ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
「おい、どうしてお前らが全員……でもないな、ここにいる」
怒声が響き渡る。場所は放送局の入り口。避難民を誘導してきた相澤から信じられないほどの怒りがこみ上げる。
当たり前だ。まだ仮免試験は実施されておらず、当然それを持たないものがヒーロー活動を行うことなど許されない。場合によっては公務執行妨害すらあり得る。
しかしそれを、目の前の大バカ者たちは、彼の教え子たちはやっていた。
「おい、委員長、何か言い訳はあるか」
指名を受けたのは飯田。突然の担任教師との遭遇に、いや、その怒り具合を前にして彼は口を開くことができなかった。
「これを先導したのはどいつだ? さすがに停学じゃすまないってわかってるよな。誘ったやつも、のったやつも」
「僕です!」
だがそんな相澤を前にしても、緑谷は踏み出すことができた。
麗日の励まし故か、それともあることを知っていることからの正当性ゆえか。
「ほう、いい度胸だ。だがそれで減刑するほど俺は甘くねえ。お前は除……」
「制限時間……まずいですよね……」
緑谷が、後ろに控えているクラスメイト達に聞こえないよう、小さな声で相澤に告げる。その瞬間相澤の表情は劇的に変わる。
「っ?! お前……なぜそれを……」
怒り一色だった顔が驚きに染まる。
制限時間、それを聞いてぴんと来ない雄英高校の教師はいない。
それが指し示すのは当然オールマイトの活動可能時間。
だがもちろんそれは極秘の極秘。外部へはもちろん生徒たちに対してすら漏らすことは許されないほど教師たちには厳しい箝口令が敷かれている。
いくら緑谷がオールマイトのひいきを受けているとはいえそれでも知っていては不味い情報だ。
「すいません……なぜ知っているのかは言えません。けれど……オールマイトがピンチに陥っていると知って黙っているわけにはいきません」
「お前、それは後ろのやつらにもいったのか」
「いえ、言ってません。それでも皆、僕を信じてついてきてくれました」
「はぁぁ……」
イラつきながら相澤は目の前の彼らに何を言うべきか迷う。
オールマイトの制限時間が少ないのはもう間違いないだろう。相澤自身オウタカとは交戦したことがありその戦闘力の高さは知っている。三時間あったとしてもその通りには保たないだろう。
しかし、ここで彼らに参戦させるのは論外だ。彼から見ても危険な敵に、未熟な生徒たちをぶつけることなど決して許されることではない。
「ちっ、わかった。お前がなんでその情報を知っているのかは今は追及しない。だがここはもはや戦場だ。お前たちにはまだ荷が重すぎる。当たり前だが戦闘への参加は禁止。今からこの人たちの避難を行うから一緒に連れていかれろ」
「先生!」
食い下がろうとする緑谷。だが相澤は聞く耳を持たない。クラスメイト達も流石に担任の除籍という脅しを前にして食って掛かることはしにくい。
「僕だけなんです……僕だけが……彼女の苦しみを」
「お前、いい加減にしろよ。新手のストーカーだったのか? だいたい他者の苦しみなんぞ簡単に分かるなんて言うな。個性を持つお前と持たない彼女。いくらお前の個性発現が遅かったからと言って理解できるはずがないだろ」
「で、でも……」
諦め悪く緑谷が口を開こうとし、説得では時間がかかりすぎると判断した相澤が捕縛布を持ち出す。
そんな時だった。
ビルの上階で爆発が起こったのは。炎などはない。だがその光景を彼らは見慣れてる。
「あ、あれ。オールマイトの攻撃じゃないか!?」
「ひ、ひいい。だからおいらは嫌だって言ったじゃないか!」
言ってない(正確には言い出す機会がなかった)。
閑話休題。
爆発は間違いなくオールマイトのいつもの攻撃。だが問題は別のところにあった。
「総員! 個性を使って構わん! がれきから身を守れ!」
降り注ぐのはガラスとコンクリート。それもぱらぱらとしたものではない。数メートル単位の物体がばらばらと降り注いでくる。
ちょうど真上で爆発が起こったらしく対処するには個性を解禁するしかないと相澤は判断。
それさえすれば轟や瀬呂が対処できると予想して。
「! 了解です!」
そして期待通り、雄英高校のヒーロー科一年生たちは自分たちだけにとどまらず、周囲にいた人たちすらも守れるほどのシェルターを作り出す。
氷とそれを補強するための瀬呂のテープ。さらにレーザーの放出によるがれきの消滅や電撃による電磁誘導。
様々な手段でその場にいた人たちの安全は守られた。
「お、雄英高校の子供たちですか。流石ですねぇ」
のんきなプロヒーローの一人が相澤へと話しかける。だが相澤は睨んでそのヒーローを黙らせる。
ここでほめたりして冗長されてはいけない。この場において彼らは悪いことをやっているのだという自覚を持たせねばなら
「あっは。オールマイトの手土産になるかな」
落ちてきたのはがれきだけではなかった。
左腕をひしゃげさせながらも、逆の手で血のしたたる刀を振るうオウタカがそこにいた。
最初の犠牲者はもう敵から離れたと気を抜いていたプロヒーロー。
敵が個性に頼る存在だったなら相澤の『抹消』も有効だったかもしれない。
だがそこにあるのはオウタカの純粋な技量だけ。
片手で振るっているというのにその刃は目視できない速度で振るわれ、何の抵抗もなく、次々と人の首を落としていく。
「全員! 戦わずに逃げろ!」
そう叫び終わるよりも早くに、オウタカの刃は一年A組に襲い掛かった。
〇
「爆発です! オールマイトと、ヒーロー殺しの一撃が交わり、今周囲は混乱に陥っています! オールマイトは無事なのでしょうか! ヒーロー殺しは倒せたのでしょうか!」
爆発と、その結果起こっている煙のせいで上空にとどまっているヘリからは状況が判断突かない。
瓦礫を避けるべく離れるがカメラをズームして状況の把握に努めようとする。
「煙が……晴れます! 晴れました! 立っているのはオールマイトです!」
建物内、立っていたのは一人だった。流石にオールマイトと、ヒーロー殺しの少女とでは背格好が違いすぎる。見分けは簡単だ。
「しかし……ヒーロー殺しは一体どこに……」
壁に穴が開き、窓どころではないのぞき穴ができたことでカメラはヒーロー殺しの姿を探す。が、見つからない。
「いませんね……逃げたのでしょうか……? しかしそれならばオールマイトが追いかけるはずで……は! 皆さん! オールマイトの体が!」
オウタカは、左手を潰された。オールマイトの攻撃を食らってだ。
ではオールマイトは無傷ですんだのか?
そんなわけはない。
「切り裂かれています! オールマイトのお腹が! 肩からバッサリと!!」
「姐さん! 下だ! ヒーロー殺しはしたにいる!」
操縦桿を握っていた男が悲鳴のような声をあげる。カメラとレポーターが視線を向ければそこでは残虐な殺しが始まっていた。
一瞬映すかどうか迷う彼らだが、今起こっていることを報道することこそ自分たちの使命と考える。
当然もう自分たちは元の職へは就けないだろう。だがそれでもう伝えねばという使命感。
「非常に……非常に残虐な光景が……繰り広げられております……ああ! あれは! 子供! 子供がいます! 今まさに切られ……ひっ……」
その光景から思わず目を背けてしまうレポーター。
だがカメラのレンズはそのまま。
テレビを見ている人たちも次の瞬間には残酷なシーンを想像してしまい多くの人が目を逸らしただろう。
だが
「私が!! 来た!!」
〇
オウタカとオールマイトの激突した直後に時間を巻き戻す。
オウタカの左腕に一撃。デトロイトスマッシュという人ひとりに向けて放つのには過剰すぎる暴力を打ち込んだオールマイト。
だが、それはオウタカに対しての攻撃であり、自分の防御ではない。
相手の左腕を奪ったのと同時に、オールマイトは肩から臍にかけて彼女の技『鶯』を食らった。デトロイトスマッシュが当て、彼女を遠くへ吹き飛ばさなければもっと深い傷になったに違いない。
鶯とは名ばかりの、オールマイトを打倒し得る破壊力と貫通力をもったその一撃は通常の刀などでは傷つかないオールマイトの胴を容易く切り裂いた。
その出血ゆえか、それとも活動時間の限界ゆえか。
爆発の直後、オールマイトは動けなかった。動く気力すらなかった。
今の一撃で倒れていてほしい。これ以上の戦闘は自分には無理だ。
そんな弱気な心の声が彼の頭を埋め尽くす。
レポーターがオールマイトの雄姿を述べても全く反応することすらできない。
しかし、敵の倒れた姿を認めるまで自分が倒れるわけにはいかない。
改めて、煙がはれた周囲を見渡し。そして彼は凍り付いた。
目の前に見えるのは、建物を穿ってできたと思われる大きな穴。夜空が見え、そしてヘリの羽音すらよく聞こえるのだから。
そこまで状況を理解すれば、彼女がどこに行ったのか、否、どこに吹き飛ばしてしまったのかは簡単にわかることだった。
下だ。避難が住んでいるかもわからない地上に、あの敵を放流してしまったのだ。
自分の、すでに限界を迎え震え始めている膝に鞭をうち、オールマイトは穴から飛び出す。
もちろん自由落下などに身を任せはしない。
壁に、足をめり込ませながら全力で走る。
視界に移るのはオウタカが刀を振りかぶり、それを切島少年が個性の『硬化』を使い、みんなを守る盾となろうとしているところ。
しかし、オールマイトは知っている。
少女の振るう刀は、たとえ片手であろうと鉄や合金を容易く切り裂くことができるであろうことを。彼の硬化程度では生身と変わらない切れ味を披露してくれることだろう。
彼は走る。
ヒーローの死には仕方がない部分があると、彼自身、元相棒に死を予告された時から、いや、それ以前から考えることがある。
凶悪な敵。予期せぬ災害。何が彼らを殺すか分かったものではない。
しかしだ。
目の前で、まだヒーローですらない子供が、殺されようとしているのを見逃すわけにはいかない。
「ニューハンプシャースマアッシュ!」
あと何回、体を動かせるか、そんなことは考えない。
否、考えたところで無駄だ。
彼の本能が告げている。もう限界だと。
しかし、
「プラスウルトラああああ!」
限界は、超えるもの。
母校の、そして自分の芯となっている言葉を胸に、彼はなしえる。
ニューハンプシャースマッシュによる空中での超過速を成功させ、オールマイトは生徒たちの前に躍り出る。
「私が! 来た!」
凶刃が生徒たちに届くよりも早く、
オウタカの神速の斬撃よりも素早く、
彼はたどり着く。
市民を守るヒーローとして。
生徒を守る先生として。
弟子を守る師匠として。
「なに間に合ってんだあああああ」
オウタカの声は……恨みなのか。苛立ちなのか。
はたまた自分たちには手遅れであり続けた僻みなのか。
オウタカの刀はオールマイトに突き刺さる。
「ぐふっと……なるがこれでようやく捕まえた!!」
無事だった右手を、生徒を凶刃から守るべく迷いなく差し出すオールマイト。
片手で振るわれているとはいってもそれは容易くオールマイトの腕をきりさき、ぶちぶちという嫌な音が周囲に響く。
「な……」
だが、驚きの声の主はヒーロー殺しの少女だった。
刀が骨で止まる。
片腕で振るったせいで勢いが落ちていたからか。
オールマイトが予期せず乱入したからか、或いは残りの筋肉で抜けないようにしたのか。
はたまた別の要因があるのか。
正確な理由はわからない。
しかし、流れというものは止まらない。
骨にあたって止まった、ということは彼の左手を突き刺したのとは違い、すぐに抜けるものではないということだ。
そのことに彼女が気づいた時、すでにオールマイトはさらに動いている。
彼は、右手が裂けるのも構わずに腕ひねり、そのまま刀身を折った。
「こいつ……!!」
オウタカの左手に残っているのは、柄から十センチほどしか残っていない刀。
「オウタカ少女……もう降参するんだ!」
そんな勧告をオールマイトや、状況を見て取ったプロヒーローたちが告げるがそんなもの、この少女が、修羅となっている少女が止まるわけがない。
「いやだ! 嫌だ嫌だ嫌だ! どうして! どうして私たちが諦めなくちゃいけない!
おかしいのはあなた達だ!
自分たちが助けられる時しか動かない自分勝手なヒーローたちだ!
私の師匠が死んだのは誰のせいだ! お前が殺したんだろ! 人殺し!
私の弟妹が死んだのは誰のせいだ! ヒーローの怠慢だろ!」
刀はもういらない、とばかりに投げ捨てる。
新たな武器を持つわけではない。徒手空拳で彼女はオールマイトに挑もうとしている。
「私は……お前を殺す! この命が果てようと……みんなの無念を絶対に晴らす!」
だれも、近づけなかった。子供である緑谷たちだけではない。プロのヒーローたちですらも、彼女に呑まれていた
唯一の例外は、やはり彼だ。
「分かっている。君の師匠を殺したのは間違いなく私だ。君の弟、妹たちに対しても私は責任を取らねばならないかもしれない。だが、ここにいる彼らも、誰かにとっての、君の弟妹たちと同じ存在なんだ! そのことに気づくんだ!」
「ならなんで私の家族は死んだ! みんなの家族だけ生きてなんで私の家族だけ死ぬんだ!」
その怒りの声と同時に、彼女は飛び出した。この世のすべての動物よりも俊敏に彼女は動く。
構えはない。全速力でオールマイトに近づくことだけを目的にしている。
オールマイトも、すでに満身創痍。
左手は刀で貫かれ、右手も無理をしたせいでひどいことになっている。
度重なる刀傷で血も足りていない。
けれども、
「はぁあああああ!」
「うおおおおおお!」
彼女の突き出すのはシンプルな正拳突き。技も何もあったものではない。
だが恐らく、その拳は鋼であろうと、大地であろうと、そのことごとくを砕くだろう。
ゆえに防御は不可能。
そして、刀を捨て、身軽になった彼女の動きはもはやだれの目にも止まらない。映らない。
先ほどまで戦っていたオールマイトですらそれは例外ではない。
故に回避も不可能。
防御も回避も許さない、一撃必殺の攻撃。
だが、彼もまた諦めない。
どんな強大な攻撃が来ようと、彼女のことは己のすべてをかけてでも止めて見せるとたった今誓う。
体からシュウシュウと何かが抜けていくのを感じる。
(シット……ここでか……)
活動限界をついに彼は迎えてしまう。
体がしぼんでいく。
だがそれでも、己に残るワンフォーオールをかき集め、目の前の敵と相対する。
きっとそれは平和の象徴としての最後の力。
「オールマイト!」
この叫びは、緑谷少年のもの。
細かな言葉は不要だった。
彼はきっと、オールマイトに、もう活動可能な時間が残っていないことを知っているのだろう。USJの敵連合襲撃時と同じ煙を前に思わず叫んだのだ。
だが、彼がこの戦いのステージに来るのはまだ時期尚早であり、参加の権利すら与えられない。
故に、心配だけが声となって戦場を巡ったのだ。
だが
(ははは、全く、信用されていないなぁ)
「オ、オールマイト! その姿は……!」
周囲のプロヒーローの焦った声が聞こえる。
活動限界は一般のヒーローにも伝えられていない。すべてはみんなの平和を守るために。
筋肉は縮み、肉は削げ落ちる。
だがそれでも自虐気味に笑いながら彼は目の前の少女を救うべく動く。
(ヒーローは笑うんだ!)
「皆で……笑って暮らせる世の中にしたい! だから私はヒーローになった!」
自分の姿がテレビにさらされていることも気にはならない。
「目の前の! 少女一人救えずして何がヒーローか!」
やせ細った体。
だが、限界を超えろ!
ずたずたになった右腕。
刀で、伸筋のほとんどを切り裂かれたその腕はまともに動かすことはできない。
しかし、屈筋が残っていればぐっと握り、拳を作ることができる。
「はああああああああああ!」
「うおおおぉおおぉおお!」
直後、拳と拳が激突する。
ゴキュリという嫌な音が響く。
オウタカの拳は、突き出した右手は砕けていた。
それはもちろん。オールマイトの拳も同じ。
だがまだ終わらない!
「まだ、だあああああ」
彼女は無事な足でオールマイトの首を折りに行く。
しかし、すべての四肢が動くならば拳を振るった直後は、足よりも手の方が速い。
「否! これでおしまいだ! オウタカ少女!」
刀で貫かれていた左腕に更なる限界を超えてこぶしを握る。
先程まで枯れ枝のようだったその腕に稲妻が走り抜ける。
「ユナイテッド!!」
刀で貫かれた拳を再び握るはずがない、と考えていたであろうオウタカは驚いたように防御の姿勢を取るがもう遅い。
足技を繰り出そうとして不安定になっていたのも回避困難につながっているだろう。
「ステイツオブ!!!」
ワンフォーオールの残り火すべてを費やして、オールマイトは拳を振るう。
今までの攻撃のどれよりも速く、重く、そして愛のこもった一撃を。
少女を救わんとするその拳を。
「オ、オオオルマイトオオオォ!!!!」
「スマアアアッシュ!!!!」
少女の腹に、オールマイトの最後の技が炸裂した。
無個性を圧倒的強個性で叩きのめすど畜生
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
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オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
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オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし