ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
鬼子という、緑谷の影に潜んでいたヒーロー殺しを目の前で逃してから早二日。いまだにワンフォーオールの秘密が漏れているという話は聞こえてこない。そんな中で緑谷は雄英高校に登校するべく通学路を通っているのだがあるものが目に入る。
【特報!! 本日夜の九時! 雄英高校が謝罪会見!】
そんな新聞が町の至る場所に売られているのを緑谷は嫌な気分になりながらも、しっかり一部買って内容を確認する。
内容と言ってもその見出しの通りで先日の雄英高校の襲撃、その顛末(あるいは不始末)について当り前ながら教師陣はその公表を控えた。隠した、というよりも特定の生徒が狙われたという情報を世間に対して公表しなかったとういう流れだ。
なぜ襲撃犯が爆豪を狙っていたのかはいまだにわかっていない。そんな中で不確定の情報を流せばいくらでも尾ひれがついてしまうのは想像に難くない。爆豪がそんなことを気にする性格ではないとしても生徒に対してそのような状況を強いるのは大人として間違いだというのが雄英高校の結論でありもっともな話である。
一方で、生徒を預かる学園でありながら先日の敵連合をはじめ複数の襲撃を許している学園。そのことに対して不満や批判が沸き上がったのもまた当然であった。
しかも今回はプロヒーローに多数の死傷者が出ており、トップテンヒーローの中からも重傷者が出ているという情報もどこからか漏れていた。その遺族や家族が声をあげることはなくともそのヒーローたちのファンが悲しみ、何が起こったのかを教えてほしいと願うのもまた当然。
そう言った事情も加味し、襲撃から連日、どこまでを報道するかを教職員会議で話し合い、この日程が決まったとのことだった。
「先生たち何も言ってなかったのに……。相澤先生に聞いたら何か答えてくれるかな」
自分たちが子供であり、無力だ、とそう言われているようで少し寂しい気持ちになる緑髪の少年。だがその背に声がかけられる。
「おっはよー! デク君! なんか元気ないね?」
「う、麗日さん! お、おはよう!」
挨拶してきたのは麗日。唐突な出会いに驚きながらも持っていた新聞を見せる。
「これなんだけどね……」
「あー、うちの両親も言ってた。なんでもうちの子どもは大丈夫ですか!っていう電話が鳴り続けて話し合ってこうなったらしいよ?」
「こうなったって……。それじゃあお母さんも何か知ってたのかな」
母親の引子のいつもと変わらぬ表情を思い出しながら少し考える緑谷。考えがまとまらないまま、緑谷と麗日は学園へと歩を進める。
そうして校門が見えてきたのだが……二人は強い既視感に襲われることになる。
「これって……」
「前にもあったね……」
二人が見たのは校門前に広がる人だかり。大きなマイクやカメラを持っていることから容易にマスコミの関係者であると判断できた。
前に同じようなことが起こったのはオールマイトが雄英に勤めていることが世間に知られた時だっただろうか、と思いながら二人は情報に飢える彼らに見つからないように非常口から学園内に入るのであった。
〇
「おはよう、二人とも。今日は一緒に登校してきたのね。ゲロゲロ」
「ひうっ!?」
教室に入った緑谷たちに真っ先に声をかけたのは蛙吹。キョロッとした目で二人を交互に見つめてくる。
今更ながら女子と二人きりの登校をしたという事実に気づき、変な声が出たのは緑谷。麗日の方は蛙吹の指摘を聞いた瞬間顔を真っ赤にし思考が停止していた。
「……二人とももう少しうろたえないようしないとだめだと思うわよ? 仲がいいのは良いことだけど」
とどめの一撃の一言を放りながら蛙吹は教室の方へと戻っていく。
「おいお前ら、いつまで教室の前で突っ立ってんだ。邪魔になるからとっとと中に入れ。時間が惜しい」
「は、はい!」
どれだけ時間が経ったのか、それともほとんど立っていないのか。教室にやってきた相澤に促されてようやく我に返る一組の男女。そそくさと自分の席へと向かっていく。
それを確認すると相澤は朝のホームルームを始める。
「全員、ちょっと早いがお話がある」
普段と何か違う雰囲気の相澤に生徒たちは自然と姿勢を正す。そして全員があることに気づく。
「「「「いつもの不摂生な恰好じゃない!!!!????」」」」
全員の声がはもった。
〇
きれいに整えられた口ひげ、上下きっちりとした高級そうなスーツ。いつもの相澤はどこに行ったのかというほどに小奇麗な壮年が教卓に立っていた。
「お前らがいつも俺のことをどう思ってるのかはよく分かった。後で罰を与えるのでそのつもりでな」
ぎろり、と相澤の目がクラス全体を見渡す。はぁ、とため息をつきながら彼は話を再開する
「お前らも何人かは知ってるだろう。今日の夜雄英高校は雄英テレビ局で記者会見を行う。俺もそれに出るからこうなっただけだ」
「先生が……テレビに? それはなぜです」
飯田が律儀に挙手しながら相澤に対して問う。鬱陶しそうにしながらも彼は答える。
「挙手したからって質問していいとは言ってねえぞ。簡単な話だ。俺とマイク、スナイプ。そしてオールマイトだけがあの日の先生たちの中で直接犯人と戦闘を行ったからだ。学園として襲撃の顛末を語るなら少しでも事情に詳しい大人が出るのは当たり前の話だ」
「なるほど! 答えていただきありがとうございます!!」
シュタッと手を降し、再び聞く姿勢に戻る飯田。やはりあきれながらも相澤は話を締める。
「まあ、そういうわけなんだが……これ以上はここで話しても意味はないか」
「?」
意味が分からない緑谷だったがそれ以上彼に話すつもりはないらしく一時間目の授業が始まった。
〇
「なあ、緑谷、朝の先生何か変じゃなかったか?」
今日のすべての授業が終わり帰ろうとする緑谷に対し、一人の男子生徒、切島が話しかけてくる。その違和感を覚えていた緑谷は「確かに」と同意する。
「別にテレビに出るなんて俺たちに説明しなくてもいいはずの案件だ……。それをわざわざ言って……いや、何か言いかけたのか? それを……」
「お? 何か考えがあるなら俺は聞くぜ!」
促す切島に流されながらも緑谷は頭によぎった考えを述べていく。ひっそりと周囲の生徒も耳を澄ましている。
「相澤先生、もしかして先生を辞めさせられたりするんじゃ……」
「ど、どういうことだ」
砂藤が思わず会話に加わる。唐突な考えに周囲の生徒も驚きを露わにする。
「だって、違和感があったんだ。皆思ってるだろうけどわざわざテレビに出るくらいのことで僕たちに話をする必要はないんだ。てことはもっと何か別のことを言おうとしたんじゃないかなって……」
「緑谷君の言うこと、一理ありますわね。私も同じ考えですわ」
八百万も自分の荷物をまとめながら緑谷の意見に同意する。切島は話がよく見えないままだ。
「ど、どうしてそんな突飛な考えになるんだよ」
「そこまで突飛ではありませんわ。そもそも先日の襲撃は死者が出ておりますもの。マスコミの皆さんも攻撃する機会をうかがっているに決まっていますわ」
「攻撃ってそんな……まさか責任を取らされるとかそう言うことか!?」
思わず叫んでしまう切島。そうであったとしたら彼は納得しない。
「相澤先生が何したっていうんだよ! 立派に俺たち守ってくれたじゃねえか。爆豪だって酷ぇ怪我したけど先生がいなかったら命も取られてたかもしれないんだぞ!?」
「それは……」
緑谷も八百万が今言ったことを予想してしまっているために声が出ない。他の生徒の顔も暗いものに変わっていく。
爆豪がいればこの空気も「うるせぇ!」とか言いながら変えたのかもしれないがあいにく入院とリハビリの最中だ。
「切島さん、落ち着いてください。何も確定事項ではありませんわ。単純な事件でないのですから先生一人が首を切られただけで終息するとは思えませんの。学園側もそれはわかっているはずですからそう簡単に辞めさせられたりはしませんわ」
「ほ、ほんとか……?」
希望を見るような目で切島は八百万を見る。
「断言はできませんがそう言った考えが相澤先生に有ったのは事実でしょう。このクラスの担任でなくなる可能性があった。けれど言わなかったということはそう弱気になってはいけないとでも思ったのでしょう」
ほっとするクラス一同。
時刻は夕方の五時。謝罪会見まであと四時間。
〇
雄英テレビ局のすぐそばでヒーロー活動に従事する【警備ヒーロー】【プロテック】。主な仕事は名前の通り警備。円滑で緻密なネットワークを通じてあらゆる泥棒や強盗から市民を守るプロヒーロー。
その彼の事務所に一人のサイドキックが夜勤に備えて出勤してくる。
「ちーっす、こんばんわっす! おや、なんかピリピリしてるっすね」
だが、いつも和気あいあいとした職場がどういうわけかピリピリしている。これはさっそく仕事モードに入らねばと姿勢を正し同僚に尋ねる。
「ちっす。この空気なんかあったんすか?」
直すのは姿勢だけだったが。声をかけられた同僚は説明する。
「今日、雄英高校が近くのテレビ局で謝罪会見を行うのは知ってるな?」
「勿論すよ。俺正直そのために呼ばれたようなもんでしょ? 何か仕事に変更が?」
彼の仕事はもちろん警備。といっても個性は【占い】であり警備にそれほど役立つものではない。
「ああ、変更だ。緊急だがこの事務所総出での警備態勢に入る。プロテックさんもかなり気合を入れている」
「え、ほんとに何があったんすか。もう帰りたくなってきたんですけど」
「まあ聞け。脅迫状が届いた。いや、脅迫状というよりは宣戦布告か」
「ちょ、占いだけしてあげるんで帰らせてください」
踵を返した男だが同僚に襟を引っ掴まれ席に座らされる。そこに置いてあったのは一枚の紙。
『本日、オールマイトの命、受け取りに参ります』
「これが脅迫状っすか? オールマイト相手に?」
「ああ、そうだ。雄英高校に連絡は入れたが敵に怖気づいたととられることの方がダメージは大きい、っていう反応が返ってきた。まあ、オールマイトだからな。あの人が殺されるなんて絶対にないっていう考えからだろ」
「で、末端の警備の俺たちが面倒を請け負うんすよね。いやだなぁ、そう言うの断らないとっすよ?」
「俺に言うな。それに雄英高校だってそこまで馬鹿じゃない。きちんと金銭面、人員を追加で寄越してくれてる」
「人員?」
「ああ、俺たちプロテック傘下のサイドキックたちだけじゃなく雄英高校からも多数のプロヒーローが警備に駆けつけてくれるらしい。オールマイトも会見に出るんだ。どんな敵が現れようと大丈夫さ」
「いやいや……。俺たちの警備はチームワークあってこそっすよ? 外野のヒーローが来たところでっすよ……」
男のボヤキは当然のことである。警備に関することならば恐らくこの事務所に所属しているメンバーの方がずっと詳しい。緻密な連携も普段の訓練があってこそ。
「もちろん、それは向こうもわかっているさ。だから俺たちの仕事はテレビ局内部の見回り。雄英高校の先生たちはテレビ局周囲の見回りをしてくれる。プロテックさんだぞ? そこらへん考えてないわけないだろう」
「さ、流石っすね……」
納得がいきつつ、事情も理解した彼は立ち上がる。流石に先ほど帰ろうとしたのは冗談だ。彼だって警備会ヒーローの一員であり一部。任された仕事は絶対に全うしてみせると心に刻む。
「教えてくれてありがとっす。それじゃあプロテックさんに挨拶してきますね」
「ああ、行ってこい……おっと、そうだ、どうせだから今日も占わせてくれよ。今日の仕事がうまくいくかどうかとかよ」
「うへぇ。あれけっこう緊張するんすよ? 占い結果って9割がた当たるんすから……」
「なに、悪い結果ならばそれを見越してさらに注意深くなるだけさ」
男の個性は『占い』。言葉の通り未来をそのまま示すのではなくタロットカードを数枚適当に引くだけでこの先の未来が大体分かるというもの。
この大体、というのが曲者で例えばだが何か仕事の前に『悪い結果が起こる』というものであってもその結果を受け注意深く過ごせばよい結果を起すことだってあるし、逆に『いい結果となる』という占い結果であってもそれを真に受け注意が散漫になってしまえば悪い結果となることもある。
本当に単なる占いでしかない。ふつうの占いと違うのはその確率だったりするのだがそこはもう割愛する。
とにかく、男は促されるままに上着のポケットからタロットを取り出す。そして適当に三枚のカードを引き当てる。
「ふむ、『運命の輪』に『塔』か。あんまりいいカードじゃなかったな」
「まあ所詮気晴らし程度っすから。精々注意すれば大丈夫っすよ」
言いながら男はこの事務所の主プロヒーロープロテックの部屋へと向かう。とりあえず出勤しましたという連絡をするためだ。
「プロテックさん、ちーっす。なんか今日の夜……ん?」
部屋に入った男は陽気に挨拶をする、が、違和感を覚える。プロテックは書類を片付けるでもなく、ただ部屋の真ん中に立って突っ立っていた。
それを見ただけで男は緊急事態だと判断する。他の人間であれば何が起こったのかわからずさらに部屋の奥に入ってしまったかもしれないがこの男は違った。
チャラチャラとした空気を帯びながらも占いに左右されないように注意深く生きてきた彼はすぐにおかしな状況に三つ気付く。
一つは先ほどの通り、プロテックがただ部屋に突っ立っているということ。彼の仕事は依頼された警備だけではない。この町の警備すら一手に請け負っているのだ。仕事中は常に関係各所との緻密なやり取りをしているのが警備ヒーロープロテックだ。
二つ目に窓が開いていること。この個性が山ほど存在する時代。窓は格好の侵入経路となる。それが開けたまま放置されていようものならばプロテックは即座に窓を閉める。
三つ目に血の匂い。部屋に立つプロテックに外傷は見られないがそれでも微かに血の匂いが彼の鼻孔をくすぐった。
『いいか! 青坊主どもようく聞け! 異変を三つだ。三つ確認したならばすぐさま仲間に報告しろ。絶対に自分一人で何かしようとするんじゃねえぞ。やるとしても最後だ。ホウレンソウは大事だ。二次被害も絶対に出しちゃいけねえんだ。わかったか!!』
プロテックの教え。それが瞬間的に頭によぎる。それに従いすぐに部屋の外に応援を呼ぼうとしたのだがその顔に何かぶつかった。
「いてっ、なんすかこれは……」
見るとそれは町でもたまに見ることのある動物『蝙蝠』であった。
「悪いっすけど今から人を呼ばなきゃいけないんすよ」
さっと蝙蝠を手でのけると先ほどまで同僚と話していた職場に出る……のだが、ある者は椅子に座ったまま。ある者は書類を地面に落としたまま焦点を合わせずにぼーっとしていた。
「な、なんすかこれは……ひっ?」
異様な光景に一歩後ずさる男。その背が何かにぶつかる。
ぶつかったのは蝙蝠だった。しかし一匹二匹ではない。数十数百の蝙蝠が男の後ろに密集し、ある形を成していく。
口が見えた。首が見えた。心臓が見えた。目が見えた。耳が見えた。腕が見えた。指が見えた爪が見えたへそが見えた血管が見えた腹が見えた衣服が見えた素足が見えた靴が見えた衣服が見えた。
声が聞こえた。
「いただきます、じゃん」
男が最後に見たのは赤い髪の少女、血水鬼子。当然男は知らないがオールマイトと緑谷という最強のコンビから悠々と逃げることに成功したヒーロー殺しの一人。
彼女の個性はもちろんたった一つ。けれど蛙吹のように一つでありながらバリエーションを持つ型であった。
ブスリと、気付いた時には男の首に少女の長い八重歯が刺さっていた。
「あ……が……」
「はいはい、ごちそうさまでしたじゃん。やっぱ生で飲む快感はたまらないっつーか?」
口に付着した血を手元でぬぐいながら鬼子は満足げに笑う。
蝙蝠になれる。
血を吸う。
男は倒れ行く意識の中でその特徴に合致するものを一つ思い出す。とっても有名で、おそらく知らない人はいないその存在を。
「きゅう……けつ……き……」
「お、正解じゃん? 早すぎない?」
個性『吸血鬼』。吸血鬼らしいことはだいたいできる。ただし弱い。その代わり日の下も歩ける。
それが血水鬼子の個性であった。
ピリリリリリリリという電話のコールが響く。数秒のうちに相手が出る。
「う~たかちゃ~ん。こっちはおわったぜ~い。え? なに? 遊びすぎ? いいじゃんいいじゃん。労働に対価ありだよ。血吸うくらい大丈夫だって。え、ちがう? そっちじゃないって? 冤罪しちゃう? 血を吸うやつが? 敵連合に? え、マジで? むっちゃ会いたいじゃん!!」
時刻、夕方七時。謝罪会見まであと二時間。
捕捉
男さんの個性『占い』→占いがよく当たる
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
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オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
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オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし