ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
想像してもらいたい。
一、目の前に一匹の虫が飛んでいる。
ニ、それは倒さねばならない存在である。
三、あなたはその対象が苦手ではない。
この条件が揃ったとき、あなたはどう行動するか?
少なくとも今日、この場で出た答えはーーマウントレディが目の前に浮かぶ紙の絨毯を見てとった行動はシンプルなものであった。
すなわち、はたき落とす。
長さがゆうに5メートルを超える腕の遠心力を使い、大質量を伴ったその攻撃は加減しなければ容易く人の命を奪うだろう。
もちろん、彼女はヒーロー。もし敵であったならば甚大な被害が出ていたであろうがヒーローとして生きる彼女は学生時代から手加減を学び続けてきた。
その究極の手加減の一撃を、空で朦朧と浮かぶ敵、紫綿場紫吹に対して叩きつける。
だが手加減されたからと言って攻撃された彼女が無事ですむというわけではない。
鼓膜は手から放たれた衝撃波で破れ全身の感覚という感覚を奪われる少女。
当然個性の制御、紙の操作など続けることができるはずがなくそのまま地上へと落下していくことになる。
「おっとと、危ない危ない」
地面に激突させる前に、マウントレディの両腕が少女を包む。四肢が欠損し随分と軽くなったその少女を彼女は悲しそうな目で見つめる。
「ごめんね。事情はたくさん調べて知ってるわ。でもね、やっちゃいけないことはあるのよ……」
誰に向かって言った言葉なのかは明白であった。しかし、その相手はすでに意識を失い聞く耳を持てない。
こうして、ヒーロー殺しの一人、紫綿場紫吹は捕獲され、戦場を去ることとなる。
○
「す、すごい……」
紫吹を追いかけていた学生2名。轟と緑谷はその光景を最も間近で見ていた。空という彼らでは攻撃しにくい場所を陣取っていた相手に対して一瞬で勝負を決めるその手際に緑谷の口から自然と称賛が溢れる。
「マウントレディの個性……大きさの調整はできなくてもあれだけの質量と速度を伴った攻撃なら並の敵じゃあ対処できないぞ……もしかしたら僕よりもパワーがあったりするのかな……」
「おい、緑谷、どうする」
あちらの世界へ行きかけた友達を轟は呼び戻す。声につられて緑谷ははっとする。
「あ、ごめん! そうだね……遅くなったけど僕たちもみんなの跡を追い掛けよう」
テレビ局へ向かった一年A組のメンバー。その彼らに追いつこうと提案する緑谷だったが
「うーん、ちょっと困るじゃん?もうちょっとここにいてほしいじゃん?」
それを引き止める声があった。
音の発生源は緑谷たちのすぐ真上。そこに一匹の蝙蝠が飛んでいた。
「血水……鬼子……」
「覚えててくれて嬉しいじゃん? オールマイトにはまだまだ一人で戦っててもらわないといけないじゃーん?」
ヒーロー殺しの一人、血水鬼子の個性の一端。使い魔の蝙蝠。
すぐさま行動したのは轟だ。緑谷の反応から敵であると判断した彼はすぐさま炎の攻撃を仕掛ける。(真上にいるため氷は出しても支えることができない)
だが、蝙蝠はサラリとそれを交わすとさらに緑谷たちに近づいてくる。
「いやぁ、ちょっと想定外じゃーん? 紫吹ちゃんもう少し粘れるかと思ってたんだけどねー」
「あなたたちは……本当に何がしたいんですか!」
「緑谷、よせ。時間稼ぎだ」
すぐにでもクラスメイトのもとへ行くべきと考える轟。理由はない。しかし彼の本能が目の前の女は普通でないと告げる。
「あはははは。ちょっとくらいいーじゃん? まだオールマイトには疲れてもらってないんだしー」
「オールマイトを……疲れ……? まさか!」
それだけで緑谷は相手の作戦を理解する。すでに時刻は夜の10時。会見が始まった直後から戦闘していたとしたらもう変身できる時間は2時間を切っている。他で活動していたら更に短くなっていることだろう。
そして制限時間が切れれば……、オールマイトは終わりだろう。プロのヒーローですら殺してきたヒーロー殺し。マッスルモードならまだしもトゥルーモードの状態で勝てるはずがない。
しかしそんな事情をしらない轟。尋常な事態でないことだけは緑谷の反応から理解する。
「やっぱり急いだほうがいいんじゃないのか。お前が何を知ってるか知らないがヤバそうなことはわかる」
「う、うん……速く行かないと……」
「だから、ダーメ」
蝙蝠が集まり、徐々に少女の姿をとる。めができ、口ができ、腕ができ皮膚ができ、足ができ腸ができ、
その完成を待たずに轟の炎が炸裂した。
「うわ……」
「……なにか悪いことしたか……?」
容赦のなさに少し緑谷は引きながらも轟の判断は間違っていないだろうと考える。先程の蝙蝠より大きくなったということは彼にとって的がでかくなったことと変わらない。
それに彼だってヒーロー。ちゃんと火力の調整だってしているのだろう。
元に近くにいた緑谷にはほとんど熱風が来ていない。
そう思って血水がいた場所を見ると灰しか残っていなかったが……。
「あ……」
轟が不味そうな声を出す。だが、緑谷は知っている。彼女は全身をバラバラにされながらもオールマイトと緑谷のコンビをあしらった人物。外部からの攻撃には脆くてもすぐに復活すると考えるのは簡単だ。
が、いつになっても灰は動かず気まずい空気だけがその場に残された。
「行くか……」
「い、行こうか……」
何も見なかったことにする緑谷たちだった。
○
そんな事故があった一方で、緑谷たちのクラスメイトは3つに分かれていた。
一つは切島を回収してから放送局へと向かうグループ。メンバーは青山、障子、芦戸。
一つは砂藤を回収してから放送局へと向かうグループ。上鳴、口田、瀬呂、麗日、耳郎。
そしてもう一つは紫吹と戦った場所から直接放送局へと向かうグループ。飯田、尾白、常闇、峰田、葉隠。
ちなみにここにいないのは怪我で招集がかからなかった爆豪、クラスメイトの行動に反対した蛙吹、マスキュラーに吹き飛ばされた切島と砂藤、紫綿場を追いかけた緑谷と轟、グラントリノを学校へと届けに行った八百万である。
戦闘が終わってからすでに数分経とうとしているがしかし残念。未だに放送局へとたどり着いたグループはない。
なぜか。当然邪魔が入ったからだ。
では誰の邪魔なのか。
「困るジャーン」
「いいじゃん? こっち来るじゃん?」
「みんな、友達を見捨てたりしないじゃん?」
どのグループにも蝙蝠が空から飛び降り、最低1名が首筋を噛まれ、そして敵の手に落ちたからだった。
「なんか一匹やられちゃったみたいだけど私達はまだまだいるジャーン」じゃーん」じゃーん!」
○
「十一人目」
カウントと同時に一人のヒーローの首が胴から離れる。
犯人はもちろんこの騒動の主犯、ヒーロー殺し夜原鶯鷹。すでに紫吹が倒れた連絡はコウモリを伝い伝わっていた。
その苛立ちをぶつけるかのように目の前に立ち塞がるヒーローを殺していくのであった。
「十ニ……」
「随分と好き勝手しているようですね。ユーモアの欠片もない」
ガキン、と刀が弾かれる。十二人目に選ばれそうになったヒーローは腰を抜かしながらも後退していく。
「た、助かった!」
「いえお構いなく。ここは私が足止めしますので他の方へ応援を」
オウタカの目にも止まらぬはずの斬撃。それを弾いたのは一人の背広を着た男。
「あなたもヒーロー?」
オウタカの歩みが止まる。
「ええ、ヒーローです。そしてあなたの望みを叶えさせるわけには行かない」
左手に押印の補助アイテムを持ち。右手は何にでも対処できるように自然体。
オールマイトの元サイドキック。サーナイトアイが放送局までの道を塞いでいた。
「あっそ」
喋らせる時間をオウタカは彼に与えない。
彼女は今回の騒動を引き起こすにあたって戦闘に特化した敵(ヒーロー)の個性はすべて把握しているつもりだ。故に考えた可能性は2つ。
一つは個性が戦闘系でないもの。オウタカと同じように地力を主力とするものだ。
もう一つはヒーローでないもの。敵であるならば個性を把握していなくても不思議ではない。
だが、どちらにせよオウタカが取る行動は変わらない。常人では体の動きすら追うことのできない足さばきで背広の男に近づくと神速に迫る刀が男の首に迫る。
「!?」
だが振りかぶった刀はかわされた。男の首は未だにつながっており口から言葉が紡がれる。
「なるほど……ミリオが目で追えなかったという話から不思議に思っていましたが……やはり単純に早かっただけのようだ」
返す刀が、今度は男の胴を袈裟斬りにせんと迫る。
が、やはりかわされる。
「おじさん……なに……?」
警戒心を上げるオウタカ。二度の刀による斬撃をかわしたにも関わらず目の前の男は一歩しか動いていない。
「なに、少々近接戦闘が得意なだけです。予測を立てて先手を打つ。このように」
瞬間、オウタカは悪寒を感じる。その正体を突き止めると弾かれるようにして後退する。
直後、先程まで立っていた地面に押印が深々と突き刺さる。
「速さも力もオールマイトのほうが上。なら残りはあなたの技を見抜ける目があれば、彼のサイドキックだった私に勝てない道理はない」
「ああ、そっか、オジサン、オールマイトの元相棒さんか。思い出したよ」
「知ってくれていたようで嬉しい。ところで、いつまでそこに立っているおつもりで?」
不思議な問いかけをしてくるサーナイトアイだったがオウタカはそれに反応することはできなかった。
その問いかけと同時にオウタカの頭には押印が直撃したからだ。
「かっ……なんで……」
倒れることこそなかったが今までヒーローと交戦してきた中で唯一、初めてオウタカがまともに攻撃を食らった瞬間だった。
「個性とでも考えていそうですが」
男が一歩踏み出す。オウタカはぐらつく視界の中でその姿をなんとか捉える。
「残念ながら私の個性は一日に一回しか使えないもの。しかし個性を使わなくとも相手の行動を読み、誘導し、先手を打てばこの程度容易いという話。無個性でも戦えるというのはあなた自身が証明してきたことでしょう。今更そんなことで驚くことではないはずです」
「ははは……なるほど。同類か」
オウタカが刀を構える。この戦場で無造作に刀を振るうだけだった彼女が初めて構えたのであった。
「あなたが他のヒーローと違うのはよくわかった。その実力見せてもらう」
「敵が何を言うのかと思えば……!?」
目の前にいた少女が消えた。油断していたわけではない。オールマイトの元サイドキックである彼はそんなこと絶対にしない。
純粋に速さが増しただけだ。
(まだ追える……後ろ、そして右に重心移動……)
加速したオウタカが移動したのはサーナイトアイの予測どおり彼の背後。その斬撃を気配と、長年の経験だけで躱す彼にオウタカは舌を巻く。
「うーん、”蜂鳥"でもだめだったか。ルミリオンはこれでもいけたんだけどなぁ」
「なるほど……型に当てはめた技ならば普段以上の速度を出せるというわけですか」
構えの姿勢から敵の真横へ突進。すれ違いざまに相手の足を切り裂く。オウタカが今やったのは、そしてルミリオンに対してやったのはそういう技だ。
人間、自分に直進するものに対する警戒はかなり高い。が、自分に直撃しないものに対する攻撃は前者に比べると著しく下がる。オウタカのさっきまでの無造作な攻撃とは違いそういうものを利用した一撃だ。
足に、わずかに滲む血を感じながらサーナイトアイは冷や汗をかく。
推測が正しければ彼女の素の攻撃はサーナイトアイにとって脅威ではない。なぜならばそれよりもより早く、より力の乗った攻撃を間近で見続けてきたから。
しかし、今の攻撃は完全に一瞬見失った。恐らく実力のあるヒーローと対峙するときだけに使用する切り札。
それがあと何枚あるかわからない中サーナイトアイは手に押印を握りしめる。結局彼にできることは変わらない。
「いいでしょう。どちらにせよオールマイトには手を出させない」
「あははは、やってみなよヒーロー。私は彼を殺す。ヒーローの社会を終わらせるんだ」
とりあえずしばらくはクラスメイトの行動書きたいです
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
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オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
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オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし