ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
「完全にしてやられたね……」
根津の声が響く。
場所は雄英高校職員室。襲撃してきた敵が撤退した後、怪我人を病院へ搬送したり生徒の安全を確かめたりしてから教師陣、及びこの日雇われたプロヒーローたちが集まり会議を開いていた。
内容は被害状況と敵の情報について。
「まずは被害状況の確認を。相澤くん」
「はい。まず生徒に関してですが普通科、サポート科、及び経営科の生徒に怪我を負った生徒はいません。一方でヒーロー科ですが一年生は1名が重症。三年生は2人が軽症。38名が重症となっております」
「それはまた……」
聞くだけでヒーロー科の3年生が身を呈して他の生徒たちをかばったのだと想像できる。何人かのヒーローの表情が悔しさに歪む。
「また、プロヒーローの被害もかなり。ベストジーニストを始め17名のヒーローが重症のためリカバリーガールの処置を受けた後に病院へ搬送。正門の警備を担当していたトラスト、アースウォールの2名が殉職しました」
「二人も……」
オールマイトが拳を握る。他のヒーローも同様だ。
ヒーローによる雄英高校の警備。雇った人数は100人近く。それだけいても生徒を守るどころか死傷者まで出す始末。
「ごめんね、みんな。完全に僕が敵を見誤った。ヒーロー殺し、たかか数人のグループと思って甘く見ていたみたいだ」
「こ、校長……」
根津が頭を下げる。だがヒーローたちに彼を責めるつもりはない。
なにせ敵はたったの二人。けれど一人は立ち向かったヒーローを倒し続け、もう一人はその襲撃によってできた雄英の警備の穴をすり抜けることができる者。
「すいません……正直に言わせてもらうと……ジーニストを倒す敵に俺が勝てるとは思えないっす……」
警備についた若手のヒーローが弱音を吐く。だがそれを責めるヒーローはいない。
なにせ彼はトップテンに入るプロヒーロー。若手であれば誰もが目指し、ベテランであっても敬意を払うそんな存在。
そんな彼が一矢報いることもなくただ一方的にやられた、というのは彼らの心を揺さぶる。
「それについて警察からお伝えすることがあります。手元に渡した資料の7ページを。そこに今回の敵について書かれています」
立ち上がったのは柄内。警察の代表として調べ上げたことをヒーローたちに伝える。
「一人目紫綿場紫吹。銃弾も通さない紙を体に纏っていたという情報から間違いないでしょう。
「おいおい、敵名持ちかよ。どこのどいつだ? 知らなかったぞこんなやつ」
「御札から武器を……なるほど……」
ヒーローたちがざわめきたつ。それを塚内は手で制する。
「それはそうでしょう。彼女は日本での犯罪は軽微なものばかりですから。武器の販売、密輸。そういった犯罪者を追うヒーローなら知っていたかもしれませんがそうでなければ難しい」
「塚内くん、今君は日本では、といったかい?」
「ええ、オールマイト。彼女の犯罪の中心は日本ではありません。彼女が昔いたのは中東の紛争地。そこで両親から傭兵として働かされていたと見られています」
「両親に……?」
「はい、彼女の両親は今警察に服役中の敵、紫綿場夫妻。敵名は『デッドリーマーチャント』。罪状は同じく武器の密輸。確かオールマイトにも彼らの逮捕には協力してもらいましたよね?」
「ああ、そうだったね。豪華客船での取引現場を抑えたね。今更ながら思い出したよ。確か……2年前かい?」
「はい、しかしながら子供の紫吹は当時も日本にはおらず、また出生届もなく、その罪状も日本では把握できていなかったために見逃してしまうことになりました」
「ナルホドナ。ソレデ、モウ一人ノ方ハ?」
「もう一人の方は夜原鶯鷹。すでに何人かの方は知っていらっしゃると思いますがヒーロー殺しの考えに賛同しヒーローを狙って攻撃を繰り返している敵です」
「なんでこいつは捕まらねぇ? それにこいつの個性はなんだ? 抜け落ちてんぞ?」
一人のヒーローが苛立ちを隠そうともせずに塚内をにらみつける。彼が指したところには確かに個性を書く欄に棒線が引っ張られているだけであり記載はない。
ここ最近のヒーロー殺しの詳細やそれに巻き込まれたと思われる殺害された一般人の詳細は書かれているにも関わらず。
しかし彼は言い淀むことなくその内容を伝える。
○
「かっちゃん……」
一方その頃、ヒーロー科の教室ではA組B組問わず集まっていた。雰囲気は完全にお通夜だ。
