ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
(超再生、そしておそらく視覚を補う何かしらの五感の強化……おそらく聴覚による音振動……)
激しい戦闘の中、オールと紫吹の戦いは加速していく。
床に貼り付いた御札には目もくれない。ゆえに視覚は機能してないと考えても良い。
だが、閃光弾には反応した。音と光を放つその兵器は確かにオールから反応を引き出した。
ゆえに、音からの位置把握。それが今のところの紫吹が観測できた、オールに埋め込まれていると思われる個性だ。
「弾丸、掃射!」
己のが持つ武器……だけではない。宙に顕現した数十の武器が一斉に弾丸を射出しているのだ。
紫吹の個性は御札の操作と武器を紙として保管すること。武器そのものを遠隔で動かすことはできない。
だが、その御札で空中に台座を作り、引き金に指代わりの御札を引っ掛ければ銃弾を発射することは可能だ。
精密な操作が必要な分普通の戦闘ではその余力はないが……動きがわかるオウタカを相手にしたときのみ使えるものだ。
オールの全周囲から雨あられと弾が襲いかかる。
が、やはり決め手にはかける。
千を超える弾が一瞬のうちに吐き出されたものの、直撃は0。かすったものがいくつかあるだけ。
そしてその僅かな傷もすぐさま回復する。
(こいつを、オウタカを殺すために必要なのは火力。一撃で倒せるものとなるとヒーローではエンデヴァーくらい? けど彼がこの場に来るまでまだ時間がかかる。私のショットガンもあたったところで頭を消し飛ばすのが精精。腕を一瞬で治すことから考えればその程度でいけるか不安が残る……)
実際は頭を吹き飛ばせば可能性がないわけではない。だが、その実現可能性は極めて低いのもまた事実。
「アソボ……アソボ……マダアソボ?」
腕が伸びる。宙に浮かべている御札を盾にしながら距離を取る紫吹。
だが、油断した。今までうまく捌けていたことが慢心に繋がったのかもしれない。
突然、紫吹は足を掴まれた。
「は!?」
驚くまもなく、地面から伸びる手は紫吹を振り回す。
すぐさま義足を外し拘束から逃れるが勢いは止まらない。振り回された勢いでそのまま壁に激突する。
そして、チカチカとする視界で何が起こったのかを把握する。
触手なのか、それとも足が伸びているのか。
オールの足は体育館の地面に突き刺さっていた。そして、先程まで紫吹が立っていたその場所には床から伸びるオールの足が暴れていた。
「これで3つ……。無個性でも強いというのに」
悪態をつきながら立ち上がる。とは言っても片足。満足には動けない。
(サーナイトアイによれば一緒に光に呑まれ死ねるらしいですが……どうやったらその場面まで持ちこたえられるのか)
算段はある。が、それにはまだ時間がかかる。
再度、オールの手足が伸びる。先程とは単純に攻撃の数が4倍。
片足となった彼女に躱す余裕はない。とっさに絨毯に飛び乗るがその移動速度は義足よりも遥かに遅い。
彼女一人であれば回避は不可能。ありったけの御札で前面を守るが地面を
「うおおおおお!」
そしてそこに、ヒーローがやってくる。
何度否定されても立ち上がった少年が天井から飛び込んでくる。
○
爆音とともに現れた緑谷に気づかないオールではない。
音の発生源へと向けられる無数の触手、だがその全てを緑谷は壁を蹴る超速度の移動で回避する。
そしてそのまま紫吹を抱きかかえると一度オールから距離を取る。
「み、緑谷出久!? なぜここに!」
「僕が……僕が狙いなんだ! そうだろ!」
紫吹の驚いた声に反応する緑谷だが……その声は彼女ではなくオールへと向けられていた。
そして……それを受けてオールは喜色の笑みを浮かべる。
「アエタ! アエタ! モトムコセイナカマ! ナカヨクアソボ!」
紫吹を無視して幾筋も伸びるオールの手足。たとえ30%を出せている今の彼でもかわせるものではない。
彼一人なら。
「緑谷出久! 上に! 足場は私が作ります!」
瞬間、緑谷の跳躍に合わせて御札の床が空中に出来上がる。
緑谷の高速移動を追尾する触手も御札で邪魔することでその僅かな時間を稼ぐ。
空中に逃げた理由、それは地面からの奇襲を危険視してのこと。紫吹にも、そして緑谷にも地中をうごめくそれを感知するすべがないのだ。
「緑谷出久。先程の言はどういうことか聞いても?」
触手の攻撃がやんだ。床から天井付近までは伸びなかったらしい。とは言っても次の瞬間には壁を駆け上がってきそうなので油断はできないのだが。
「あの脳無……オウタカさんですよね……。でもスイさんを殺すところまで見ました。僕は、あれが彼女の望みだとは思えないんです」
「まあそうでしょうね。スイはあの子のきゃっ!」
やはり壁を登ってきたオール。勿論手など使わない。その脚力を持って一歩一歩壁を踏み抜きながら力技で登ってきているのだ。
「緑谷! 天井を壊しなさい! 急いで!」
「は、はい!」
スマッシュ!と心の中で叫びながら彼らは朝空のもとに浮かび上がる。
「で、続きは!」
「え? あ、はい! それじゃあオウタカさんの今の行動理由って何なのかなって思って……。で、破壊衝動だとかそういうものが全面に出てるのはわかってるんでそれの矛先がどこか考えたら……」
「自分では、と思ったわけですね」
宙に浮かぶ御札の床を走りながらオールの追撃をかわしつつ彼らは逃げる。
とは言っても、紫吹の指示はなぜか体育館から離れようとはしない。
「と、ところで紫吹さん! なんでもっと遠くに逃げないの!」
「ゴールはここだからです。この場で彼女を殺すことがサーナイトアイの見た予知です。彼の予測に外れはない。そしてそのためにはあと5分ほど時間を稼ぐ必要があります」
と、言いながらも紫吹は自分の言葉に違和感を感じる。
それではなぜ、緑谷出久はここにいる?
「ご、5分も!?」
今なお追撃は激しく続いている。紫吹の回避指示と、御札の援護がなければ緑谷は恐らく一分も耐えることができなかったであろうほどの猛攻。今だって綱渡りのようなギリギリだ。
「5分です。これでも急いでるんです。けど彼女を殺すには今ある兵器じゃ足りなさすぎる!」
5分、わずかながらもこの場で生き残るにはあまりにも長すぎる時間。
造園も望めない。ミルコやホークスなどかなり機動力に富んだメンバーでなければその短時間にたどり着くなど不可能だ。
そして、そのたどり着くであろう彼らの役割も……紫吹とサーナイトアイは決めている。
「兵器……? 一体何を」
「君は知らなくていい。しかし困った……。君、死にたい?」
「へ? そんなわけ……」
「ですよねぇ……」
そんなわけで(?)、紫吹は無線機の電源を入れる。
「サーナイトアイ。羽を一枚こっちによこすように。16歳男性です」
「なんだと? 誰かいたのか!?」
「出久くんがいましてね……あなたとしても殺したくはないでしょ?」
「ちっ……どこまでも愚かな……。わかった。ホークスには伝えておこう」
「ありがとうございますです」
「礼には及ばん。むしろヒーロー殺しにここまでされてこちらのほうが立つ瀬がない」
「これもヒーロー殺しの一環ですので。フフ」
それだけ言って無線を切る。緑谷はところどころに聞こえてきた死ぬだのヒーロー殺しだのの言葉の意味がよく分からず恐る恐る尋ねる。
「あ、あの……死ぬっていうのは……? それにヒーロー殺しって……いま味方してくれているんじゃ……?」
「死ぬってのはそのままですね。この場にいたら死にます。増援がないのも付近一体を全力で避難させているからです」
「え……」
「ヒーロー殺しについては……まあ、敵がヒーローのできなかったことやるだけでも信用の失墜になるかなーくらいですね」
サラリと恐ろしいことを言う女の子であった。
「うわ…、確かにそれは効きそう……じゃなくて! この場にいたら死ぬって言うのはどういう」
「大丈夫ですよ。あなたが死なないようには手を打ちました。一緒に死んでくれてもいいですが……あの世にあなたと一緒に旅立つとか死んでも死にきれませんから」
ひどい言われようである。
「それでは緑谷出久。その時まで一緒に逃げましょうね。体育館の上空限定ですが」
○
「トドカナイ? トドカナイ?」
御札の絨毯に乗って逃げる彼らを見ながらオールは思考する。理性がかけらもない頭で思考する。
そして見つける。緑谷たちに届く道筋を。
○
「は?」
「ん、紫吹さん? どうかしました?」
突然変な声を上げた紫吹に緑谷は聞いてしまう。おそらく聞かなかった方がいいことを。
「いえ、このまま私達を囮に時間稼ぎをしようかと思ったんですけど」
「けど?」
そして緑谷は振り返る。そこで起こっている何かを見るために。
触手の攻撃はやんでいた。それはよい。
代わりに瓦礫など投石攻撃が行われていた。体育館や周囲の建物を破壊して投げ飛ばしているのだ。
だが、それも御札の壁で阻んでしまえば問題はない。
問題なのは……
「なんであんなことができるんですかね……」
「これが……人間の動きなの……」
あろうことか、オールは登ってきていた。飛行の個性でも使わなければいけないような上空へと。
弾き返され、落下する瓦礫を足場にして。
「が、瓦礫を落とさないようには!?」
「そんな器用なことやる余裕があると思いで?!」
叫び合いながらできる限り距離を取ろうとする紫吹の絨毯。だが移動速度はオールのほうが圧倒的に速い。
「緑谷! 今から全力で回避してください! 迎撃は私がします! 絶対に触手は触らないように!」
「は、はい!」
おしゃべりの余裕も一瞬でなくなり再びギリギリの戦いへと彼らは身を投じていくのであった。
瓦礫を、そしてただ浮かぶだけの御札すら足場にしてオールはみるみるうちに彼らへと迫る。
「まだ早いですが……仕方がないですね」
緑谷の背中におぶられていた紫吹が手を離す。
「え?」
紫吹が、手を話せば……当然緑谷は離れ離れになる。紫吹は落下する。
慌てて御札の道を引き返そうとした緑谷だが……その道は御札で閉ざされた。
「紫吹さん! 紫吹さんなんで!」
姿が見えなくなった、ほんの一瞬だけ協力した敵の名前を呼ぶ出久。
「あなたにはやってもらわなくてはならないことがあるんです。オールフォーワン。この名前だけは絶対に忘れないでください!」
落下しながら紫吹は叫ぶ。
「私達のことで悲しむことがあるのならはその名のつく敵を殺してください。私達の……オウタカの仇です」
勝手なことを言っているのは紫吹が、一番理解している。
だが、これだけは言っておきたかった。たとえ今、緑谷に聞こえていなくとも。
その時、ホークスの羽が一枚、飛んでくる。人一人ならたやすく運ぶことができる羽に紫吹は指示を出す。振動を感知してくれることを信じて。
「すぐそこに緑谷出久がいます。1分以内にこの街から退避させてください、できる限り遠くへ」
言いたいことは伝わったのか羽は方向転換すると御札で見えない位置にいる緑谷のところまで飛んでいく。
やるべきことは終わったとばかりに紫吹は向き直る。と言っても落下している最中なので顔をオールに向けただけだが。
突然緑谷を隠され、目標を失ったオールだが目の前の紫吹が、今度は狙われるだけだ。4本の触手は紫吹の3つの義肢を吹き飛ばし、一つは胴を貫く。
「かフッ……」
体を無理やり固定され、もはや呼吸すら厳しくなる紫吹。
その最後の力を振り絞り、今まで集めていた御札を持ち上げる。
彼女の全人生をかけて集めたもの。武器を御札にしたもの。時に地中に隠し、時に拠点に隠し、時に海に投げ隠したもの。
それを力の限り、旅してきた全世界からかき集めたそれはたやすく数千枚は軽く超える。
だが、それはオールへの攻撃にはらない。移動速度が早くしても音速を超えないそれはオールの知覚をかいくぐることはできない。
しかし、オールを閉じ込める檻にはできる。
「ほら、もっと私を見てください……もっと私と遊びましょう?」
だんだんと意識が遠のく中でも彼女は言葉を綴る。たとえ届かないとしても。
「アソブ? アソブ? ナニシテアソブ?」
興味を示したかのようなオールだがそう言っている間にも紫吹の体は文字通り削られていく。
だが、彼女を殺すために紫吹はまだ死ぬわけには行かない。
「こんなの……どうです?」
檻を作った。オールを逃さないために。直径が10メートルほどの球体の檻。
だがこの檻は紫吹の個性によるもの。彼女が死ねば解かれる。
パラパラと、球体の上部を覆っていた御札が剥がれる。個性を意図的に解除したのだ。
「ツマラナイアソビジャナイ?」
「ええきっと……」
そして直後聞こえてくるのはヒュルルルという空気を裂く落下音。
「あなたの仇はきっと……緑谷くんがうってくれますから……わたしたちはもう寝ましょう……ね?」
何かに気づいたのかオールは暴れ始める。紫吹の頭が半分吹き飛び、胴は裂け臓物が撒き散らされる。
けれど彼女は個性を解除しなかった。球体の檻は完璧で、それどころか新たな御札がオールを拘束せんと集まっていく。
「イヤ! マダシニタクナイ! モットアソブノ! マダタリナイノ!」
「……………」
もう紫吹に話す気力などない。正直に言ってほぼ死体と変わらない。
それでも。あと一瞬……あと一瞬……とこらえ続ける。
そして、空から物体が降ってくる。
全てを終わらせる光が檻の中に満ちた。
緑谷くんはわけのわからぬまま羽に、引っ張られていきました。
どっちが読みたいです…?(どっちにせよヒーローたちはえらい目に会います)
-
オウタカ生存ルート(比較的ハッピーエンド
-
オウタカ死亡ルート(悪に一切の救いなし