ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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始まるヒーロー殺し 五

 眩い光が全員の視界を埋め尽くす。放たれたのは閃光弾であり、爆風の類は一切ない。

 

 しかし、それで有利になるのは紫綿場紫吹ただ一人。

 なぜなら彼女が攻撃していいのは、己以外の全員。ただ銃火器を振り回すだけでいいのだ。

 

 一方でヒーロー。彼らが狙っていいのは紫吹のみ。視界が埋め尽くされた中でも状況が読めて初めて攻撃できる。

 

 

 うろたえる緑谷たちをよそに、ガシャン、と何かを構える音が響く。

 

 誰もが頭に思い浮かべたのは紫綿場紫吹の個性による武器の設置。音の重さから考えても銃火器であることは想像に難くない。

 

「全員! 個性の使用を許可する!」

 

 いくら機動力に優れているグラントリノといえど、40人近い生徒のうち誰が狙われるかわからない中での防衛戦はあまりにも無謀。

 少しでも生徒たちの生きる確率を上げるため彼は声を張り上げて少年少女の枷を外す。

 

「グラントリノ……轟くん! 氷で周囲を!」

「分かってる……!」

 

 グラントリノに対し、申し訳ない気持ちになる緑谷だったがこればかりは仕方がないと考え来たる銃弾へと思考を巡らす。

 彼が考えうる限り銃弾を無効化できるのは轟の氷壁、そして常闇のダークシャドウ。

 

 しかしながら先程の閃光弾。あれがある限り肝心なときに閃光弾とともに撃たれてしまえば防ぎようがなくなる。

 

 よってここで動くのは轟。周囲を氷で囲みどこから銃弾が来ようと対処できるようにする。その判断はA組生徒の誰もが正しいと考え

 

「そうじゃねぇぞ小僧! 上だ!」

「大変読みやすい相手で助かります」

 

 声は変わらず真正面から聞こえてくる。しかしグラントリノの声に反応できた一部の生徒は次の驚異に気づく。

 先程投げられた閃光弾とは比べ物にならない大きさの影が見える。ヒュルヒュルと空気を裂きながらそれは緑谷たちの頭上に迫っていた。

 

 RPG。対戦車ロケット弾である。

 

「みんな! 伏せろおおお!」

 

 それが誰の声だったのかは分からない。

 

 直後爆発が起きた。

 

 

「ちっ!」

 

 生徒の方へと駆寄ろうとしたグラントリノ。だがその動きが止まる。

 

「なぁ、お前さん、なんでこんなことしやがる」

「こんなこと、とは? 私にとってこの戦いはものすごく大事なことです」

 

 銃口を向けながら紫吹は答える。もちろん距離は離れているしグラントリノの身軽さであれば銃弾をかわすことも容易だ。

 

 しかし、真に銃口が向いているのはその先に倒れている生徒たち。うかつに動くわけにもいかず彼は対話を試みる。

 

「イノセントマーチャー。今まで中東にいたやつがいきなりどうして日本なんかに来やがった? なぜオウタカに協力する?」

「どうして、ですか。そんなのあなた方が一番知っているでしょう? 私達は社会の理不尽に晒された。その報復をしているだけですよ。ヒーローという殺人者に対してのね」

 

 引き金にかけられた指に、力が入る。

 

 瞬間、緑のスパークが弾け、紫吹の右手から銃を弾き飛ばす。

 

「なっ!」

 

 予想外の妨害。けれどその犯人は明らか。緑谷だ。

 

 轟の氷を目くらましに、麗日の個性で機動力を上げ、耳郎の音響で正確に紫吹の位置を把握した上で緑谷が壁を蹴っての高速移動を繰り返し接近しただけのこと。

 

「事情があるみたいですけど! それでも悪いことはやっちゃいけないと思う!」

 

 再び壁を蹴って距離を保つ緑谷。追いかけようとする紫吹だったがそれは阻まれる。

 

 足が地面に固定されて動かないのだ。

 

「これは……?」

「へへへ! オイラのポヨポヨは今日も絶好調だぜ!」

 

 緑谷の背中から声が聞こえる。思わず紫吹が眉をひそめたくなるほど下品な声だ。

 

 だが、その仕事は一流の域にあった。紫吹すら反応できない速度で飛び動く緑谷の背中から正確に彼女の踵を狙って投げつけたのだ。

 もはや変態の域である。

 

「よくやったぞ! 小僧共!」

 

 間違いなくできた隙。それを見逃すグラントリノではない。

 

 両足は峰田に固定され、右手は今弾かれた反動であらぬ方向へと向いている。

 故に警戒するのは左手のみ。そのことを念頭に気絶させるべくグラントリノは動く。

 

「くっ…!」

「お前さんら、ヒーローの卵を舐め過ぎたな。こいつらはしっかりと中身の入った卵共だ」

 

 ジェットの高速の蹴りが迫る。だが、紫吹はそれに反応せず俯くばかり。周囲を蠢く紙もそれを防ごうとはしない。

 

「あなた達に……何がわかる……恵まれた家庭、暖かな食事、人を攻撃しようと敵が敵でさえあれば罪を許され称賛される……」

 

 グラントリノの蹴りが最初に狙ったのは紫吹の頭。だが反射のように出された彼女の左手がそれを受け止め、そして骨折する。

 当然だ。ジェットの加速による蹴りはもはや女性の細腕で、しかも姿勢が悪い中受けれるものではない。

 

 そして、グラントリノの真の蹴りは次だった。

 

 彼女の四肢は封じたこの瞬間に、先程の蹴りを反動にした蹴りが彼女のみぞおちを狙う。決まればオールマイトでさえ吐き続けることになる人体の急所の一つ。

 

「あなた達には決してわからない……分からなくていい。けれど覚えていて」

 

 ガコン、と音が響く。なんの音か緑谷たちは不思議に思い警戒するが紫吹が武器を出した様子はない。

 

 グラントリノも警戒はするが何かをする前に動きを止めるつもりで蹴りを放つ。

 

「私達の生きてきた世界はあなた達には壊された」

 

 グサリ、と蹴りでは絶対に出ない音が緑谷たちの耳に聞こえてくる。

 

 理解できなかった彼らだが一番混乱しておるのはグラントリノだった。

 

 紫吹が動けるとしたらそれは体を逸らすなどして蹴りをかわすこと。

 

 だが、だとしたら、だとしても、グラントリノは起こっていることに理解ができなかった。

 

 彼女の膝から先がなくなり、代わりに現れた刃がグラントリノの体を突き刺していた。

 

「私の体、ほとんど人工物でして、こうして仕込みができるんですよ。流石にオールマイトを貫けるほどではないですがあなた程度の小柄な体なら容易に貫通です」

 

 紫吹が刃を抜く。夥しい血がグラントリノの傷から溢れ出る。

 

 踵が固定された足は放置し、まるで竹馬のように膝から伸びた刃で歩行する。

 

 そして、2枚の御札が彼女に近づいたかと思うとあっという間に義足となって彼女の外見が健常のそれになる。

 緑谷たちは呆気にとられながらその光景を見ていた。

 接合部はやはり、なんの違和感もない。

 

「ふむ、それで、いつまで寝ているんですか。マスキュラー」

 

 発泡音が響く。紫吹がマスキュラーの肩を拳銃で撃ち抜いたのだ。筋肉だけを狙って。

 

「……っつ! おいおいおい、嬢ちゃんよ。もうちょっと優しくしてくれねえのか」

「グラントリノになすすべなく圧倒されるような弱者にかける優しさはありません」

「ハッハッハ! いいじゃねえか。帰ったら一戦しようぜ。目も戦闘用にするからよ」

「お断りします。オウタカさんを介しての依頼なら考えますが。あとグラントリノ相手にその義眼は甘く見過ぎです」

「あー、分かったよ。変えりゃいいんだろ」

 

 巨漢が起き上がる。そのことに緑谷たちは絶望する。吹き飛ばされた砂藤や切島のことが頭をよぎる。誰がこの二人の相手をすればいいのか。

 

 もぞもぞとマスキュラーが目をいじる。遊び用ではなくなった義眼が緑谷たちに視線を投げる。

 

「血見せろやぁあああ!」

 

 生徒だけでここに来るべきではなかった。それだけのことだった。

どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)

  • オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
  • オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし
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