心配そうに幼馴染の名を口にするのは緑谷。
「デク君、元気だして」
「そうだぜ、先輩たちは皆病院行きにこそなってるが誰も死んでねえんだ。爆豪だってリカバリーガールの治療で寝てるだけだろ」
沈んでいるデクを慰める周囲の面々。だがその中で一人違う面持ちで接するものがいた。
「緑谷くん、よくぞ我慢してくれた」
相手は飯田天哉。緑谷に対して避難誘導に徹するように説いた青年。
「飯田君……でも……僕は……あれが正しかったことなのか……」
「いいえ緑谷ちゃん、ただしいことだったわ。仮に私達が戦いに行っても邪魔になっただけよ」
肯定するのは蛙吹梅雨。冷静に、己の見解を述べていく。
「今回の事件、どうやら先生たちは事前に知っていたようだったわ。けれど私達にはなんの連絡もなかった。それはつまり先生たちが立てた対策の中に私達の力は含まれていなかったってことよ」
「……」
手紙を届けた緑谷はその内容を思い出しながら蛙吹の言う言葉を噛みしめる。
「と、言うことはね。緑谷ちゃん。私達が避難誘導を行わないこと、この事自体が先生たちの邪魔をすることになってしまうのよ」
「で、でもかっちゃん……かっちゃんは僕が動いていれば」
「落ち着いて。けろっ。先生たちが敵わない相手に勝てるというの?」
「そう! 君たちが避難に徹してくれたおかげで先生たちはそこに人員を割くことなく戦えたんだ! 胸を張っていいんだよ!」
突然、教室の壁からにゅっと頭が生えてきた。
「え……?」
「は……?」
「ひいっ!」
「けれどごめんね! 僕の力じゃもう一人を捕まえておくことすらできなかった! そのせいで君たちを危険に晒して本当にすまない! なにか埋め合わせをさせては
くれな」
「「「「「「「「ぎゃああああああたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!???!!!!?!」」」」」」」」
頭が壁から生えているという恐怖を前に、生徒たちは一時的にとはいえ、ヒーロー殺しの恐怖を忘れることができたのだった。
○
「さっきは驚かせて済まなかったね! 僕の名前は通形ミリオ。三年生で君たちの先輩さ!」
笑いながら供託に立って自己紹介するのは巨漢の男。ヒーロー名ルミリオン。その実力はヒーロー殺しを一時とはいえ足止めに成功するほど。
そんな彼がどうしてここに来ているかというと、
「先輩、聞きづらいんですが……どうしてこちらに?」
「なぜって? 同級生も先生もいなくなって暇だったからね!」
ハッハッハっ!と笑うミリオだったがそれを笑うことはできないヒーロー科一年A組。
なにせ彼ら三年生が体を張って避難する時間を稼いでくれていたのだ。
だが、ミリオとしては悪意も嫌味もなく、純粋に暇だったということを強調したかったのだが完全にミスであった。
「おっと、どうやら何か間違えたみたいだぞ?」
「ミリオ…………当たり前だ…………。もう少し事情を…………察してやってくれ…………」
そしてもう一人、天喰環もA組にやってくる。
ミリオは大げさな手振りを交えながら生徒たちに向き直る。
「そうだった! いや、すまないね! ただ、僕は君たちに伝えたほうがいいかな、と思うものを持ってきたんだ!」
「伝えたほうがいいもの?」
「何かしら?」
「あんまりいい予感はしねえぞ?」
思い思いの感想を口にするA組の面々。だが拒否するものはいない。
このタイミングでやってきて今回の襲撃と全く関係ないことだと思うものはいない。
「簡単さ! 君たちも気になっているだろう! 今回襲撃に来た敵についてさ! 君たちも気になっているんじゃないかい!」
その言葉にガタンと何人かの生徒が椅子を蹴って立ち上がる。それはオウタカとレストランで遭遇したものであったり、今回の敵に恐怖を覚えたものであったりと様々である。
「教えて下さい! 僕たちは……このままじゃいられない!」
叫んだのは緑谷。特に彼はオウタカから目をつけられている。知っておくに越したことはない。
「いい返事だね! だから口止めを受ける前に 教えてあげよう!」
「……ミリオ……あとで怒られても……知らないぞ……」
そして、彼の口からオウタカから直接聞いた彼女の個性について知らせる。
「彼女の個性は……」
○
「夜原鶯鷹、彼女は今どきでは珍しい無個性さ」
「夜原鶯鷹、彼女は今どきでは珍しい無個性です」
奇しくもミリオと、塚内の報告が被る。