ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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始まるヒーロー殺し 七

 紛争地帯。それは人の命がかんたんに失われていく場所。

 

 100はいたはずの部隊もいつの間にかいなくなる。そんな世界。

 

 個性の使用は日常社会ですら混乱を引き起こした。けれど戦場での変化はもっと劇的だった。

 

 銃弾よりもでかいものを銃弾よりも速く投げる者が現れた。

 

 透明になって奇襲する輩が現れた。

 

 全身を液体にしてどんなセキュリティの場所にも忍び込む存在が現れた。

 

 それがこの世界の戦争。常識を持った者から順に死んでいく。

 

「はあ、はあ、右腕はもう駄目そうですね」

 

 少なくともこの少女がいる世界はそんなものだった。

 まるで人形のように自分の右腕に見切りをつける彼女は迷うことなく右腕を切り落とす。一瞬痛みに震えるがそれだけ。

 

 すぐさま止血すると体を紙の絨毯で包み動き出す。

 

 彼女は武器商人。本来であれば自分が前線に出ることはない。けれど今日は違った。取引先が奇襲を受け、仲間と思われた彼女もまた(取引した点でいえば間違ってもいないが)狙われたのだ。

 

 狙われたから殺す。殺されかけたから殺す。自分の命は大切だから他を殺す。彼女の中では至極当たり前の行動だ。

 

 少女にとって、人の命はかんたんに奪えるものだった。

 

 そして、家路につく。すでに人の気配がする家からは美味しそうな匂いがこぼれてくる。

 

「あら! 帰ったのね! 〇〇!」

 

 少女を出迎えたのは彼女の母だ。割と放任主義なのか、無頓着なのか、少女がこの仕事をしたいといったら喜んで元手となる資本を準備した親の一人。

 

「今日は遅かったじゃないか。何かトラブルかね、ふむ、右腕が酷いな。今度義肢を作るかね」

 

 普通の人が聞けば卒倒しそうな会話だがいかんせん、ここでは普通である。

 

 そして、少なくとも少女にとっては普通であったし、これが普通の世界だと思っていた。

 

「はい、ただいま戻りました。さすがお父様お母様、今日も無傷なようで何よりです」

 

 心の底からの尊敬を少女は両親に向けていた。そして、かんたんな治療と、技師への連絡だけ済ませると彼らは食卓について晩御飯を食べるのであった。

 

「ふむ、勘違いか」

「でもね〇〇。きちんと下調べはしないと駄目よ。私達は商人。相手をしっかり推量らないと」

「反省しております。次からはうまくやります」

 

 これが少女の普通。まだ両手を失ったばかりの十代の少女の普通だった。

 

 そして、両親と家で晩御飯を食べること、そんな日々がいつまでも続くこと。

 

 それだけが少女のささやかな願いだった。

 

 

「母様と父様が……捕まった?」

 

 それからまた数年がたったある日だった。突然だった。家に帰るとそこには誰もおらず、見たこともない格好をした東洋人らしき人々が家を踏み荒らしていた。

 

 相手をしっかりと推量れ、という教えのもと、知らない体を装って一番近くで立っていた男に何があったのか尋ねる。

 

 そして教わったのが両親の逮捕だった。

 

 呆然とする少女に不思議がりながらも日本人のその男は己の仕事へと戻っていく。

 

「オールマイト! 今回も大手柄だったな! コイツらやばいぜ! 紛争地帯で武器売りまくって戦いを悪化させてやがったんだ!」

 

 おおきなアメリカ人らしき人物が大声を上げる。どうやら電話らしい。

 

 そんな彼らから少しずつ離れた少女は決意する。オールマイト。全く聞いたことのない名前のそれを胸に刻んで。

 

 その日を境に少女の世界から生きる喜びは消えた。

 

 

 少女は調べた。来る日も来る日も調べた。武器商人のコネを使い日本のブローカーにコンタクトを取りオールマイトや両親の捕まった事件に関与した全てのヒーローの名前を調べきる。

 

 親と食卓を囲うというありふれた願い、この紛争地帯という場所では叶っているだけでも幸せすぎたその環境。

 

 それをぶち壊した者がいる。ましてやそれがヒーローなんかを名乗っている。

 

 己の敵は殺す。

 

 それは少女の行動理念であり、変えるつもりはサラサラない。

 

 だが、オールマイトは調べれば調べるほど少女が、ときに戦い、ときに商品を売りつけてきた存在とは別格に強いということを突きつけられる。

 

 それどころか少女の商売相手すらいくつか彼に潰された者がいた。

 

 今までの稼ぎ全てを全て武器に変え、御札に変え、ブローカーを名乗る男を頼りに同志を探すべく、日本へとやってきた。

 

「こんにちわ! 青髪の美しいお嬢さん!」

「……あなたが夜原さんで間違いありませんか?」

「うん、そうだね!」

「武器商人を営んでおります。名前は紫綿場紫吹」

「うん! 義蘭さんから聞いてるよ! 一緒にヒーロー皆ぶっ飛ばそう!」

 

 

「思ったよりやられましたね……」

 

 場所は空中、スナッチの拘束から逃れた少女は束の間の休息をとっていた。

 余裕を取り繕ってはいたが全身を圧迫されることにより呼吸すら危うかったのだ。肋骨だってかなり折れている。動き回るのはもう無理だろう。

 それでも顔色を変えなかったのは商人の意地だ。

 

「それに武器も大部分失ってしまいましたし私はここまでですかね」

 

 現在、目立つように空を移動している彼女は特に目的がなかった。勿論ヒーローを見かけたら上空から嫌がらせのように射撃しているが。

 

 たくさんのヒーローが宙に浮かぶ絨毯を見つけ、追いかけてくる。時には撃墜せんと砲撃のような個性を使ってくるものまでいた。

 一枚、一枚、とほんの少しずつだが剥がされていく鉄壁の御札絨毯。だがその中でも少女は笑っていた。

 

「あとは頼みましたよ。オウタカさん。私の役目はもう十分でしょう?」

 

 無線はすでに壊れていた。けれど独り言を呟く。

 

 少女は紙の絨毯の上で横になり体を楽にする。

 

 誰かに負けたときの自分の役割は『目立つこと』。それは取引ではなかったがオウタカとともにオールマイトを倒すことを決めたときから決意していたこと。

 

 

 

 

 

 

 

 時折殺さないこともあったがそれは気に入っただけだ。気に入ったヒーローは本物だろうから殺さなくていいとオウタカに言われていた。あの服を操るヒーローはかっこよかった。個人的には一番好きですね。

 

 しかし、日本に来てからもたくさん殺したものです。

 

 今日だってたくさんのヒーローを殺したし民間人も殺しました。先程のスナッチも刀に仕込んだ毒で数日後には死ぬでしょう。

 

 そのどれにも全く後悔はないし、良心だって傷まない。

 オウタカたちはヒーローに恨みがあるようだけれど自分にはない。

 

 全て、オールマイトを殺すため。オウタカと彼との戦いに水を指すものを消すため。それだけのためにたくさん殺した。

 

 

 もう支払い分は働いたはずですから休んでいいですかね。

 

 

 父様、母様、仇取れなくてごめんなさい。また一緒にご飯食べたかったです。それだけ。それを壊したオールマイトは許せなかった。本当にただそれだけ。

 

 

 意識が朦朧とする。その中で私は最後につぶやく。

 

 

「皆さん、応援してますよ」

 

 

 刹那、視界は巨大な手に覆われた。

どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)

  • オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
  • オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし
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