刀によって切断された。タコの触手も、アサリの貝殻も、何もかもだ。
次に盾がなくなった天喰に対して容赦のない暴力が襲った。
頭、首、鳩尾という急所を始め、全身に刀の柄による殴打や手刀による打撃を受け何度も地面に倒れ伏した天喰。
だが、その度に天喰は新たに体を生成し立ち上がる。
この1サイクルが十秒ほどである。
すでに彼に意識はない。けれども立ち上がるその姿にオウタカは感動すらしていた。
けれど時間をかけすぎるのは好ましくない。
「仕方ない。あんたには敬意を評すよ」
おちゃらけた態度がオウタカから消え、初めて動きを止めて構えた。天喰はすでに意識はない。何か来るとしたらかわせない。
「太刀一刀七の型……」
「ちょっと待ったあああああ」
いざ、抜刀、というところでどこからともなく声がする。
オウタカは天喰から意識を外し次なる敵に備える。
が、周囲に敵はいない。
「ここだよ!!」
次の瞬間、地面からミリオが現れ、その拳がオウタカの顎に届いた。
○
「いったたたた……この拳は……さっき殴ってきた人かな」
「そうだね! 何度もごめん! けど君が悪いからね!」
天喰の無事を確かめながらミリオは答える。それにそうだね、と笑いながらオウタカは自身を2度殴った少年に問う。
「名前を聞いてもいいかな……?」
「ルミリオン。僕はすべての人は無理でも万の人々を救ってみせる。君の名前は?」
「夜原鶯鷹。私は偽物のヒーローをすべて殺してみせる」
次の瞬間、両者は駆け出した。
オウタカが太刀を振るう。尋常でない速度のそれをミリオは見切り恐れることなく突き進む。
それに驚いたのはオウタカ。まだ目の前の青年は自身による
が、ミリオの個性は透過。傷はできず太刀はミリオの中に吸い込まれていく。
「え……?」
「URAAAAAAA!」
ミリオの右拳が振るわれ、オウタカの顔面に入る。
が、受け流された。顔面にあたったはずの拳は手応えが全くない。
同時にオウタカは体勢を崩したまま、再度太刀を振るう。当然ミリオは当たる部分だけ個性を発動しそれを回避する。
その攻防を経て、二人は一度距離を取る。
「ふむ……君の個性は受け流す類かな」
「ふふ、どうでしょう。そういうあなたは部分的に物体をすり抜ける類かな?」
「ハハッ、どうだろうね」
受け流されるなら受け流されない絞め技や関節技を、とミリオは考える。
すり抜けるのが個性ならばすり抜け続けさせれば良い、とオウタカは考える。
先手はオウタカがとった。
「太刀一刀流参の型! 春告る鳥!」
オウタカが構え、抜刀。
一瞬のうちに、ミリオに接近すると技を繰り出した。
地面をえぐり、宙を断ち、ミリオにすり抜けられながらもその太刀の勢いは加速し続ける。
その技は空間の一切を制圧しようという試みのもとに編み出された技だった。
一つ一つが回避困難であり、連続した斬撃がミリオに襲いかかる。
ミリオが殴りにかかれば足だけ引いて切り続け、ミリオが距離を取ろうとすれば足だけ進んで切り続け、ある一部を集中して狙い続ける。
全身透過させながら応戦するミリオだったがその表情は苦しそうだ。
「ねえ、さっきから黙ってるけど喋れないのかな? あと呼吸はいつまで続くのかな?」
「!?」
一分の隙もなく太刀を振り回し続ける少女。だが彼女には話す余裕すらあり、一方でミリオは焦る。
オウタカが狙い続けているのは肺。すり抜けられるならば呼吸はどうなのか。
まずい、と判断したミリオは地面に潜り距離を取る。それを見たオウタカはため息をつく。
「はぁ、ほんとに羨ましい個性ね。私もそんなのが欲しかった」
「訓練の賜物さ! それにしても君の斬撃も凄まじいものだね! どうして敵なんかに」
「あ、私から喋っておいてなんだけどおしゃべりには付き合わないよ」
再度斬りかかるオウタカ。ミリオも体の殆どで個性を発動させながら相手の個性を分析する。
「ほんとに君すごいね。個性の使い方うますぎじゃないかな?」
オウタカが喋りかけながら太刀を振るう。振るえば振るうほどその速度は上がっていく。
相手の言葉に答える余裕もなくミリオはやはり距離を取る。
そもそもミリオは彼女を足止めさえしていればいいのだ。無理に攻勢でて反撃を食らうよりもかわすことに専念したほうがずっといい。
そして、幾度目かミリオが距離をおいたときだった。
「合格だよ……」
「?」
唐突に太刀が止まる。
ミリオは警戒しながら次のオウタカの行動に注目する。
よく見ると目に涙すら浮かべていた。
「あなたは私が殺すに値しない。己の役割を見定め、私の足止めに徹し、応援が駆けつけるまでの時間稼ぎ。素晴らしすぎるよ。個性の使い方も一級品。まさしくプロヒーローにも引けを取らないと思う。だからね」
