ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
ヒーロー殺しの目的 一
期末試験。雄英高校一年で行われた実技試験。その内容は生徒二人一組で、ハンデを負っている先生から逃げる、あるいは捕縛するというもの。
度重なる敵との邂逅で「もっと強く」という思いにかられている彼らは皆、己にできる最大限を持って、いや、プラスウルトラの精神でそれさえ乗り越えたのであった。
勿論、全員が受かったわけではない。何人か落ちてはいるが……それはまた別の話。各々が自身の結果に一喜一憂しながらもその帰路につく。
その中で一人、試験に受かることができたにも関わらず暗い顔に沈む少年がいた。
緑谷出久。彼はパートナーとなった爆豪勝己と殴り合いをしながらも和解……とまではいかなくとも無事に試験をクリアすることができていた。
しかし、だ。彼の表情はずっと硬いまま。試験の結果に不満があるわけではない。初めてとも言える爆豪勝己との共闘ができ、本来であれば関係の改善に喜ぶことだってできた。
けれど彼の頭にはしばらく前からこびりついている悩みがあった。
携帯の電源を入れ、電話帳から目的の人物を探しコールする。しばらく出なかったがコール音がなること数十秒。ようやく陽気な声が聞こえてくる。
「やぁ、緑谷少年! 出るのが遅れてすまない。なにか用かな?」
「オールマイト……今日話せますか?」
「ああ、いいとも。少し待っていてくれ。どこで待ち合わせとかあるかな? 教員の会議が終われば向かおう」
「では……あの海岸でお待ちしてます」
Ok!との陽気な声を最後に電話は切れる。クラスメイトが騒いでいる中緑谷は一人、教室をあとにするのであった。
そして夕刻。オールマイトが会議を終え海岸へとやってくる。そこで彼が目にしたのは目を閉じたまま体を動かす緑谷。
それはオールマイトには焦っているように思えてならなかった。表情に余裕はなく動きもいつもの緑谷と違うように感じたのだ。
「やぁ緑谷少年。待たせて悪かったね」
オールマイトが声をかけるとハッとした様子で少年はまぶたを開ける。
「すみません。忙しいのに呼び出してしまって」
「ハッハッハ。いいともいいとも! 後継が悩んでいるのだ。先達として聴かねばなるまい」
一瞬だけマッスルホームとなり胸元をドンと叩くオールマイト。だが期末試験で無理をしているためかすぐにトゥルーフォームに戻ると声を細めて問う。
「それで、緑谷少年。君は何か悩んでいるのかね? 試験のときもわずかばかり違和感を覚える行動があったと記憶しているぞ。少々無茶してないかい?」
その言葉にドキリとする緑谷。オールマイトが言ったのは期末試験での緑谷の行動について。
爆豪勝己と馬が合わないのはいつものこと。それでも合わせようとするのもまた緑谷らしいと言えるだろう。
けれど一つ、期末試験のオールマイトとの戦闘。その最中も今やっていた訓練のように何か焦りに突き動かされたような気がしてならなかった。
緑谷は言い当てられたことに対し動揺こそするが口を割ろうとはしない。
が、オールマイトはすでに予想がついていた。
「オウタカ少女のことかね」
「……はい」
絞り出すような声が緑谷の口から溢れる。
「僕は……2回、あの敵と会いました。一回目は路地裏で、二回目は学校の中で……」
「知っているとも。それで?」
「僕は……ずるいんじゃないかと思ってしまうんです……。偶然オールマイトに会って力をもらいました。けど……あの敵の方がもっとすごかったんです……同じ無個性のはずなのに……彼女は自分の力だけで強くなった」
なるほど、とオールマイトは彼の悩みを察する。
「つまり君は自分がずるをしたと?」
頷く緑谷。それを受け、オールマイトは力強く言葉を紡ぐ。
「緑谷少年、よく聞くんだ。そう何度も言わないぞ」
「オールマイト?」
肩に手を置かれ、目を合わせてくるオールマイトに緑谷は少し緊張する。
「たしかに私は、引き継いできた個性『ワンフォーオール』を君へと託した。確かに他の人から見ればずるいと言ってくる人もいるかもしれない。けどな、少年」
顔を近づける。オールマイトの細くなった体。けれどその目に宿るのは力強く、そしてナンバーワンに相応しい決意の炎。
「人は誰しも成長するには師がいるものだ。この私然り、君たちのクラスで言えば轟少年もエンデヴァーという師がいた。本人が認めなくともな。きっとオウタカ少女でさえ、おそらく師がいるだろう。彼女にその体術を叩き込んだ者が」
「……」
「そしてだ。君が私から引き継いだワンフォーオール。それを引き継ぐために君は何をした?」
「っ!」
目を見開く緑谷。オールマイトは高らかに告げていく。
ゴミが一つもなくなり、今もなお素晴らしい景観が保たれているその海岸を。
一年前とは比較にならないほど完成した緑谷の体を。
人のために、仲が決して良好とは言えなかった幼馴染を命をかけて助けに動いたヘドロ事件を。
入学試験でその日あったばかりの少女のために0ポイント敵の巨躯を吹き飛ばしたあの瞬間を。
「少年! もっと自信を持つんだ! 君は、君の心の中には間違いなくヒーローの火が猛然と燃え上がっている! ワンフォーオールは偶然手に入ったものではない! 君の、その心に惹かれて引き継がれたのだ!」
「オール……マイト……」
緑谷の目が潤む。けれどオールマイトから決して目を逸らさない。
「何度も言うぞ緑谷少年。君は偶然選ばれたんじゃない。なるべくしてなったのだ!」
それに、とオールマイトは続ける。
「あのオウタカ少女。彼女の過去に何があったかはまだ捜査中だ。けれどどんなことがあっても人を殺すという手段に出た時点で彼女と君は別物だ。例えどんなに辛いことがあろうと君はヒーローの敵にはならなかっただろう」
「ありがとう……ございます……」
すっかり感極まっている緑谷。落ち着くのをオールマイトは待つ。
彼ならばもう折れることはないという確信を持って。
「オールマイト。僕、もう大丈夫です」
「それならば良し!! 私も今頑張ったかいがあったというものだ」
オールマイトがやり遂げたふうに伸びをする。けれど次の言葉で凍りつく。
「個性を引き継ぐ、なかなか面白い話だったじゃん」
「!?」
「っ!」
緑谷でもなく、オールマイトのものでもない声が突然聞こえてくる。それもたった今話していたワンフォーオールの継承について。
この話は他言無用。他人に話していいものではなくその会話をするときは周囲をかなり警戒しながらオールマイトは話していた。
今だって見渡す限り美しい海岸が広がりこそするが人の気配は感じ取れない。
それに、第三者の声はもっと近くから聞こえてきた。それこそ緑谷の足元から……
「緑谷少年! 跳べっ!!」
緑谷がワンフォーオールフルカウルを発動し地面から離れた瞬間、オールマイトはマッスルフォームへと変身し全力のパンチで砂浜を殴りつける。
緑谷がいなくなったにも関わらず影が残るその砂浜を。
「あはは、ミスして見つかったじゃん? けど十分な収穫じゃん? 緑谷出久とオールマイト。その二人の関係性持って帰るとか上出来すぎっしょ?」
砂浜が四散する。そして、殴り飛ばされた影から一人の少女が現れた。
「血水鬼子っていいます♡ ヒーロー殺し諜報担当でっす♡」
影から紅蓮の髪を持つ少女が優雅に礼をした。
○
どこからやってきたのか、いつからいたのかオールマイトにも緑谷にも全く見当がつかなかった。
けれど間違いなく、彼女の個性は影に擬態、あるいは他人の影に入るというもの。さっきまでの会話が筒抜けであったことなど想像に難くない。
「このまま帰すと思うのかね!」
オールマイトが目の前の少女に拳を振るう。ヒーロー殺し。その名前を名乗った瞬間に敵であると判断するには十分だろう。
そして、その拳はかんたんに少女の体を殴り飛ばし、四散させた。
「えっ?」
「えっ……?」
戸惑いの声が二人から漏れた。二人というのは勿論緑谷とオールマイト。
血がボタボタと砂浜に染みていく。肉片がばらまかれ少女の跡形などどこにも残っていない。
先に我に返ったのはやはり、オールマイトだった。
「み、緑谷少年……いま何があったかね……」
失礼。我に返ってなどいなかった。
「え、ええと……ヒーロー殺し……が目の前に……」
「そ、そうだよな。敵が現れた。そして私はたしかに殴った……が、吹き飛ぶようにきちんと力の調節はしたはず……したはずなんだ……勿論逃げられてはいけないから気を失うくらいで……」
だんだんと声が小さくなっていくオールマイト。その目に先程までの力強さはない。
そして、何かを決めたのか、緑谷の方へと振り返る。
「緑谷少年! あとの世は……ヒーローの世界のことは頼んだ! 私は今から警察へと自首してこよう!」
「いやいやいやいや待ってくださいオールマイト! 落ち着いて、落ち着いてください!」
「そうじゃん落ち着くじゃん。ヒーローってのはいついかなるときも誇り高く悪に立ち向かう存在じゃん? この程度で慌てないで欲しいじゃん」
地面に飛び散った、血肉からそんな声が聞こえた。ぎょっとする緑谷を背後に隠しオールマイトは構える。
飛び散った、元人間の塊が集まり、再び一人の人間を構築する。
「あーいったー。どうしていきなり殴るなんてことになるのかわからないんすけど〜?」
体をさすりながら紅蓮の髪をたなびかせ、快活に少女は笑う。
新たな戦いが今始まろうとしていた。
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
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オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
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オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし