ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

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路地裏のヒーロー殺し 四

 時刻は日がすっかり傾いた六時。緑谷を含めた学生六名は全員がファミレスに集まっていた。

 

 警察と合流したのち彼らはバラバラの警察車両に乗せられ事情聴取を受けることになった。緑谷たちが知っているのは襲われていたヒーローを救出してからだったがそれでも相手の外見や言動を事細かく聞かれることとなる。

 

 そして解放されたのがついさっき。彼らの興奮は収まらずこうして一か所に集まったわけだ。

 しかし、興奮が収まらない、とは言っても彼らの雰囲気は最悪であった。

 

「ガンダマン……」

 

 口を開いたのは緑谷。しかしそれ以後言葉は続かない。彼らにとって目の前で人が死んだのは初めてであった。

 その上、緑谷に関しては背中の上での人の死だ。彼らにとって重すぎる現実だった。

 

 頼まれたメニューを持ってきたウェイトレスの口から「ひっ」という声が出てくるくらいの空気。

 

 しかし、黙っていても話が動かないと考え、八百万が切り出す。

 

「み、皆さん、とりあえず何か食べませんか?」

「あ、ああ、そうだな」

「我もいただこう……」

 

 一人、一人と箸やフォークに手を伸ばし、空腹を埋めるべく食事を開始する。

 

 しかし、緑谷だけは手を動かさず口を開いた。

 

「ねえ、あれって……ヒーロー殺しの模倣犯なのかな……相澤先生もそんなこと言ってたし……」

 

 彼らは現在事情を一切知らない。警察から行われたのはヒーローの卵としてではなく純粋に巻き込まれた一般人としての事情聴取だ。警察とヒーローが協力するときは情報交換も行われるが彼らには一切情報は開示されなかった。

 

「わかんねぇ……。けどあいつらの目、見たかよ。完全に狂ってやがった……」

 

 何度か襲い掛かってきた太刀を受け止め、結果至近距離で敵の少女たちを見続けた切島が一番恐怖を感じていたのであった。

 

 緑谷とはまた違う恐怖が切島の中でうごめいているのである。

 

 それをごまかすために、彼は食事の手を動かす。

 

「あれが初犯とは思えませんわ。ガンダマンと言えば武闘派に属するはずのヒーローですの。それがあっさりと四肢を切り落とされて……」

 

「それに僕たちが逃げたら物凄い勢いで追いかけてきたしね☆ やっぱりヒーロー殺しみたいに目的か信念があるんじゃないかな☆」

 

 こんな空気でもお構いなく自身のマイペースをばらまいていく青山。しかしその表情にはやはり、他のメンバーと同じく陰りが見える。

 

「ねえ、聞き返すようで悪いんだけどさ。緑谷はヒーロー殺しと関係あると思ってるの?」

 

 芦戸が緑谷に問う。

 

「うん……何か似てるところはあると思う。ステインは……自分の信念があった……らしいし。それに従って、ヒーローを襲ってた」

「やっぱ似てるんじゃねえか? 俺たちが逃げた時だって足止めした常闇や芦戸をスルーしてのは狙われたのはガンダマンだけだったしよ」

「でもさ、テレビでも全く触れられてないのもおかしくない? 今日の事件だって顔写真の公表もなかったし……まだ素性もわからないのかな?」

 

 話し合うヒーローの卵たち。だが、話したところで結論が出せるはずもない。

 

 段々と静かになっていくファミレスの一角。オールマイトでも来たら職務に反しない程度に情報ももらえるはずなのだが……彼もここには来ない。

 

 そんな時だった。

 

「ウタカお姉ちゃん、私これ食べたいな」

「おっけー、それじゃあ店員さん呼ぶね」

 

 全員の背筋に悪寒が走る。耳から聞こえてはいけない声が聞こえた気がする。

 

 首が動かない。見てはいけない。

 

 だが……

 

「あ、お姉ちゃん、あそこの人たち」

「おや、おやおやおや? お昼にお会いした皆様ではありませんかね?」

「夕方だよ……」

 

 見つかってしまった。

 

 席を立つ気配が6人に近づいてくる。

 

 軽い足音が近づいてくる。

 

 そして、声も近づいてくる。

 

「ねーえ、無視しないでほしいな、確か……そう、緑谷君」

 

 振り返ることができない緑谷の肩がそっと叩かれた。まるで友達の肩を叩くかのように。

 

「てめっ! 手ぇ離せ!」

 

 黒髪少女の手が緑谷の肩にかけられた瞬間、切島の恐怖という呪縛が解ける。

 友を助けるべく鋭い手刀が少女を狙う……が

 

「動くな」

 

 いつの間にか少女の手に握られていたナイフ。ファミレスの各机に置かれているもの。

 

 それが緑谷の首に添えられた。

 

「あ、電話とかそういうのもだめね。そのときはこの子がこの店内のお客さんを無差別に殺すよ」

 

 

 

 

「それでは改めまして、私はオウタカ。(ウグイス)(タカ)の字でそう読むんだ。あっちにいる子はスイ。字は……まあいいよね。それで、みんなの名前はなんていうのかな?」

「な、なんですの……このお方は……」

 

 八百万は圧倒されっぱなしである。

 

 初っ端から自己紹介してくる(ヴィラン)など彼らは出会ったことがない(勿論戦闘で名乗ることはあるがそれでもこんなふうに笑顔で話してこない)。

 

 オウタカ、と名乗った少女はすでに緑谷の首からナイフを離している。そしてそのテーブルにつく7人目として平然と食事を注文していた。

 

 持ち物は竹刀ケースとかんたんな肩掛けバックのみ。とても数時間前まで殺人を犯していた少女とは思えない。

 

 だが、二人組のもう一人の少女、スイと紹介された少女は未だに警戒して(当たり前である)オウタカたちが座っていたテーブルで一人ご飯を食べている。

 

「僕は……緑谷。緑谷出久。そしてこっちが……」

 

 判断に迷った緑谷だったがどうせ調べれば雄英高校の体育祭の情報でばれる。

 目配せして確認を取りながら全員の紹介を終える緑谷。当然教えたのは名前だけだ。

 

「うんうん、緑谷君に、常闇君に、青山君に切島君。そして女子ーズが八百万ちゃんに芦戸ちゃんだね! 覚えたよ!」

 

 殺人犯にそんなことを言われても恐怖しか感じないのであった。

 




八百万さんが「なにか食べませんか」と言ったのは初めて見るファミレスでウキウキしていたからではないはず……きっと……
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