「なにかな?」
「あなたはもう放置して別のところへ行かせていただきまーす!」
瞬間、ミリオが目を離したわけでもないのにオウタカの姿を見失う。同時に彼の足に激痛が走る。
「な……」
「地面に立っているということは足は基本的に透過していない。てことで今、アキレス腱を切りました。動かないほうがいいですよ。今ならまだひっつくと思うから」
いつの間にか背後に移動していたオウタカ。その事実に驚きつつミリオは戸惑う。
「君の個性は……なんなんだい。筋肉の増強かい? それともテレポートのような移動かい? それとも何かの複合かい?」
「うーん、そうだね。せっかくだから教えてあげる。私の個性について」
そして、オウタカの口が動く。その言葉の内容にミリオは戦慄する。
「それでは! 私は爆豪勝己君なるものを探さねばならないので!」
にこやかに笑いながら少女は颯爽と次の場所へと向かう。
「ヒーローとは努力する者のこと。あなたは立派なヒーローだよ」
最後に少女が呟いた言葉をミリオは不思議半分で聞いていた。
○
避難はすでに終わった。そのために生徒を守るべく三年生の先輩たちが避難所の周囲を固めていた。
その数はおよそ38名。除名を受けずにこの雄英高校でその個性を、ヒーローとしての器を2年以上磨いてきた集大成たち。
その場所にのんきな声を上げながらオウタカが通りかかるとどうなるか。
「爆豪くーん、爆豪君はどこですかー」
「覚悟しろ! 敵!」
「くらえ!」
「みんなを守るぞ!」
当然こうなる。
だが、すべての攻撃はいなされ躱され、少女の服には汚れ一つつけられない。
接近戦を挑んだものは悲惨だ。誰も彼もが一刀のもとに切りつけられ、地面に倒れ伏す。
「うーん、ルミリオンとか、あの触手の子が良かったから期待してたんだけれど……これはだめそうだね」
血しぶきが上がる。接近戦を挑んだものだけでなく、遠距離からの攻撃を仕掛けていた者ですら、石を投げられたりして頭から血を流す惨状だった。
そして、三年生が全員動けなくなるのは時間の問題だった。
「よし、制圧完了。爆豪君は中にいるかな〜?」
避難所の扉を八つ裂きにする。鋼鉄製のはずだがこの少女は難なく斬鉄を披露してみせる。
悲鳴が響く。中にいるのは一年生のヒーロー科、そして普通科やサポート科といった戦闘には不向きな生徒たち。
「き、来ちまったよ……せ、せ、先輩たちはどうしたんだよお!」
紫小人の峯田の悲鳴を皮切りに生徒たちの恐怖が爆発しそうになる。しかし轟が一年ヒーロー科と一般生徒たちとの間に氷で壁を作ることで収めた。
「落ち着け」
このシンプルな轟の一言に落ち着きを取り戻した生徒たち。その轟の行動力と、きっかけさえあれば落ち着くことのできた雄英生徒にオウタカは心の中で拍手する。
そして、一年ヒーロー科A組B組のメンバーたちが最後の壁として立ちふさがる。
先頭に立つのは緑谷。そして近距離戦に特化したメンバーたち。
その様子を見てオウタカは楽しそうに笑う。
「いい目をしてるね。ヒーロー科の皆かな?」
太刀を持った右手をだらりとぶら下げ目の前の生徒たちに問う。緊張に体をこわばらすヒーロー科の後ろでは、八百万たちが他の生徒を避難させているがそれを止める気配はない。
彼女の目的はただ一つ。
「皆、爆豪勝己君を知らないかな? もし知ってたら教えてほしいな」
その言葉に緑谷の心臓が早鐘をうつ。なぜ幼馴染の名が上がるのか、と。
「あれ……そういやあいつどこいったんだ」
教室を出た時一緒であることは切島が確認していた。だが、それ以降彼を見た記憶が他のメンバーたちに存在しなかった。
「あれ、ここにはいない感じ?」
なあんだ、とあくびをしながら引き返すオウタカ。ヒーロー科の一年生は呆気にとられながらも敵が背を向けたことに安堵する。
緑谷以外は。
「待って……かっちゃんをどうするつもり?」
その言葉にはっとするヒーロー科。自分たちの命が助かった安堵に囚われていたがそのとおり。彼女の目的は爆豪になにかすることにほかならないではないか、と。
「ん? 伝えたでしょ? 命を頂くって」
その言葉にA組B組問わず全員が戦闘態勢に移る。それを受けオウタカの顔はほころんだ。
「なに? もしかして皆本当にヒーロー志望? 試してあげようか? 爆豪君を見つけるまでは相手してあげる」
笑顔に狂気が宿る。オールマイトの笑顔がみんなを安心させるものだとしたらこの少女のものはみんなを絶望に叩き落とそうとするもの。
ひっ、という短い悲鳴がいくつかヒーローの卵たちから漏れる。が、それでも崩れ落ちたものはいなかった。
「先手もらうぞ」
最初に動いたのは彼らの中でも最も遠距離攻撃に優れた轟。炎と氷が少女に襲いかかる。
「お、おいぃ! 外してんぞちゃんと狙えよぉ!」
すっかり怯えてしまいながらも峰田が告げる。他のヒーロー科の生徒もその瞬間は見た。
なぜか、オウタカの姿がブレ、氷と炎がない場所へと移動していたのだ。
たったの数メートル。だがそれは明らかに彼らの目には異常、すなわち何かしらの個性であると判断するには十分だった。
「迷いのなさはグッド、だけどそれじゃあ私みたいなのは捕まえられないよ? ステインさんに教わらなかったの? 努力が足りないよ?」
飄々としながら少女は太刀を右手に構え、緑谷たちもそれが接近戦の始まりの合図と本能で悟る。
と、思ったときだった。場違いで軽快なメロディが避難所に響きわたり、途端、オウタカ少女の顔が曇る。
音源は少女のスカートのポケット。めんどくさそうに左手で携帯を取り出し、通話ボタンと思われるものを押す。
「はいもしもし、こちらオウタカ……え、ちょっと待ってよ、これからいいところ……え、爆豪君が見つかった? それを早く言ってよ。わかったわかったすぐ向かう。うん、うん、わかってるって。大丈夫。誰も殺してないからさぁ。え、それはそれで文句言われるって? ほんとにあいつってめんどくさいのね……。殺しは私達の信条にそぐわないやつが見つかったらの話でしょ? うん、わかった。了解」
その光景にあっけにとられたヒーローの卵たち。だが相手からは完全に戦意が失われておりここから殴りかかっていいものかと思案してしまう。
「…………………………………じゃあね!」
「え……」
「はっ?」
「ちょ、」
生徒たちが、何かを言う暇もなかった。唐突な別れの言葉とともに少女は入ってきた入り口から姿を消した。
そして
連絡を受けた場所へとオウタカは接近。付近の状況を探る。
「あらま、ブキちゃんやられてるじゃない」
紫吹が完全に拘束されていることを確認したのち、近くで待機していたプレゼントマイクの頭部を叩き失神させる。そしてそれを人質代わりにオールマイトに見せつける。
案の定、オールマイトは目の色を変える。
彼は紫吹の拘束を相澤に任せ、オウタカに飛びかかる。
だからオウタカはプレゼントマイクをプレゼント代わりに投げつける。
ヒーローは人を助けねばならない。
投げ捨てられた彼を見捨てるわけには行かずオールマイトはオウタカへの攻撃を断念。投げ捨てられたマイクのクッションとなるべく体をはる。
同時に、オウタカは相澤の前に移動していた。
「イレイザーヘッド。失礼しますね」
「こちらこそだ」
気づいたときには相澤の目の前にいた少女。イレイザーヘッドの『抹消』が働いているにも関わらず一瞬のうちに移動するその方法の理屈はわからない。だが、理屈はわからずともその移動はすでに相澤は経験しておりすぐさま対応する。少女を捉えるべく超合金性の包帯が伸び、
それらを一刀のもとに切り捨てた後、太刀の柄で相澤を突き飛ばし、左手で紫吹を回収する。
「ぐっ……これを切るのか……」
「合金程度切れなくてどうするのって話だね」
「普通切れないと思いますけどねぇ……」
呆れたようにつぶやくのは相澤に拘束されていた紫吹。オウタカは彼女を背中に背負うとオールマイトに向けて微笑む。
相澤の個性が切れたのか地面に散らばっていた紫吹の御札も二人を守るように動き出す。
「そうそう」
「?」
走り去りながらオウタカが振り返る。その顔は満面の笑みだ。
「さっきまで三年生と遊ばせてもらったけどいい人がたくさんいるね!」
「ん……?」
「だから勝手に選別させてもらったよ。ヒーローとして立派に育つか育たないかをね」
「なに……貴様まさか……」
「安心して。選別したって言っても二人ほどいい子見つけたから彼らだけは無事だよ! ほかは知らないけどね」
「逃さん! 逃さんぞ!」
殴りかかろうとするオールマイト。だがその動きが鈍くなる。
「ウタカお姉ちゃん……終わった?」
「スイちゃん! ナイスタイミング!」
個性『衰弱』を持つ白髪の少女、久慈谷衰が突然現れた。何もない場所から突然に。
「お二人とも、回収に参りました。もう十分とのことです」
そして少女の周囲にあるのは、黒い靄。声は男のものでありオールマイトも聞いたことがある人物。
「貴様……黒霧!」
オールマイトがその名を叫ぶが黒霧は無視。黒い靄で少女たちを包むとあっという間もなく消えてしまった。
その場に残されたオールマイトは体が動くようになったことを確認すると悔しさに歯を食い締めながらも銃撃による負傷者を救助していくのであった。