ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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今日は三話投降しているのでお間違えの無いよう……お気を付けください……


ヒーロー殺しの少女

 その一撃は、確実に、少女の体の芯をとらえていた。

 

 彼女は衝撃を逃がすすべをいくつか持っていたがそのどれもが焼け石に水でしかなく、大きすぎるその力を前にはもう無力だった。

 

 すでに両腕は潰されておりまともに拳も握れない。

 

 内臓のほうも危険だ。先ほどの一撃はもろに腹部に直撃した。いくつかつぶれていてもおかしくはない。

 

 結論、戦闘継続は不可能。

 

 これがオウタカの、吹き飛ばされた時の自己評価だった。

 

 

「あ……え……? 今何が起こったのでしょうか!? ヒーロー殺しが襲い掛かったと思ったら同時にオールマイトの体がしぼんで……? え、でも今立ってるのは拳を振り抜いたオールマイトで……? あれ、でもさっき握っていたのはみぎてのはずなのですが」

「姉さん! 今さそれじゃない! この状況を伝えるんだ!」

「え、ああ、そうでした! 皆さん! お聞きください!」

 

 

 オールマイトの勝利です!

 

 

 

 

「ひぃ……はぁ……」

「お疲れ様です! オールマイト……でよろしいのでしょうか」

 

 付近にいたプロヒーローが枯れ木のような体となった彼の体を支えに行く。

 

「ああ……これが今の私さ……もう今までのようなことはできないだろう……」

 

 肩を貸してもらってようやく動けるほどの衰弱ぶり。それほどオウタカとの闘いが厳しいものだったのかと勝手に納得するプロヒーローたち。

 

「相澤君、生徒たちは無事かね?」

「え、ええ。おかげさまで。今人数の確認を……。おい飯田。今日ここに来たのは何人だ!」

「えっと……蛙吹君と爆豪君が最初からいなくて……八百万君が学校へ向かったので17人かと」

「それじゃあ確認して全員いたらこの場で固まって待機だ。まだ捕まっていない敵もいる。一応俺たちプロヒーローが警護はするが気を抜くなよ」

「はい!」

 

 駆け足で生徒たちの方へと向かう飯田。それを見送って、相澤はオールマイトと話を再開しようとする。

 

「せ、先生! 大変です!」

 

 しかしそれは飯田の焦った声に遮られることとなった。

 

「どうした。また何か」

「緑谷君がいません!」

「は?」

「なんだって!?」

 

 オールマイトも相澤も驚きを口にする。

 ついさっきまでここにいたはずの少年。この短時間にどこに行こうというのか。

 

 いや、決まっている。一つしかない。

 

 

「オールマイト! ここは任せます!」

「相澤君! 彼がどこに行ったのか分かるのかね!」

「一か所しかありません! あなたが吹き飛ばしたヒーロー殺しの場所です!」

 

 

 

 

 緑谷少年の足は勝手に動いていた。

 

 オールマイトとオウタカの最後の殴り合い。それを彼はクラスメイトの中で最も近い位置で見ていた。

 

 己の悩みと同じものをかかえた少女。しかしそれでも無個性である悲しみに落ち続けることなく、己の体と技術のみでオールマイトとぶつかり合ったヒーロー殺し。

 

 相澤にはきつく言われたが、それでも彼女と話したい、という欲求が少年にはあった。

 

 別に、言うべきことが決まっていたわけでもない。

 

 

「あの……おうたかさん……大丈夫……?」

「これが……大丈夫に見え……るの……?」

 

 だから第一声もおかしなところから始まってしまう。緑谷自身、ワンフォーオールにより多く傷ついてきた。普通の人が見ないような複雑骨折や粉砕骨折もだ。

 

 ゆえに、目の前の少女が、それと同レベルの負傷をしていることに気づいてしまう。

 

「う……ごめんなさい……」

「何か……用かな? 私はもう……君に対しての興味はないんだけど……なんであれだけ言ったのに大丈夫そうなのかな」

「う、うん……励ましてもらったんだ……」

 

 無防備に、少年は近づいていく。相沢がいたならば奇襲を警戒して絶対に近づかせないが今この場にはいない。

 

 だが、オウタカの手の届く範囲に来ても彼女は攻撃しようとはしなかった。

 限界が近いのは間違いがないのだろう。

 

「おうたかさん……どうして……こんなになるまで戦ったの?」

 

 今も苦しそうにはしながらも全くそれを声に出さない彼女を見て、緑谷が思うのは疑問だった。

 いくらオウタカが自分より年上であるとしても決して大人と言っていい年代ではない。

 ほんの数年、先に生まれただけの彼女が、どうしてここまで傷だらけになっても立ち続けるのかがわからなかった。

 それもヒーローに対して。

 

「君も……目の前で人が困っていても……。自分じゃない誰かが助けてくれると考える口か?」

「そ、そんなことない!」

「ならそれと一緒だよ……。目の前に許せない敵がいた。他者に任せるんじゃなく自分が倒そう……それが私の、私たちの目的だった。失敗だったけどね」

「オールマイトはヒーローだ……。敵なんかじゃない」

「はっ。世間に嘘ついて、虚像な平和の象徴でしょ? それに彼のせいでこの超人社会は……ヒーロー社会はますます歪んでるんだよ」

 

 そこで「あー、もしかして」とオウタカは言葉を続ける。

 

「そうだよね、まだ聞いてないもんね。私の師匠を殺したのはオールマイトだよ。さっき本人の口から確認した」

「?! そんなことあるはずがない!」

 

 恐らく、プロヒーローを除いた日本のオールマイトファンの中で、もっともオールマイトの動向を把握しているのは緑谷少年だろう。

 

 そしてそのことは情報収集の途中にすでに把握している。そしてだからこそ、この反応はオウタカにある確信をもたらす。

 

「君が知らないってことはやっぱりもみ消されてるんだねぇ……流石オールマイト……。汚いや」

「か、勝手なことを言わないでよ! オールマイトはそんな人じゃない!」

「そう言われても……私の師匠が殺されたのは間違いないし、ね」

 

 話は平行線である。緑谷はそんなことがあるはずがないとオールマイトを信じているし、オウタカもまた、そのオールマイトの口から真実であることを教えられているのだ。

 

「はぁ、君との話し合いは疲れる」

「だってオールマイトは……」

「あーはいはい、わかったわかった。こんな乙女に対して両腕と内臓潰すようなのがヒーローね。よくわかった」

「う……」

 

 そう言われると間違いなく事実である。両腕は緑谷と同じようになおるとしてもその傷跡もまた同じように残るだろう。

 もしかしたら、二度と拳が握れないほどの重症かもしれない。

 

 内臓もどこがおかしいのかは彼の眼ではわからないが彼女の言っていることが事実ならば大なり小なりの障害が残ることになる。

 

「で、でもそれは君が攻撃してきたんだ。自業自得じゃないか」

「ははは、もう落ち込んではくれないか」

 

 いままでならもうそろそろ墜ちてくれただろうな、と頭の中でオウタカは考える。

 

 頭にお花畑を裂かせているような友達にふわふわしたこと言われたんだろうな、とも

 

 妬ましいものを見る目でオウタカは緑谷の顔を見る。

 

 彼女の周囲にそんな、事情も知らずに言い切ってくれるような友達はいなかった。

 

「うらやましいよ君が。ほんとに恵まれて」

「ぼ、僕だって大変なことたくさんあ」

「家族の死体を見たことある?」

「う……」

 

「いつも遊んでた弟や妹の死体は? その犯人がのうのうとした顔でテレビに映る様は?」

「そんなの……」

「それがないだけで、君は本当に恵まれているよ」

 

 ふう、と一息つく少女。そして唐突に胸元に手を入れ始める。見るのも痛々しい右手で激痛を耐えながら。

 

「な、なにを」

 

 突然服を乱し始めた少女に緑谷は慌てる。オウタカが平均的よりもやや痩せている体格であっても突然そんな事態になれば慌てるのも当然だ。

 

「あ、よかったよかった。あれだけ激しく動いたから無くなってるかな、とは思ったんだよね」

 

 彼女が取り出したのは……一枚のお札。

 

 そしてそれが何か、緑谷は知っている。

 

 ヒーロー殺しの一人、紫綿場紫吹の個性『紙武器変換』によってできるお札だ。この戦いを始めた直後に、紫吹に頼んで譲り受けた一品。

 

 当然それは武器となる。

 

 とっさに緑谷が距離を取るが……それは悪手だった。

 

「これね、紫吹ちゃん以外でも合言葉を言ったら武器に戻ってくれるんだ。『自由はここに』、ね。こんな感じで」

 

 瞬間、お札が重さと大きさを無視して変形していく。出来上がる武器は普通のピストル。

 

 銃を持った相手に距離を取ってしまったことに、しまった、と思いながらもその射線から逃れるべく彼は物陰に身を隠す。

 

「そうだよね……そうだよね……わが身がかわいいよね……」

 

 その不穏な言葉に緑谷は考える。だが、周囲にはすでに人はいないため人質に取られることはない。

 

(なんだ……何を狙ってるんだ……狙いは僕じゃないのか? でも周囲にはもう人はいないし、民間人の人の避難は他のヒーローが終わらせているはず。それにそもそもあんなぼろぼろの腕では引き金を引くのに精いっぱいで狙いなんて付けることができるはずがないんだ……。それにどうしてこのタイミングで? 誰かを攻撃するならさっきの場所でオールマイトとの闘いに使えばよかったはず。銃ならだれをターゲットにするかで簡単にオールマイトを疲れさせることができるんだから。なら、なら、なら……)

 

 

 狙いは他人ではない?

 

 

 そこまで思考が及んだときに緑谷は物陰から飛び出す。

 

 だが距離がある。オウタカはすでに狙いを定めていた。引き金を引くのと、緑谷が彼女のもとにたどり着き邪魔をするのと、どちらかが速いのかは明白だった。

 

「ダメだ……ダメだそんなの! 許されない!」

「許すだの許さないだの、君は本当に偉そうなことを言うね」

 

 

 緑谷は間に合わなかった。

 

 

 引き金が、オウタカのぼろぼろの、辛うじて動く指によってひかれる。

 

 

 弾が発射される。

 

 

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 バン、と乾いた音がその場に響き渡る。

 

 ドサリと、少女の体が力なく地面に倒れる。

 

 彼は、間に合わなかった。




あ、まだ終わりませんよ(一応)
まだもう一章(と言ってもこの章ほどは長くないけれど)ありますのでお付き合いいただければ幸いです

どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)

  • オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
  • オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし
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