ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
「む、無個性だと? 冗談言っちゃいけないぜ! 確かにあいつは一瞬で俺の前に現れたぞ?!」
ようやく声を出したのはプレゼントマイク。彼は気づいたときには目の前にオウタカがおり、気づいたときには体を切られ気を失っていたのである。
「それは個性じゃないよ。実際にイレイザーヘッドも個性を発動させないようにしていたがその移動法は使われたらしい」
「ほ、ホントかよ……いや、けどイレイザーヘッドの個性が効かなかった可能性とか……」
「マイク、落ち着け。塚内さん、俺からも話していいですか」
「ああ、頼むよ」
塚内に代わって相澤が席を立つ。話すのは数日前の出来事。
「雄英高校で教師をしております。相澤です。ヒーロー名はイレイザーヘッド。夜原鶯鷹の能力について補足したいことがありましたのでご報告させていただきます」
知る人ぞ知るイレイザーヘッドの名前にヒーローたちは姿勢を正す。
なにせ彼の能力は個性を消すもの。敵の能力について把握するのにかなり有用なものだ。
「私が初めて敵であるオウタカと交戦したのは三日前、プロヒーローガンダマンが殉職した事件です。その時私も現場に居合わせました。今日いた少女とは別の少女を連れていたのですがその際、彼女らは会話でこう発言しておりました」
『あれ……? お姉ちゃん、効かないよ?』
『なら私がやらなきゃだね!』
「それがどうしたんだよ」
「わかりませんか? 一人は個性を使って私に何かしらの妨害を仕掛けようとした、しかし、それが効かないとわかるとオウタカは自分の役割と断じて私に攻撃を仕掛けたのです。一瞬で目の前に移動して」
「つまり、彼女のその移動法は個性を無効化するものに対しても有効、そう考えることができるわけだ。もちろん異形型である可能性もなくはないが現時点ではその可能性も低い」
根津が相澤の話を引き継ぐ。その話はヒーローたちにとって衝撃だ。
なにせ、ヒーローは個性を持っていることが前提条件とも言える。
そんなヒーローたちに対し一方的に攻撃を仕掛け、おまけにまんまと逃げられる。普通に個性を持っていようと疑うレベルなのにそうではない、というのは彼らの常識が崩れるには十分だった。
「無個性でヒーローに渡り合う……か……」
「オールマイト? どうした?」
思い詰めるように呟いたオールマイトに相澤は突っ込む。が、オールマイトは笑ってごまかす。
「ハハハ、なんでもないさ。それよりも次の対策を考えねばな!」
「そのとおりだね。まず現職のプロヒーローたち。彼らは民衆を守るという役割がある一方で彼ら自身を守る組織が残念ながら日本には存在しない」
根津の発言に会場の空気がまた重くなる。一般人が狙われるのであればヒーローによる巡回を増やせば良い。だが今回はヒーローを狙う案件だ。
ステインのときもそうだがヒーローを狙う敵に対する手札が少なすぎるのだ。
だが、根津の言葉は続く。
「だからね、ヒーローたちにはチームを組んでもらいたい。まずはここにいるヒーローだけでも構わない。路地裏でも、マンションの屋上でも、必ず一人にならないでほしい。最低でも3人だ。その上でヒーロー殺しと接敵した場合には即座に連絡を私の方まで回してほしい。近くにいるヒーロー、及びその事務所へ通達させてもらう」
必ず、一人で戦おうとはしないこと。それが根津の打ち出す作戦であり現状取れる唯一の作戦だった。
○
雄英高校で一般のプロヒーローたちが集まり話している頃、一年ヒーロー科A組も荒れていた。
「先輩。無個性が瞬間移動はしませんよ!」
「そうだぜ! オイラ見たもん! 轟の炎と氷を瞬間移動でかわすの見たもん!」
切島と、そして恐怖からか若干幼児のようになっている峰田がミリオの無個性発言に反論する。
だが、その瞬間移動というのは彼らだけでなく一年のヒーロー科の殆どが見た上に、言い出したミリオもいきなり背後に回られてかかとを切りつけられている。
「うん、そうだね! 無個性の人は瞬間移動したりはしない! そのとおりだ! けどね、彼女は瞬間移動なんてしていない」
「ど、どういえことです? 事実僕たちはそれを……」
ミリオが的はずれな反論をしたように思えて緑谷たちは戸惑う。
「いや、話は単純さ。僕も戦闘したときにいきなり姿が消えたと思ったら背後から切られてね。そのまんま倒れちゃったんだけどそのときに気づいたのさ」
「な、何にです?」
「足跡さ。目の前に、ついさっきまでいたはずの位置から移動した場所までしっかりと足跡がついていた。瞬間移動ならこんなことは起きないよね」
足跡。ミリオが注目したのはそこだった。彼が戦闘したのはぬかるんでこそいないが屋外。強く地面を踏見込めば砂が散った跡や地面の削れ具合で分かる。
そして、倒れたミリオは気付いたのだ。彼女は瞬間移動ではなく歩いて、あるいは走って自分の後ろに堂々と移動したのだと。
「け、けど先輩。それ、意味わからなく無いっすか? だって足使って後ろに回られたのを先輩は気づかなかったってことっすよ」
さらに、同じ理屈だと言うなら緑谷たちも全員がオウタカの移動した瞬間を見過ごしたことになる。あまり信じられることではない。
「そうだね、そういうことだよ」
けれどミリオは肯定した。その可能性を。
「信じ難い。我等は何十という数で対峙した。誰一人気づかぬことなど……ん?」
常闇が反論しようとするがそれを手で遮るものがいた。
尾白猿夫だ。
皆が次の発言に注目する。
「あれは……おそらく武術です。俺も道場とか通ってたことがあるんですけどそういった『相手の意識外』に逃げる歩法、というより移動法があったはずです」
「た、単なる体術だっていうのかい☆」
「そうさ。実際、俺には見えてた。歩いて轟の攻撃を躱すのを」
今度こそ、教室全員が驚く。
「尾白ちゃん、あれが見えてたの?」
「うん、道場とか通ってたおかげかもしれないんだけどあの動きは見慣れてたものに近かったから」
「おいおい、てことはほんとに無個性なのかよ」
砂藤や蛙吹が驚く。他の生徒たちも驚くか、驚きすぎて口を開けたままだ。
ミリオがパンと手を叩く。
「みんな、落ち着こう! とりあえずそういうことだ。そして、ここからが大事だ」
「「「???」」」
「今回の敵は生徒にはあまり手を出さなかった。けれど狙いは間違いなく君たちの友達、今も寝ている爆豪くんだろう。きっと先生たちの方でも対策はしてくれるはずさ。だけど!」
力強いミリオの言葉。その一言一言にA組の生徒たちは魅入っていく。
「万が一、億が一のとき、先生がいないかもしれない。僕たちも助けに動くことはできないかもしれない。そのときは君たちが守り合うんだ! 勝てなくていい! 逃げてもいい! むしろ逃げよう! とにかく死んじゃだめだ。そして、死ななければなんとかなる!!」
仲間を守る。その思いを新たにA組はまた成長する。次は負けない、と。
そして、皆が志を新たにする中で一人、緑谷だけが思いつめた表情をしていることに誰も気づかなかった。
「無個性の人が……あんなに強いのか……」
○
「以上で会議を終わります。ヒーローチームの分担につきましては今日決めたもので一旦活動してみて随時調整していきましょう」
「警察も人数を使っての人海戦術で探させてもらうよ。ヒーロー殺し。複数人の、それも未成年が生活できる場所は限られるからね」
ガタガタと、席を立つヒーローたち。ヒーロー殺しに対する策は可能な限り決めることができた。あとはこれがどれだけ効果あるのか。
そして、席に座ったままの雄英高校の教師たち。彼らにはまだ話し合うことが残っていた。
「それでだ、期末試験、及び林間合宿はどうする?」
「それ、やめていいもんか?」
「期末は各生徒の成長を見るというより、彼ら自身に欠点を認識してもらうもの。そして林間合宿は個性を伸ばす数少ない機会。どちらもやめるわけには……」
「では意見があるものはどんどん言ってくれ。なければこのまま多数決だね」
「林間合宿……襲ワレル可能性ヲ考エルナラヒーローヲ雇エバイイトイウ話ニナルガ……今回ノ様子ヲ見ルトナ……」
今後の予定を定める会議は夜遅くまで続いたのであった。