ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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路地裏のヒーロー殺し 二

「わ~た~し~が~! 窓からはいってきた!」

 

 雄英高校一年A教室。ヒーロー基礎学の時間。ナンバーワンヒーロー『オールマイト』が唐突に

 

「「「窓から来た!?!?」」」

 

 ドアから普通に入ってきたり後ろのドアから入ってきたりと地味なバリエーションがあるオールマイトの登場。それを生徒たちは熱狂を持って迎える。

 

「なるほど……最初の数回でドアから入ってくるパターンを学習させておいて機を見て窓から……つまりこれは僕たちに一定の環境に慣れさせない、すなわちあらゆる(ヴィラン)との遭遇を予期させておくものなのか……いや、もっと別の……」

「……デク君、デク君戻ってきて」

「はっ!」

 

 一部深読みして自分の世界に没頭していく少年もいるが。

 

「さあ! 有精卵共! 今日もしごいていくぞ! 敵は待ってくれない! 今日の! 今の! この一秒も無駄にはできんぞ! Plus Ultra!」

「「「はいっ!」」」

 

 威勢のよい生徒たちの返事に満足そうにうなずくとオールマイトは手招きする。それに合わせて入ってきたのは雄英高校で教鞭をとっていないプロヒーローたち。生徒を鍛えるため、はるばる遠方から来たヒーローもいる。

 

「と、言うわけでだ。今日は私も含めて十人のプロヒーローに来てもらった! 二人につき一人! 必殺技の切れ、格闘技術! 余すことなく吸収するといい!」

「おおおお!」

 

 ひとしきり目を輝かせるのは緑谷出久。雄英高校に来てから何人もプロヒーローに会っているがそのたびに感動しているのは彼のオタク癖ゆえか。

 

「あ、あれは雄英高校のOGの……あっちはOB! すごい、僕たちのためにこんなにもたくさんの人が来てくれているなんて……これは僕も……」

「おいデクうっせーぞ。ぶつぶつ言うなら外行きやがれ」

 

 そんな緑谷少年を白髪の少年が腕から火花を散らしながら突っかかるのは爆豪克己。何かあるたびに緑谷少年に突っかかるのは彼の悪癖だ。

 

「二人とも! いい加減にしないか! オールマイトが困っているぞ!」

 

 そしてその争いはいつものごとく委員長飯田天哉によって諫められる。

 

 いつもならここでできた隙をオールマイトが見逃さず、授業の説明が始まる。

 

「よし、それでは、各員体育館に向かって……」

 

 そのはずだったが……飯田少年が言葉を続けた。

 

「しかしオールマイト。二対一で教えを乞うにも人数が合わない気がするのですが……」

 

 部屋の中に入ってきたヒーローはその数八。オールマイトを含めても九人だ。十人というオールマイトの情報と食い違う。

 

「あ、あっれぇ、おかしいな。えぇと、だれがいない?」

 

 カンペを見ながら確認するオールマイト。そして今日来ているメンバーと名簿を照らし合わせ……

 

「えーと、プラントヒーローのジューモク君か。誰か、彼の連絡先を知らないかい?」

「プラントヒーロージューモク!!! シンリンカムイのフォロワーでありながら似た植物系の個性を生かして敵を捕まえる新人ヒーロー! その植物のつるで捕まえた敵の数は新人最多を誇るっていう!!!」

 

 一人だけ声を張り上げ反応したオタク生徒がいたがそれには構わずやってきたプロヒーローたちはサイドキックなどを通じてジューモクに対しての連絡を試みる。

 

 が、連絡のついた者はいなかった。

 

「ふぅむ、困ったな。それでは仕方ない。私が四人見よう!!!」

「「「流石オールマイトだ!!」」」

 

 生徒からの尊敬の眼差しをその一身に受けながらオールマイトは授業を開始する。連絡がつかないことに一抹の不安を感じながら。

 

 

「相沢君、それは本当かね」

「はい、間違いありません。今日の未明、不審な行動を取る二人組を追跡するというメッセージを送ってからジューモクの行方が分かっていません。と、いうのが今朝の情報です」

「ん? 続きがあるのかい? はっはっは! そうもったいぶられると困るなぁ!」

 

 ヒーロー基礎学が終わり、職員室に戻ったオールマイト。彼を迎えたのはプロヒーローイレイザーヘッドであり、緑谷たちの担任でもある相澤消太。そしてその隣にこの学校の長を務める根津。

 

 ジューモクの不在は授業中に職員室に伝えられ相澤たちが調べていたのであった。

 

「はい、新たな情報です。つい先ほどプラントヒーロージューモクの遺体が川に浮いているのを近所に住む住人が見つけ警察へと連絡しました」

「っ!!」

 

 声にならない驚きがオールマイトからこぼれる。慌てて周囲を見渡し生徒がいないことを確認すると一気に相澤へと詰め寄る。

 

「一体どういうことかね! 死んだだと?!」

「落ち着いてください。警察の方へ飛んでいくのもやめてください。彼の死は間違いありません」

「……死因はなにかね、溺れたか? それとも何か悩みがあっての自殺かね?」

「他殺です。首を前半分すっぱりと」

「そうか……」

 

 力なく、設置されているソファに腰を下ろすオールマイト。新進気鋭の若手ヒーローの死。後進に平和の象徴を譲りつつある彼にとってかなりのショックだ。

 

 だが相澤の報告は終わらない。

 

「そして……これは伝えるかどうか迷いましたが時間がかかってあなたの耳に入るよりはましだと思ったので伝えます」

「……何かね」

 

 先ほどの報告以上の重みをにおわせながら相澤は切り出した。

 

「彼の遺体には文字が刻まれていたようです。『オールマイト、これがお前の作った世界だ』と」

「……!!」

 

 彼もヒーロー活動の中でヴィランに恨まれないような生き方をしてきたわけではない。平和の象徴、それだけで恨まれることや疎まれることは多々あるだろう。

 

 けれども、そのメッセージに対しての彼の返答は怒りであった。

 

 責任を感じないわけではない。だが、それも含めて、自分に怒りをぶつけずに他のヒーローたちに被害を与えるその行動をオールマイトは許せない。

 

 ふぅ、と息を吐く。怒りを必死に抑え、相澤に対し一つ確認する。

 

「相澤君、確認だ。その文字が刻まれたのは何人目だ」

 

 この質問に相澤はピクリと眉を動かす。そしてその反応を感じ取りオールマイトは直感する。

 

 一人目であればいい。しかし先ほど相澤がオールマイトに対して伝えるか迷ったことを考えると警察などがオールマイトを気遣って、或いは単なる平和の象徴に対する宣戦布告と取った場合に、連絡に遅れが生じていることは想像に難くない。

 

 そして当然、個性『ハイスペック』をもつ根津はその質問を予期し、すでに警察から聞き出していた。

 

「分かっているだけで二十六人、だそうだよ」

 

 

「なあ緑谷! 今日どっか寄っていこうぜ」

「わ、楽しそうだね」

「フフん、切島君、緑谷君、実は僕昨日エレガントなお店を見つけたんだよね。みんなで行かないかい?」

 

 授業が終わった勇英高校1年A組。何人かの生徒たちが帰り道にどこかに寄る相談をしていた。

 

 だがそれを担任である相澤が諌める。

 

「お前ら、悪いことは言わん。今日は早く帰っておとなしくしていろ」

「えぇ!!」

「ひどいよムッシュ!」

「そらねえだろ先生!」

 

 楽しみにしていた用事を台無しにされそうになって口々に文句を言う生徒たち。

 

「先生! 雄英高校の校風は自由のはず! にも関わらず放課後の予定を禁じるなどあってよろしいのでしょうか!!」

 

 飯田天哉が哀れに思ったのか、あるいはもとからの真面目さからか、抗議する。

 しかし相澤は揺るがなかった。

 

「だめだ。それにお前らには今日課題がたっぷり出される。それを終わらすには一日中こもるしかないな」

「「「そ、そんなぁああああ」」」

 

 相澤の言葉に先程までの緑谷達だけでなく他の生徒からも悲鳴が上がる。

 

「はい、わかったら解散。時間は有限、無駄にするな」

 

 だが、生徒たちは諦めない。

 

 

「よし! ならファミレスとかでご飯食べながら課題しよう! みんなでやれば楽しいし早く終わるはずだよ!」

「いいね緑谷! 私も行くよ!」

「私もご一緒させていただきますわ。少し気になることもありますしね」

 

 芦戸、八百万が賛成し、その後何人かもついていくことになり一行は学園を出る。

 

 行くメンバーは緑谷、切島、青山、八百万、芦戸、常闇。他にも麗日などは来たがっていたのだが用事ができてしまい来ることは叶わなかった。

 

「全く、相澤先生もひどいよね! いつもならなんにも言わないのに」

「どうしたんだろうね。課題もこんなにたくさん出して……まるで僕たちに外出してほしくないみたい」

 

 ファミレスまでの道すがら雑談が弾む。が、その会話で常闇が思い出したように八百万へ問いかける。

 

「そうといえば八百万。先刻、不可思議なことを告げていたがなにか引っかかることでも?」

「私ですの? なにかお気に触りましたか?」

「教室を出る前だ。『少し気になることもありますしね』と」

 

 ああ、そのことですの、とつぶやきながら少し考える素振りを見せる八百万。だがすぐに口を開く。

 

「気になることといえばあります。まず1つ目にヒーロー基礎学の時間、プロヒーローの一人が来ませんでした」

「あ、それは僕も気になったよ! ヒーローが遅刻なんて……」

「ええ、緑谷さん、そのとおりです。ヒーローが時間に間に合わない、というのはかなりの悪印象です。ヴィランから、災害から、一分一秒を惜しんで駆けつけるのが私達ヒーローですわ。でも連絡すらつかなかった」

 

 切島、青山も口を開く。

 

「確かに引っかかるな」

「でもみんな、ちょっとばかしかっこ悪いけれどたまにはあるんじゃないかい? ヴィランと交戦中だったとか事故から市民を助けていたとか、そんなクールな理由がね☆」

 

 ヒーローにトラブルはつきもの。それは確かに緑谷たちも納得するところだ。

 

「ええ、ですからそれだけでありましたら私もそこまで気に止めませんわ。でもその後も結局現れず、そして先程ネットの方で確認しましたが彼のヒーロー事務所は現在依頼等の受付が止まっておりました」

 

 それに、と八百万は付け加える。

 

「あの相澤先生の反応も気がかりではありますわ。飯田くんも言っていましたが普段とは違う行動のように思われます。ですのでやはり、私達を外に出したくないなにかがあるのではないか、と私はそう考えたのですわ」

「なるほどねぇ」

 

 芦戸が深く納得しながら相槌を打つ。

 

「つまり……この街になにか危険が迫ってるってことか? オールマイトがいるこの街に?」

 

 理解できないといったふうに切島が吐き捨てる。緑谷や他のメンバーもそこは同じ気持ちだった。

 

「わかった、教えてくれてありがとう、八百万さん。気をつけ」

 

 ておこう、と緑谷が言おうとしたときだった。突然「ぎゃああああああああああああああああああ」という悲鳴が全員の耳に突き刺さる。

 

「な、なんだぁ!?」

「あっちだ! 行くよ! 八百万さん!ドローンは飛ばせる?」

「お安い御用ですわ」

 

 いうが早いか行うが早いか、緑谷が言う前からドローンを作成し悲鳴があった場所まで飛ばす八百万。そして六人は路地裏を駆けていった。

 

 

「ふふふふふふ」

「あははははは」

 

 そこには、白い少女と黒い少女がいた。

 

 

「なんだよ……これ……」

「うっぷ……」

「むごすぎますわ……」

 

 路地を上空からのドローンで進んだその先。そこにいたのは一人の男と二人の少女だった。

 

 場所が場所だ。その状況だけなら男が少女たちを襲っているふうにしか聞こえないだろう。だがそんなはずはなかった。

 

 男はすでに腕も足も切り落とされ、馬乗りしている黒髪の少女が今まさに右手に持つ太刀で止めを刺そうとしていたのだから。

 

「ワンフォーオール! フルカウル!」

「ネビルレーザー☆」

 

 緑谷が路地の障害物を利用して奇襲をかけに行く。そしてそれを援護するように青山のレーザーが少女に向かって凄まじい速度で襲いかかる。

 

 しかし、どちらも動き出した瞬間に男に馬乗りになっていた少女の首が曲がり、緑谷達をにらみつけ、男から離れることで難なく避けてしまう。

 

「ダークシャドウ!」

『おうさ!!』

 

 今度は路地裏という個性が好条件の常闇が少女が離れた瞬間に襲われていたと思われる男を救い出す。

 

「なぁに? せっかく楽しく遊んでたのに邪魔するっていうの?」

「見られた……見られた見られた。殺さなきゃ……」

 

 少し怒ったように太刀を持った少女が緑谷たちに向き直る。その奥でもう一人の白髪の少女もブツブツとつぶやき続ける。

 

 その様子が緑谷たちに恐怖を与える。今までヒーロー殺しステインを始めとして様々なヴィランと戦ってきた中でも上位に入る狂気をヒーローの卵たちは二人の少女から感じていた。

 気圧され動けなくなった六人。だがそれを瀕死の男が破る。

 

「に、げろ……。プロヒーロー『ガンダマン』の名において……個性の使用を許可する……全力で……にげろ……」

 

 その声にハッとしたのは緑谷だけではない。全員がここで戦わずに逃げることを思い出し来た道を引き返す。

 

「皆! この人は僕が持つ! 芦戸さんと常闇くんは遠距離で妨害を! 八百万さんは逃げ道を探して! 青山くんはレーザーを上空に! 切島くんは携帯で連絡を!」

 

 全員の「応!」という声が小さく響く。一斉に走り出しながら芦戸は酸で地面を、常闇はダークシャドウで周囲を壊し、道を塞ぎながら相手の進路を妨害する。

 

「あははははは、鬼ごっこ? いいよ、乗る乗る!」

 

 太刀を持っている少女がそれを振り回しながら追いかけてくる。酸も瓦礫の山も障害になっているようには見えない。

 

 だが、六人は諦めない。瀕死のヒーローを背に緑谷たちは絶対に守るという決意で走り抜ける。

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