ヒーロー殺しの少女たち  〜ヒーローの輝く裏で〜   作:ゴウ・フェトア

48 / 50
遊戯

「ゲハ……ゲハハハハハハ!」

 

 

 化け物はヒーローの包囲網を容易く突破する。

 

 もとよりヒーローの人数はかなり少ない。

 

 最初に今回の騒動を予期して集まった500人ほど、そして途中で事態の深刻さに気付いて駆けつけたのがさらに200人。おおよそ、計700人。

 

 オウタカ、スイが死ぬまでに死んだヒーローが37名。怪我で病院送り、否、雄英送りとなったのが123名。

 

 そして、行方不明が67名。

 

 すなわち、スイの包囲網を作る時点ですでに五分の一が戦闘不可能な状態に追い込まれていたヒーローたち。

 

 残ったのは500人弱。その人数で半径数キロの影響力を持つ少女を取り囲むとして、東西南北と、その中間、合わせて八つとしたとき、一つの人数は百名にも満たない。

 

 そして、そんな包囲網をオールは包囲網とは認識していなかった。

 

 

「ハ、ハハハアハハ……。 ??」

 

 狂ったように笑いながら、手を避難所となっている体育館の扉にかける。鍵がかかっていたのかガキン、という音がする。音がしただけで抵抗があった風には見えないが。

 

 

 しかし、あっさりと侵入をきたしたはいいものの、オールの、オウタカの感性の残り香は違和感を告げる。

 

 

 敷き詰められた敷居と布団。だがそこに人間の気配を感じることはなかった。どの布団もめちゃくちゃに乱れており人が寝ている風には見えない。

 

「ニゲ……タ? ツマラナイツマラナイ。ワタシアソビタイ」

 

 周囲を見渡し……この避難所にいた人々が逃げた先を探る。別に気配探知などという個性ではない。

 

 数十人が異動した際に残る様々な証拠。布団の乱れ方に配置。空気の淀み、そう言ったこまごまとしたものを本能的に見抜き逃げたであろうその道を探る。

 

 

 そしてすぐに見つける。壁をそのまま刳り貫き、避難が終わった後そのまま新しく壁を作って埋めたその場所を。

 

 溶接まではする余裕がなかったのか、それともわざとか、どちらとはわからないがオールはその場所から外に出ようとして

 

 壁が蠢き、一枚一枚の御札となってオールの体を拘束していく。

 

 

「?!」

 

 最初に拘束されたのは両腕、次に両足。動きを制限するために御札は動いていく。

 

「ちょっと目を離したすきに随分と変わりましたね。オウタカ」

 

 壁一面をすべて御札で覆い、自身もそれを隠れ蓑にして侵入してきた化け物の様子を見ていたヒーロー殺し、紫綿場紫吹。

 

「アアア? ツギ……アソブ?」

 

 だが、化け物に動揺の類となる感情はない。表情こそないもののその嬉々とした感情は紫吹に伝わる。

 

 ブチブチ、と御札に縛られた腕を千切り、自由となった体で向きなおる。

 

「遊ぶ……それもいいですね。私もあなたもそんな経験ないですし……最後くらい遊びますか」

 

 かたや紛争地帯を渡り歩き、かたや迫害の中で己を鍛えるために家族以外のすべてを犠牲にした。

 そんな彼女たちがまともな遊びなど、知るはずがないだろう。

 

 

 合図などない。

 

 唐突にさっき千切れたはずの腕が、いつの間にか再生して紫吹の胸に伸びる。

 

 ちぎれていたはず、という不意、そして人類の到達しうる最高速度の一撃は普通のヒーローであれば、それだけで胸を貫かれ絶命に至る一撃。

 

 けれど、オウタカをよく知る人物には、見慣れたものだった。

 

 いつの間にか再生していた腕も、躊躇なく千切ったことから再生能力を与えられていることから簡単に予想できていた。

 

「徒手のときはまずそれですよね。孔雀でしたっけ……いや、それとも他の動物の名前でしたか?」

 

 紫吹の心臓を狙って放たれた突きは容易く紫吹の腕ではねられる。

 

 見切られたわけでもないのに対応されたことに対しオールは一瞬不思議そうにするがすぐに楽しもうとする空気に変わる。

 

「やっぱり中身は別物なんですかね……それとも記憶全部ふっとばしたあなたがこうなのか……」

 

 不思議そうにするのは紫吹も同じ。技術はほとんど衰えていないものの、その行動全てがオウタカのものとはおもえない。スイを殺した一件も含め。

 

 先の動きを予測しながら紫吹はその動きを捌いていく。

 

 内部破壊を狙った腕は銃撃で対処し、地面を伝う振動は御札の絨毯に乗ってかわす。

 

 そのどれも、潜伏しているときにオウタカと手合わせしたそのまんまであった。

 

 ゆえに、紫吹はラストまで、遊び続けることができると確信する。

 

 

「緑谷! 足とめんなよ!」

「わ、わかってるけど……」

 

 分かっている。分かっているが彼の足取りは重い。

 

 その理由は紫吹を一人置いてきたこと……だけではない。

 

 

 オウタカの、オールの目的を予想できてしまっているからだ。

 

 紫吹や、サーナイトアイは恐らく先程までいた避難所にオールが現れることは予知できていたようだが、なぜ、オールがその場所まで来ていたのかは言わなかった。

 

 恐らくその理由は……

 

「お、おい緑谷?」

「やっぱり駄目だ……行かないと……」

 

 避難民を、後ろから誘導していた彼の足が止まる。

 

 もしも、万が一、紫吹が突破された際、オールがどこに行くのか。

 

 避難民の行く場所、おそらくそれは正しく……そして間違いでもある。

 

 緑谷の予想が正しければ、オールの目的はただ避難民を襲うことではない。

 

 避難所ならどこにでもあったはずだ。数キロ範囲がスイの個性の影響下にあったというのならば万単位の人間が余裕を持ってさらに距離をとって避難を余儀なくされたはずだ。

 

 にも関わらず、オールはスイを殺した場所からまっすぐに避難所にやってきた。

 緑谷たちのいる避難所へ。

 

(間違い無い……オールはきっと……僕を狙っている……)

 

 緑谷はそう考えている。

 

 数ある避難所からまっすぐに緑谷たちのいる場所に来る理由などそれしかない。

 スイを殺すほどに理性を失ったオールがなぜ彼を狙うのかは分からないが……もしかしたら生前、最後の瞬間の理由となったからかもしれない。

 

「ワンフォーオール……フルカウル……30%!」

「緑谷!?」

 

 近くにいた仲間が止める間もなく彼は駆け出した。

 

 ヒーローに任せればいいかもしれない。

 

 だが勝てなかったら?

 

 狙われてる可能性は高い。

 

 ならばこの場にい続ければ避難民が危ないのでは?

 

 次々と考えが浮かび……それを否定するべく、己で運命を切り開くべく彼は駆け出した。

どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)

  • オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
  • オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。