ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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始まるヒーロー 六

「青山くん! 空に個性を!」

「わかってるよ☆」

 

 きらびやかな光が夜の空へと駆ける。同時に飯田や緑谷、轟などの近接戦闘が得意な面々が前に出る。

 

 そして、その影に隠れて常闇がグラントリノを回収し八百万が個性で作り出した薬などで止血する。

 

「緑谷さん!不味いですわ! 出血が多すぎます!」

「そんな……急いで学校に! リカバリーガールの治癒活性なら間に合うはず!」

 

 その声にハッとした様子で八百万はバイクの生成に取り掛かる。時間はかかるがここから徒歩で向かうよりは確実に早い。

 

「行かせると思ってるんですか」

「そのとおりだぜぇ!」

 

 紫吹が構えたのは機関銃。狙いは八百万共々グラントリノを撃ち殺すこと。

 マスキュラーもまた、筋肉を増強し先程撃たれた肩を包み戦闘状態に入る。

 

「させない!」

「させるか!」

 

 機関銃の弾は轟の氷が弾き、マスキュラーの巨体は緑谷が立ち向かう。

 

「ワンフォーオール! フルカウル! 15%!」

 

 緑の稲妻が弾け、緑谷の拳がマスキュラーの拳に合わせるかたちでワンフォーオールが発動する。

 

 結果は互角。両者とも後ろに吹き飛ばされることなく次のパンチが飛び出す。

 

 

「いいじゃねえか! もっと本気だせぇ!」

 

 マスキュラーの体が更に肥大化する。緑谷も応戦するべくギアを上げる。

 

「20%……くっ……まだ上がるのか」

 

 彼の体が悲鳴を上げる。正面からの殴り合いだ。そして、まだどれだけ敵がいるかもわからない中全力を出すわけにも行かない。

 

 けれど彼には今仲間がいる。

 

「レシプロターボ!」

「重尾打!」

 

 緑谷とマスキュラーの拳が合わさる瞬間、2つの影が飛び出す。まスキュラーの怪我をしているはずの肩をめがけて飯田と尾白が突撃する。

 

「ちょこまかと!」

「それこそさせない!」

 

 すかさず紫吹は銃を構えるがそこに指向性を持った爆音が響く。

 

「これは……音!?」

 

 紫吹は紙を引き寄せ音から見を守る盾とする。

 

 たった一瞬の足止め。だが十分すぎた。

 

 結果緑谷とマスキュラーの拳が合わさるその瞬間に飯田と尾白は間に合う。

 

「ああん!?」

 

 肩に攻撃を食らうマスキュラー。だがグラントリノの攻撃さえものともしない彼が今更ちょっとの攻撃で止まることはない。

 

 しかし、尾白は武術家である。マスキュラーの見たこともない筋肉構造ですらその動きを予測し、その上で手を打った。

 

 マスキュラーがそれに気づいたのはもうすぐ激突というとき。

 

「あ……? 関節が外されたか!?」

 

 慣性で動いてはいるものの、すでにうまく動かない右腕。だが緑谷は目の前であり今更左手を出していては間に合わない。

 

「ま、待ってくれ! これはなしだ! 仕切り直しだ!」

「ワンフォーオール! 25%!」

 

 緑谷の拳が、振りぬかれた。

 

 

「ちっ、使えない男…」

 

 音響攻撃をしのぎながら横目でマスキュラーが吹き飛ばされたのを確認する紫吹。顔面にパンチが入った上、吹き飛ばされたその先で轟が四肢を氷づけにしてしまったのだ。先ほどとは違い回復は厳しいだろう。

 

 それに、先程の青山のレーザーのせいか、周囲から何人か近づいてくる気配を彼女は感じていた。

 

「お姉さん、投降して。ね?」

 

 麗日が催促する。が紫吹の返事はなく新たに武器を構え直すのみ。

 

「誰がヒーローなんかに下るものですか。例えここで捕まるとしても道連れにしてみせます」

 

 機関銃が火を吹く。が、やはり轟の氷が邪魔をする。

 

「エンデヴァーの子か……」

 

 紫吹は忌々しそうな視線を轟にぶつける。が、轟はスルー。

 

「俺の氷とお前の弾丸、どっちが先になくなるかやってみるか?」

 

 言いながら巨大な氷柱を紫吹に向けて放つ。軽やかにかわされるが間違いなく妨害になっていた。

 

「緑谷、お前ら、オールマイト助けるんだろ。ここは俺が止めるからみんな行け。砂藤と切島のことも頼んだ」

「轟君?! 何を」

 

 唐突な轟の言葉に緑谷たちはどよめく。しかし轟本人はというと紫吹から一切目を逸らさずに言い切る。

 

「この敵は俺一人で十分だ。全員がここにいる方が時間も取られる。お前ならわかるだろ」

「自分一人で良いとは随分となめられましたね……」

「事実だろ」

 

 バチバチと轟と紫吹の視線がぶつかる。そして轟のその背では紫吹から見えないようにハンドサインで緑谷たちに行くように急かす。

 

「……つ! 轟くん、僕も残るよ! みんなはテレビ局の方に!」

「お、おい、帰ったほうがいいんじゃないのかよ!」

 

 緑谷の言葉に峯田が真っ先に反対する。が緑谷は言い放つ。

 

「逃げるとしても砂藤くんと切島くんを拾ってからだよ! そうじゃないと危なすぎる!」

 

 緑谷が言い終わるのとほぼ同時に了解したクラスメイトたちは走り出す。紫吹が追いかけようとするが分厚い氷の壁に阻まれる。

 

「いい友情ですね。気持ち悪い」

「ああ、俺の大切な仲間たちだ」

 

 再び銃弾と氷が激突する。しかし、いくら削ろうとも氷は無限に再生できる。

 建物を破壊してもその瓦礫はことごとく緑谷が対処し轟の注意が散漫になることはない。

 

 一方紫吹は御札がなくなればお終いだ。今は夥しい量の御札が浮いているが、いつかは潰えることになる。

 

 しかし状況は彼女が撤退することも許さない。

 

「きみ! 大丈夫か!」

 

 先程打ち上げた青山のネビルレーザー。避難誘導していたヒーローたちが駆け寄ってくる。

 もちろん全員が紫吹の個性を事前の会議で知らされている。銃弾を弾くことのできるヒーロー、或いは無効化できるヒーローが前列に立ち轟、緑谷と紫吹の境に割って入る。

 

「プロヒーローの方ですか」

「そうとも! 君はエンデヴァーさんの倅だね。よく知っているとも」

 

 敵ではなく味方からも父の名前が出たことに少し、ほんの少しだけ複雑な気持ちになった轟少年であった。

 

「またゴキブリのように……」

 

 自身がどんどん不利な状況へと追い込まれていることに少女は気づいていた。彼女は武器商人。人並みに全部使うことはできるが曲芸染みた体術もなければ天才的な閃きができるわけではない。

 

 勿論銃の他にもたくさんの武器を彼女は持っている。けれどいずれも銃弾が効かないのであれば効果は薄いだろう。

 

「さあ、もう君に勝機はないぞ! おとなしく投降するんだな」

 

 一歩前に出るのはサンドヒーロースナッチ。当然紫吹は射撃するが彼の個性「砂化」の前では鉛の弾など効くはずがない。砂化できるのは上半身だけといえども砂を展開することで周囲への被害すら抑えてしまう。

 

「ち……」

 

 武器を取り替え次に取り出すのはまた別の銃火器。だが構える間もなくスナッチは体を砂化させ少女の体を取り押さえにかかる。

 

 例え義足を外されようと先ほどとは違い全身拘束しているため体の自由は一切ない。

 

「これ以上は無駄だ。おとなしく法の裁きを受けるんだな」

「誰が負けを……あぐっ」

 

 それでも動こうとする紫吹をサンドヒーローは締め上げる。

 

「貴様に殺されたヒーローが、一般人が、一体何人いると思っている。考えたことすらないだろう」

 

「うるさい……です……。それが私になんの関係があるんですか……」

 

 その本当にどうでも良さそうな声にヒーローたちは、特に緑谷たちは悪寒を感じる。

 

 一体どんな神経をしていればそんな言葉が出てくるのか。

 

「ああ、そうだ……思い出しましたよ。サンドヒーロースナッチ。私の両親を捕まえてくれたヒーローの中にいましたね」

「そうだな。オールマイトとの共同作戦だった。それの復讐か? これから刑務所で会わせてやるから安心するんだな」

「ああっ」

 

 更に締め上げるスナッチ。苦悶の声が紫吹から漏れる。

 

「あ、あの、もういいんじゃ……」

 

 苦しそうな表情を見て緑谷が後ろから声をかける。が、そんなことで油断するヒーローたちではない。

 

「きみ、確か緑谷君だね。雄英祭は見させてもらったよ。けれどそういうことを言うようではやはりまだまだ甘いようだ」

「で、でももう決着は」

 

 そう反論しようとした瞬間、スナッチは少女の左腕を捻りあげる。突然の行動に驚く緑谷だったが更にもう一度驚く。

 

 その手には手榴弾が握られていたからだ。

 

「ふん、おおかた服の中か義手の中にでも札を隠していたのだろう。道連れにする気満々だ。どうだ少年。これを見てもなおそんな甘いことが言えるのかね」

 

 ギロリと、スナッチは緑谷のことをにらみつける。すいません、という言葉が出ないくらいには恐怖を与えられた緑谷少年であった。

 

「はぁ……これも取られますか」

「次に動いたら背骨を折る。流石にそこは義手ではなかろう」

「いいんですか? 爆弾が詰められてるかもしれませんよ?」

 

 手榴弾を、逆転のための一撃すら奪われたはずの御札の少女。だがその表情はどう見ても追い詰められた者のする顔ではなかった。

 

 全身を砂で拘束し、一切の動きはできないはず、とスナッチは考える。

 

 空中に浮く御札も銃弾を弾くほどの強度を持つらしいと言うのは聞いていたが、それを攻撃の手段にするという話は聞いていない。もし仮にできるのであれば銃火器を振り回すよりもよほど強い個性だろう。

 

 それに浮いている札を例え触らずに武器に戻せるとしても銃ならば引き金を引かなければ、爆弾なら起爆装置を起動させなければ意味はない。

 

 刃物ならば空から降ってくれば恐ろしいかもしれないが銃弾すら効かないヒーローが多く集まるこの場所においてはさほど驚異にはならない。

 

 

 では、この少女の余裕は何なのか。スナッチは考える。

 

「紫綿場紫吹。これ以上抵抗するな」

「させてくれないのはあなた達が一番よくわかっているのでは?」

 

 砂の拘束でかなり苦しいはずだが少女はまだ笑みを浮かべる。周囲に浮かぶ御札も数枚が浮くだけで近づいてくる様子もない。

 

 そう、数枚。

 

「もう抵抗はしませんですよ。けれど一つ。あなた達にはたっくさん嫌がらせをしたいのです。例えば……避難しなきゃいけない人を増やすとか」

 

 それは突然だった。周囲の建物から轟音が響き渡る。一つの大きな爆発があったわけではない。

 

 細かく、それでいて小さな音がヒーローたちの耳に聞こえてくる。

 

 そして、見える建物は片っ端から崩れていく。

 

 当然、人がいる建物もある。

 

「な、なにが!?」

 

 焦る緑谷。轟も氷で倒れる建物を止めようとするが凍った建物すら細かな音を大量に立てながら崩れ壊れていく。

 

「まさか! 御札を建物内で武器化したのか!?」

「嘘だろ! 千や万じゃすまないだろ!」

 

 慌てふためくヒーローだがその分析は正しかった。数千数万とある紫吹の御札。それは少しずつ、周囲の建物や道路の隙間に運ばれていた。

 

 そして一斉に武器化。物差しサイズの紙が普通の兵器になるだけで空間は圧迫される。それが大量に行われれば建物は内部から崩壊していく。

 

「ごめんあそばせ、ですかね」

 

 スナッチがそれに気を取られた一瞬だった。彼女の口から日本刀が飛び出し、彼が砂化できない下半身に突き刺さる。

 

「なっ!」

 

 スナッチの驚き。だがそれだけでは終わらなかった。

 拘束が緩んだ瞬間に両手両足が爆発。痛みにより弱まっていた拘束はすべて弾き飛ばされる。

 

 そして両手両足を失った紫吹はすぐさま御札の絨毯にのり離脱を図るのであった。

 

「それでは、ヒーロー活動頑張ってくださいねー」

 

 彼女はすでにヒーローたちへは見向きもせずに一年A組を追いかける。

 

「くっ……追いたいが救助が優先か! 急ぐぞ!」

 

 周囲のヒーローたちは迅速に行動を開始。追える個性を持つ者のみが紫吹のあとに続きほかは倒れた建物の要救助者の救出に向かう。

 

「轟君……」

「ああ、俺らも追いかけるぞ。あっちは皆が行った方向だ」

 

 ヒーローの目が向いていないことをいいことに二人は紫吹を追いかける。幸い空を飛ぶ紙の絨毯は目立つ。二人でも追いかけることは簡単だった。

どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)

  • オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
  • オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし
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