ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
私がヒーローをにくいと思ったのはいつ頃なのか?
考えるまでもない。あのときに決まっている。
○
「師匠! 今日もよろしくお願いします!」
「おう、任せな!」
私、夜原鶯鷹は無個性だ。
友達は手から炎を出したり雲を作り出したり、様々な個性を身に宿し自分の好きなものを、例えばヒーローを目指したりしていた。
その中で、私だけが無個性だった。
身体能力は普通。頭の出来も普通。そんな私が馬鹿にされないはずがなかった。
どこに行ってもいじめられた。それが小学校のとき。
家でも両親も個性がない私に対してどう接したものかわからなかったらしくとても心地よいとは言えなかった。
そんな日々の中、私は家々の隙間、その路地に入って一日を過ごすことになる。誰も人が来ない、そんな空間を求めた。
当然、治安は悪い。路地裏で過ごし始めて数日で個性を使ったカツアゲに遭遇した。
当時小学生の私がカツアゲするような者が満足する金を持っているはずがなくすぐにハンドバッグのように扱われ始める。
「けっ、ほんとにこれっぽっちかよ。しけてんな」
個性を暴力として使う彼らに対し、私は全く動けなかった。無個性である私が彼らに叶うはずがない、そう決めてしまっていたから。
「さ、次行こうぜ。次……ん? なんだよお前、俺達になにか用かよ」
「その女の子に暴力を奮ったのは君たちか?」
倒れた私の耳に聞こえてきたのは凛とした、決して大きな声ではないのに聞き取れる声。
わずかばかり首を起こして何が起ころうとしているのかを見る。
そこにいたのはチンピラと、そして彼らの進路を塞いでいる一人の姿があった。
「あん? だったら何だよ? てめえが金くれんのか?」
「そんなはずないだろう?」
ゾクリと、その人物の声に何かがこもる。怒気か、それとも殺気などのそういう類か。
「ひっ……お、お前ら、やるぞ!」
私に対して暴行を加えた彼らもなにかやばいと察したのか、個性を発動する。が、次の瞬間には全員が地面に頭を激突させていた。
「が……あ……?」
何が起こったのか理解しているのはそれを引き起こした人物のみ。私も、チンピラも状況が全く飲み込めていなかった。
「おう、どうした? 個性ちらつかせてよ。俺みたいな無個性に対する嫌味か? あん?」
さっきとは違い、チンピラのような言葉を吐き始めるその人物。恐怖に陥ったのか当のチンピラたちは脱兎のごとく闘争を開始する。
「かぁ〜! 情けねえったらあらしないな。お前さん、大丈夫か?」
倒れて動けない私に手が差し伸べられる。なんとかその手を掴み立ち上がると私は礼を口にする。
「ありがとうございます……。あの、無個性って本当ですか?」
「ん? そのとおりだよ。私は無個性さ。それがどうかしたかい?」
失礼なことを聞いた、と思ったが相手は本当に、それが何でもないかのような振る舞う。それを目にして、私の口は勝手に動いていた。
「お願いします。私にも……できることなら何でもします。だがら……弟子にしてください」
我ながらかなり先走ったセリフだが、師匠は目を白黒させながらも了承してくれた。
私の師匠は道場主だった。だった、というのは個性があってのこの世の中。それらを伸ばさずに武道を嗜もうという者がめっきり減り、つい最近その道場が潰れたからだ。
お金はあったらしく現在は道場を利用しての孤児院を経営中とのこと。
かっこよく、歯並びのいい白い歯を見せながら師匠が笑ったのを今でも覚えている。
○
「あの、今更なんですがなんで認めてくれたんですか……?」
中学生時代の私は師匠の家、すなわち道場のある敷地内に入ってから今更のように質問した。
「なんで? そんなの決まっている。私の道場を継いでほしくてね。いや、道場は潰れているな。それよりも私の武道そのものを、といった感じかな。孤児院をやってるから人はいるんだけど、みんなやる気がなくてね」
ははは、と笑いながらちょっと寂しそうに笑う師匠。目線をちらりと向けると小さな子どもたちがドアの隙間から様子をうかがっていた。
「やりたい、というならやらせるんだけどね。何せ彼らも個性ありきの世界で生まれた存在だ。みんなヒーローに憧れててね。私の教えなんて聞こうともしないのさ」
「ヒーロー……」
テレビの前でしか見たことのない存在だ。別に悪印象もないけれど良い印象もない。
「ヒーローは嫌いかい?」
「いえ、私が嫌いなのは個性を使って嫌がらせをしてくる人ですから」
「そうかいそうかい。ならそんな奴らは見返そう。そのためならどんなことだって教えてあげよう」
その日から私は道場に通い始める。夏休みなどの長期休みには親に許可を取り道場で寝泊まりすらした。
「ウタカお姉ちゃん、今日もくんれんやるの?」
「そうだよ〜。スイちゃんはこれから何するのかな?」
道場に通い続けていると自然と師匠が養育している孤児院の子供とも仲良くなる。その一人がスイという子供だった。
「オールマイトごっこ〜!」
彼女もまたオールマイトに憧れる普通の少女だった。彼女だけではない。孤児院にいる子どもたちは全員が誰かしらのヒーローに憧れて、将来プロヒーローになりたいと夢見る可愛らしい存在だった。
いつか、師匠とこんな話をしたこともあった。
「オウタカ。うちの子たちはみんなヒーローになりたいと言っているが君はなりたいと思ったことはあるのかい?」
訓練の合間、優しそうに、そしてどこか心配そうに聞いてくる師匠。手を軽く振り否定する。
「別になりたいとは思ってませんよ。けどそうですね。彼らがヒーローになったらサイドキックみたいな感じで協力してあげたいですね」
「ウタカお姉ちゃんサイドキックになるの!? 私のサイドキックやって!」
「あ、ずるいぞ。姉ちゃん、俺のサイドキックやってよ」
訓練は過酷を極めるものが多かったが、幸せな空間に包まれて、私は少しも辛くなかった。
それがいつまでも続くと思ってた。
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
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オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
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オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし