ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
「お母さん! ただいま」
時刻は夜七時。クラスメイト達とファミレスでどう個性を伸ばしていくかと白熱した議論をした後、家路についた緑谷は元気よくただいまを言う。
家の中は明るく、いつもならこの時間はまだ引子は起きて家事をしている時間だ。靴を脱ぎながら緑谷はあることに気づく。
「あれ? お客さん?」
見慣れない靴が玄関の靴置き場に置かれていた。女物の靴で高級感などはないが動きやすそうなスニーカーだ。
不思議に思いながら緑谷はリビングに進む。
「やあ、お帰り。遅かったけど友達と道草でも食ってたのかな?」
「!?」
リビングの戸を開けた緑谷に声をかけてきたのは……引子ではなかった。
緑谷は驚きのあまり声も出ない。なにせそこにいたのは母親の引子ではない別の人物。
ヒーロー殺し、夜原鶯鷹だった。
「な……なんで」
「なんで? 緑谷君の個人情報を知ってること? それともここに来た目的? どっちにしてもだめだね。君は」
だめ、と断じられた緑谷は眉を顰める。恐怖心こそあるが相手は現在武器を手に持ってはいない。すぐさま戦闘に入る気配がないことにほんの少しだけ緑谷は安堵していた。
故に意味が分からない。
「不思議そうな顔をしているね。なら聞くけれど。いっつもこの時間、家は誰も人がいないのかな?」
「まさか……お母さんをどこにやった?!」
ようやくオウタカの言わんとすることを理解した緑谷は食って掛かる。迂闊に掴みかかろうとしないよう、理性を働かせながら。
「ふむ、その思考に至るまでかなりの時間。やはり君は違ったみたいだ」
「一体何の話を……」
なぜか呆れたような様子のオウタカに緑谷はフルカウルを発動させいつでも対応できるようにする。
「何の話を? 君の英雄として、ヒーローとしての素質の話だよ」
怒ったような、がっかりしたような、期待を裏切られたような目を向けるオウタカ。その視線に晒されて一瞬緑谷はひるむ。
「今私と会った瞬間の反応はヒーローとして失格だ。正義を語ってヒーローを粛正しているとはいっても私が敵であることは私自身も認めよう。そのうえでだ。家に敵がいるんだぞ? なぜ家族の安否を言われるまで気にしない?」
「な……」
言いがかりかもしれない。けれどオウタカが失望の色を見せていることに緑谷はたじろぐ。
「ここ数日。君の行動はすべて仲間に把握してもらっていた。君の行動、生い立ち、思考、経歴、個性、そのすべてを分析させてもらった。けれど……君は私たちが求めるヒーロー足りえなかった」
「どういう……こと?」
「そのままの意味だよ。君の力、個性は君自身のものでもなく、ましてやつかみ取ったものでもない。君の性格はヒーローとして活動するにはあまりにも脆弱だった。それだけの話」
いつの間に持っていたのだろうか。刀を腰に差し、緑谷の横を通り抜けようとする。動こうとする緑谷だったが鳩尾に大太刀の柄がめり込む。
「うが……あ……」
意識を手放しそうになる緑谷。寸前のところで耐える足に力を入れることができずに倒れこむ。
「今夜の九時、謝罪会見あるんだってね。是非見てくれることを祈るよ」
それだけ言い残してオウタカは緑谷の家を去る。
〇
緑谷が動けるようになったのはそれから数分が経った時だった。ようやく四肢に力が入るようになった緑谷はふらつく足取りで家の中に母親を探す。
幸いにも引子は風呂場に気絶させられた状態で発見された。大きな外傷もなく呼吸も正常であることを確認すると緑谷はようやく一息つく。
「もしもし……病院ですか? はい……はい……」
もしもに備え病院に連絡を入れる緑谷。そして続いてオールマイトにも連絡を試みる。ヒーロー殺しのことを誰に伝えるか、を考えたときに真っ先に思い浮かんだのが彼だったのだ。
数度のコール音の後、電話が通じる。
「緑谷少年かね。どうした? 私は今から会見の打ち合わせがあるんだが……」
「ヒーロー殺しが家に来ました」
「なにっ!? 大丈夫かね! 怪我は!? 家族の方も無事かね!?」
即座に緑谷やその家族の心配をするオールマイト。その声に大丈夫と答えながら緑谷は要件を切り出す。
「今夜の会見……気を付けてください。ヒーロー殺しが……何かするかもしれません」
それを聞き、オールマイトは少し動揺する。
なぜならオールマイトには自身の命を狙うという脅迫状の存在を知らされている。故に今夜の会見で何かが起こることは予想済みだ。
「そ、そうか。わかった。精々気を付けよう。とにかく、君や家族が無事ならよかった。もし不安であれば雄英高校の方へ行ってくれても構わない。あそこなら常にプロヒーローがいる」
「分かりました……。あの!」
最後に、緑谷は声を大きくする。なにかね、とオールマイトは聞き返す。
「僕は……ヒーローにふさわしくないのでしょうか……」
「……。前にも言ったはずだ。緑谷少年。私は君こそがふさわしいと思ったからこそ力を譲渡したのだ。自信を持つんだ。敵に何か言われてもへこたれるんじゃない」
そして、電話が切れた。
〇
「緑谷からですか」
「ああ。またヒーロー殺しと遭遇したらしい」
「また……あいつはどこからそんな繋がりを……」
時刻は7時。記者会見まであと2時間を切りピリピリとした空気を相澤が纏い始める。
オールマイトは刺激しないように別の話題を出す。
「ところで今日の警備はプロテックくんだったよね? いやぁ、懐かしい。彼とともに参加する警備任務はとても楽だった」
今日、自身の、及び謝罪会見そのものに対する警備ヒーローについての話題。相澤は彼らをあまり知らなかったらしく微妙な反応だ。
「何者ですか? そのヒーローは」
「警備を第一に行っているプロヒーローさ。彼らの守る街は犯罪率が2%! 彼らはいるだけで抑止力になるのさ!」
「それはすごい……。あれですか?」
相澤がエレベーター2目を向ける。現在彼らがいるのはテレビ局7階。そこに向かって一台のエレベーターが上昇していた。
扉が開く。出てきたのはプロヒーロープロテック、及びそのサイドキックたち。
「お待ちしておりました。本日はよろしくお願いします」
「こちらこそ! 我々プロテック事務所を頼っていただき感謝します!」
相澤とプロテックが握手を交わす。オールマイトも続く。
「オールマイトさん! お久しぶりです! またあなたとともに警備ができることは嬉しい限りです!」
「ハッハッハ! だが今回は、私が君たちに守られるんだなぁ!」
冗談を言い合いながらテレビ局の責任者が来るのを待つ。
彼らが今から行うミーティングはもちろん本日の警備について。
敵の情報、侵入経路、警備の配置、雄英高校の教師陣とプロテックたちの連携の仕方等々。話し合うべき議題は山ほどある。
おおよその話し合いはすでに終わっているがそのすべての確認となるとそれなりの時間がいるのだった。
○
7時30分。緑谷宅。
緑谷は迷っていた。自分が何をするべきなのかを。
ヒーローとしてオールマイトの加勢に向かうべきだろうか。
家族として母引子のそばにいてあげるべきだろうか。
それとも、友人たちと話し合い第三、第四の選択肢を考えるべきなのか……。
そして、彼は……
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
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オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
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オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし