ヒーロー殺しの少女たち 〜ヒーローの輝く裏で〜 作:ゴウ・フェトア
意図せずして今、まさに話題に上げていた殺人犯と遭遇してしまう緑谷たち。
しかし、相手の能力は未知数であり、この店内に他にも客がいることを考えれば抵抗はできない。
希望があるとすればこの場を長引かせ、帰ってこないことを心配する親が学校に連絡、そしてこの場所にプロヒーローの先生か、警察がやって来る、という線くらいだろう。大分望み薄だが(仮にそんな奇跡が起こったとしても籠城されたら甚大な被害が出る)。
「それでそれで? みんなはどこに通ってるの?」
だが気まずいはずの空気をぶち壊しながらオウタカと名乗った少女は距離を詰めてくる。しかし名前まではコミュニケーションをとるために言ったものの
「オウタカさん、でいいよね。もうやめよう。人を殺しちゃだめだ。どんな信念もそれをやった時点で取り返しがつかない。立派な
オウタカの問いを無視して緑谷は自首の説得を試みる。別に時間稼ぎでもなんでもなくヒーロー殺しと対面した緑谷だからこそ言える言葉かもしれない。
しかしオウタカは質問を無視されることは大して気にしていないのか、意外そうな顔をするだけであった。
「あ、そういう話の流れ? 別に私は敵でもいいんだよ? ちょっとヒーローから追いかけられるだけでこうして普通に外食もできるし」
そんなわけあるか、と六人の雄英生徒の心の叫びが一致する。この時代、ひとたび顔を見られればそれを有用に活用できるヒーローなど腐るほどいる。今日だって相澤、それに緑谷たちにも目撃されており、ついさっきまで警察に対し、その外見や考えられた個性などを話してきたばかりだ。
今後は監視カメラの一台一台に気を張らねばならないだろう。
「オウタカさん。考えが甘すぎですわ。ヒーローや警察はあなたが考えているよりもずっしたたかで有能ですわ。これ以上罪を重ねる前に……」
八百万が指摘する、が、オウタカはやはり涼しい顔のまま。
「うーん、皆、もしかして私のこと心配してくれてるのかな? とっても嬉しいけどその心配は不要すぎるよ。私がやりたいからこそやっているだけなんだから」
パスタを啜りながら答えるオウタカ。当たりまえながら極度の緊張状態にある緑谷たちは先ほどから一切食事の手は動いていない。
「ですが……」
「それにさ、私がどれだけ人を殺したと思うの? 自首した程度じゃ減刑されないよ?」
その言葉は緑谷たちの心に衝撃を与える。ヒーロー殺しステインの時と違い、彼らは今目の前の少女に対する情報を何一つ持っていない。
故にどれだけの罪を犯しているのかも知る由もない。
「それは……」
これだけの会話で撃沈してしまう八百万。今度は常闇が会話をつなぐべく問いかける。
「オウタカ……殿。何故ヒーローを、ガンダマンだけを狙ったのだ? 目撃者で言えば我らも入るはず。だが一切の攻撃はガンダマンに集中していた。その目的は何なのだ」
常闇が問うたのは動機。ここで聞くことができれば警察や、捜査に協力するヒーローの手助けになるかもしれない。
「動機? ステイン様も言ってたでしょ? それと一緒。正しき社会のために、だよ。ヒーロー社会なんて膿のたまり場だと思わない?」
緑谷たちが雄英生徒であるとはまだ知らないのだろう。あるいは知ってはいてもヒーロー科ではないと思われているか。
オウタカの言葉に反論したかった緑谷だが隣に座る切島に目配せされ思いとどまる。
「ふむ、なるほどな、それでは最終的に何をするつもりなのだ? 何を為せばお前は止まる?」
緑谷が思いとどまったことに安堵しつつ常闇が質問を重ねる。
「何をするか? 決まってるじゃない」
パスタの残りの量が減ってきた。この後お代わりを頼むのでなければ彼女たちはこの場を去るだろう。よってこれが最後の問いになる。
そう思って緑谷たちは緊張しながらも耳を傾ける。
「このヒーロー社会、オールマイトも含めて全部ぶっ壊す。そしたら安心して止まれるよ」
ガタンっ、とイスが倒れる音がする。緑谷が勢いよく立ち上がった音だ。
そして同時にオウタカはもっていたフォークを緑谷の眼前に構える。ちょっとでも前に突き出せば簡単に失明に至るだろう。
「み、緑谷!?」
先ほどとはまた別の緊張が場を支配する。店員も騒ぎを止めようとするが危険な気配を感じ近寄れないでいた。
その中で緑谷が口を開く。
「僕たちは、雄英高校ヒーロー科だ。将来はヒーローになる」
「お、おい、やめろって!」
切島が後ろから引っ張るが緑谷は動かない。オウタカに向かい続ける。
「ふうん」
簡単な相槌がオウタカからこぼれる。しかしその目は先ほどよりも鋭さを増した。
「私の話聞いてた? 私、気に入らないヒーローは殺すよ。ついさっき殺さなくても今殺すことだってする。理解してる?」
少し、フォークが緑谷の目に近づいた。「ひっ」という声が芦戸からこぼれる。しかし緑谷は冷や汗をかきながらも目をそらさない。
「あなたがどんな目的を持っているかは知らない。けど、僕たちは絶対にあなたを止めてみせる。そしてあなたにも認められるようなヒーローになる」
「み、緑谷……」
こいつ言いやがった、と切島は焦る。いつ交戦してもよいように体を力ませるのを忘れない。
常闇のダークシャドウも机の下の陰に潜みいつでも飛び出せるように準備。
だがこれらは杞憂に終わった。
「あはは。あははははははは!」
「うふふ、うふふふふふふふ……」
オウタカはゲラゲラと店内の他の視線を気にする様子もなく大声で笑う。別のテーブルで話を聞くだけだった少女スイも大声でこそないが笑っている。
そして
「いいね。いいねえ。君のそのずれてる感じ。好きだよ。わかった。君。緑谷君だね。うん、覚えたよ。覚えた。あはははは。あはははははははは」
もはやフォークは机の上に落とし、不気味に笑い続ける少女。今ならば誰か大人に連絡を入れることができたかもしれない。
だが六人は目の前の少女たちから立ち上る狂気に気おされ、全く動けないでいた。ダークシャドウでさえも後に『アイツラ怖イ』と言っていたとかいないとか。
そしてようやく笑いを収め、オウタカは緑谷に視線を戻す。
「わかったよ、緑谷少年。もし君が私たちの認めるようなヒーローになることができれば私は自首をしよう。別にプロの資格なんて私たちは求めない。だからさ、立派なヒーローになれたと思ったら私たちの招待に応じてくれ」
少女が席を立つ。緑谷が目を白黒させている間に彼女たちは店の出入り口へと向かっていく。
残されたのは六人の雄英生徒と、六人分のご飯、そしてオウタカが食べた分の代金が椅子の上に載っていた。
そして恐らくそのタイミングで店員が通報したのだろう。遠くから微かにサイレンが響いているのを彼らは聞くのであった。
〇
「オールマイト、第二のヒーロー殺し、その素性が分かったよ」
深夜、オールマイトは病院で塚内の報告を受けていた。
オールマイトが怪我したわけではない。ベッドで寝ているのは緑谷たちのクラスの担任相澤だ。すでに意識は戻っており、傷もリカバリーガールの処置が必要ないくらいにあっさりとふさがった。
「本当かね、塚内君」
「ええ、まずは太刀を扱っていたという少女。本名は夜原
「な、なに?! それウルトラエリートではないかね?!」
「オールマイト、病室ですので静かに」
注意してきたのは相澤だ。塚内も無言で刻々と首を振りオールマイトのメンタルを削っていく。
「わ、わかったよ……続きを」
「授業も体術などの実技もすべて一位。まさに超人的な技能を持っていたらしい。彼女ならば個性なしでもヴィランと戦えるに違いないという噂が私のところに来るくらいには有名人だったよ」
「ほう……」
感心したように頷くオールマイト。だが一拍おいて気づく。
「それ、どこからヒーロー殺しにつながるんだい?」
「残念だがそこまではわからなかった。ある日を境に友人に何も言わずに消えたそうだよ。去年の8月だそうだ」
「おう……」
警察、このご時世ではヴィラン受け取り係と揶揄されることもある職業。そこに自分からなりたいというほどに志の高い少女がどう転べばヒーローを殺す立場になるのか。オールマイトには想像が及ばない……ながらも大ヒーローの孫がヴィランの首魁を務めるこのご時世だ。何かあったのだろうとしか言えない。
「その原因についてはこれからも彼女の友人たちに聞き取りをしながら調査していくつもりだよ。そして、もう一人の少女ですが……」
「あいつか」
相対した相澤がゆっくりとその姿を思い出す。
「はい、少女の名前は
「外見……まあ確かに変わってるっちゃ変わってるな。白髪に赤目、典型的なアルビノだな。それの個性持ちとなればかなり絞られるわけか」
「ええ、今までは目撃者がいない、或いはいたとしても殺されていたためにたどり着けませんでしたがようやくわかりました。捜査は一気に進むでしょう。そしてオールマイト」
「何かね?」
改まった様子になる塚内に少し緊張するオールマイト。
「夜原鶯鷹の戦闘能力は異常だ。恐らく並みのヒーローでは……いや、トップクラスのヒーローでも複数人で囲まなければ勝機はない」
「そ、それほどなのかね」
確かにプロヒーローとはいっても救助専門のヒーローもいるように戦闘に不向きなものも多くいる。だがトップヒーローであればオールマイトに及ばないとしても、彼が実力を認める者も多くいる。
それが複数人いなければ敵わない。確かに異常と言っていいだろう。
「はい、それほどです。ですので改めて、あなたの力が借りたい」
その言葉を受け、今までトゥルーフォームだったオールマイトはマッスルモードへと移行する。
「任せたまえ!!! 私が行くからには必ずやその少女たちを捕まえ、そして救って見せよう!」
「オールマイト、病院では静かに」
しまらないのもまた彼らしいだろう。
ふふ、と柄内が安心したような笑顔を浮かべる。
「本当に君はいつも通りだ。それではよろしくたのむ。あとこの件なんだが……二人ともが未成年ということもあって一般へは情報が一切公開することができない。当然生徒たちに言ってしまうのもダメだ。そこらへんもわかっているよね?」
「もちろんだとも!」
そしてその日、朝日が昇るまで各自の情報やこれからの襲撃されるヒーローの予想などを立てていった三人。
しかしこのとき、表情にこそ出さなかったものの、第二のヒーロー殺しによる被害者の遺体に「オールマイト、これがお前の作った世界だ」と書かれていたことが彼の心に影を落とすのであった。
これにて序章路地裏のヒーロー殺しを終わります。