ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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路地裏のヒーロー殺し 三

「あははは! 皆いい個性持ってるじゃない!!」

 

 太刀でダークシャドウの攻撃を防ぎ、酸は障害物の影に隠れてかわしていく追手の少女。その速度は全く落ちていない。

 幸い追いかけてくるのは黒髪の少女だけだがそれは事態の好転にはつながらない。

 

「くっ、このままでは追いつかれるぞ緑谷! 我では止めきれぬ!」

 

 常闇の焦る声。当然だ。

 

 なにせ路地裏というダークシャドウの(制御できるという意味でも)絶好の薄暗さだというのに全く歯が立っていないのだ。

 

「大丈夫! もう少ししたら路地から出る! そうすれば流石に追ってこないはず……?!」

 

 突然緑谷の足が絡まる。彼に背負われていたプロヒーロー、ガンダマンは当然前方に投げ出された。

 

「緑谷くん! 大丈夫かい☆」

 

 青山に差し出された手をとりつつ再び走ろうとする緑谷。だがまたすぐに転んでしまう。

 

「な、なんで……」

 

 焦る緑谷。ワンフォーオールの制御を間違えたのかとも考えたがそんな様子は見られない。

 

「敵の個性……」

 

 考えた末、思い当たる節はそれしかない。だが気づいたからと言って敵がすでに目の前に迫っていることは変わらない。

 

「一人目!」

「させるかよ!」

 

 少女の太刀が緑谷を襲う。だがそれは切島の硬化によって受け止められ、

 

「いくよ☆」

 

 間髪入れずに青山がレーザーを少女の体に打ち込んだことによって不発に終わる。

 

 ほぼゼロ距離によるレーザーの攻撃。まばゆい光が緑谷の視界を包みこんだ。

 

「切島くん! 青山くん! ありがとう!」

「ふん、この程度なら……ってえええ砕けてやがる!」

 

 硬化した皮膚ごと叩き割られていた切島は少し痛そうにする。

 

「大丈夫さ☆! だけど油断しちゃいけない。敵さんも避けてる!」

 

 レーザーによる閃光が消え、緑谷たちは見た。青山の言うとおり、少女が頭を地面につくほどに上体を反らしてかわしているのを。

 バネのように体を跳ね上げ刀を握り直す少女。

 

「ざーんねん。それじゃあまだまだやられないよ」

 

 緑谷は投げ出されてしまったガンダマンの体を背負い直し逃げようとする。

 

「同じこと!」

 

 少女の声が響く。振り下ろされる太刀が狙うのは緑谷の背中の怪我人ガンダマン。

 デクが全力で走るが完全に射程内だ。

 

 

(やられる!?)

 

 常闇のダークシャドウも、芦戸の酸も、そして青山のゼロ距離レーザーでさえも対応してしまう少女を前にして、緑谷がそう思ったときだった。

 

「やらせん!」

 

 少女の太刀が止められる。受け止めたのは白い捕縛布。

 

 そしてそれだけでは終わらない。直線に伸びるいくつもの白線が少女を捉えんと襲いかかる。

 

「なにこれ!?」

 

 いきなりの未知の攻撃に少女は思わず後ずさる。

 当たり前のようにこれもかわしてしまう少女だったが今はそれで十分だった。

 

「あ、相澤先生!? なぜここに?」

 

 来てくれたのは緑谷たちの担任相澤。プロヒーローイレイザーヘッド。

 

「青山が上空へ飛ばしたレーザーを見て駆けつけた。すぐに応援のヒーローも来る。おい、そこの(ヴィラン)。お前が……違うな。お前たちがヒーロー殺しか?」

「えっ?」

 

 その問いに驚いたのは緑谷。ヒーロー殺し。その単語はスルーすることはできないほど彼にとって重要なものだ。

 

 ステインという、己の掲げた正義に見合わないヒーローを粛清し続けた敵が頭によぎる。その男と目の前にいる少女になにか関係があるのだろうか。

 

 それに、緑谷たちはこの少女だけではなく白髪の少女も確認しているが相澤は確認していない。にもかかわらずその存在を知っているように思えた。

 

「ヒーロー殺し……そういえば昨日殺したヒーローさんもそんなこと言ってきたなぁ。私達有名? ねえ、そうなの? あはははは。やったね、スイ」

 

 足を止めたからだろう。ゆっくりと歩いてきたもう一人の少女も姿を現す。

 

「ウタカお姉ちゃん……有名になってもいいことないって……」

 

 路地の奥から現れた二人目の少女。だがその反応に相澤は確信する。

 

「わかった、もう喋るな」

 

 言いながら少女たちからは見えないように背中越しで緑谷たちに手でサインを送る。『お前たちは先に逃げろ』と。

 それを受けヒーローの卵たちは走り出す。一刻も早くけが人を助けるべく。

 

 同時に相澤は個性を消す個性を使用したまま二人の少女に攻撃を仕掛ける。大人と子供という体格差もある。個性を消し、太刀に気をつければ勝てると踏んだのだ。

 

 その動きを受け、少女が武器を構え直す。包帯が絡みつくように襲いかかってくるが前衛の少女はむしろ前進することでかいくぐる。

 

 そして、太刀を投げた。

 

「?!」

 

 接近している最中に不意に投げられた太刀。かなりの速度で飛んてくるそれを、至近距離であるにもかかわらず相澤は体にブレーキをかけ体をひねることでぎりぎり回避する。

 

 そして相澤が再度姿勢を立て直す前に少女は後ろに反転。路地の奥へと消えていく。

 

「ごめんなさいね! あなたは目標じゃないんだ!」

「逃がすか!」

 

 凄まじい速度で踵を返していく少女に驚きながらも路地奥まで追いかけていく相澤であった。

 

 

「誰か! 誰かいませんか!!」

 

 緑谷達が路地から抜け大通りにたどり着く。相澤が連絡してくれていたのかすでに警察も多数控えており叫んだ緑谷たちに駆け寄ってくれる。

 

「大丈夫か! 君たち!」

 

 警察官の一人が少年たちの容態を心配する。が緑谷はそれどころではない。

 

「僕たちは大丈夫です! でもこの背中の人が……!?」

 

 緑谷は背負われているプロヒーローガンダマンを警察へ渡そうとする。だがその動きが止まった。

 不審に思った他の5人の友人たちも緑谷へ視線を向け、そして凍りつく。

 

 ガンダマンの背中には、少女が持っていた太刀が突き刺さっていた。部位は心臓。緑谷が無事なようなので貫通はしていないのだろうが……間違いなく即死だ。

 

「うそ……ですわよね……」

 

 目の前の状況が理解できない八百万。だがそれは他のメンバーも同じ。唐突な現実についていけた者はいない。

 

「えっと……どういう状況なのかな?」

 

 警察の質問に緑谷たち戸惑うしかなかった。

 

 

「にげろ〜!」

「お、ねえちゃん……おぶって……」

「もう! かわいいやつめ!」

 

 相澤の前で繰り広げられる少女たちの会話。ほのぼのとしているようだが実際は違う。姉と呼ばれた少女がもう一人の少女を抱えると速度が一気に上がる。

 

 己の体を軸に戦うイレイザーヘッドが全く追いつけないほどに、だ。

 

「くっ……まてっ……」

 

 包帯をいくつ伸ばしてもまるで後ろに目がついてるかのように前を向いたままかわしていく少女。少女とはいえ人一人を抱えているとは思えない身軽さを発揮しながら路地の奥へと進んでいく。

 

「スイちゃん、もうそろそろ大丈夫?」

「うん、いけるよ」

 

 その声に相澤の本能が警鐘を鳴らす。とっさに視界をクリアにし、二人の少女の個性を消す。

 

「あれ……? お姉ちゃん、効かないよ?」

「マジ?」

 

 初めて慌てたような声が少女たちから漏れた。それを心の隙と捉え、一気に相澤は勝負を仕掛け

 

 

「なら私がやらなきゃだね!」

「なっ?!」

 

 

 太刀を持っていた少女がいつの間にか目の前に立ち、

 

 

 反応する間もなく少女の細い手が相澤の腹を貫いた。

 

 

「ぐっ……個性は消したはず……だ……」

 

 瞬間移動としか思えないその動きに相澤はぼやく。だが、少女が手を抜いた拍子に体のバランスを失い崩れ落ちる。

 

「大丈夫、あなたは今回の目標じゃないから。殺さないよ。だからこのままじっとしててね。あは」

 

 力なく倒れる相澤をかわし、少女は踵を返す。

 

「それじゃあなんでか個性が効かないヒーローさん! またね!」

「なんでそんなに仲良い感じに……」

 

 最後まで漫才のような会話をしながら二人の少女は路地裏の闇へと姿を消す。

 

 相澤は混乱しながらも生徒たちの無事を祈りながらゆっくりと意識を失っていった。

 

 

 

『速報です。本日の夕方、傷害事件がありました。一人が重体、一人が死亡した模様で犯人は依然逃走中です。なお死亡したのはプロヒーローのガンダマンとのことで……  雄英高校の生徒が巻き込まれたと言う情報も入っており……   近所の方は……  』

 

 

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